上白石萌歌「心の栄養が欲しいときに
……」 約20年ぶりに開催される『マ
ティス展』の見どころとは?

20世紀芸術の巨匠アンリ・マティスの大回顧展『マティス展』が、2023年4月27日(木)から8月20日(日)まで、東京都美術館にて開催される。本展の音声ガイドナビゲーターを務めるのは、女優・上白石萌歌。もともとマティスの作品が好きだったという上白石に、本展の見どころや美術館の楽しみかたを聞いた。
心がほぐれていく感覚を覚えたマティス作品
ーーマティス作品がもともとお好きだったと伺いました。マティスに出会ったきっかけはなんですか?
私が18歳のとき、『オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち』に行き、気になった絵をメモしていたのですが、そこにマティスの名前がありました。
どの絵もすごく好みで、実際に展覧会で間近で絵を見たときも、すごく「新しい絵だな」と思ったんですよね。そのときは《オダリスク》のシリーズが展示されていたんですけど、緩やかな曲線なのに、すごく奇抜な彩りで……。心がほぐれるなという感覚を覚えて。もっともっとこの人の絵を知ってみたいなと思って、大学に入ってから色々と勉強するようになりました。
ーーマティスの作品に興味があって、芸術学を学べる大学を探されたのですか?
もともと総合的に芸術に興味があって。絵画以外にも映像や音楽など、広い意味で芸術に興味を持っていました。その中でたまたま西洋美術の授業があって、うっかりマティスのことを勉強できた(笑)。すごくいい選択をしたなと思いましたね。
ーーお仕事もされながら大学で学ぶことは大変だったと思います。そのモチベーションは何だったのでしょうか。
そうですね。自分が純粋に好きだと思っていて、もっともっと知りたいなという気持ちがあるからです。今回のマティスもそうですけど、画家の人生を知ると、みんな自分の理想の表現に向かって貪欲に突き進んでいる。そういう姿を見ると、私が生み出しているものとは全然違うけど、自分のモチベーションになったりもしましたね。学ぶことと表現することがすごく結びついている感じがしたので、あんまり苦とは感じませんでした。むしろすごく楽しかったです。
ーー今回の音声ガイド収録にあたっては、どんなことを意識されたのかを教えてください。
そうですね、収録はすごく緊張してしまったんですけども……。大学の西洋美術の授業で、絵の中に何があるかを書き出してみるという授業があったんですね。その授業の経験を活かして、「ここに机があるな」とか「カーテンは何色だな」、「どちらが手前にあるのかな」などと絵を観察してみました。皆さんが見ている絵にフォーカスを当てて、実感を込めて、原稿を読めたらいいなと思って。
ーーへぇ、なかなか面白い授業ですね。
はい。取り上げた1つの絵について、描かれているものを細かく分析したり、人物画だったらその人物が何を考えているのか想像したりして、みんなで発表しあうという授業でした。「そういう解釈もあるんだな」といろいろ発見がありましたね。
鑑賞者に寄り添うようなナレーションを心がけて
ーー収録時に大変だったことは?
主観強めに読んでしまうと、自分の無駄なものが乗っかってしまいそうな気がしたので、なるべくナレーション的な感じで読むことを意識しました。鑑賞する方々のペースがあると思うので、それの邪魔にならないように。でもちゃんと情報を伝えるということは意識したつもりです。
ーー実際に会場で「この絵を見てみたい!」と思った作品があったら教えていただけますか?
《赤いキュロットのオダリスク》は見たいと思いました。実はこの作品は、私が大学のレポートでも扱った作品で。その授業では、年代もシチュエーションも全然違う絵を2つ選んで、その2つを比較して対決させるという課題が出ました。私はマネの《オランピア》と《赤いキュロットのオダリスク》の構図が似ていたから比較しました。そのときに、マティスがどうしてこの絵を描くことになったのかといった背景を調べたので、 その実物の絵を実際に肉眼で見られるのがすごく楽しみ。今回ナレーションを読む中で初めて知ったんですけど、こういう装飾もマティスの手作りだそうです。この絵に彼自身もこだわりがあるような気がしているので、早く見たいですね。
ーーそのほかに気になる作品はありますか?
《金魚鉢のある室内》です。金魚をモチーフにした絵がほかにもたくさんあるんですけど、なんだか心が涼むんですよね。全然写術的な絵ではないのに、金魚が動いてるように見えたり、このアトリエから見える街の風景が聞こえてくるような感覚になったりして……。すごく不思議な魅力を持っている絵なので、実物を鑑賞できるのがとても楽しみです。
あとはマティスの彫刻ですね。これまで見たことがなかったので、こんな作品もあるんだとびっくりしました。画家がどういう風に人を見ているかが一番表れるのが彫刻なのかなと思うんです。例えば、モチーフが女性だったら、画家はどういう女性を理想像としているのか、とか。彫刻は立体的なので、その画家の意図がより感じられるものなのかなと思います。
ーー今回の音声ガイド収録を経て、マティスについて何か新しい発見はありましたか?
そもそもマティスの基本情報をあやふやにしか知らなかったんですが、結構スロースターターだったんですよ。じっくり自分の表現を開花させた人物だということを今回知りました。あの時代に84歳まで生きられたマティス。絵を生み出すために生まれてきた人だなと感じましたし、1つの人生でこんなにスタイルがどんどん変わって、最後、礼拝堂で自分のやりたいものを全部放出する。鈍欲に自分の表現に突き進む人だったんだなと知りました。
ーーもしマティスとお会いできたら……?
それはもう、私をモデルに絵を描いてほしいですね! マティスの描く女性はみんな美しくて、きっとモデルもその絵を喜んだだろうなと思うんです。だから私もアトリエの中に身を置いてくつろいでる姿を描いてほししいです。もし本当に描いていただけたら、自分の遺影にしたいです!
美術館は心の栄養補給ができる場所
ーー日々お忙しいと思いますが、美術館に行かれる機会はありますか? 上白石さんにとって美術館はどういう場所ですか?
普段お芝居で放出しているぶん、心がカラカラになる瞬間が結構あったりして。そういうとき、例えばドラマを撮っていたら違うドラマを見て勉強することもあるんですけど、全然違う角度から心の栄養が欲しいなというときに、よく美術館に行きます。
それが自分の表現に直接結びつくか分からないですけど、現代アートに触れて「理解はできないけど、なんとなく面白いな」と感じたりして。自分の足で作品を見に行って、感じること。それは自分でも大事にしていることですね。美術館に行って、画家が当時描いた絵を肉眼で見られることって本当にすごいことだなと思うので、そのありがたみをいつも噛みしめながら、美術館に通っています。
今回の『マティス展』も、自分が携わらなくても実は5回ぐらいは行く予定でした(笑)。自分でチケットをいっぱい買って、人に配ろうと思っていたぐらい! それぐらい楽しみにしていました。
ーー5回とは! それぞれどのように観覧されるのですか?
美術館ってすごく広いじゃないですか。1回目は全体をざっと見て全体把握してから、次は説明文までじっくり読んで、そしてその次は自分の目星を見つけてじっくり鑑賞して、絵についてより調べてからまた鑑賞して……。一度では展覧会の全貌が分かりきらないことが多いので、複数回行って理解を深めていきたいと思って。スケジュール的にも1回しか行けない展示もあるんですけど、好きな展示はなるべく複数回足を運びたい。なので、今回もできる限り行きたいなと思います。
ーー美術館に行くこと自体も楽しいですよね。
ポーラ美術館(箱根)に1人で行ったことがあります。結構な遠征だったんですよね。電車に乗って、バスに乗り継いで、展示を見て、1人でお茶して、ミュージアムショップに寄って帰って……。1日かけて芸術を楽しむなんて、すごく贅沢だなと思いました。
もちろん都内にある(行きやすい)美術館で手軽に芸術を摂取できるのもいいですけどね。近くても遠くても、自分が行きたい場所に足を運んで、本物を見ることが大事だなと思うんです。この『マティス展』も、遠方から来られる方もいらっしゃると思いますし、その価値がある展覧会になると思うので、ぜひ足を運んでほしいなと思います!
ーー最後に、音声ガイドを実際に手に取られるお客様に向けてメッセージをお願いします。
私自身、美術館に行くと音声ガイドを利用することがあるんですけど、作品が持つ世界をより深くお届けできることが音声ガイドの魅力だと思います。私も皆さんに寄り添えることができたらいいなと思います。
今の若い世代の方がどれぐらい絵画に関心があるか分からないんですけど、学生は観覧料が割引されますので、学生証がある方は絶対見に行ってほしいですね。絵画は敷居が高いものだと思われている方も中にはいらっしゃると思いますし、私も絵にすごく詳しいわけじゃないんですけど、何か感じ取れるものがあると思います。美術館自体すごく神聖な場所で、私も大好き。 とりあえず足を運んでほしいなと思います!

取材・文=五月女菜穂
上白石萌歌(かみしらいし・もか)
2000年2月28日生まれ。
2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞し、デビュー。
2018年公開の映画『羊と鋼の森』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。
近年の主な出演作に映画『子供はわかってあげない』(2021/主演)、『KAPPEI-カッペイ』(2022)、ドラマ「金田一少年の事件簿」、連続テレビ小説「ちむどんどん」(2022)、「警視庁アウトサイダー」(2023)などがある。
4月から放送のドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」に出演。
数多くのドラマ、映画、舞台への出演、adieuとしての音楽活動等、多方面での活躍を見せる今注目の若手女優。

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