午前0時の向こう側で、まだ見ぬ朝日
に思いを馳せる『叶 1st Concert「午
前0時の向こう側」』レポート

2023.3.16(THU)『 1st Concert「午前0時の向こう側」』@グランキューブ大阪 メインホール
2023年3月16日(木)にグランキューブ大阪メインホールにて『叶 1st Concert「午前0時の向こう側」』が開催された。ライブでありながら、幕間では自身の葛藤を描き、アンコールまで一切のMCを入れずに進んでいく物語調のコンサートであった。本人も企画の初期段階から携わっていたということもあり、相当な気合いが込められたライブであったことをまず記しておきたい。これが叶の全てであり、不完全で歪なままでも、全てをさらけ出して明日へと進んで行こう。それしかない。そんなシンプルで力強い生き方をすごく前向きに受け入れられるような世界観を、叶はボクらに届けてくれた。
チクタクと時計の針の音が鳴り続けている。叶の日常を描くようなアニメーションが流れる。顔を洗い、歯を磨き、配信部屋で椅子に座る。『午前0時の向こう側』と題したように時計の針はもうすぐ日付が変わることを指し示している。その刹那、時計の針は逆回転し、再び叶を洗面台の前へと巻き戻す。顔を洗い、タオルで拭き、見上げた鏡に映っていたのは虚ろな目をしたもう1人の自分だった。
「これは眠れぬ夜に起きた、いくつかの可能性の物語」
「キミを連れて行こう。午前0時の向こう側に」
会場のモニターに映し出された時計の針は、もうすぐ午前0時を指し示す。
そして予定調和のように、時計の針が午前0時を過ぎたとき、大きな鐘の音が鳴り響いた……。
「皆さん、お待たせしました!午前0時の向こう側、開演です!」
ブロードキャストパレードの軽快なイントロに合わせて、純白の燕尾服を着た叶が勢いよく飛び出すと、歌にダンスで会場をリードしていく。ちょうどサビへと突入したその時、映像と音声にノイズが入り、そして止まってしまった。トラブルか?「えっ?」と戸惑う叶を置き去りにするように、再びモニターへ時計が現れると、ものすごい勢いで針が逆回転していく。
機材トラブルに見せかけた演出にホッと胸をなで下ろすが、画面に置き去りにされたさっきまでの世界線の純白の衣装の叶とは対照的に、ポニーテールに真っ黒なシャツ姿の叶が姿を現すと語り出す。
「これは可能性の話。終わった今日を超えて、新しい明日へ進めるか。それとも同じ毎日を繰り返し続けるか。さあ、夜はこれからだ」
果たして、今夜の午前0時の向こう側にはどちらの世界が待っているんだろうか。ライブは仕切り直し、「Midnight Showcase」から2度目の幕開けを迎える。作り込まれた世界観に一気に引き込まれ、呆気にとられているうちに「ANEMONE」「アクシデントコーディネーター」とライブは続いていく。「アクシデントコーディネーター」では叶の動きが止まってしまう、本物のアクシデントも起きてしまい、配信では「演出?どっち??」と混乱するコメントも続出していた。実際にこの後、調整として20分ほど中断が挟まったので「あ、本当にトラブルだったんだ」と理解が出来たが、逆に言えばそれほどまでにリアルな演出で、入念に作り込まれたライブだったのだと思う。中断の間もペンライトの色がリアルタイムで変わっていく様子を観客と一緒に楽しんだり、MCで場を繋いでいたが、改めてもう一度「アクシデントコーディネーター」を披露して、ライブは再開した。
幕間では、ガラスの向こう側の黒の叶が、こちら側の白の叶に語りかける。
「キミは楽しいを見つけられたかい?今の自分に満足してる?」
その問いかけに「自分に満足って、そりゃ毎日100点ってことじゃないし、たまには楽しくない時だってあるでしょ」「本当?無理してない?」
白と黒の叶が、表裏一体のように自問自答を繰り返していく。
「100点か0点ってワケじゃないでしょ。止まない雨はないし、明けない夜はないよ」
「長い夜はどう過ごしたらいい?」
「今日みたいに?」
雨が降ったら傘をさせばいいし、雨宿りの時間も悪くない。それと同じように、この夜だって楽しんでみせよう。
まるでそう語りかけるように歌い上げたのは「セイテイノア」。そうだ、時にはこの曲のように威勢良く、勢いをつけて乗り越える必要がある時だってある。続く「ハルを追いかけて」からも同様のメッセージを感じる。桜の花びらが舞い散る演出で会場が包み込まれていく様はとても美しかった。やがて落ち着きを取り戻すような「水性のマーブル」では椅子へ腰掛け、”向こう側”から”こちら側”へ語りかけるように歌い上げた。
「みんなとボクの知ってるボクと、みんなもボクも知らないボクが、水槽の中みたいな世界で吸って吐いて深呼吸。今日と明日の中間地点。ガラスの向こう側とこちら側。どちらが夢で現実か。境界をなくして味わっていく。時間が止まったようで、青色が怖くなったんだ。」
初期のパジャマ衣装にメガネ姿の部屋着スタイルの叶が、そんなガラスの向こう側からやってくると「青色が怖くなったんだ」、「晴天を穿つ」、「大丈夫」を3曲続けて披露。初期衣装の姿だからこそ、あえで派手なダンスや演出をせずに、パフォーマンスも控えめというか大人しくなったりと芸が細かい。
「みんなとボクが知ってるボクも、みんなもボクも知らないボク。どちらもボクでいいんじゃない?ボクの中にはまだまだキミの知らないボクがいる。ねぇ、もっと知りたいと思わない?ほら、眠れない夜から逃げ出すパスワードを教えようか?」
そして「K/D Dance Hall」の世界へと誘われた。そう、眠れない夜から逃げ出すためのパスワードは”Welcome to Kill/Death Dance Hall”。彼の得意なFPSゲームをモチーフに、この夜を駆けていく。続く「Jam Jam」はエレクトロスウィング調の楽曲で、さらに「絶頂讃歌」、「惜別」と退屈な夜を置き去りにするような選曲に心も身体が動かされていく。
「キミは楽しいを見つけられたかい?今の自分に満足してる?」
今度は黒の叶がこちら側から、ガラスの向こう側の白の叶に問いかけている。
「毎日100点ってことじゃないし、たまには楽しくない時だってあるけれど、そこそこ満足してるし、やっぱり今は楽しいよ」「でも100点では無いんだね?」
先ほどと同じ問いかけのはずが、向こう側の叶の返答は少し違っている。
「100点取っちゃったら、それこそつまらないじゃん。キミみたいな存在がいてくれるから、100点を目指していける」「ボク?」「そう、そしてボク自身」「ボクの声、ちゃんと届いたんだね」「最初から聞こえてる、キミの声も、ボク自身の声も、みんなの声もちゃんと聞こえてる」
その瞬間、これまで世界を隔てていたガラスが砕けて散った。
「これは可能性の話、答えもなく、終わりもなく、でも時計の針は終わりへ進む」
「これはボクの話だけど、もしかしたらキミの話かもしれない」
「キミを連れて行こう、午前0時の向こう側へ」
再び、鐘の音が鳴り響くと、時計の針と共に叶の歌声が聞こえてくる。
「ねえ君は誰 なぜ 夜毎数える間に 世界が終わるまで」
その針音はまるで心臓の鼓動のように、チクタクと脈を打つ。
続けて「声を聴かせて」が身体中に血潮を行き届かせてくれるのがわかる。
時計の針を進めることで、世界は動きだし、だからこそボクらは出会えた。
今日という日を迎えることが出来たんだと、声を聴かせてと叶は叫んでくれた。
舞台上から姿を消した叶。
三度、モニターには大時計が映し出され、午前0時へのカウントダウンが行われる。
そしてようやく、今度こそは24時を過ぎ、時計は明日へと針を進めたのだった。
アンコールを求める拍手に応じて「No.9」「優しい人にならなければ」を披露した。
「皆さんアンコールありがとう!最初、ちょっとびっくりさせちゃったかもしれないですけど、「うおー!」って盛り上がるライブより、ボクなりに思うことを届けられる方法でコンサートとしてやりたくて」とライブにかけた想いを語り、みんなと一体感のあるライブが出来たと振り返った。
グッズやシングルのリリースのお知らせもはさみ、ここでそんな1stシングル「How Much I Love You」から「わたしのリンゴ」を披露。これまでに引き続き、和賀裕希がプロデュースを担当することも発表されている。
お知らせもひとしきり終えると「みんな集合〜!」と舞台はバックダンサーの叶を呼び込み「最後になんですけど、今度は最後まで歌わせてください!」と「ブロードキャストパレード」を披露し、本当の意味で全てを出し切って、午前0時の向こう側の景色を我々に見せてくれたのだった。
やっぱり素直に演出に鳥肌が立った。緻密にトリックが組み立てられたサスペンスのようにドラマチックなライブだった。まるでファッションショーのように代わる代わる衣装を変えつつ、それぞれの姿にキャラクターを持たせ、”叶”という人間をあらゆる面から丸裸にされていた。もちろん、我々も彼自身もまだ気づいてない”叶”というのも確かに存在するのだろう。しかし、それ以外の全ての”叶”を全てさらけ出してくれたのではないだろうか。
「これが今のボクの全てです。受け取ってください。」
午前0時の向こう側で待ち受けていた彼は、我々にそう語りかけていた。
レポート・文:前田勇介

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