稲垣吾郎が再び激動の時代を生き抜い
た男の矜持を魅せる 『サンソン―ル
イ16世の首を刎ねた男―』囲み&ゲネ
プロレポート

2021年、主演・稲垣吾郎✕演出・白井 晃✕脚本・中島かずき✕音楽・三宅 純のタッグで上演された『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』。フランス革命などによって時代が大きく動いた18世紀のフランス・パリで死刑執行人を務めたシャルル=アンリ・サンソンの生涯を描いた物語だ。
再始動となる2023年4月14日(金)の初日を前に、稲垣吾郎、大鶴佐助、崎山つばさ、佐藤寛太による囲み取材とゲネプロが行われた。
ーーまず気になるのはこのビジュアルです。
稲垣:舞台セットの中で立つために作られた衣裳ですから、こうしてホールの照明の下だと恥ずかしいですね。でも、本当に素敵な衣裳を用意していただきました。大鶴さんなんかルイ16世ですから。王様をこの距離で見るなんて頭が高いですよ(笑)。
ーー皆さん素敵ですが、ご自身ではいかがでしょう。
大鶴:自分がルイ16世を演じるなんて思ってもみませんでしたから。なりきれるように頑張りたいと思います。
ーー崎山さんと佐藤さんの役柄を教えていただけますか。
崎山:僕が演じるトビアスはチェンバロ職人。作中では断頭台を一緒に作るメンバーでもあります。
佐藤:僕はギロチンの刃を作る職人。作中で(崎山と)最初から最後まで一緒ですが、去年共演したこともあって関係性はバッチリです。
稲垣:そうなんだ。
ーー今知ったんですか(笑)。
稲垣:まだあまり喋ったことがないというか、シャイな部分があるので。稽古中はプライベートの話はあまりしていないかな。僕は話しかけづらい雰囲気があるだろうし。
佐藤:ワインの話とかしたじゃないですか!
大鶴:僕は(稽古場の)席が隣同士だったので、好きな(ワインの)産地や品種の話をよくしていました。
稲垣:見方によってはサンソンとルイ16世の、色々な意味でのラブストーリーでもあるので、稽古場でもイチャイチャしていましたね(笑)。僕はレストランのプロデュースもしていて、ワインも自分で選んでいるんです。落ち着いたらみんなとそういう席を設けたいなと思います。
ーーご一緒してみて、稲垣さんの印象に変化はありましたか?
佐藤:すごくほんわかされていて、話しづらい印象は全然なかったですよ。
稲垣:嬉しいですね。
崎山:僕も同じです。細かいところまで芝居を見てくださっている印象があるので、いろんなお話をしてみたいなと。
稲垣:このご時世、まずは舞台の完走が一番だからね。終わったら皆さんとの交流を深めたいなって思っています。初演の時は本当に悔しい思いをしました。今回演出の白井さんは「再始動」とおっしゃっていますが、こうして動き出せるのが本当に嬉しいです。心は熱く頭は冷静に、自分のペースを乱さずに努めたいですね。
ーー作品としては重苦しいですが、引っ張られたりもするんでしょうか。
稲垣:しますね、夢に出てきたり。作品として死刑執行人の話で、人の命などがテーマになっているので、どうしてもそういうモードにはなります。終わったら3人に可愛がってもらおうと思っています(笑)。
一同:逆です! 逆(笑)!
稲垣:不思議ですね。舞台でもドラマでも、自分が年下だったのがいつの間にか年上になっていくんですよね。
(左から)佐藤寛太、稲垣吾郎、大鶴佐助、崎山つばさ
ーー見どころを教えていただけますか。
稲垣:たくさんありますが、まずは白井 晃さんの作る本当に美しい舞台美術です。細部までこだわっていて、見る方の心にも記憶にも刻まれる、深くて素敵な作品に仕上がっていると思います。サンソンという死刑執行人は、教科書に載っているような人物でもない。どちらかというと歴史の裏舞台で活躍していた人間を、皆さんにも知っていただきたいと思います。
ーー稲垣さんにとって舞台とは。
稲垣:自分が一番自分らしくいられる場所というか、無理も違和感もなく自由でいられる場所って言うのかな。他にも色々なエンターテインメントをやらせてもらっていますが、どうしても迷いを感じることがある。それは決して悪いことではなく必要なことだと思うんですが、舞台に関しては本当に素直に、自由にいられます。
ーー改めて、意気込みをお願いします。
稲垣:4月14日から開幕しますので、ぜひ皆さん劇場に足を運んでいただきたいと思っております。劇場でお会いしましょう。
※以下、ゲネプロの写真とレポートあり。ネタバレが気になる方はご注意ください。
【あらすじ】
処刑人を生業とする家に生まれ、父・バチスト(榎木孝明)の仕事を受け継いだシャルル=アンリ・サンソン(稲垣吾郎)。彼は処刑人という仕事に誇りを持ちつつ、苦痛の大きな処刑に疑問を抱くようになっていく。
また、ルイ15世の死とルイ16世(大鶴佐助)の即位により、フランスは少しずつ変わり始める。そんな中、蹄鉄工の息子ジャン・ルイ(佐藤寛太)が、父親殺しの罪で車裂きの刑を宣告される。事故によって死刑を宣告されたジャンを救うべく行動する友人トビアス(崎山つばさ)やサン=ジュスト(池岡亮介)、恋人のエレーヌ(清水葉月)の姿を見て、時代の変化を確信するシャルル。この出来事により、国家と法律、刑罰についてますます考えを深めていく。
軍人であるナポレオン(落合モトキ)、医師のギヨタン(田山涼成)らとの出会い、フランス全体を巻き込んだ大きな事件などを経て、シャルルがたどり着く境地とは――。

『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真

『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真

『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真
稲垣は、裁判で堂々と自らの弁護をする切れ者な一面、父親に小言を言われている時の未熟さを感じさせる様子、処刑人としての威厳ある姿など、シャルルの多彩な魅力をたっぷり見せる。誰よりも人の命に向き合ってきた彼だからこその考え方や価値観と、それを臆せず言葉にする勇気。静かな佇まいの中に苦悩や慈愛、情熱を感じさせる芝居に引き込まれた。
『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真
『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真
『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真
市民の中心メンバーを担う崎山・佐藤・池岡はいずれも新キャスト。若者らしい心の動き、理想に向かうエネルギーを熱気あふれる演技でパワフルに魅せる。ジャンを演じる佐藤は、一本芯の通った青年の愚直さと危うさを繊細に表現しており、崎山のトビアスは理想と現実の両方をしっかり見据える柔軟さが魅力だ。後に革命家となるサン=ジュスト役の池岡は、現状へのフラストレーションや理想めがけて突き進む好戦的な表情が印象的だった。
『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真
『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真
シャルルが敬愛する国王・ルイ16世役の大鶴は、即位時のあどけなさが初々しく、愛らしさを感じさせる。それでいてシャルルからの嘆願や断頭台の仕組みをすぐさま理解して必要な手続きやアドバイスを行う賢さ、市民の感情に理解を示す鷹揚さもあり、シャルルが彼に惹かれるのも納得できる。機械の話で目を輝かせるルイ16世と、その姿に感服するシャルルの姿が微笑ましく美しい。見る側もシャルルと同じくルイ16世に惹かれ、純粋で不器用な国王を敬愛してしまうのではないかと感じた。
『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真
時代がものすごいスピードで変わっていく中、周囲に流されずに異彩を放っているのが落合演じるナポレオンだ。酒を飲んでシャルルに突っかかるシーンでもまだ本音を隠していそうな不気味さや自信に満ちた立ち居振る舞いが、彼の底知れなさをうかがわせる。
時にシャルルとぶつかる父・バチスト、人道的な処刑のために断頭台制作を進めるギヨタン、革命をどんどん進めていくロベスピエールなど、それぞれの立場や価値観が交錯する様子も見応えがある。そして、重苦しい雰囲気の中で常に自分と大切な人のことをまっすぐに見つめるエレーヌの存在にほっとした。
『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』舞台写真
一幕は、フランス革命が起きるまでの過渡期において、人々のエネルギーや積もり積もったものが溢れる前の緊張感に満ちており、固唾を飲んで見守ってしまう。また、現在では「残酷な歴史」の代表のように語られるギロチンだが、開発するに至った過程や思いを知ると複雑な気持ちになる。処刑人の誇りや重責が作中で細やかに描かれるからこそ、シャルルの願いに胸が締め付けられた。
二幕は、革命後の混乱とその中で粛々と自らの仕事を全うし続けるシャルルの対比が切なく痛ましい。国と民の関係はどうあるべきか、便利なものや新たな技術をどう使うかということなどは今の時代においても身近な問題で、多くを考えさせられる。18世紀のフランスという、私たちにとっては遠い時代と国のことでありながら、「過去の話」や「歴史を元にしたフィクション」として片付けてはいけない重みを感じた。シャルルの生涯と彼を取り巻く多くの人々の生き様、激動の時代が行き着く先を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
本作は4月14日(金)よりBrillia HALLにて開幕。5月には大阪と松本でも公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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