SUIREN『Sui彩の景色』

SUIREN『Sui彩の景色』

2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い音を描くユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描くコラム連載。Suiを彩るエピソード、モノ、景色をフィルムカメラで切り取った写真に乗せてお届けします。

文・撮影:Sui

堀…高校入学後に結成したバンドのベーシスト。かなりベースが巧い。

土田…同じ高校のドラマー。同じ中学出身だがドラムが叩ける事は当時知らなかった。
高校内でメンバーが見つからなかった為他校のバンドに加入し活動していたが、江崎の構想する新バンド結成の為にSuiと江崎を引き合わせる。

江崎…他校のバンドマン。他校のバンドでメインギターのパートを担当していたが自らがやりたい音楽性のバンドを構想しSui達と共に新バンド結成。


東京の空に星は見えない。
子供の頃、大人の誰かがそんな事を言っていた。
住んでみればそんな事はないと分かるが、確かに地元から見上げる星々とは輝きも色彩も、その数も違って見える。
何万光年も離れた恒星の核融合反応が光となって、広大な宇宙を旅して地球に到達し、大気圏に突入して高層ビルの隙間を縫ってやっと僕の眼球に届く頃には、ほんの微かに夜空に瞬く明滅となってしまう。
東京ではその光の減衰が特に顕著に感じられる。
この街には光を吸い込んでしまう何かがある。

「あの星の数だけ生命はあるのだろうか。」
そんな事を子供の頃に考えたのは僕だけでは無いはずだ。
太陽と同じように光を放つ星がこれ程沢山あるならば、その軌道上に地球の様に生命を宿した惑星があっても何ら不思議なことではない。
そんな、途方も無い疑問に思いを馳せながら、ふと、周りを囲むこの高層ビルの幾百の窓から溢れる光の数だけ、誰かの日常があるのだと気付いた。
そして、いつか見た写真のことを思い出す。
地球の周回軌道上に打ち上げられた人工衛星から撮った夜の東京は、まるで無数の星が集まって出来た大きな星座の様だった。
僕らが見上げる夜空に無数の光があるのと同じように、宇宙から見下ろす東京にも無数の光がある。
そして、そこには確かに誰かの人生があり命があるのだ。

東京で星が見たいと思った。
だから、僕は出来るだけ高い場所を選んで、出来ることなら重力に逆らって、少しでも宇宙の近くまで行きたいと思った。
そうして、辿り着いた国内有数の超高層ビルの展望台から僕は星を眺めた。
眼前にどこまでも広がる暗闇と、眼下に広がる無数の星が、光と闇の地平線を描いていた。
まるで、東京が夜空の光を飲み込んで輝いているように見えた。
「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」
有名なニーチェの格言だ。
だとすれば、光もまた、僕を覗いているのだろうか。
あの頃には想像もしなかった景色が、この街には広がっている。
高校3年の夏。
茹だるような暑さの中額に汗を滲ませて、駅構内の電光掲示板を眺めていた。
東京の駅というのはなんと広大で、分かり辛いのだろうか。
不親切の塊みたいな空間だ。
そして、何よりも人の多さに嫌気がさす。
僕は大学のオープンキャンパスに参加する為に東京に来ていた。

あのライブの日から東京を強く意識するようになった。
漠然と上京したいという思いはあったが、東京のバンドの実力をまざまざと見せつけられ、その願望は日増しに大きくなっていった。
そこで、なんとか上京資金を確保する為の手段として東京の大学に進学することを画策したのだ。
音楽専門学校に行くという考えも自分の中にはあったが、専門学校は2年制の学校が主流で、大学であれば4年間学生でいられる。
大人になるまでの猶予が2倍ある。
この差は大きい。
両親は進学を望んでいたので、突然真剣に受験モードになった僕に対して、概ね好意的だった。
学費と下宿代以外の生活費は自分でなんとかすること。
それが条件だった。
急ピッチで自分が行けそうな大学を探した結果、一般受験ではなくAO入試に賭けて準備をすれば、なんとかなりそうな大学を見つけた。
その大学をこの目で確かめるべく、今回東京に足を運ぶことになったのだった。

オープンキャンパスではその大学の特色や学部や学科毎に学べる内容、主な就職先や就職率についての説明があったが、上京する事が目的だった僕にとってはさほど重要ではなかった。
オープンキャンパスを終え、街をブラブラ歩いてみることにした。
目に飛び込んでくる大都会の景色は全て、僕にとって新鮮で刺激的だった。
駅のホームに立つと、目線の先には大きな看板があって、テレビ番組やCMで見かける商品や芸能人が写っている。
駅のアナウンスの音量はやたらと大きく、5分も待たずして新しい電車がやってきて、電車の中に入ると人に埋もれてしまいそうになる。
目的の駅に着いて電車を降り、改札を抜けて街に降り立てば見た事もないような大きな交差点と人の波に足が竦む。
見渡す限りの大中小のビルに囲まれて、そのビルの壁にも広告の看板やモニターが溢れ、その中のモデルがこちらを見て微笑んでいる。
僕の生まれ育った場所とここは全くの別世界だ。
この街がキラキラして見えた。
でも、行き交う人達は皆、何故か余裕がなく暗い目をしているようにも見えた。
この街には光を吸い込んでしまう何かがあるのかもしれない。
ネットで調べると地元では考えられない程多くのライブハウスやスタジオがあって、つまりミュージシャンの数も、お客さんの数も多いという事だ。
当然競争も激しくレベルも高いのだろう。
もしかしたら、この街には何かと戦っている人達が多いのかもしれない。
ただ生き永らえるだけならば、わざわざこんな騒がしい街に住む事を僕は選んだりしないだろう。
東京のスケールの大きさに漠然とした羨望と畏怖が込み上げて来る中で、それでもここで戦ってみたいと強く思った。

帰りの新幹線に乗って、車窓に映る景色が山々の豊かな緑色に少しずつ変わってくる頃、不意に携帯電話に着信が入った。
画面を見ると土田からだった。
電車の中にいるので出られない旨をテキストで伝えると
「戻ったら連絡してくれ。」
とだけ返信があった。
地元の駅に降り立つ頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
いつも通りの、大きな広告の看板もモニターもない簡素で静かな駅前の風景に安堵するとともに、自分が酷く疲れている事に気付いた。
携帯電話を取り出し、約束通り折り返しのコールを鳴らす。
2〜3コール程で土田は電話に出ると、挨拶もそこそこに要件を簡潔に伝えてきた。
「大会に出よう。」


P.S
そんな高校時代から時は過ぎ2023年。
SUIRENは絶賛制作の期間中で、新しい章のページをめくるべく水面下で頑張っております。
レコーディングしたり撮影があったりと有難い事に日々忙しく過ごさせて頂いてます。
本当は早く皆にお知らせしたいのですが、もう少し先になると思う。
でも、楽しい事が沢山待ってるので楽しみにしていて下さい。

今年はとうとう桜を見る事が出来なかった。
いや、厳密に言えば道端に一本だけ植えられてる桜の木とか、どこかの大きなお家に植えられてる桜の木とか、もしかしたらあったのかもしれないけれど。
目に止まらないような日々でした。
花見したかったなー。
5月12日の自主企画ライブ。
SUIREN presents 「Naked Note 01」~合縁奇縁~まではバタバタしてる気がします。
良いライブをして良いお酒を飲んで美味しい物を食べたい。
花より団子。

【ライブ情報】

『SUIREN presents「Naked Note 01」〜合縁奇縁〜』
5月12日(金) 東京・GRIT at SHIBUYA
開場18:00 開演19:00
出演:
SUIREN
nano.RIPE
上野大樹
Bucket Banquet Bis(BIGMAMA)
Opening Act:MAYA

<チケット>
ご予約はこちら:https://eplus.jp/sf/detail/3784270001

SUIREN プロフィール

スイレン:ヴォーカルのSuiと、キーボーディスト&アレンジャーのRenによる音楽ユニット。2020年7月、最初のオリジナル楽曲「景白-kesiki-」を動画投稿サイトにて公開すると同時に突如現れ、その後カバー楽曲を含む数々の作品を公開し続けている。ヴォーカルSuiの淡く儚い歌声と、キーボーディスト&アレンジャーのRenが生み出す、重厚なロックサウンドに繊細なピアノが絡み合うサウンドで、唯一無二の世界観を構築。22年3月に初のワンマンライヴを開催し5月にTVアニメ『キングダム』の第4シリーズ・オープニングテーマ「黎-ray-」を含む自身初のCDシングルを発売。7月に配信シングル「アオイナツ」を発表し、12月に⻑編作品『アンガージュマン』の主題歌「バックライト」をStreaming Singleとしてリリースした。SUIREN オフィシャルHP

【連載】SUIREN / 『Sui彩の景色』一覧ページ
https://bit.ly/3s4CFC3

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ギャラリー

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