浜田麻里

浜田麻里

【浜田麻里 インタビュー】
“自分は一生をかけて
何を残せるのかな?”と
考える年代になったんです

高崎 晃さんは
テクニカルというよりもニュアンスの人

バラードの「Zero Gravity」や抒情的な「River」などについても話していただけますか。

「Zero Gravity」はずっとコラボしている岸井 将くんというギタリストと一緒に作った曲なので、安心感を持って進めていきました。この曲の肝は、やっぱり高崎 晃さんのギターソロですね。最近はバラード系で高崎さんにお願いすることが多いんですが、「Zero Gravity」は増崎孝司くんのアコギと対照的というのが面白いと思ってます。今まで何曲もソロを弾いていただいていますし、毎回マックスのところまで弾いてくださるんですけど、今回が一番“キタッ!”と思いました。

“高崎 晃=テクニカル”というイメージが強い中、彼の泣きソロの素晴らしさを味わえるという意味でも「Zero Gravity」は必聴ですね。

私の中では、高崎さんはテクニカルという以上にニュアンスの人なんですよね。なので、「Zero Gravity」は高崎さんに情感系のソロを弾いてもらうということが前提としてあって、もう曲を作っている時に出だしのギターフレーズまで浮かんでいたんです。なので、それをそのまま弾いてもらいました。

指定する場所は指定して、あとは自由に弾いてもらうというのもプロデューサーならではの思考です。そして、「Zero Gravity」の歌詞は“人生の中で離れていってしまうもの”がテーマになっていますね。

この曲は自分の人生の葛藤と重なるところがあって。これまで私はすごく考えて自分の歴史を歩んできたのに、時代感の中でその足跡が全然ないことになっているという歯がゆい気持ちを持っていた時期があったんです。それを無重力な感覚になぞらえて表現しました。そして、「River」はこれこそ本当に今の年齢になって、やっと歌えるようになった人生の歌ですね。そういうことを歌っても、今なら許されるだろうと思って作りました。

人生を河の流れになぞらえていて、最後の《分水嶺で巡り合う/愛に救われて/深い海に辿り着く》という文節は本当に素晴らしいです。40年にわたって音楽を追究し続けているアーティストの言葉だからこそ、より響くというのもあると思いますし。

そう感じていただけるなら嬉しいです。あとは、「River」は6/8拍子で、それが結構難しかったですね。日本人にはすごく馴染みのあるリズムですけど、国際色豊かなメンバーとなので、拍と拍の間のリズムのとらえ方がそれぞれで若干違っていて。この曲は、ドラムはドイツ人で、ベースがアメリカ人で、あとは日本人という編成なので、最初は“んっ?”と思ったんですよ。最終的にはなんとかまとめて、思ったとおりに仕上げることができました。

民族によってリズムのハネ方が違うという話を聞いたことがありますので、その話はすごく興味深いです。「River」はアコースティックギターからエレキギターへと移行する2段階のギターソロもいいですね。

増崎くんとはずっと長く一緒にツアーもしていて、“この曲はアコギのソロだよね”ということは、もう暗黙の了解という感じでした。エレキギターのソロに関してはメロディーが自分の頭の中にあったので、それを中心に弾いてもらったんです。増崎くんの中には自分が弾きたいフレーズがあったかもしれないけど、私のイメージのままのメロディーで仕上げてもらったので、いつも以上にメロディアスなソロになっています。

麻里さんが構築されたギターメロディーというのは、増崎さんが弾かれることをイメージして考えたものだったのでしょうか?

はい。この曲は増崎くんが弾くことをイメージしつつという感じでした。でも、そうじゃない時もあります。それこそバチバチに指定するという。自分のスタイルを持っている凄腕のプレイヤーに指定フレーズを弾いてもらうのは失礼なことだと思うのですが(笑)。ただ、例えばエディ・ヴァン・ヘイレンに弾いてもらいたいと思ったとするじゃないですか。それはエディ・ヴァン・ヘイレンじゃないとこの曲は成立しないからお願いしたい気持ちになるんですね。今作の他の曲についても“これは絶対マイケル・ロメオだな”と思ったので、彼にお願いしました。それは他の方たちも同じで、ただ単にすごい人に弾いてもらうということではなくて、曲ごとに、その曲を必ずよくしてくださる確信というか、閃きのようなものがあるんです。

そういうオファーのかけ方であれば、指定フレーズでもミュージシャンは意気に感じて弾くと思います。ギタープレイの話が出ましたが、『Soar』はプレイ面の聴きどころも多いアルバムになっていて、中でも40周年を迎えても衰えるどころか、さらにパワーアップしていることを感じさせるヴォーカルは圧巻です。声を保つために特別なケアなどはされているのでしょうか?

ずっと自分の声を仕事にしてきたので喉を傷めないように気をつけていますけど、それくらいで特別人と違う何かをしているということはないです。

そうなんですか? ということは、もともと体幹が強いのでしょうか?

歌うための体幹という意味では、たぶん強いと思います。身体は全然強くないんですよ。体力もないし、運動もしていないですし。ただ、歌うということに関しては50年近く歌っているので、そういう筋肉は恐らく人より発達していると思い…あっ! そういう意味では、日々のケアというのはあります。ドクター的な人に、自分の喉の状態を診てもらうようにしていて。今はカメラで本当に細かいところまで見ることができるんですよ。なので、自分の喉がどういう状態なのかを知った上で、ライヴやレコーディングに挑む。そうやって喉を傷めることをなくすようにしています。声帯というのは左右の粘膜がついた時に声が出るんですけど、そこがどういう状態かを自分で知っていると多少コントロールできたりするんです。なので、喉を極端に傷めてしまうことは少ないと思います。ただ、それでも痛めてしまう時はありますよ。不可抗力的に痛めてしまったり、疲れている時に声を出しすぎてしまって、“あっ、やっちゃった!”ということになったりとか。

自分の喉の状態を知るのを怖がる人もいるような気がしますが、麻里さんは違うんですね。

もちろん怖いですよ。すごく怖い。でも、目を背けることで取り返しのつかない状態になってしまったりするのはもっと怖いので、ちゃんと診てもらっています。ただ、そういうスペシャリスト的な医師は日本に数人しかいないんですよ。そういう面での大変さはありますね。私が何十年もずっと診ていただいていた博士みたいな方が引退されてしまって、やっとここ数年で新しい先生と出会えたんです。

OKMusic編集部

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