挑戦し続ける表現者、大貫勇輔「今ま
でやってきたこと全てが必要だった」
〜ミュージカル『マチルダ』インタビ
ュー

2023年3月〜6月、東京・大阪にてミュージカル『マチルダ』の日本初演が上演される。
イギリスの国民作家ロアルド・ダールの児童文学「マチルダは小さな大天才」を原作に、英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが2010年に製作した本作。ウエストエンド、ブロードウェイで上演されるやいなや数多の演劇賞を受賞し、全世代から愛される大ヒットミュージカルとして今もなお世界各地で上演されている。
5歳の天才少女マチルダは、暴力で学校を支配するミス・トランチブル校長に頭脳と不思議な力を駆使して立ち向かう。日本版オリジナルキャストとしてマチルダ役を演じるのは、嘉村咲良・熊野みのり・寺田美蘭・三上野乃花(クワトロキャスト)。恐ろしいミス・トランチブル校長を演じるのが、大貫勇輔・小野田龍之介・木村達成(トリプルキャスト)。そしてミス・ハニー役の咲妃みゆ・昆 夏美(Wキャスト)、ミセス・ワームウッド役の霧矢大夢・大塚千弘(Wキャスト)、ミスター・ワームウッド役の田代万里生・斎藤 司(トレンディエンジェル)(Wキャスト)が出演する。
今回はミス・トランチブル校長役のひとり、ダンサーであり俳優の大貫勇輔に単独インタビューを実施。2023年は舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』や大河ドラマ『どうする家康』への出演も控える大貫に、『マチルダ』の稽古真っ只中の心境を語ってもらった。
大貫勇輔
「どれかひとつでも欠けたら、トランチブルという役はきっとできない」
ーーミス・トランチブル校長の役はオーディションで掴んだということですが、どんなオーディションだったのでしょうか?
オーディションは大きく3つのパートがあって、お芝居、歌、最後にダンスという流れでした。お芝居のパートは「まずは好きにやってみて」というところから、動き、声の高さ、スピード感などを変えながら何度か繰り返しました。まるで本当の稽古のようでしたね。 僕自身いろいろなオーディションを受けて慣れてきた部分もあったのかもしれませんが、芝居のワークショップを受けているような楽しい感覚でした。トランチブルは特にお芝居ありきの歌なので、歌のオーディションではかなり芝居要素を求められながら歌った記憶があります。ダンスのパートでは、ダンスというよりリボンを使った運動のような面白い動きが印象的でした。まあ、ダンスに関しては一瞬で終わりましたね(笑)。
ーー海外クリエイティブスタッフの方々も、大貫さんのダンスの実力はご存知だったんでしょうね。
僕がミュージカル『ビリー・エリオット』(2017年、2020年)でオールダー・ビリーを演じていたときの振付補のトム・ホッジソンさんと仲のいい方が、オーディションにいらっしゃったんです。「じゃあ君はダンスは大丈夫でしょう」と。ただ、トランチブルは独特な振り付けではあるので決して簡単というわけではなくて。でも、どのパートも楽しみながらやらせてもらいました。
ーー大貫さんにとって、この役はどうしても演じたい役だったそうですね。
そうなんです。僕自身『ビリー・エリオット』や『メリー・ポピンズ』で日本初演作品に関わってきた経験があり、日本初演にオリジナルキャストとして参加できることは本当に貴重な経験だと毎回感じています。『マチルダ』というロングラン上演が続く人気大作ミュージカルが日本で上演されるのならば、そのオリジナルキャストでありたいという気持ちがありました。トランチブルという役は女性かつ悪役という、今までの自分のキャリアに一度もないタイプの役。だからこそ、ぜひともチャレンジしたいと思ったんです。
大貫勇輔
ーー大貫さんは元々はダンサーとして活躍されていましたが、近年はダンサーかつ俳優としてあらゆることに挑戦されていますよね。そのチャレンジ精神に毎回驚かされています。
自分でもびっくりしています(笑)。そのときそのときを精一杯やってきて、気付いたらトランチブルという役と出会えたんです。ただ、これまでのキャリアの中で本当に残念だと思っていることがひとつあって……実は僕、蜷川幸雄さんの演出作品に出たいとずっと思っていたんですね。俳優としての現場を通して芝居が好きになっていく過程で、いつの間にか芽生えた想いでした。蜷川さんの演出を受けて厳しくしごかれたいなあって。けれど蜷川さんが亡くなり、その夢はわなくなってしまいました。
蜷川さんがウエストエンドで『マチルダ』をご覧になったとき、特にトランチブルの役者さんが素晴らしかったようで「この役を日本人でできるやつはいないぞ。できたやつがいたらすごい」とおっしゃったそうなんです。蜷川さんが観てくださっているかはわからないですけれど、「日本のトランチブルも良かったな」と言ってもらえるように頑張りたいという想いもあります。この役と出会って正直プレッシャーも感じながらも、今まで12年間やってきたこと全てが本当に必要だったと改めて思うんです。どれかひとつでも欠けたら、トランチブルという役はできていない。精一杯、今までやってきたこと全てを存分に活かして挑みたいと思います。
悪役を演じる難しさとその魅力
ーートランチブルはこれでもかという程ものすごい悪役という印象があるのですが、お稽古中の今、悪役を演じることの魅力は感じていらっしゃいますか?
やっと見つかってきたところです。最初はトランチブルという役に共感できる部分がなく、理解もできず、そのせいか台詞が全然頭に入ってこなかったんです。言葉も使い馴染みがないような難しい言い回しで、しかも感情の浮き沈みも激しい役なのでとにかくそれがしんどかったですね。歌も拍やメロディラインが変わっていく中で言葉を大切にしながら遊びも取り入れていくので、これは役がちゃんと見つかっていないとできないな、と。動きもかなり細かくついているので、そういうものが身体の中にしっかり入っていないと次の段階に進めなかったんです。それが、稽古が始まって3週目にしてやっと自分の目指すトランチブルにフォーカスを充てられるようになってきました。
『マチルダ』って言葉を大切にしている作品なんです。なので言葉や声で遊んだり、言葉のリズムや会話のキャッチボールにも遊びの感覚があって、それがやっていて面白いところです。今は、次に何が飛び出してくるかわからないような緊迫した空気を作ろうと試行錯誤しているんですけど、それを探っている時間もすっごく楽しくて! 最近はミュージカルというよりも、「芝居やっているなあ」という感覚が強くなってきました。
大貫勇輔
ーーちなみにトランチブルの役は映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』ではエマ・トンプソンが演じていますが、舞台版ではなぜ男性が演じるのだと思いますか?
イギリスならではのシニカル・ジョークなのかなと受け取っています。女性が男性を演じる宝塚歌劇団じゃないけれど、あえて虚を使うことでリアルがよりリアルに感じると言いますか、それと共通するものもあるのではないでしょうか。男性キャストだけで女性の役を演じるオールメールというものもありますし、そういった要素が含まれているのかもしれません。
ーートランチブルの人物像や舞台上で描かれていない過去については、どのように捉えていますか?
元々彼女はオリンピックのハンマー投げの選手だったのですが、ずっとルールを大切にしてきたのにも関わらず、自分がルールを破ったことによって優勝できなかったという過去があります。ずんぐりむっくりの体型もあり劣等感の塊だった彼女が、唯一自信を持っていた“ルールを守る”ということを自ら破ったことでトラウマを抱えていたんです。なので、校長になってからは鬱積したマイナス感情を子どもたちに当たり散らしている、という人なんじゃないかなと思っています。
ーー元オリンピックのハンマー投げの選手という役柄ですが、動き的にハードなものはありますか?
砲丸投げみたいに本を投げたり、跳び箱を飛び越えたり、おさげ髪の子どもを振り回すシーンなどがあります。ハードかなと思うのは、ものすごい勢いでリボンを振り回しながら歌うシーンですかね。けれど僕は今までダンサーでやってきているのもありますし、ケンシロウを経験しているので(ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』)、それに比べたらハードな動きというのはあまりないかもしれないですね。
「悪が強大であればそれだけ光のメッセージが強くなっていくはず」
ーー『マチルダ』は音楽も大きな魅力のひとつですが、トランチブルとしての見どころは?
トランチブルなら2幕の「The Smell of Rebellion」が、歌い甲斐も演じ甲斐もある曲だなと思います。アンサンブルのみんなと歌う場面もありますが、ひとりで6分くらい歌うんですよ。舞台上でそんなに長く歌い続けることってなかなかないですからね。しかも肉襦袢をつけて動き回りながら歌うので、これを上手く表現できたら盛り上がるナンバーだろうなと思います。

大貫勇輔

ーーそういえば、肉襦袢は稽古中から付けているんですか?
今はまだ全然付けていないですね。衣裳合わせを先日やったのですが、肉襦袢を付けると上半身が大きくなり過ぎて自分の足元すら見えないんですよ(笑)。もしかしたら、衣裳を付けたらできない動きとかも出てくるかもしれないですね。でも生身でトランチブルを作っておけば、本番ではそれが絶対に助けてくれるだろうなって。衣裳を着るだけで身体が尋常じゃない大きさになるので、きっとすごみも出るでしょうし、自然とトランチブルになれると思います。
ーー本作は大勢の子役が活躍する作品ですが、大貫さんから見た子どもたちはどうですか?
僕自身は子どもが大好きなので、子どもたちにとって脅威であるトランチブルを演じるのは難しいかなと思っていたんですけれど、意外と大丈夫でした(笑)。トランチブルって、周りの人が怖がってくれるお陰でトランチブルになれるという面もあるんです。王様はひとりでは王様になれないのと一緒ですね。いくら自分が頑張っても、周りの反応でキャラクターが立つことも立たないこともあるでしょうから、そこは子どもたちにかかっていると思います。子どもたちとはひとりのプロの俳優として向き合っていかないといけないなと、強く思いますね。
ーー最後に、『マチルダ』出演に向けての意気込みをお願いします!
トランチブルが悪くなればなる程、マチルダの光が大きくなると思うんです。マチルダ役の4人はまだ小さいのにものすごくパワフルに演じていて、「小さな体で大きな勇気を持って踏み出せば、どんなことでも変えられるんだ」というメッセージを示してくれています。そんなマチルダの影響で周りの子どもたちも変化し、徐々に団結してトランチブルに立ち向かっていくというストーリー。悪が強大であればそれだけ光のメッセージが強くなっていくはずなので、僕は大きな悪として存在したいです。そうすることでお客様にもより感動していただけるのではないでしょうか。もちろん笑えるところもたくさんありますが、しっかりと怖い存在として演じていきたいなと思います。
大貫勇輔
取材・文=松村 蘭(らんねえ)   撮影=池上夢貢

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