RIZEのKenKenらも注目する打首獄門同
好会 “生活密着型ラウドロック”の
ルーツと魅力とは?

(参考:『水曜どうでしょう』を愛する打首獄門同好会が藤村・嬉野Dと共演 ”ヒゲマラソン部の歌”も披露)

 HR/HMのヘビーなサウンドに、うまい棒やラーメン二郎、『水曜どうでしょう』など多くの人が共感できる歌詞を乗せ、“生活密着型ラウドロック”をキーワードに活動するスリーピースバンド・打首獄門同好会。その彼らが結成から10年の活動を続け、現在、RIZEKenKenをはじめに多くのバンドからも注目を集めているという。大澤敦史(Gu)に彼らのルーツを聞くとともに、歌詞、サウンド面から魅力を探った。

・「好きなものを好きなように歌えばいいやっていうところから、今の形ができあがった」

――そもそも、結成にはどのようないきさつがあったのですか?

大澤:もともと最初に組んだ3人は、全員同じ音楽学校の出身者だったんですね。で、全員楽器専門だったので、誰もボーカルをとったことがなかったんですけど、とりあえずバンド組もうぜって始まって……で、一回ベースが抜けて、新しいベースが入って、今の3人体制になったという感じですね。

――その頃から、今のような音楽性だったのですか?

大澤:まあ、そうですね。結成していちばん最初に作った曲が、朝飯の歌(「Breakfast」)だったので。それからずっと食べ物の歌は作っているから、あんまりブレてないですね。

――何でまた朝飯の歌を。

大澤:3人とも楽器の専門だったから、ボーカルの志望者が誰もいなかったわけですよ。で、ボーカル探すのがもう大変で……だったら自分で歌ったほうが早いやっていう安直な考えから、俺がボーカルを始めたので、要はボーカリストとしてのルーツがまったくなかったんです。

――なるほど。

大澤:だから、歌詞って言われても、作ったことないしなあっていう。でまあ、「遊び半分で、いいんじゃね?」みたいな軽いノリで作ったのが、その朝飯の歌で。一応、真面目な歌詞も作ってみたんですけど、遊び半分の歌と真面目な歌の両方をライブでやってみたところ、どうも客の受けは、遊びの歌のほうが良くてですね。それでだんだんそっちにシフトしていって、気がついたらそれ一色になっていたという。

――それ一色に(笑)。

大澤:結局、メンバー3人とも洋楽を聴いて育ってきたから、日本語歌詞の方向性みたいなものに対して、そんなに強いこだわりもなかったんですよね。ベタにラブソングを歌うとか、みんなを元気づける曲を歌うとか、そういう志もなくて。もうどっちかっていうと、自分の好きなアレンジで音を出すとかっていうほうに、強いこだわりを持っていたというか。

――その洋楽っていうのは、やっぱりハードロックとかラウド系の?

大澤:ですね。うちのドラムはマリリン・マンソンが大好きだし、ベースはKORNとか大好きで。で、俺もシステム・オブ・ア・ダウンとかすごい好きだったので、結局重かったり、アレンジがエグかったりとか、そういうのがやれたらいいなっていう。

――でも、世界観的なところは、そっちに寄っていかなかったんですね。

大澤:まあ、日本語でそれをやろうとしても、どういうふうにやるんだろうっていうのがあって。ビジュアル系的なものも、俺たちはちょっと違うしなあっていう。だからもう何でもいいみたいなノリから始めてみたら、俺たちも面白いし、客も面白がっているみたいだから、じゃあそれでいいわみたいな。で、だんだんそっちにエスカレートしていって、じゃあ好きなものを好きなように歌えばいいやっていうところから、そのときどきのマイブームがあったら、それを拾って歌にしていけばいいっていう、今の形ができあがっていって。

――マイブーム?

大澤:そう。俺のなかで空前のラーメン二郎ブームが巻き起こったとか、メンバー内で『水曜どうでしょう』ブームがあったりとか……そういうものを、もう歌にしちゃえばいいじゃんっていう。その悪ノリが、だんだん自分たちでも面白くなってきたんですよね。

・「自分のなかに何かブームが起こるの待ちみたいな(笑)」

――打首の曲は、大きく分けると何パターンがあって。まずは食べ物の歌、そして日々の生活の歌、あとは……。

大澤:『水曜どうでしょう』の歌ですね(笑)。まあ、食べ物の歌は、やっぱり作りやすいというか、自ずと自分のなかでブームが起きるので。たとえば、今回のベスト盤にも入っている焼き鳥の歌(「ヤキトリズム」)を書いた頃は、もう朝、市場に鳥を買いに行って、自分で串を刺して、それを河原に持っていって焼くぐらい、空前の焼き鳥ブームが俺のなかに訪れていたんですよ。

――串に刺すところから?

大澤:そう。で、それを食べながら芋焼酎を飲んでいると、すごいロマンを感じるんですよね。で、しばらくそのブームが続いたから、それを歌にしてみようと思って。そう、最近はちょっと空前のそばブームがきそうになっていて。

――まさか自分で打ったり?

大澤:まだ自分では打ってないんですけど、そろそろ打とうかなと(笑)。歌にする場合はやっぱり、ある程度いってから作りたいんですよ。だから、ちょっと旅に出て、本場のそばを食べ歩いて、それから今度は自分で打って……そこまで行ってからじゃないと、曲にしたくないんですよね。二郎の歌(「私を二郎に連れてって」)を作るときも、ある程度体重が変わるぐらいまで二郎を食いまくってから作りましたから。

――(笑)。そこまでやった上で書いているからこそ、歌詞に説得力があるのですね。

大澤:結局、こういう歌詞の方向性に行ってしまったがゆえに、歌詞に入れている思いが本物になってしまったというか(笑)。だから、決してうわべだけじゃないんですよね。食べ物の歌を作った場合は、その食べ物はひと通り通ったんだなって思ってもらって結構です。

――食べ物の歌と言えば、うまい棒の歌(「デリシャスティック」)が、ひとつブレイクポイントになったようですね。

大澤:そのへんがひとつ転機になったというか、そのへんで悪ノリが固まった感じはありますね(笑)。そう、その歌を作ってから、ライブ会場でうまい棒を配り始めて、お客さんがうまい棒を振るようになったんです。それでだんだん、“うまい棒のバンド”と言われるようになって……。この曲は、ここ数年、ライブでやらないことがないくらいの定番曲なんですけど、最大千本配りましたからね。まあ、千本と言っても、予算一万円ですけど。

――いずれにせよ、大澤君の感情に火がつかないと歌詞が生まれないわけですね。

大澤:確かに、その縛りはありますね。自分のなかに何かブームが起こるの待ちみたいな(笑)。あと、テーマが決まっても、方向性が決まらないこともあって。さっき言った、そばの歌にしても、ただ“そば”を連呼しているだけでは成り立たないわけじゃないですか。そばの種類を言うのか、そばの歴史や味のうんちくから攻めて行くのか……そう、二郎の歌を作るときも、二郎の店舗がある場所を並べるっていう方向も、選択肢としてあるにはあったわけです。

――まあ、わかりやすいところでは。

大澤:でも、そうじゃなくて、二郎に行きたいんだけど、勇気を出せずに行けないっていう方向にして……それは実際、友だちでいたんですよね。二郎の話をすると、今度連れっててよって言われるんです。行きたいけど、ひとりじゃいけないみたいな。だから、そっちを題材として引っ張ってきたっていう。

――それはそれで共感値が高かったんじゃないですか?

大澤:いわゆる“あるある”を引っ張ってきた感じですね(笑)。そこを意識したのは、「まごパワー」という曲の存在が結構大きくて……厳しかったおやじが、孫ができるといきなりデレデレじいちゃんになるっていう歌なんですけど(笑)。それがものすごく“あるある”だっていうか、うちのおやじもそうみたいな話が、ある程度の年代から結構入ってきて。息子、娘、甥、姪ができたあたりの年代から、「これ、超わかる」みたいなことを言われて、これはありだなって。

・「これは人気曲になり得るんだなという引きの強さを、再認識した」

――そういう共感値の高さで言ったら、「フローネル」なんかまさに……。

大澤:そう、「フローネル」は、作ってみたら意外と人気が出たみたいな曲ですね。で、あの曲にまつわる事件がひとつあって。最近、ミュージックビデオを作りましたけど、前はライブ映像がYoutubeにちょっと上がっているくらいで、あんまり推し曲というつもりもなかったから、そんなに気にもしてなかったんですね。そしたらある日、ツイッターって「フローネル」の歌詞をつぶやいているツイートがちょっと話題になっていて。で、何の騒ぎだと思ったら、つぶやいているのが、RIZEのKenKenだったんですよ。「あれ? これ、RIZEの人だよな? なぜ、うちらのバンドの歌詞を?」って。

――その頃は全然接点がなかったんですか?

大澤:そう、当時は。で、何でつぶやいているんだろう、しかもアルバムの一曲でしかない、オフィシャルな映像を出しているわけでもない曲の歌詞を。って思って、「うちの曲ですねー」ってアプローチしてみたら、「大好きだから」って言われて。で、これは一回ごあいさつに行かなきゃと思って、ライブに遊びに行って……それ以来、飲み仲間みたいな(笑)。

――それが、いつぐらいの話なのですか?

大澤:2年前くらいですかね。で、これは人気曲になり得るんだなという引きの強さを、再認識しまして。なにせ、RIZEの人から引きがあったわけですから(笑)。で、今回ベスト盤を作りましょうってなったときに、じゃあこの曲のミュージックビデオを作ろうっていう話になって。

――そのビデオがまた……。

大澤:そう、このイラストというか“フテネコ”を描いている芦沢ムネトさんも、KenKenを通じて知り合って。で、「フローネル」のビデオを作るってなったときに、あの猫似合うなと思って頼んでみたら描いてくれることになったっていう。

――発表した当時は、推し曲でもなかったのに。

大澤:この曲は、2009年に出した『庶民派爆弾さん』っていうCDに入っているんですけど、それが全国流通の初めてのCDだったので、当時のベストみたいな内容だったんですよね。で、今回のベストと同じように、やっぱり新曲も入れたいよねって作っただけの曲だったんですけど、それをライブでやってみたところ、この曲はかなり共感型なんだなっていうことに気づいて。特にライブをやっているときは夜なので……。

――歌詞の通り、あとは「風呂入って速効寝る計画」っていう(笑)。
大澤:そうそう(笑)。ツイッターで検索すると、いまだに使われていますからね。「もう今日は帰ったらフローネル」って。で、誰かがそれに「何それ?」ってリプライして、「これだよ」って「フローネル」のライブ映像が貼ってあるっていう。

――まさに口コミで広がっているというか、食い物とはまた違う共感が……。

大澤:まあ結局ね、ひっくるめていうと生活密着型というか、“生活密着型ラウドロック”とは、よく言ったなって感じですよね。食べて、寝るっていう(笑)。

――そんな“生活密着型ラウドロック”の集大成とも言えるベスト盤『10極~TENGOKU~』が今回リリースされるわけですが、このタイミングでベスト盤を出すっていうのは、どういう流れだったのですか?

大澤:単純に、結成10周年が今年だったので、何かやるかって考えたんですけど、別に何かって言ってもなあ……「ベスト作る?」っていう安易な考えで。ただ、今までの曲が13曲入っているんですけど、そのうち7曲は再録なわけですよ。俺、録り直すの大好きなので(笑)。技術的なことはもちろん、録音環境も良くなっているので、もう一回録ってみたいなっていう。その最たるものが「フローネル」で、それこそ当時は、ライブで全然回数を重ねていない状況で、とりあえず録ったわけです。でも、そのあとライブのなかで、いろいろ改変されて、雰囲気も変わってきているから、ぜひそれを録りたいなっていう。あと、2年前からうちらのCDに携わってもらっているエンジニアがいるんですけど、その人についてから録った楽曲は、まあ良しとしようと。それが残りの6曲で、それ以前の7曲は、全部再録したんですよね。

――ベスト盤とはいえ、決して楽に作っているわけじゃないと。

大澤:まあ、その他に新曲を3つ入れているので、結局10曲新しく録り直していますから、もうフルアルバムみたいなものですよね(笑)。

――仕上がりはどうですか?

大澤:これはもう、自信作ですね。2年一緒にやってきたレコーディング・エンジニアだから、もう意思の疎通もバッチリっていう。何しろ10曲レコーディングしたうち7曲は、これまでライブで散々やってきた曲なので、もう勝手知ったるというか、かなり良い感じに録れたと思いますね。

・「大きいステージでやっている人たちとやれたら面白そうだな」

――歌詞だったり音だったり、それこそバンド名だったり、これまでバラバラのイメージだったものが、このベスト盤でようやくひとつになったというか……今まで意外と全体像が見えづらかったところがありますよね?

大澤:まあ、ぶっちゃけ派手な露出とかなかったですからね。ただ、ライブをやって、それを観た人たちが好きになってくれるという。だから、ライブバンドとして、良く言えばまっとう、悪く言えば愚直過ぎみたいな(笑)。ライブを観てもらったら、そこは自信があるんだけど、別にそれ以外のところで何かの主題歌でドーンとか、地上波の番組出てドーンとか、雑誌に何ページもインタビューが載っているとか、そういうのはいっさいなかったので。

――現場レベルでは結構有名というか、知る人ぞ知る存在みたいなところがあって……。

大澤:そう、意外とね。「何でうちらのこと知ってるの?」みたいな人も結構いたりして。そう、こないだも、KenKenに「紹介するよ」ってマキシマム ザ ホルモンの楽屋に連れて行かれて、「打首の大澤です」って言ったら、「うわー、ついに来たかー」ってナヲさんに言われました(笑)。

――向こうは、すでに存在を知っていたんですね。

大澤:何かそういうパターンが多いんですよね。飲みの席で知り合って、「打首の~」って言ったら、「おー、知ってる知ってる。今度対バンやろう」って、そのあと一緒にライブをするようになったりとか。

――きっとバンドマンならではの観点というのがあるのでしょうね。

大澤:やっぱり、作っているもの同士の感覚ってあるんですよね。「そのテーマで、こう作るか!」みたいな。そこは作っているもの同士、分かるわけです。そういう意味では、うちは結構やっていることが密かにマニアックだったりするところがあって。それが多分、バンドマン同士の面白がり合いになってくれているのかなって。

――生活密着型の歌詞とはまた別のところでも引きがあると。

大澤:結成時の話じゃないけど、もともとバンドサウンドやアレンジが良ければいいっていう考え方だったので、結局そのへんはバンドマン同士、要はウマが合うからやっているところもあるんですよね。サウンドのルーツに洋楽が見えるものというか。だから、歌詞だけ見ると、それこそ「筋肉少女帯とか好きですか?」って言われるけど、バンドマン同士だと、そこでやっぱり洋楽のバンドの名前が出てくるんです。「システム・オブ・ア・ダウン、好き?」「あ、やっぱり。わかるわー」みたいな。だから、結局そっちでも話が合うみたいな。密かにそういうベクトルもあるんですよね。

――「面白い」と「カッコ良い」だったら、どっちが言われてうれしいですか?

大澤:両方ありですね。カッコ良いと言ってくれる人は、きっとサウンドを聴いてくれているんだろうし、面白いって言ってくれる人は、歌詞をちゃんと拾ってくれているんだろうし。だから両方ともうれしいです。もっと言えば、「バカだなー」っていうのでも、うれしいっていう(笑)。「こいつらアホだな、良い意味で」みたいな。

――(笑)。

大澤:まあ、こんな感じではありますけど、これも結構自然体のなりゆきというか、メンバー的にはやっていて無理はないんですよね。無理がないからこそ、10年続いたっていうのもあるし。生活密着型なだけに、生活している限り曲は作り続けられるっていう。まあ、食べ物の趣味がラーメンから漬物になったり、「もう徹夜はできない」とか、そういう歌になっていくかもしれないですけど(笑)。

――今後の目標としては何がありますか?

大澤:そうですね……KenKenもそうですけど、最近でかいステージに出ている人たちと友だちになっていきたので、そういう人たちと何か一緒にやってみたいですよね。それを実現させるためには、もうちょっとバンドとしての勢力を……結局10年やっていると、ライブハウスで一緒にやっていた仲間も、ほとんどいなくなってきているんですよ。だから、居場所としては自然とそっちでやっている人たち、大きいステージでやっている人たちとやれたら面白そうだなっていう。商売っ気抜きに、そうなりたいなっていうのは、ちょっと思いますよね。だから、それも含めて、ちょっとこの10周年のタイミングでバーンといきたいなと。この機を逃すと、もうタイミングがないんじゃないかっていう(笑)。そんなことは思っています。(取材・文=麦倉正樹)

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