『守銭奴』でドケチ親父役を演じる佐
々木蔵之介が語る、“常に驚きに満ち
た”プルカレーテ演出の魅力とは?

映像でも舞台でも、果敢にさまざまな難役に挑んできた佐々木蔵之介。なかでも2017年に主演した舞台『リチャード三世』は「これまで観たことのないシェイクスピア!」と高く評価され、伝説的な作品となった。その舞台を演出したのがルーマニアの巨匠、シルヴィウ・プルカレーテ。佐々木と二度目のタッグがう今回は、フランスを代表する劇作家、モリエールによって17世紀に書かれた傑作『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』を上演する。
金に異常な執着を見せる守銭奴=ドケチ親父のアルパゴンは息子と娘、召使にも徹底した倹約を命じているが、周囲の我慢も限界を迎えつつある。そんなある日、アルパゴンは再婚したい相手がいることを打ち明けるが、それは息子の恋人だった……。
勘違いが勘違いを生み、ちぐはぐな会話が笑いを呼ぶ、パリを舞台にしたモリエールの“四大性格喜劇”の一本だ。この戯曲がプルカレーテと今回のカンパニーにより、どのような画期的かつ刺激的なコメディに生まれ変わるのか……? 「実際に稽古が始まらないと具体的なことは見えてこないんですけどね」と前置きする佐々木だが、プルカレーテ演出経験者としてその魅力、および今回はどんな舞台になりそうかを予想してくれた。
舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』ビジュアル
――二度目のタッグが実現することになりましたが、このタイミングで『守銭奴』という作品を選んだいきさつは。
『リチャード三世』のあと、次はどうしようか、何をやろうかと話していたところ、プルカレーテさんから「モリエールはどうか」という提案があったんです。今年はモリエール生誕400年ということもありましたから。正直、モリエールの作品には触れてこなかったので、この機会にいろいろ読んでみて、この『守銭奴』に決まりました。
――いくつかモリエールの作品を候補として読まれた中で、『守銭奴』を選んだ理由はなんだったんですか。
なんでしょうね……。たった一日を描いているんですが、登場人物全員がギリギリで闘っている。それが愉快なんです。というわけで、僕は今回、じいさんの役を演じることになったわけです(笑)。
――それもただのじいさんではなく、ドケチの役ですね(笑)。
そう、しかもただのケチではない、“ド”ケチですから。
――“ド”がつくというのは、相当ですよね。
ええ。良く言えば、究極の倹約家です。
――喜劇、コメディであるということも、魅力としては大きかったですか?
戯曲を読み重ねるごとに、アルパゴンの行き過ぎた倹約が一周回って、なんだかチャーミングに見えてきたんですよ。なので、お客さんにも「うわぁ~けったいなじいさんに巻き込まれて周りも大変だな」って笑ってもらえたらと思います。でも、リアルに演じたからといって笑えるものでもない。演劇として、お客さまと僕たちで了解を得た上で話を進めていくところが面白さにつながると思うんです。
――「ここで笑っていいんだ」と。
安心して思う存分笑ってください。今回はヨーローッパのというか、プルさんなりのユーモアが加わるので、日本人の笑いのテイストとはまた違った喜劇になるとも思います。ヨーロッパと日本の感覚が融合され新しい発見があるのでは?!と楽しみです。
――5年前の『リチャード三世』の時の稽古を振り返ると、どんなことが印象に残っていますか。
5年前は、稽古が始まる前にルーマニアのシビウの演劇祭に行きました。演劇祭というものが初体験だったのですが、期間中は朝から晩まで同時多発的に町じゅう至る所でパフォーマンスをやっていて、夜はあちこちの劇場で演劇を上演しているんです。あそこまで演劇のシャワーを浴び続ける経験もなかなかないのでとても楽しかったし、その時に実際にプルカレーテさんのお芝居も拝見させていただいたんです。本物の火や水を使った、そこの劇場でしかできないものでした。演劇ってなんでもありやな!と思いましたね。
――その後、日本で稽古を受けられて。改めて、プルカレーテさんはどういう演出家さんだと思われていますか。
プルカレーテさんは暑さが苦手みたいで、「日本の夏は暑い!」とおっしゃって、稽古はほぼ数時間のみという短さ。2時間程度の時もあったくらいでした。台本を読んで「このシーンは、おそらくこういう感じだろうな」と予想していたイメージを、毎回のように覆されるんです。テキストを無視しているわけでもないんですが、常に驚く演出が繰り広げられていて。演出を付けたらすぐ帰ってしまいます。それで僕らはとりあえず付けてもらった演出を復習しておいて。でも次の稽古では、またガラリと演出を変えてこられたりもしてね(笑)。だけど不思議と焦りはなかったです。もう、ぶっちぎりに稽古が面白かったので。プルさんは初めて会う日本の役者達だから、固定概念なくフラットに演出していくんです。平等な目でみんなを見てくれる。毎日の稽古は刺激的で、ものを作っては壊し作っては壊しという作業がとても面白く、絶対的に信用するものを感じていました。だから、みんな楽しかったと思います。
――今回は夏ではないので「暑い!」とは言わないかもしれませんね。
そうですよね、きっと前回よりは過ごしやすいと思う。
――では稽古ももう少し長めになるのかも?
どうなんでしょうね(笑)。だけど前回も、日本滞在を楽しんでいる様子はありましたよ。台風を経験したことがないからって、わざわざベランダに出て台風を身体で感じたりしていたみたいですし(笑)。
――『守銭奴』という作品に関しては。
まだ、具体的なことはまったく話をしていないんです。だからプルさんが来日されてから、になりますね。
――今回演じるアルパゴンという人物の、役どころについてはいかがですか。
自分の娘や息子よりもお金を愛しているわけですから。何よりも優先すべきは「金」、という人物です。
――もし、彼を擁護してあげるとしたら?
うーん……いや、やっぱり理解できない。1ミリも共感しないですね(笑)。
――でも、再婚したいと宣言する彼女のことは好きなんですよね。金のほうが大事そうではあるけれど、心は動いているような。
うん、確かに心は動いていると思います。
――あそこまでクセのある、アクの強い人物を演じることについては。
これは演劇だからやれる、ということもありますね。映画やドラマではあの役をリアルに演じることは、ちょっと難しい。だからこそ舞台と客席との間で了解を得た上で進めていかなきゃいけないもので、まさに演劇ならではの舞台になると思います。俳優として、やりがいがある役だとも思っています。
――アルパゴンが幸せそうにしていると、より笑えそうです。
そうですね! 実際、大変な一日のお話なんですが、彼にとっては、生きるか死ぬかの問題が起きるわけですから。
――そういう喜劇性のある作品を、今回はプルカレーテさんがどう演出されるかが気になります。どんなことを期待されていますか。
前回の『リチャード三世』では、グロテスクで悲惨で残酷なものをあれだけ美しく見せ、その中にユーモアも入れ、絶妙だった。きっとこの喜劇でも、僕らが想像できないようなことが起こるんだろうと思います。日本でいう喜劇とはまた全然違う匂い、違う彩りの笑いなりなんなりが生まれるんだろうなと思ってはいるんですけど……どうなるんでしょうね(笑)。きっとまた、稽古場で驚かされるんだろうと予想します。
――ただの喜劇では。
収まらないでしょうね。
――もしかして、喜劇なのに笑えないなんてことになったりして?
ハハハ! まあ、アルパゴンにとっては悲劇ですからね。だけどやはりプルカレーテさんの演出ですから、単なるドケチ、金の亡者という設定だけでもないんじゃないかという気はします。
――稽古中は、毎日驚きの日々が味わえそうですね。座組には、手塚とおるさん、長谷川朝晴さんという前回ご一緒だった方もいらっしゃいますが。
初めてご一緒する方も多いので、みんな最初はビックリするだろうなと思います。
――経験者としてリードしたり、ニヤニヤ見守ったり?
いや、僕も驚きの連続だと思いますよ。でも、戸惑い立ち止まっていても仕方がないですから。ひたすら面白がって進み続けます。プルさんは無茶は言わないんですよ。なんとしてもここはこうやりたいから、こうやれと言ってくるわけではないので。
――できる範囲でアイデアを実現させる。
そう、それぞれが自分の範囲内で実現させていく。つまり「100mを9秒で走れ」なんてことは言わないので(笑)。本当に、そこがいいんです。みんなを平等に、この作品のためだけに演出してくれる。今回も稽古場で僕らがビックリしたり、発見したりしたことを、同じように観客のみなさんも驚き、楽しんでもらえたらうれしいですね。
取材・文=田中里津子 撮影=池上夢貢

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