浦井健治、成河、濱田めぐみ、柚希礼
音 新作ミュージカル『COLOR』稽古
場に潜入!~歌唱披露で見えたそれぞ
れの“カラー”

2022年9月5日(月)より新国立劇場 小劇場にて開幕する新作ミュージカル『COLOR』。草木染作家・坪倉優介氏が自身の体験を綴ったノンフィクション「記憶喪失になったぼくが見た世界」(朝日文庫)をベースにミュージカル化されるもので、事故により18歳で記憶を失った「ぼく」が、「母」や「大切な人たち」に見守られ自立していくまでを繊細に描く。
出演は、浦井健治、成河、濱田めぐみ、柚希礼音。2チーム制(ぼく=浦井健治、母=柚希礼音、大切な人たち=成河/ぼく=成河、母=濱田めぐみ、大切な人たち=浦井健治)で上演される。音楽・歌詞は植村花菜。今回初めてミュージカル曲を手掛ける。脚本・歌詞(植村花菜と共同歌詞)を高橋知伽江、演出は小山ゆうな。また、編曲・音楽監督は木原健太郎が務める。音楽はピアノとパーカッションのみで編成され、本番のステージでも木原が演奏を担当するという。
開幕まで2週間と迫る中、SPICEでは、今まさにクリエイションが行われている稽古場に潜入。本作のナンバーも初披露された。
柚希礼音、浦井健治、小山ゆうな(演出)、成河、濱田めぐみ
この日公開されたのは、3つのシーン。
最初に公開されたのは、「ぼく」が退院ししばらく経ったあとの「母」とのシーン。事故直後、暑い/寒いという感覚や、“夜は眠るもの”という、日ごろ疑問すら覚えない物事さえわからなくなっていた段階から、徐々に生活できるようになってきた「ぼく」。「ぼく」にとってはすべてが不可思議で、浮かぶ疑問を抑えることができず、母に「なぜ?」と毎晩のように疑問をぶつけていく。このシーンで「ぼく」を演じたのは成河。「母」には濱田めぐみ。そして、彼らを支えた沢山の人たちを演じる「大切な人たち」に浦井健治。このシーンでは父を演じた。(「♪どうして」)
成河(ぼく) 濱田めぐみ(母)
最初に聴いて驚いたのは、成河の歌がすべて“ひらがな”に聴こえること。これは本当に、極めて私的な感覚ではあると思うが、とにかく“ひらがな”なのだ。原作「記憶喪失になったぼくが見た世界」も、書籍として最初はひらがなばかり。社会通念やことばの意味を知っていく中で、文章にも漢字がまざり、音が意味になっていく。これは母語以外の言語に近いな、と思ったりする。音としては聴こえる。けれど、意味はわからない。と、少し脱線したが、この曲の成河はまさしく“ひらがな”を歌っていた。
成河(ぼく)

濱田めぐみ(母)

幼い子どもでいうところの「なぜなぜ期」というものなのだろうか。記憶を失い、ゼロからのスタートから、成長段階を踏んでいく「ぼく」の毎晩の「なぜなぜ攻撃」に、「母」は堪えかねて、「そんなことわからない」「明日でいいでしょう」と少し突き放してしまう。「ぼくは“今”、知りたいんだ」と訴える「ぼく」。そのあとちょっとした事件が起こり、母が思いを吐露するソロナンバーへ(「♪夢追いかけて」)。この一連での濱田演じる母は、息子とどう接していいのかわからない。支えるべきだとわかっているのに、感情的にできない自分もいる。そんな己へのもどかしさも感じながら、改めて息子の幸せを願い支えていこうと決意を固めていく。そんな母の強さを感じた。
濱田めぐみ

成河

稽古場公開後の囲み取材で濱田が、息子・成河との親子関係性について「事故に遭う前は、つかずはなれず、自立しているスタイルだったんだろうな。べったりした関係ではなかったのに、事故によってそれが変わり、触りたいけど触れない……と、最初はぎくしゃくしている感じ。時間の経過とともに、段々と寄り添っていける」と話したように、最初のシーンの二人は、戸惑いを内包する。それぞれのソロナンバーにのせられた歌詞が耳に入るたび、切々と心に響く。
次に公開されたのは、事故から3か月後。大学に復学した「ぼく」が、友人と再会し、自分の過去に触れて帰宅した後のシーン。過去の自分が好きだったもの、どんな絵を描いていたのか――過去の自分を探し母に尋ね、会話ののち、「ぼく」のソロナンバーへと移っていく(「♪ぼくの万華鏡」 )。このシーンは、2チームともに公開された。
浦井健治(ぼく) 柚希礼音(母)

成河(ぼく)濱田めぐみ(母)

まずは「ぼく」を浦井健治、「母」を柚希礼音。そして「大切な人たち」の成河は、ここでは原作「記憶喪失になったぼくが見た世界」の編集者を演じる。
浦井の「ぼく」は、表立っての焦りや苛立ちはあまり見えない。浦井自身が持っている雰囲気なのか、声の優しさなのか。とにかく穏やかさや無邪気さも感じる。それは、自分を支える母への気遣いなのか、はたまた己の心の防御なのか。「自分が昔描いた絵を見たい」と欲する「ぼく」に、母は「明日ね」と応える。前シーンと同じだが、このシーンで「ぼく」はそれを受け入れる。ここだけでも、「ぼく」の成長がしっかりとわかる対比だ。ソロナンバーは、後半、曲の盛り上がりにかけて、無邪気さのベールをかぶっていた心の叫びや焦りが見え隠れしていく。
浦井健治(ぼく)

柚希礼音(母)

一方の成河の「ぼく」は、切実な印象。自分の感情や欲求を抑えられない。ふるまいの所々にも子どもっぽさが残る。しかし、前シーンに比べて、それを抑えられる自制心が芽生えているような印象だ。ソロナンバーでは、どこかにトリップしているような、彼は今現実に存在していないのではないかと感じさせる印象。自分というものを見失い、いうなればふわふわと夢の中に入っていくような。後半にかけてどんどんと、感情や自我は失われ、言葉だけが自然と零れていく。自分でも自分を捉えきれない。そんな様子に見えた。
成河(ぼく) 濱田めぐみ(母) 浦井健治(大切な人たち)
濱田めぐみ(母)
ここでひとつ、抑えておきたいのが「大切な人たち」だ。このシーンでは、原作書籍の編集者役を成河・浦井それぞれが演じたが、同じセリフなのにこんなにも異なるのかと、その違いも驚いた。その対比も、「ぼく」のキャラクターを際立たせていたように思う。
成河(大切な人たち)
浦井健治(大切な人たち)
ふたりの「ぼく」は全く異なる。囲み取材で浦井は成河について、「アイディアの宝庫」と評していた。今回は“新作”ということで、早い段階で役者たちも加わりながら制作を進めているのだという。稽古場でも続々とアイディアが飛び交い、創作が続けられている。「13時~20時で稽古してるのに(時間が足りない)!」と成河から苦笑が漏れ、柚希も「初日まで2週間ほど。本来なら固めていく段階まできているのに、より良くするためにどんどん挑んで。こんな現場は滅多にない」と笑う。しかし、「このメンバーでしかできなかった」とキャスト・クリエイター陣は互いに信頼を寄せていた。
演出 小山ゆうな

小山ゆうな(演出)・浦井健治・成河

浦井は成河から「創作の喜びこそ醍醐味だと学んで、この時間がかけがえのないものだと初心に戻った」、一方の成河は浦井について「けんちゃん(=浦井のこと)は上演の喜びに溢れている人。僕は創作が大好きで、もはや演じるのは別の人でもいいと思っちゃうくらい(笑)。創作によって頭でっかちになるところを手放していく作業をけんちゃんを見て学ぶ。作って満足してはだめだ!と」とそれぞれに影響を受けていることを伺わせた。
シーン終了後ディスカッション時間(成河、浦井健治)
さて、最後に公開されたのは、事故から5年後。卒業制作を考えている場面。「ぼく」は事故から5年経って一人歩き始めた始めた今も、自分はほかの人とは違う、と感じている(「♪ぼくの行き先 」)。心の内を吐露する「ぼく」に、母は言葉をかける(「♪COLOR~いのちの色」)。ここで「ぼく」を演じたのは浦井。「母」は柚希が演じた。
浦井健治(ぼく) 柚希礼音(母)
親子の関係は変わっていく。柚希演じる母は、息子・浦井の印象を「守らなくちゃ」と語ったとおり、大きな愛で「ぼく」を包み込む。囲みで語ったところによると、「濱田さんと同じ役を演じられるのが本当にすごいことだから、(濱田チームの)稽古を見るたびに、『こういうやり方もあるんだ』と学んで、同じ方向で演じてみたりする」そうなのだが、「やってみると、『違う』って言われる」のだそう。「(濱田と)キャラクターが違うんだ、って(笑)」と笑いながら明かしたとおり、二人の母も、全く異なるものになるのだろう。
柚希礼音(母)

浦井健治(ぼく)

今回公開された浦井と柚希のシーンは、中盤~後半で、浦井演じる「ぼく」がある程度の社会性を取り戻したところからだった。あっけらかんとして、すべてを笑い飛ばしてくれそうな大らかな印象もうける柚希「母」だからこそ、序盤の「ぼく」に対してはどんな母像を見せているのか。楽しみになった。
柚希礼音
浦井健治
今回初めてミュージカルの楽曲を手掛ける植村花菜。その音楽について濱田は、「立稽古に入ったとき、『これが必要だったんだ』という感覚があった。息をし出したというか、心臓が動き出したような」と絶賛する。「好奇心と情熱が桁違い。気を遣わず、バシバシ言ってくれるので共同創作のしがいがある」と成河もその人間性に信頼を寄せていた。9月11日(日)には、その植村自身によるミュージカル『COLOR』一夜限りのスペシャルライブ&トークの開催も決定している。
新作ミュージカル『COLOR』。東京公演は今秋9月5日(月)~9月25日(日)新国立劇場 小劇場、その後大阪、愛知へと続く。
ミュージカル『COLOR』 稽古場シーン映像
取材・文=SPICE編集部

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