SUIREN『Sui彩の景色』
- #8 祭囃子 -
2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い音を描くユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描くコラム連載。Suiを彩るエピソード、モノ、景色をフィルムカメラで切り取った写真に乗せてお届けします。
文・撮影:Sui
夏休みも終わり、いよいよ文化祭本番が近付いてきた。
何度かの練習を経て僕達は人前で演奏出来る手応えを感じ始めていた。
文化祭の準備期間は、学校全体が浮き立つ。
クラス毎の出し物や、クラス対抗の合唱コンクール等があり3年生にとっては受験前最後の大きなイベントであり、そして、これが中学校生活最後の文化祭。
自然と熱が入るというものだ。
文化祭にはクラスの出し物や合唱コンクールの他に、有志を募って何組かだけ全校生徒の前でフリーのパフォーマンスを発表できる時間があった。
しかし、その出場枠を手に入れる為には簡単なオーディションに合格する必要があった。
何度かの練習を経て僕達は人前で演奏出来る手応えを感じ始めていた。
文化祭の準備期間は、学校全体が浮き立つ。
クラス毎の出し物や、クラス対抗の合唱コンクール等があり3年生にとっては受験前最後の大きなイベントであり、そして、これが中学校生活最後の文化祭。
自然と熱が入るというものだ。
文化祭にはクラスの出し物や合唱コンクールの他に、有志を募って何組かだけ全校生徒の前でフリーのパフォーマンスを発表できる時間があった。
しかし、その出場枠を手に入れる為には簡単なオーディションに合格する必要があった。
オーディションは平日の昼休みに行われた。
体育館に繫がる渡り廊下を歩いて、ドラムセットやアンプを運ぶ。
重たい機材を搬入していると自然と汗が吹き出してくる。
オーディションに参加する他の生徒達の出し物は様々だ。
ダンス、漫才、アカペラ。
大掛かりなセットや機材を必要としない出し物が殆どの中で、僕達の機材の量は異質だった。
本番と同じようにステージに機材をセットしていく。
生徒会役員と数名の教職員が審査員として並べられたパイプ椅子に座ってこちらの様子を眺めていた。
人に見られるというのはやはり緊張するもので、このセッティングの時間が何故か一番ドキドキした気がする。
丸山のドラムセットのセッティングを手伝っていると、
大野と白石がギターとベースを鳴らし、
チューニングをしたり、アンプのつまみをいじって音のバランスを取り始めた。
ドラムをセッティングし終えると丸山もドラムを叩いてチェックを始める。
ライブハウスのように音響スタッフいないので音のバランスは自分達の耳を頼りにするしかない。
大野が近寄ってきて
「ちょっと声出してみて。」と言った。
マイクを握りしめて、なんとなく、
「あー」とか
「えー」とか
声を出していたような気がする。
そもそもこういう時にどうすればいいのか分からなかった。
大野が手を上げると全員が音を出すのをやめた。
「なんか、曲やってみないと分からないね。」
と笑いながら大野が言った。
「そうだね、とりあえずやってみようか」
と白石が言った。
「とりあえずワンコーラスだけ確認のためにやっても良いですか?」と大野が審査員に向かって言うと、生徒指導の先生が大きな丸を手で描いて応えてくれた。
大野が立ち位置に戻ると
「じゃあ、やってみようか。とりあえずいつも通りで。」
そう言って皆で丸山の方を見る。
丸山が頷いてカウントを取る。
カッカッカッカ。
音楽室とは全然違う音の鳴り方だった。
圧倒的に広い体育館で音は反響し、天然のリバーブがかったサウンドになっていた。
気持ちが良い。
しかし、歌い易いかと言われるとそうでもない。
そんな感じだった。
ライブハウスであれば、モニター(返し)と言って自分達に向けて音が出るスピーカーが足元にあるのだが、当然この時はそんな物はない。
だから、体育館の対向側の壁に当たった音が跳ね返って自分達に届くまでの若干のタイムラグがある。
それが音の輪郭、特にリズムを取りづらく感じさせた。
ワンコーラス歌い終えると、審査員の面々。
とりわけ教職員の方々はポカーンとした顔でこちらを見ていた。
それが良いのか悪いのかは分からなかったが、
一旦今はサウンドチェックに集中して、自分が感じた事をメンバーに伝えて、メンバーもまた各々感じた事を共有する。
「ドラムはやっぱ生音がデカいよね。これ、小さく叩いて貰うよりも、ギターもベースも音上げちゃった方が良いかもね。」
大野と白石はそんな話をしていた。
僕の声は体育館のスピーカーから出ていて、ギターとベースは小さいアンプから。
ドラムは生音。
と、それぞれが違う場所から音が出ている状態で、
立ち位置的にアンプやスピーカーの音もステージの対向側に飛ばしているので、ステージの上の自分達はボーカルの声とギターとベースの音は聴きづらい状態なのだ。
その状態でドラムは自分達の後ろにいるので、ドラムの爆音を思いっ切り浴びる事になるためこのような聴感になる。
まぁ、とはいえ他に方法もないのでなんとかやり易い様にこの環境でバランスを取るしかない。
とりあえずギターとベースの音をあげてオーディションの演奏を始める事になった。
1曲目にアップテンポな曲
2曲目にロックバラード
の順に演奏した。
審査員の生徒と先生が拍手をしてくれた。
「お疲れ様でした。結果は追って伝えます。」
とだけ伝えられ、僕らは機材の撤収を始めた。
体育館から音楽室にドラムセットを運ぶ道中、
「どうだったかな?」
と丸山は少し不安そうだったが、僕はなんとなく合格するだろうなと確信めいた自信があった。
その日の放課後には生徒会役員からオーディション合格だと聞かされた。
「審査に参加していた先生達が、Suiがこんなに歌えると思っていなくて凄く驚いていたよ。笑」
と言われ、あのポカーンの顔の意味がようやく分かった気がした。
体育館に繫がる渡り廊下を歩いて、ドラムセットやアンプを運ぶ。
重たい機材を搬入していると自然と汗が吹き出してくる。
オーディションに参加する他の生徒達の出し物は様々だ。
ダンス、漫才、アカペラ。
大掛かりなセットや機材を必要としない出し物が殆どの中で、僕達の機材の量は異質だった。
本番と同じようにステージに機材をセットしていく。
生徒会役員と数名の教職員が審査員として並べられたパイプ椅子に座ってこちらの様子を眺めていた。
人に見られるというのはやはり緊張するもので、このセッティングの時間が何故か一番ドキドキした気がする。
丸山のドラムセットのセッティングを手伝っていると、
大野と白石がギターとベースを鳴らし、
チューニングをしたり、アンプのつまみをいじって音のバランスを取り始めた。
ドラムをセッティングし終えると丸山もドラムを叩いてチェックを始める。
ライブハウスのように音響スタッフいないので音のバランスは自分達の耳を頼りにするしかない。
大野が近寄ってきて
「ちょっと声出してみて。」と言った。
マイクを握りしめて、なんとなく、
「あー」とか
「えー」とか
声を出していたような気がする。
そもそもこういう時にどうすればいいのか分からなかった。
大野が手を上げると全員が音を出すのをやめた。
「なんか、曲やってみないと分からないね。」
と笑いながら大野が言った。
「そうだね、とりあえずやってみようか」
と白石が言った。
「とりあえずワンコーラスだけ確認のためにやっても良いですか?」と大野が審査員に向かって言うと、生徒指導の先生が大きな丸を手で描いて応えてくれた。
大野が立ち位置に戻ると
「じゃあ、やってみようか。とりあえずいつも通りで。」
そう言って皆で丸山の方を見る。
丸山が頷いてカウントを取る。
カッカッカッカ。
音楽室とは全然違う音の鳴り方だった。
圧倒的に広い体育館で音は反響し、天然のリバーブがかったサウンドになっていた。
気持ちが良い。
しかし、歌い易いかと言われるとそうでもない。
そんな感じだった。
ライブハウスであれば、モニター(返し)と言って自分達に向けて音が出るスピーカーが足元にあるのだが、当然この時はそんな物はない。
だから、体育館の対向側の壁に当たった音が跳ね返って自分達に届くまでの若干のタイムラグがある。
それが音の輪郭、特にリズムを取りづらく感じさせた。
ワンコーラス歌い終えると、審査員の面々。
とりわけ教職員の方々はポカーンとした顔でこちらを見ていた。
それが良いのか悪いのかは分からなかったが、
一旦今はサウンドチェックに集中して、自分が感じた事をメンバーに伝えて、メンバーもまた各々感じた事を共有する。
「ドラムはやっぱ生音がデカいよね。これ、小さく叩いて貰うよりも、ギターもベースも音上げちゃった方が良いかもね。」
大野と白石はそんな話をしていた。
僕の声は体育館のスピーカーから出ていて、ギターとベースは小さいアンプから。
ドラムは生音。
と、それぞれが違う場所から音が出ている状態で、
立ち位置的にアンプやスピーカーの音もステージの対向側に飛ばしているので、ステージの上の自分達はボーカルの声とギターとベースの音は聴きづらい状態なのだ。
その状態でドラムは自分達の後ろにいるので、ドラムの爆音を思いっ切り浴びる事になるためこのような聴感になる。
まぁ、とはいえ他に方法もないのでなんとかやり易い様にこの環境でバランスを取るしかない。
とりあえずギターとベースの音をあげてオーディションの演奏を始める事になった。
1曲目にアップテンポな曲
2曲目にロックバラード
の順に演奏した。
審査員の生徒と先生が拍手をしてくれた。
「お疲れ様でした。結果は追って伝えます。」
とだけ伝えられ、僕らは機材の撤収を始めた。
体育館から音楽室にドラムセットを運ぶ道中、
「どうだったかな?」
と丸山は少し不安そうだったが、僕はなんとなく合格するだろうなと確信めいた自信があった。
その日の放課後には生徒会役員からオーディション合格だと聞かされた。
「審査に参加していた先生達が、Suiがこんなに歌えると思っていなくて凄く驚いていたよ。笑」
と言われ、あのポカーンの顔の意味がようやく分かった気がした。
文化祭当日。
もう、夏の終わりが近付いていた。
確か初日はクラス対抗の合唱コンクールで、僕らのバンド演奏や他の出し物があるのが2日目だった。
窓や出入り口を黒い幕で覆い、日の光が入らないようになったいつもと違う体育館はさながらコンサート会場のような特有の雰囲気を漂わせていた。
機材や転換の関係で早い時間帯に演奏する事になった。
機材のセッティングも終わりステージの袖で出番を待っている僕達の元に、夏休み中に音楽室を貸してくれた音楽の先生が激励に来てくれた。
大野も白石も丸山も口数が少ないように感じた。特に丸山は緊張していたような気がした。
一方僕は不思議とあまり緊張していなかった。
司会の生徒の呼び込みでステージに上がる。
照明がこちらを照らして、眩しくて熱かった。
全校生徒が僕達を見ていた。
SE(入場曲)もなく各々立ち位置に着いて楽器を持つ。
ザワザワしている会場の中、メンバー1人1人と目を合わせる。
大野が手を上げて丸山に合図をすると丸山は頷いてカウントを取る。
カッカッカッカ。
1曲目はアップテンポな曲。
生バンドの爆音が体育館に鳴り響いた。
ギターの歪んだ音とベースの重低音。
そして、ドラムの小気味いいビートと金物の炸裂音の中で、とにかく僕は無我夢中で歌った。
同じ人前で歌うと言っても、小学生の合唱部時代とは明らかに違う感覚。
バンドはとにかく自由だ。
そう思った。
あっという間に一曲歌い終わると大きな拍手が聴こえてきた。
ふと会場を見渡すと、こんなに沢山の人の前で演奏しているのかと改めて気付き少し足がすくんだ。
ここにきて緊張し始めている自分に気付いた。
軽くバンド紹介するMCを挟み2曲目のロックバラードへ映った。
スローテンポで先程と打って変わってクリーントーンなギターの音。
歌を丁寧に。
それでいて熱く、力強く。
演奏が終わると一瞬の静寂があった。
「ありがとうございました。」
僕がそう言うと堰を切ったように大きな拍手に包まれた。
僕の人生は基本的にはコンプレックスとの闘いだ。
何をやっても取るに足らない結果しか出す事の出来ない人間だ。
でも、歌だけは僕に小さな成功体験を与えてくれた。
人の見る目が変わる瞬間というものがある。
そして、僕の場合。
その瞬間にはいつも歌がある。
文化祭を終え、僕もとうとう受験というものに本格的に向き合わなければならなくなった。
行きたい高校は夏休みの頃に決まっていた。
風の噂でその高校には軽音部があって、県内で有名な高校生バンドが所属しているようなのだ。
部員数もかなり多いと聞いた。
母親に初めて小遣いをせびった。
理由を話すと快くお金を渡してくれた。
そして、僕は本屋に行き生まれて初めての参考書を買った。
高校に行ってバンドを組もう。
そして、何かしらの大会に出て優勝しよう。
あわよくばそのメンバー達と卒業後に上京してプロになろう。
そんな漫画みたいな事を考えていた。
兄が親に買って貰って、弾かなくなって埃を被っていたアコースティックギターの弦を張り替えた。
今度大野にギターを教えて貰おう。
そう思った。
P.S
そんな思春期から時は過ぎ2022年。
TVアニメ「キングダム」第4シリーズの第1クールが終わり、僕達が担当させてい頂いていたOPテーマも変わる事となりました。
キングダムファンの皆さん、関係者の皆さん、そして、いつも応援して下さる皆さん。
改めてここでお礼を言わせて下さい。
本当にありがとうございました。
夢のような時間はいつまでも続かないのだなと、少し寂しい気持ちもありつつ。
とはいえキングダムも我々SUIRENの活動もまだまだ続いていきます。
また、いつかどこかで交じり合えるように頑張って頑張って良い音を鳴らし続けていきたいと思っています。
7/20にはニューデジタルシングル
「アオイナツ」がリリースです。
SUIRENらしい夏の曲が出来ました。
お楽しみに。
写真はキングダム展を観に名古屋に行った時に、寄り道した名古屋港水族館の白イルカです。
よく撮れてると思いませんか?
もう、夏の終わりが近付いていた。
確か初日はクラス対抗の合唱コンクールで、僕らのバンド演奏や他の出し物があるのが2日目だった。
窓や出入り口を黒い幕で覆い、日の光が入らないようになったいつもと違う体育館はさながらコンサート会場のような特有の雰囲気を漂わせていた。
機材や転換の関係で早い時間帯に演奏する事になった。
機材のセッティングも終わりステージの袖で出番を待っている僕達の元に、夏休み中に音楽室を貸してくれた音楽の先生が激励に来てくれた。
大野も白石も丸山も口数が少ないように感じた。特に丸山は緊張していたような気がした。
一方僕は不思議とあまり緊張していなかった。
司会の生徒の呼び込みでステージに上がる。
照明がこちらを照らして、眩しくて熱かった。
全校生徒が僕達を見ていた。
SE(入場曲)もなく各々立ち位置に着いて楽器を持つ。
ザワザワしている会場の中、メンバー1人1人と目を合わせる。
大野が手を上げて丸山に合図をすると丸山は頷いてカウントを取る。
カッカッカッカ。
1曲目はアップテンポな曲。
生バンドの爆音が体育館に鳴り響いた。
ギターの歪んだ音とベースの重低音。
そして、ドラムの小気味いいビートと金物の炸裂音の中で、とにかく僕は無我夢中で歌った。
同じ人前で歌うと言っても、小学生の合唱部時代とは明らかに違う感覚。
バンドはとにかく自由だ。
そう思った。
あっという間に一曲歌い終わると大きな拍手が聴こえてきた。
ふと会場を見渡すと、こんなに沢山の人の前で演奏しているのかと改めて気付き少し足がすくんだ。
ここにきて緊張し始めている自分に気付いた。
軽くバンド紹介するMCを挟み2曲目のロックバラードへ映った。
スローテンポで先程と打って変わってクリーントーンなギターの音。
歌を丁寧に。
それでいて熱く、力強く。
演奏が終わると一瞬の静寂があった。
「ありがとうございました。」
僕がそう言うと堰を切ったように大きな拍手に包まれた。
僕の人生は基本的にはコンプレックスとの闘いだ。
何をやっても取るに足らない結果しか出す事の出来ない人間だ。
でも、歌だけは僕に小さな成功体験を与えてくれた。
人の見る目が変わる瞬間というものがある。
そして、僕の場合。
その瞬間にはいつも歌がある。
文化祭を終え、僕もとうとう受験というものに本格的に向き合わなければならなくなった。
行きたい高校は夏休みの頃に決まっていた。
風の噂でその高校には軽音部があって、県内で有名な高校生バンドが所属しているようなのだ。
部員数もかなり多いと聞いた。
母親に初めて小遣いをせびった。
理由を話すと快くお金を渡してくれた。
そして、僕は本屋に行き生まれて初めての参考書を買った。
高校に行ってバンドを組もう。
そして、何かしらの大会に出て優勝しよう。
あわよくばそのメンバー達と卒業後に上京してプロになろう。
そんな漫画みたいな事を考えていた。
兄が親に買って貰って、弾かなくなって埃を被っていたアコースティックギターの弦を張り替えた。
今度大野にギターを教えて貰おう。
そう思った。
P.S
そんな思春期から時は過ぎ2022年。
TVアニメ「キングダム」第4シリーズの第1クールが終わり、僕達が担当させてい頂いていたOPテーマも変わる事となりました。
キングダムファンの皆さん、関係者の皆さん、そして、いつも応援して下さる皆さん。
改めてここでお礼を言わせて下さい。
本当にありがとうございました。
夢のような時間はいつまでも続かないのだなと、少し寂しい気持ちもありつつ。
とはいえキングダムも我々SUIRENの活動もまだまだ続いていきます。
また、いつかどこかで交じり合えるように頑張って頑張って良い音を鳴らし続けていきたいと思っています。
7/20にはニューデジタルシングル
「アオイナツ」がリリースです。
SUIRENらしい夏の曲が出来ました。
お楽しみに。
写真はキングダム展を観に名古屋に行った時に、寄り道した名古屋港水族館の白イルカです。
よく撮れてると思いませんか?
【連載】SUIREN / 『Sui彩の景色』一覧ページ
https://bit.ly/3s4CFC3
https://bit.ly/3s4CFC3
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