比類なきバンドのこれまでを総括し、
その先を照らしたBBHF『LIVE LOVE L
IFE』ツアー・セミファイナルをレポ
ート

BBHF “LIVE LOVE LIFE” TOUR 2022

2022.7.1 Zepp Haneda
5月リリースのニューEP『13』を携えた全国7ヶ所にわたるツアー『BBHF “LIVE LOVE LIFE” TOUR 2022』を7月9日の札幌 PENNY LANE 24で完走したBBHF。ここではセミファイナルにあたる7月1日のZepp Haneda公演をレポートする。
2枚組の前作『BBHF1 -南下する青年- 』で、十分に蓄えた海外のインディーミュージックとの共振から、アジアに生きる現代の人間としてのオリジナルな存在意義を特に尾崎雄貴(Vo/Gt)のソングライティングで顕著に表現した印象のあるBBHF。生きていれば当然のように遭遇する悩みや割り切れない思い、ほんの少し心に火が灯るような暖かな気持ちを日々行き来する。完全な幸せも不幸せもなく、常にそれらは同居している。そして新作『13』ではその揺れがもう少し明確に生と死というテーマとして浮き彫りになった。収録曲である「バックファイア」はGalileo Galilei時代をも包摂して、過去をなかったことにしない姿勢をごく自然に体現。尾崎雄貴のストーリーテリングがグッと普遍的なものになったと言えるのではないだろうか。やんごとないブルースを抱えながら、作品に昇華される頃にはそのブルースを冷静に見つめているような彼の表現力は古今東西の先人の歴史に名を連ねる時期を迎えたと思う。
BBHF
開演と同時に漆黒に近い暗闇に飲み込まれる。虚空にいるような気分から、雄貴の鍵盤の弾き語りから始めた「月の靴」でライブハウスにいる現実に戻された。グッとフィジカル強めのライブアレンジに変更されたアンサンブルは海のうねりにも似た「流氷」へ。客席から見て右から雄貴、岩井郁人(Gt/Key)、DAIKI(Gt)、岡崎真輝(Ba)、尾崎和樹(Dr)の横一列のセッティングはすっかり定着したようだ。トリプルギターでありつつ、ギターだけが前面に出ることなく、繊細な抜き差しを聴かせる。新曲である「サラブレッド」はひときわオーセンティックなギターバンドの逞しさを体現していて、〈生きる理由を言葉にはしない方がいい それは姿を変えて 死神となり追いかけてくるから〉という予言めいた歌詞にも力強さと洞察を与えていた。
尾崎雄貴
DAIKI
尾崎和樹
前半はステージ上のメンバーの輪郭をはっきり捉えないインスタレーション的なライティングが印象的だったのだが、それは選曲ともリンクしていた。「Mirror Mirror」での上から降るパープルのムービングライトは一定時間ステージを照らし、去っていく。謎かけのような歌詞とリンクして目を奪われた。さらに、SF世界のシューゲイズと言えそうな「レプリカント」、シンセベースやドラムパッドすらギターリフと横並びに血肉化した「Torch」まで、一貫した世界観で見せ、聴かせた。
MCで雄貴は「自分達にとっての血と肉である作品を携えてのツアーはとてつもなく楽しいです」と、ファンを目の前にしたライブの喜びを明確に伝えていた。

BBHF

中盤は『13』の端緒となった「ホームラン」から。てらいのないギターロックにギターサウンドだからこそ醸し出せる透明感やエネルギーが横溢する。ホワイトアウトのような強烈に明るいライトがまさに打ち上げた数多の光だ。有機的なバンドアンサンブルは「僕らの生活」での雄貴とDAIKIのユニゾンするギターをはじめ、5人全員が息を合わせ、全員が主役であることを実感させる。徹底的に音数を減らして磨き上げてきたからこそ、音で会話する今の5人の演奏は、スケールが大きかろうと小さく鳴らそうと、まるで音で会話するように親密なものになったのだと思う。どこまでも透明なシンセとギターサウンドと、彼らならではのゆったりしたタイム感の16ビートがセンシュアルかつ哲学的な歌詞を体幹として届ける「Siva」には唸ってしまった。新曲「シェイク」も近いニュアンスだが、自然に生まれたような遠くにまで伸びるメロディが印象的。Bird Bear Hare and Fish時代の「Work」は繰り返される家族の歴史の架空の物語なのだろうか。歌詞の意味を正しく知らないのだが……働くとか仕事をすることに横たわるブルーズを感じ取り、『13』を軸としたセットリストの大いなるフックになっていた。
尾崎雄貴
再び雄貴がMCで『13』について語る。珍しく雄弁だ。コロナ禍では誰もが生のベクトルで、モニター越しのコミュニケーションを取っていたと思う。苦しいことに向き合うのがリスキーでもあったと自分も思う。だが、対面でライブができるようになると反動がやってきて、『13』ではどうやって死に向かって歩いていくのかを書いたという。その中から何か少しでも感じることがあれば芸術家をやっていてよかったと思えると話した。ここまでの流れと肉声だからこそ伝わる内容だったのではないだろうか。
BBHF
ラテンのようなリズムに乗り全ての音が輝く「花のように」で命の輝きそのものを鳴らし、「死神」では〈誰かのために真っ赤なマタドールのように感情に向き合〉っている。死神をなんとかいなすマタドールというわけだ。異なる時期に書かれた曲が響き合うように聴こえる。さらに『BBHF1 -南下する青年- 』の中でもタフな旅の途中を思わせる「N30E17」の誰もいない広い空間に向けて、自分自身を確認するためにロングトーンを発するような雄貴の声は圧巻だったし、冷たい空気のようなDAIKIのギターサウンドは他の何物にも替え難かった。それだけに、続く楽曲がグッとフィジカルの強さで押すアレンジで更新された「なにもしらない」だったことが胸を打つ。強力な白いバックライトがフロアを照らし、一編の映画を見るような心地に浸っていたオーディエンスを今ここに肉体とともに呼び戻された感じだ。この演出も見事だった。
BBHF
「最後です」と告げて本編ラストに演奏されたのは「ウクライナ」。時勢的に少し胸がざわつくタイトルでもあるし、内容でもあるが、この曲の軸はバンドのオーケストレーションの圧だ。透明だが強力な音の洪水がこちらに向かって押し寄せてくる。BBHFの始まりに作られたこの曲が、最近のフィジカルから自然と発生する楽曲と接続されてエンディングを迎えたようで、必然に満ちた選曲だったのではないだろうか。
大きく長い拍手に応えて再登場した5人。マネージャーに捧げると言って「バックファイア」が演奏された。〈僕らは あのバンドに夢中で〉とか、〈なにもしらないままで いれたらいいのに〉など、珍しく彼らのバンド人生を一望するようなあまり捻りのない内容がむしろこれから先も続く道を感じさせるし、人生をそのまま歌って詩情が溢れ、心が強くなる。とあるインタビューで雄貴が話していたが、スプリングスティーン的なストーリーテリングと言えるかもしれない。
BBHF
その後、インタビューでも話していない報告が彼からあった。『13』が死や諦めについて書いた作品であることは、制作期間に彼の生まれてくる娘が生まれる前から心臓に重い病気を持っていることがわかっていたこと。最悪の事態も考えられる中、新たな命が奇跡を起こしてくれたこと。死に向かってどう生きていくか?について彼女が生まれてくれたおかげでとてつもないパワーをもらえたということーー概ねこのような内容を過去最長のMCで語ってくれたのだ。この経験によって、バンドはより自分達の責任と覚悟でもって活動することを決意。7月1日から独立し、「Suzume Studios」を設立。第一弾として雄貴のソロプロジェクト・warbearのソロ2ndがリリースされることを報告してくれた。そして、10月11日にはwarbearのワンマンライブが予定されているとのこと。また、最近対バンの誘いも増えていることもあり、2022年後半は外に向かっていくとも。
『BBHF “LIVE LOVE LIFE” TOUR 2022』でこれまでを総括した彼らはさらに自立したアクションを起こしていくだろう。最後に鳴らされたのは地に足のついたエバーグリーンな「黄金」だったのも、まるでこの日のために存在しているぐらいしっくりと門出を彩っていたのだ。BBHFはBBHFのまま、広く風通しのいい場所で新たな聴き手を増やしていくんじゃないだろうか。そんな予感を残す忘れられない時間だった。

文=石角友香 撮影=佐藤広理

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