桂米團治、独演会で大スペクタクルな
新作が味わえるーー徳川秀忠や象が登
場する『直木賞』直木三十五の小説を
落語に

毎年夏にサンケイホールブリーゼにて行われている落語家・桂米團治の独演会。今年はサンケイホールブリーゼ米朝一門落語会 シリーズ2022『桂米團治独演会』として、7月18日(月・祝)に行われることが決定した。今回の演目は「淀の鯉(中川清作)」、「増上寺(直木三十五作)」、「三枚起請」。そして桂慶治朗による「あくびの稽古」と、桂あさ吉による「いらち俥」の全5席が披露される。SPICEでは、開催に伴って行われた合同取材会の模様をレポートする。夏らしく涼やかなライトグレーの着物で、どこか清々しい表情で現れた桂米團治は、まずは挨拶を口にした。
『淀の鯉』の場面を表現する桂米團治
歳を重ねたからこそできる「三枚起請」と、米朝作の「淀の鯉」
披露する演目について、「「三枚起請」は古典落語の大ネタのひとつでございますが、これをようやく自分なりに演じることができるなと思ったので、今回絶対出そうと思っていたんです。ただ、普通にやってたのではお客さんは入らへんから、注目いただくための演目として新作をふたつ用意しました」と、今回の演目が揃った経緯を説明。
「淀の鯉」は、中川清(3代目桂米朝)作の演目。「桂米朝が素人時代の22歳くらいの時に、自分の師匠(4代目桂米團治)に宛てて書きました。ただ、米團治師匠はそれをされぬまま亡くなられ、お蔵入りになっていたものを私がやらせていただくことになりまして。これはネタおろしではありませんが、父の作った話ということで出させていただきました」。
2012年の『桂米朝 米寿記念、米朝一門会夏祭り』と2021年の『桂宗助改メ二代目桂八十八襲名披露公演』以来、3度目の披露となる「淀の鯉」。「東京でウケが良かったことを未だに覚えています」と、実際の表現を交えながらストーリーを説明。「三枚起請」については、「本当に難しい作品。年を重ねてできるようになった」と述べ、「坂東玉三郎さんの雰囲気を匂わせたいなと思って演じております。色街で働く女の誇りは哀しみの上に立つものなのかもしれないけど、小輝(こてる)は悪い人じゃあれへんなとお客さんに思っていただけるような雰囲気に持ってきたいなと思います」と意気込んだ。
桂米朝のエッセイがキッカケ、『直木賞』作家の小説を初めて落語化
桂米團治 
「増上寺」は、大阪の小説家、直木三十五作の小説『増上寺起原一説』をもとに、米團治が初めて落語化するもの。「まさにこの日がネタおろしでございます。私もどうなるか分からないのですが、お客様に注目していただけたらいいなと思って出した演目でございます」と述べた。
『直木賞』で知られている文学賞は、実は正式名称を『直木三十五賞』という。「『直木賞』が有名だけども、直木三十五という作家はあまり大阪でも知られていない。大阪の空掘に直木三十五記念館があります。そこへふらっと行ったら、『直木三十五全集』の20巻に収録されている『増上寺起源一説』という作品が展示されています。その横に弘文出版の『落語(1979年度発行)』という雑誌で、桂米朝が書いたエッセイが置かれていて。こんなんあったんやと改めて気が付きました」と米團治。そしてそのエッセイの中に、「直木三十五の『増上寺起源一説』は落語である」と書かれていた。「本当にひょんな思いつきですけども、ほな落語にしたいなと思ってしまいまして」と、同作を取り上げたキッカケについて話した。「増上寺は徳川家の菩提寺でもあります。私もワクワクドキドキの段階ですが、楽しんでいただけるものになるのではないかと思っております」と意欲を覗かせた。
チラシを手に会見に臨む桂米團治
その後の質疑応答では「増上寺」をやると決めた時期を聞かれ、「3月にはこのチラシ(同公演のもの)を作らなあかんと2月くらいに言われて。ですから決めたのは今年の2月ですね。何をしよう、ちょっと特別色を出したいなと思った時に、本当にふらっと直木三十五記念館に行って。その場で館長さんに打診したんです。館長さんは快くお答えをいただきましたので、今回急に決めました。私らしいでしょう(笑)」と笑顔を見せた。
現在絶賛制作中とのことで、進捗については「今は半分くらいかな。オチをどうするかというのがね。小説としては二段落ちになっているのですが、小説を詠んだだけでは落語にならないので、やはり相当手を入れないといけないなと思います」と、創作の楽しさと苦しさを味わっていることを感じさせた。
内容について聞かれた米團治は、突如「「あー退屈じゃ退屈じゃ、退屈じゃのうー。徳川秀忠公、また退屈でございますか。退屈じゃー。わしは徳川家2代目の将軍じゃ。2代目って辛いぞ。家康ばっかり有名じゃ! でもわしは一生懸命やってるんだぞ!」というところから始まります(笑)」と演目のさわりを披露。さらに「ここで土井大炊頭利勝(どいおおいのかみとしかつ、江戸幕府の老中・大老)がやってまいりまして、「退屈しのぎといってはなんですが、上様は象をご存知か。その象が実は長崎にやってきました。本当か。象が船で品川の港に着くのです。上様が象をご覧になるまで、庶民に見せてはならぬ。どうやって江戸城の吹上御苑までこれを運ぶか。象は最初全然動かないけれども、ある曲で踊り出す。そしてその後……」という、結構大スペクタクルな話なんですよ」と、演じるかのように説明した。
演目の時間については30分以内を想定。音曲や羽根物をふんだんに使った賑やかな笑いを求める噺で、見どころは「象が音楽に惹かれて踊り出すところ」と述べた。「奇想天外な感じになっていく雰囲気も落語っぽいし、そしてやっぱり最後にオチがつきますから、まさにこれは落語なんだなと。すごいですよね、桂米朝という人は」と感慨深げに語った。
「寄席は岐路に立っている」米團治が見せる変わり続ける姿勢
桂米團治
今年64歳を迎える米團治。コロナ禍でリモート配信にも取り組んできた。60代になって感じたことについて聞かれると、「年齢はあまり気にしないようにしております。松竹新喜劇の最高齢者の高田次郎さんは90歳。林与一さんは80歳。80〜90代がゴロゴロいらっしゃる。林さんは毎日自分でツイートをされて、YouTube配信をされて。歌舞伎俳優ではないけど上方歌舞伎の古いことを本当によく知っておられる。今度『蔵丁稚』という忠臣蔵の4代目のパロディーをやるんですけど、上方と江戸の切腹の仕方や、花道の揚幕を見る時の視線の違いを教わりました。80歳の方からそんな話を毎日楽屋で聞いていると、60歳は年ちゃうやんと思って」と林与一や山村友五郎とのエピソードを語り、「これからは年齢は関係ない。このコロナとやらの時代はまだまだ続くでしょうから、新しい生き方を皆がする時代になったと思います」と、不確実性の高いコロナの時代に順応して、逞しく生きる前向きな意識を口にした。
一方でコロナは寄席小屋の集客に影を落とした。天満天神繁昌亭、動楽亭、神戸新開地の喜楽館、東京の新宿末廣亭。「コロナ前に比べたらどこも厳しい状況なんですけれども、喜楽館は本当にちょっと大変で。ここ1〜2年が踏ん張りどころ。NPOの方々、本当によく頑張っておられます。僕は、毎週特別週間にした方がいいですよと提案しました。企画をどんどん考えていくことでお客さんを上向きにしなければならないと思います。本当に寄席は岐路に立っている。ただ、真逆の考えで寄席はずっとこんな感じだから、入らなくてもいいという考え方もあるんです。本当に難しい問題ですね」と苦悩を吐露しつつも、「でも客を呼べる芸人が溢れたら解決します。去年、米朝一門でスターが誕生しました。桂二葉がNHKの新人コンクール『NHK新人落語大賞』で優勝した。彼女はやっぱり引く手数多ですよ。どれぐらいこの効果が続くのか分かりませんが、そういった人がぽんぽんと出てくると、その興行はすごく流行る。実は上方落語協会でもずっとこのテーマで喋ってます。答えは出ませんが、話題性のある人が出たらお客が増えるので、そういう感覚で、いろんな人といろんな話題を作っていかざるを得ないですね」と語った。
桂米團治
新型コロナウイルスの影響で、望むと望まざるとにかかわらず、落語界も大きく変化の時を迎えた。桂米團治は時代の狭間で苦悩しつつも、前向きに落語の未来を見つめている。そんな決意と覚悟を感じる取材会だった。サンケイホールブリーゼ米朝一門落語会 シリーズ2022『桂米團治独演会』は7月18日(月・祝)にサンケイホールブリーゼにて開催。初の小説由来の新作「増上寺」をぜひ体感してみよう。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA

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