草刈民代が芸術監督「キエフ・バレエ
支援チャリティーBALLET GALA in TO
KYO」公演記者会見レポート

女優で元バレリーナの草刈民代が芸術監督を務める「キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO」が、2022年7月5日(火)に昭和女子大学人見記念講堂(東京・三軒茶屋)にて催される。ロシアのウクライナ侵攻を受けて危機にあるキエフ・バレエ(タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立歌劇場バレエ)への支援を呼びかけるチャリティー公演で、草刈の提唱により国内外で活躍する日本人ダンサーたち、キエフ・バレエの2名が出演する。指揮:井田勝大、管弦楽:シアターオーケストラトーキョー 。
6月17日(金)に東京都内で行われた公演記者会見には、草刈、キエフ・バレエ副芸術監督の寺田宜弘、出演者の1人である厚地康雄(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)、プロデューサーの恩田健志(RENAISSANCE CLASSICS代表)が登壇した。司会は住吉美紀。
(左より)厚地康雄、寺田宜弘、草刈民代、恩田健志 (c)フォトスタジオアライ
初めに恩田が概要と寄付金の内容について説明。約1800名を無料で招待し、学生を除いて5000円以上を寄付する形を取る(招待応募の締切りはWEB申込み 6月22日(水)、往復葉書申込み6月21日(火)消印有効)。学校法人昭和女子大学から後援を受け、会場は「公演の趣旨を理解いただきまして、特別な形でご提供いただくことになっています」とのこと。寄付金は全額キエフ・バレエ支援に使われ、制作予算は17社の企業と個人からの協賛金による。なお公演費用から余剰金が出た場合もキエフ・バレエに送る。
続いてマイクを握った草刈は、ロシアとウクライナ双方のバレエ界と交流があり、そこが「分断」することに心を痛める。3月に入り、キエフ・バレエのダンサーで過去に一度共演したアルテム・ダッツィシンがロシア軍の攻撃によって亡くなったことを知り、「一気に侵攻が自分の近くに感じるようになりました」と話す。またボリショイ・バレエの芸術監督などを務めたロシア人で、欧米で活動する振付家アレクセイ・ラトマンスキーが今回の事態を憂慮し、Facebookで積極的にメッセージを発信していることにも影響を受けた。「ダンサーはきれいな足だけでなく、心も頭もあるはずだ」というラトマンスキーのメッセージが「もの凄く響いた」という。
草刈民代 (c)フォトスタジオアライ
そこで草刈は「日本のバレエの歴史を考えても、ロシアとウクライナとは切っても切れない関係性を築いてきたと思いますし、私自身の踊りの活動としても、そういうところがあります。この中で、日本人のダンサーは何ができるかをきちんと模索すべきだと思ったんですね」と明かす。そして、1度舞台で一緒になったことがある寺田に連絡し、日本人のダンサーを集めてキエフ・バレエ支援のチャリティ公演を行うことになった。
出演をオファーするに際し、SNSやWEBサイトを「徹底的にリサーチ」。国内外で活躍する日本の踊り手たちに自らアプローチし出演交渉にあたった。「この10数年でもの凄くレベルが変わっていると思いました。今回のプログラム・出演者からは、日本のバレエのレベルがここまで上がってきたということを皆様にご理解いただけるのではないかと思います」と胸を張る。
と同時に「日本のバレエの環境や社会の中でのバレエの認識が変わってくると、海外でいろいろな経験をしてきている人たちがそれを活かせることが多くなると思うんですよね。でも、今のままだと限られてしまうんじゃないかなと感じています」と指摘する。「ダンサーが社会性みたいなことをどれだけ理解していくかも大事になっていくんじゃないかなと、侵攻の記事を読んだり、ラトマンスキーさんの投稿を読んだりしながら感じました。今回、私も含め皆でチャレンジしたり、実感しながら学んだりしたりする機会になればいいなと考えています」。
(左より)厚地康雄、寺田宜弘、草刈民代、恩田健志 (c)フォトスタジオアライ
寺田は11歳の時、国費留学でウクライナに渡り、それから35年の月日が経つ。今年2月23日、日本大使館と外務省から勧告を受けてウクライナを出国し、直後に侵攻が始まった。その後、欧州で祖国を出たキエフ・バレエのダンサーや10年間芸術監督を務めたキエフ国立バレエ学校の生徒を支援。「10代の子供たちをサポートしないと、ウクライナの芸術、世界の芸術がなくなってしまうかもしれない。芸術家として、人間として、サポートするべきだと思った」と語る。また「ハンブルク、ミュンヘンでチャリティ・コンサートを行い、ウクライナを芸術の力でサポートできるようにという活動を100日間してきた」と振り返る。
そうするうちに「日本人として、日本でもチャリティ・コンサートをやるべきだ」と考えるようになったという。そこへ草刈から連絡が入る。「日本を代表するバレリーナが、チャリティ・コンサートを行う。ウクライナの友人たちが感動して、夢と希望をあたえてくださると思うんですね。ありがとうございます」と謝意を述べた。
(左より)寺田宜弘、草刈民代 (c)フォトスタジオアライ
このチャリティ公演から程なくキエフ・バレエのダンサーたちが来日し「キエフ・バレエ・ガラ2022」(招聘:光藍社)が全国で開催されるが、寺田は「絶対に100%成功させないといけない、させたいと思ったんですよ」と熱く語る。120人いた団員のうち30人しかキエフにいないが「バレエ団が1つになって日本で公演をする。その公演をSNSで世界に発信する。世界中に住んでいるウクライナの人たちにウクライナの芸術は生きていると証明できるんですね」と話す。そして、その中からアンナ・ムロムツェワとニキータ・スハルコフが本公演に出演し、ウクライナの詩劇に基づく『森の詩』を披露。「日本のバレエダンサーの皆さん、関係者の皆さん、草刈民代さん。ウクライナを代表して、ありがとうございます」とあらためて深謝した。
寄付金の用途について草刈と話し合い、新レパートリーのために活かす意向。30名しかいない団員の状況などを鑑みて「新しいレパートリーを創って、新しいキエフ・バレエの時代を創っていく。新しい、今までにない国際的な振付家をキエフに招待して振付してもらう。新しい時代を日本人ダンサーの踊りのおかげで創っていく。そうすれば、より一層ウクライナと日本が近くなっていくと思うんですね。芸術と文化、国際交流を一緒に創っていきたいです」と語った。
(左より)厚地康雄、寺田宜弘、草刈民代、恩田健志 (c)フォトスタジオアライ
厚地は草刈と面識はなかったが、直接連絡を受け、二つ返事で引き受けたという。「ぜひ、僕も力になれることがあればと。僕はバレエダンサーなので、踊ることしかできません。今もニュースを見る度に胸を締め付けられるような思いがするんですけれど、僕の踊りでそういう人の1人でも救いになればと思い、受けさせていただきました」と思いをこめる。
踊るのは英国バレエの名品であるフレデリック・アシュトン振付『二羽の鳩』より。ウクライナ人ダンサーに配慮してロシアの作曲家の音楽を使わないため、選ぶのに苦労したという。「本物の鳩が二羽出てくるんですね。平和の象徴の鳩を使えるというのは、このガラにぴったりなんじゃないかなと。最終的にはこの作品でよかったなと思っています」。
今年の2月末まで英国で活動。「バレエ団にはロシア人がたくさんいましたし、ウクライナ人のバレエをやっている友だちもたくさんいます、僕たちがコントロールできないところでパワーバランスが崩れていってしまっているのは本当に残念です。バレエ界が壊れてはいけないと思っています。いろいろな派閥がロシア国内にもあると思いますけれど、僕は仲間を信じたいですし、ダンサーとして平和に今まで通り芸術を磨けていけたらなと思っています」と心情を明かす。
草刈民代 (c)フォトスタジオアライ
今回キエフ・バレエの2人は最後に登場する。草刈は「日本人のダンサーが皆踊って、最後に彼らが踊る。それは今起こっているロシアの侵攻の体験でもあると思うんです。私たち日本人、お客様たちがこういう形で侵攻を体験するようなことだと思うんですね。これこそがチャリティ公演の意味なので、ぜひそれをマックスで感じていただけるようにしていきたい」と意欲を示した。
取材・文=高橋森彦

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着