『スコットランド国立美術館 THE G
REATS 美の巨匠たち』神戸に巡回、
西洋美術史を彩る作品約90点が勢揃い

7月16日(土)〜9月25日(日)の期間、神戸市立博物館にて『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』が開催される。SPICEでも内覧会レポートを公開している東京会場を経て、同展が神戸にやってくる。
スコットランド国立美術館外観
スコットランド国立美術館は、上質で幅広い、世界でも指折りの西洋絵画コレクションを有する。1859年の開館以来、購入や地元名士たちの寄贈や寄託などによってコレクションの拡充を続け、世界最高峰の美術館の一つとなった。
同展では、そのようなスコットランドが誇る至宝の中から、ラファエロ、エル・グレコ、ベラスケス、レンブラント、ブーシェ、スーラ、ルノワールなど、ルネサンス期から19世紀後半までの西洋絵画史を彩る巨匠たちの作品を展示する。同館を特徴づけるゲインズバラ、レノルズ、ターナー、ミレイといったイングランド出身の画家の作品も来日。日本ではなかなか観ることのできないレイバーン、ラムジー、グラントなどスコットランド出身の代表的な画家たちの作品も多数出品される。油彩画、水彩画、素描約90点を通じ、西洋美術の流れとともに、ヨーロッパ大陸と英国との文化交流から、英国美術がはぐくまれた様子を紹介する。
プロローグ スコットランド国立美術館
アーサー・エルウェル・モファット「スコットランド国立美術館の内部」1885年 水彩、白の不透明水彩・紙 88.5×64.4cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
ヨーロッパで最も壮大な景観をもつ首都の一つであり、その街並みが世界遺産に登録されたエディンバラの中心部に位置するスコットランド国立美術館。ここでは、新古典主義の様式で建てられた美術館の素晴らしい建物とそれを取り巻くエディンバラの街並みを描いた絵画や、館内の様子を描いた貴重な作品が紹介される。
展示作品:「アメリカ側から見たナイアガラの滝​」
フレデリック・エドウィン・チャーチ「アメリカ側から見たナイアガラの滝」1867年 油彩・カンヴァス 257.5×227.3cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
アメリカの風景画家チャーチが描いたセンセーショナルな「アメリカ側から見たナイアガラの滝」は、ヨーロッパのコレクションにあるこの画家の作品中、唯一の大作。ヨーロッパで学び、各地を旅行していたチャーチ。記念碑的なアメリカ絵画は、同展を貫く「自然を革新的な方法で見つめる」というテーマを、新たに魅力的で国際的な方向へと導いている。この作品はスコットランドのつつましい家庭に生まれ、アメリカに渡って財を成した実業家が、母国への感謝の気持ちを込めてスコットランド国立美術館に寄贈した。
第1章 ルネサンス
フィレンツェ、ヴェネツィア、ローマを中心に芸術文化が花開いたルネサンスという偉大な創造性の時代を、著名な絵画と素描で紹介する。ラファエロによる祭壇画のための下絵やレオナルド・ダ・ヴィンチの師ヴェロッキオによるとされる聖母子像を展示。それらに加え、パリス・ボルドーネがヴェネツィア風の豊かな色彩の織物や衣服とともに、古代神話のテーマを暗示した官能的な作品も含まれる。宗教画だけでなく、より世俗的な作品も描かれていたことは、芸術家に求められた役割の幅広さやパトロンの興味、嗜好の多様性を示している。また、特異な才能をもつエル・グレコの作品も、この時代の芸術の国際的なつながりを示すものとして展示される。
展示作品:「幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)」
アンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)「幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)」 1470年頃 テンペラ、油彩・カンヴァス(板から移行)106.7×76.3cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
印象的な古代遺跡の前で、幼児キリストに祈りをささげる聖母マリア。出血した指をしゃぶるようなキリストの仕種は、 後に彼が磔刑に処され、血を流すことを想起させる。背景の壮大な遺跡は古代ローマの神殿を表していると推測され、古い宗教に対するキリスト教の勝利を象徴している。同作は19世紀の高名な批評家であり画家であったジョン・ラスキンが大切に所有していたことから「ラスキンの聖母」という名で知られるようになった。
展示作品:ラファエロ・サンツィオ「「魚の聖母」のための習作」
ラファエロ・サンツィオ「「魚の聖母」のための習作」 1512-14年頃 筆と茶の淡彩、白のハイライト、 黒チョーク・紙 25.8×21.3cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
ルネサンスを代表するラファエロによる素描で、中央に聖母子、左に大天使ラファエルと魚を持ったトビア、右に聖ヒエロニムスとライオンが描かれている。同作は通称「魚の聖母」と呼ばれる油彩画の習作で、完成作はスペインのプラド美術館に所蔵されている。聖母の頭を頂点とする三角形構図に配された人物たちは、ほとんど彩色されていないにもかかわらず立体感をもって描かれており、ラファエロの巨匠と称される力量が表れている。
展示作品:エル・グレコ「祝福するキリスト(「世界の救い主」)」
エル・グレコ「祝福するキリスト(「世界の救い主」)」 1600年頃 油彩・カンヴァス 73×56.5cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
右手を挙げて祝福のポーズをとり、世界を表す水晶の球体の上に左手を置くキリストの半身像で、図像的には「サルバトール・ムンディ(救世主として のキリスト)」と呼ばれる。時代的な隔たりはあるものの、正面性の強い人物の描き方には、若き日に故郷クレタ島で学んだビザンティンのイコンの伝統が認められる。同作は、当時スペインで流行していた、救世主キリストと十二使徒を描いた連作中の1点だった可能性も指摘されている。
第2章 バロック
17世紀のヨーロッパでは、各地で革新的な画家たちが従来の世界観を覆そうとしていた。オランダでは、レンブラントが聖書や神話の登場人物に深い人間性を与え、観るものの共感を誘い、スペインでは二十歳前のベラスケスが、日常のささやかな題材を用いて、かつてないリアリズム絵画を制作していた。ドイツのエルスハイマーは、銅板に精緻で見事な色彩の細密画を描き、ヨーロッパ中のコレクターや芸術家たちに愛された。また、ルーベンスやコルトーナらの習作や素描からは、この時代の主要な芸術家たちの制作過程や自由な発想を垣間見ることができる。
展示作品:レンブラント・ファン・レイン「ベッドの中の女性」
レンブラント・ファン・レイン「ベッドの中の女性」 1647年 油彩・カンヴァス 81.1×67.8cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
オランダの巨匠レンブラントによる謎めいた作品。描かれているのは『旧約聖書』の「トビト記」の物語から、結婚初夜に新郎を7度悪魔に殺されたサラが、新たな夫トビアと悪魔の戦いを、固唾をのんで見守る場面ではないかと考えられている。しかし、レンブラントは主題を特定するような描き方を避け、作品の解釈は鑑賞者の想像力にゆだねられた。女性のモデルについても複数の候補が挙がるなど、多くの謎に満ちた作品だが、女性の期待と不安の入り混じった表情など、レンブ ラントの感情表現の巧みさがよく表れている。
展示作品:ペーテル・パウル・ルーベンス「頭部習作(聖アンブロジウス)」
ペーテル・パウル・ルーベンス「頭部習作(聖アンブロジウス)」 1618年頃 油彩・板 49.6×38.1cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
バロックを代表する巨匠ルーベンスが、 工房で制作する大祭壇画のための油彩習作として直接手がけた作品。
展示作品:ディエゴ・ベラスケス「卵を料理する老婆」
ディエゴ・ベラスケス「卵を料理する老婆」 1618年 油彩・カンヴァス 100.5×119.5cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
17世紀スペインを代表する画家ベラスケスが10代の頃に描いた作品。台所や酒場の情景を描いたボデゴン(厨房画)と呼ばれるジャンルの作品で、油で熱されている卵や、周囲の陶器や金属の器、ガラスの瓶など様々な物が描き分けられてい る。この質感描写への力の入れ具合から、独り立ちしたばかりの若き画家が、自らの力量を世に示そうとした野心的な作品だったと推測されている。日常的な台所を描いた作品ながら、スコットランド国立美術館のコレクションで最も魅力的な作品の一つに数えられている。
展示作品:アンソニー・ヴァン・ダイク「アンブロージョ・スピノーラ侯爵(1569-1630)の肖像」
アンソニー・ヴァン・ダイク「アンブロージョ・スピノーラ侯爵(1569-1630)の肖像」 1627年 油彩・カンヴァス 121.9×96.5cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
ルーベンスの弟子で、イングランドの宮廷画家として活躍。レノルズなど後の英国肖像画に大きな影響を与えたとされる。
第3章 グランド・ツアーの時代
18世紀のパリでは、浮世離れした幻想的な理想郷を描いた絵画が好まれた。ブーシェによる華々しくも牧歌的な大作は、この時代のフランス絵画を象徴する作品の一つ。
一方英国では肖像画が発展し、三大画家と呼ばれるゲインズバラ、レノルズ、ラムジーが活躍する。レノルズの「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」は、古典芸術の構図を参照しながらも親密な魅力を備え、後世の画家たちにも影響を与えている。また、この時代は英国のコレクターたちが美術品の購入や文化的教養を深めるために「グランド・ツアー」と呼ばれる大規模なヨーロッパ旅行をした時代でもあった。とくにイタリアは重要な土地で、グアルディによるヴェネツィアの美しい風景画などが、熱心に収集された。
展示作品:ジョシュア・レノルズ「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」
ジョシュア・レノルズ「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」 1780-81年 油彩・カンヴァス 143×168.3cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
英国の絵画史上、最も重要な画家の一人でロイヤル・アカデミーの初代会長も務めたジョシュア・レノルズの代表作のひとつ。令嬢たちの背後にある石の柱や欄干などのモティーフや、右上に見える空の表現などにティツィアーノやルーベンスといった過去の巨匠たちの影響が見られる。また、三人の女性が並ぶ構図は「三美神」という伝統的な主題を想起させる。歴史画の様式を取り入れることで、肖像画の地位を高めようとしたレノルズを象徴している。
展示作品:フランソワ・ブーシェ「田園の情景」
フランソワ・ブーシェ「田園の情景」(左から)「愛すべきパストラル」/「田舎風の贈物」/「眠る女庭師」(左から)1762年/1761年/1762年 油彩・カンヴァス (左から)231.5×91cm/232.1×93.4cm/232×91cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
フランス・ロココの代表的な画家であるブーシェの晩年の作品。何の脅威も感じさせない豊かな自然の中で、 羊飼いや庭師たちが若い女性に花を贈って誘惑している。こうした理想化された牧歌的風景の中での男女の戯れはブーシェの芸術を象徴し、人気を博した主題だったという。
第4章 19世紀の開拓者たち
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「トンブリッジ、ソマー・ヒル」1811年 油彩・カンヴァス 92×122cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
19世紀に入っても、肖像画や風景画などの馴染みのある題材は引き続き好まれた。その一方で、19世紀半ばに活躍した外光派や、その後の印象派、ポスト印象派など、革命的な個人やグループの画家たちが登場し、大きな変革をもたらした時代でもあった。ここでは、スコットランドのレイバーンやグラントによる華麗で伝統的な「グランド・マナー」の肖像画や、文学や物語をテーマにしたミレイの感傷的な魅力を持つ作品、コンスタブルやターナーによる革新的な風景画などの英国 絵画を展示。さらにフランスのコロー、ルノワール、スーラ、ヴュイヤールらの印象的な絵画も紹介する。また、この時代に生まれたヨーロッパとアメリカ芸術の交流の象徴として、ホイッスラーによるエッチングも公開される。
展示作品:フランシス・グラント「アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)」
フランシス・グラント「アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)」 1857年 油彩・カンヴァス 223.5×132.3cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
ヴィクトリア朝の社交会で活躍したスコットランド出身の肖像画家。同作は結婚直前の娘を描いたもの。
展示作品:ジョン・コンスタブル「デダムの谷」
ジョン・コンスタブル「デダムの谷」1828年 油彩・カンヴァス 144.5×122cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
19世紀英国を代表する風景画家コンスタブルが、生まれ故郷サフォークの田園風景を描いた作品。この場所からの眺めは彼のお気に入りで、別の作品にも描かれている。前景の木が目立つ構図は、17世紀フランスの風景画家クロード・ロランの作品「ハガルと天使のいる風景」(ロンドン、ナショナル・ギャラリー)から着想を得たと考えられているが、曇った空の表現など随所に画家の自然観察の成果が表れている。画家自身が「おそらく私の最高傑作」と評している。
展示作品:ジョン・エヴァレット・ミレイ「古来比類なき甘美な瞳」
ジョン・エヴァレット・ミレイ「古来比類なき甘美な瞳」 1881年 油彩・カンヴァス 100.5×72cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
ラファエル前派の一員として知られるミレイの作品で、鋭い観察力に基づきつつ感傷的に描かれ、後期のミレイ作品の特徴が表れている。モデルは子役俳優のベアトリス・バックストンで、ミレイが彼女の両親を説得し、1881年に3回も彼女をモデルにして描いた。同作のタイトルは、女性詩人エリザベス・バレット・ブラウニングの詩から引用したもので、当初の「スミレの花を持つ少女」から、画家自身が変更した。
展示作品:ピエール=オーギュスト・ルノワール「子どもに乳を飲ませる女性」
ピエール=オーギュスト・ルノワール「子どもに乳を飲ませる女性」 1893-94年 油彩・カンヴァス 41.2×32.5cm (c) Trustees of the National Galleries of Scotland
後に有名な映画監督となるルノワールの次男ジャンと、その乳母のガブリエル・ルナールの姿が描かれているが、同作は肖像画というよりも母性を表現した作品とみなすこともできる。ルノワールは、長男が誕生した1885年以降、こうした心温まる家庭風景を好んで描いた。女性の頭部を頂点としたピラミッド型の構図は、聖母子像、特にルネサンスの画家たちがよく描いた「授乳の聖母子」という主題を想起させる。
西洋美術史を彩る作品約90点が勢揃いする『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』は、7月16日(土)〜9月25日(日)の期間、神戸市立博物館にて開催。
チケットは現在、イープラスほかで販売中。

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