次世代を担うライブバンドが大阪に集
結、『ざわめきプレイリスト #2』で
ライブハウスならではの熱気と出会い
を体感

『ざわめきプレイリスト #2』2022.3.26(SAT)心斎橋・Music Club JANUS
「今をざわめかせているアーティストを1つのプレイリストに見立ててリスナーに聴いてほしい」という意味を込めて、大阪で不定期開催中のライブイベント『ざわめきプレイリスト』。昨年11月と12月には、毎年秋にアメ村一体で行われるミュージックサーキットイベント『MINAMI WHEEL』の『-MINAMI WHEEL EDITION-』として、『#0』『#1』が開催。そして3月26日(土)、『ざわめきプレイリスト #2』がMusic Club JANUSで行われた。出演は、あたらよ、鉄風東京なきごと、yutori、リュックと添い寝ごはんの5組。今回SPICEでは、熱い次世代のライブバンドが集った一夜の様子をレポートする。
この日は1日中、冷たい春の雨が降り続いていたが、心をざわめかせるバンドのライブを目撃しようと早耳のファンが大勢詰めかけていた。会場のキャパ緩和に伴い当日券も販売されたが、見事ソールドアウト。Spotifyでは本イベントにちなんで、出演アーティストの楽曲プレイリストが作られた。これはライブの予習にも復習にももってこいだ。さらに会場のBGMでは、過去の『ざわめきプレイリスト』に登場したアーティストの曲が流れていた。

FM802 DJ 板東さえか

定刻になりMCを担当する、FM802・DJの板東さえかが登場。「ライブハウスのこのざわざわした感じ、嬉しくない? せっかく雨の中ライブハウスにやってきたし、雨の代わりに音を存分に浴びて、1日楽しんで帰ってもらえたらと思うので、最後までよろしくお願いします!」と挨拶してライブがスタートした。
yutori
yutori
トップバッターのyutoriは、何とこの日が初遠征。つまり大阪初ライブだ。SEが流れ、メンバーが1人ずつ登場。会場から高まる期待感が伝わる。浦山蓮(Dr)の力強いリズムが響き渡り、1曲目の「ショートカット」をドロップ。曲が始まるなり、待ってましたと言わんばかりに客席からクラップが沸き起こる。佐藤古都子(Vo)の低い歌声、凛とした眼差しに思わず息を飲む。クールさの中に激しさが同居したパフォーマンス。特に佐藤の存在感は圧倒的。すさまじい牽引力だ。
yutori
続けざまに披露した「音信不通」では、内田郁也(Gt)のギターソロが炸裂。佐藤は叫ぶように囁くように、緩急をつけた歌唱でボーカリストとしての表現力の幅広さをしっかりと提示。あまりのレベルの高さに、「これぞざわめくバンドの力か」と感じる。内田と豊田太一(Ba)がアイコンタクトを取りながら演奏する姿からは、バンドのチームワークも感じさせる。「満たされない」「午前零時」と続けて披露し、気持ち良く突き抜ける歌声とサウンドで魅了する。

yutori
yutori

MCでは、全員が初来阪で、肉吸いとタコタコキングのたこ焼きを食べに行ったという話をする。やや緊張感も感じられたが、佐藤は「今日お客さんいっぱいでめちゃくちゃ緊張してたんですけど、出て音鳴らしたら、「すごいあったかい! 楽しい!」という気持ちになり最高です!」と笑顔で伝えた。

yutori

そして、ライブ当日の0時に配信されたばかりの新曲「キミニアワナイ」を披露。キャッチーなロックチューンに、佐藤の切なく鋭い歌声がつき刺さる。「大阪めちゃくちゃ楽しいです! 皆さんありがとうございます。絶対また来ます」と次回の約束をして、ラストの「君と癖」へ。一体感が加速し、サビでは一斉に手が上がる。「後ろまで見えてるよ、ありがとう」という一声がオーディエンスにとっては嬉しい。初遠征とは思えないほど、実に気持ちの良い、堂々としたステージングだった。
鉄風東京
鉄風東京
2番手は、宮城県仙台発のオルタナバンド・鉄風東京。大阪でのライブはこの日で2度目。yutoriと鉄風東京は全員10代だということが、MCの板東から明かされる。

ギィイーーーン!とギターを歪ませた大黒崚吾(Vo)が「大阪ーー!!!」と叫ぶ。「やりたいように!」と宣言し、新曲の「咆哮を定め」を勢いよく投下する。<やりたいようにやるんだ!>と、10代ならではの叫びを、爆音ロックサウンドに、爆裂ストレートにぶつけてゆく。muku(Ba)も前に出てフロアを煽り、会場の熱を引き上げる。

鉄風東京
MCでは大黒が挨拶。「今日のメンツならイェイイェイウォウウォウだと思うので、イェイイェイウォウウォウしてもらって」と独特のノリを見せる。そして大黒とシマヌキ(Gt)が向かい合い、ギターリフが印象的な「外灯とアパート」へ。さらにミディアムテンポの「Numb」を披露。ストーリー性と人間味溢れる2曲で、彼らの楽曲の幅を感じさせる。
鉄風東京
鉄風東京
ここで再びMC。「お客さんが多くてちょっとビビってたんですけど、みんなあたたかくて、すごい楽しいです!」と大黒。そして「周りにいる奴らに馴染めなくて、みんなキラキラしてて、彼女彼氏がいたり、インスタのストーリーもミシン目みたいになってたり、パステルカラーの何かを食ってて。だけど俺らにはバンドがあるぞと、ずっとその反骨精神でやってきました。今、間違いなく楽しいから、やってきたことが間違ってなかった。すげえちっちぇえ仙台FLYING SONというライブハウスから来ました。でもやることは変わらず、1番奥まで全部、どこもかしこも届くように歌います!」と、熱い言葉を投げて、新曲の「遥か鳥は大空を征く」をパワフルにプレイ。とにかく届けるぞ、という気概がものすごい。応えるオーディエンスからもしっかりと手があがる。

鉄風東京

ラストは「21km」。疾走感のあるサウンドと叫びながら歌う大黒の勢いに呼応するように、メンバーも全力で音をぶつける。荒削りでがむしゃら、そしてエモーショナルなパフォーマンスで圧倒し、しっかりと爪痕を残した鉄風東京だった。
あたらよ

あたらよ

板東に「どっぷりと詩世界に誘ってくれるのではないかと思っております」と紹介されたのは、4ピースバンド・あたらよ。SNSやサブスクで音楽を発表するや否やあっという間に注目され、活動開始からわずか1年足らずで「THE FIRST TAKE」に出演したという実力の持ち主。
1曲目は、ひとみ(Vo)の弾き語りから始まった「悲しいラブソング」。はっきりと意思を感じる透き通った歌声が会場全体を包み込む。続く「夏霞」では、まーしー(Gt)とのツインボーカルを披露。切なく優しいグッドメロディーがじんわりと会場を満たしてゆく。男女で歌うことで楽曲の世界観をより広げ、感情移入しやすくさせていると感じた。何よりも楽曲の完成度の高さに舌を巻いた。

あたらよ

MCでは、ひとみが「大阪の皆さんこんばんは。東京から来ましたあたらよと申します、よろしくお願いします」と挨拶。JANUSに出演するのは2度目だという。MVの再生回数が3300万を突破し話題となった、あたらよ初のオリジナル曲「10月無口な君を忘れる」では、ギターの切ないフレーズと柔らかいピンクとブルーの照明がマッチし、美しい歌声に聴き入ってしまう。そして3月23日(水)にリリースされた1stアルバム『極夜において月は語らず』から「52」を披露。どこか神秘的で、情景の浮かぶサウンドスケープ。現実と空想の狭間に誘われるような感覚で、没入感は今日イチだった。楽曲を静かに支える、たけお(Ba)とたなぱい(Dr)のリズム隊も安定感がある。

あたらよ

「早いもので次が最後の曲です」というひとみの言葉に「えーっ!」と声を出して言ってしまいそうになるほどあっという間だったが、ライブの良さは客席から贈られる惜しみない拍手の強さに表れていた。最後は「交差点」。曲が始まると自然にクラップが発生。熱のこもった一体感を生み出して、あたらよのライブは終了した。美しく洗練された歌唱力に、卓越した世界観と演奏力。「またあのサウンドに溺れたい」と思う、素晴らしいライブだった。
なきごと
なきごと
板東がFM802で担当するラジオ番組『Poppin’ FLAG!!!(毎週火曜24:00〜27:00)』に度々ゲストで登場し、JANUSでも何度もライブを行っている、なきごとにバトンが渡る。「大阪のお客さんとの信頼関係をどんどん築き上げている逞しいバンドで、ライブハウスで一緒に時間を過ごせることをすごく大切にしているバンド」だと語られた。
なきごと
ADAM Atの「スウィートホーム」がSEに流れ、サポートメンバーを含めた4人がステージに上がる。水上えみり(Vo)の「なきごと始めます」の一言を合図に、岡田安未(Gt)の高音ギターが天を貫く。1曲目は「癖」。まっすぐな歌声とクールなロックサウンドが生命力をもって向かってくる。「伝えたいことがたくさんあるから、東京から大阪までぶっ飛ばしてきました。ちゃんと届けるから、ちゃんと受け取ってほしい!」と曲中に想いを伝えながら歌う水上。
なきごと
直視できないほどの閃光がステージを照らし、「忘却炉」で一気に加速する。岡田のギターソロがあまりにもカッコ良く、興奮が会場の後ろまで伝播。サビでは一斉に手があがる。続き「ユーモラル討論会」へ。歪んだエッジーなギター、ベースリフ、靄のかかったエコーと、目まぐるしい展開で一瞬で駆け抜ける。
なきごと
MCでは「来ました大阪! 嬉しい!」と水上が元気に口を開く。岡田は雨の中、PACROや心斎橋筋商店街に行き、大阪を堪能したと話す。そしてFM802との出会いにもなったという「メトロポリタン」をドロップ。岡田の生み出す印象的なギターリフが、音楽好きの脳内を騒がせる。
なきごと
「ひとり暮らし」に続き、「こんなに沢山の人がライブハウスが好きで、ライブが好きで、この場所をこんなにも愛している。それを見れて本当に嬉しいです。伝えたいことは曲の中で全部伝えます。今日はありがとうございました! 私たちとばんちゃん(板東)にとって大事な曲」と最後に「深夜2時とハイボール」を披露。「絶対にまた、イヤホンだけじゃなくライブハウスでお会いしましょう」と、生のライブを大切にしていることが伝わる言葉を残してライブを終えた。共感性の高い歌詞に良メロディー、心にスッと入り込む水上の歌い方、1度見たら忘れない岡田の痺れるギタープレー。本当に逞しく、存在感のあるライブだった。
リュックと添い寝ごはん
リュックと添い寝ごはん
トリをつとめるのは、リュックと添い寝ごはん。ここまでしっかりとあたたまった会場をさらに盛り上げた。1曲目は宮澤あかり(Dr)の力強いビートから「青春日記」で飛ばしてゆく。客席はクラップで応え、一体感を高めてゆく。切なく爽やかな青春賛歌で、なんだか甘酸っぱい気持ちになる。松本ユウ(Vo)のカウントから「くだらないまま」を披露。フォークソングや歌謡曲の要素があり、懐かしさも感じさせる楽曲だ。親しみやすいメロディーと松本の柔らかい歌声に、フロアは自然と体を揺らす。
リュックと添い寝ごはん
MCでは「改めましてトリをつとめます、リュックと添い寝ごはんです!」と、松本が笑顔でピース。そして「疲れてないですか? 1回伸びしましょう」と、会場全員でストレッチ(笑)。ほっこりしたところで、2月に配信リリースされたばかりの新曲「わたし」を演奏する。さらにクリスマスを思わせるリュクソの冬ソング「home」で、季節を彩った。
前日は京都でライブをしていたリュクソ。ホテルのシャンプーがとても良い香りだったそうで、松本は「頭を振るたびに、あ〜いい匂い! と。でも京都で王将を食べたので匂いが心配です(笑)」とゆるいMCを繰り広げたあとは、疾走感のあるロックチューン「ノーマル」を披露。グッドメロディーの連発で、耳と心が純粋に喜んだ。
リュックと添い寝ごはん
ラストは堂免英敬(Ba)のベースラインが軽快な「グッバイトレイン」。ステージが華やかに弾けるダンスナンバー。自然にクラップが沸き起こり、オーディエンスは思い思いに身を委ねていた。キメもバッチリ決まり、サビで客席から挙がる拳を見て、松本が嬉しそうな笑顔を浮かべた。誰もがどこかに持っている記憶をくすぐるバンド。良質な楽曲と抜群の安定感、人懐っこさ。愛される魅力が満載の、最高のバンドだなと改めて感じた。
リュックと添い寝ごはん
ステージにMCの板東が登場し、「良すぎたね〜。もう最高でした! 出演者にもう一度大きな拍手をお願いします!」と賞賛を贈る。これからの音楽シーンを担う、次世代のバンドたち。彼らが生み出す音楽の素晴らしさと可能性を全身で感じた一夜だった。
終演後
板東に本日の総括を聞いてみると、「本当に早耳で、まさにざわつきをキャッチしたお客さんだったので、期待値もある分すごくリアクションが良くて。トップバッターのyutoriからお客さんがめちゃくちゃ良い空気にしてくれたんですよ。大阪のお客さんは本当に頼れる。今回はほとんど東京からのバンドなので、大阪の熱さや音楽に対する熱量をアーティストにキャッチしてもらえたのも嬉しいです。今、ライブハウスでも声は積極的には出せないけれど、漏れてしまうようなちょっとした反応があるじゃないですか。久々にそういうのを感じられたと、リュックと添い寝ごはんが言ってたから、それは今日のアクト全員が作った最終的な空気だと思います」と充実の表情をみせた。
また、フィジカルではなくSNSで作品を発表するサブスク時代のアーティストが多く出演していたことに触れ、「お客さんはサブスクで聴いたりYouTubeを見てライブに来てると思うんです。でも実際どういう人たちが聴いているのか分からない世界。ライブハウスで対面することで、お客さん同士が「こんな人たちが聴いてるんや」と掴める側面もあると思います」とライブならではの魅力について話してくれた。
そして、すでに次回の開催も決まっているという。「ライブハウスで下積みする前に音源で見つかるアーティストが多いので、大阪でいち早く目撃者になれてしまうのがこのイベント。今のアーティストは音源のクオリティも、ライブでの再現力や表現力のレベルもすごく高い。音源で出会っても、ライブで期待を超えるパフォーマンスをしてくれるアーティストが今後も登場するんじゃないかなと思います!」と期待を寄せた。ぜひ続報を楽しみにしてほしい。
取材・文=久保田英理 撮影=田浦ボン

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