艶∞ポリス『飛んでる最高』稽古場レ
ポート 3年ぶりの本公演を“最高”
に“飛んでる”俳優とともに
俳優全員が円陣になったところで、一風変わったウォーミングアップが始まった。一人の俳優によって出されたお題を元に、全員がそれにまつわる小話を披露するというもの。この日のお題は「今一番食べたいもの」。
もちろん台本などはないが、側で聞いているだけで思わず笑ってしまうような高熱量な会話が繰り広げられる。ある人は短い話にもきっちりオチをつけ、またある人は絶妙なタイミングで劇中のセリフを織り混ぜる。本編でなくとも、俳優それぞれの個性とユーモアが垣間見られる時間だ。
場が温まったところで、稽古スタート。この日は2つのシーンが重点的に返された。最初に返されたのは、高野ゆらこ、今藤洋子、関絵里子演じる3人のマダムが搭乗を前にラウンジであれこれと世間話に興じるシーンだ。
シャンパンのこだわり、映画の蘊蓄、ハワイの知識、自分の人生……。空気を読んだり読まなかったり、相手を崇めたり、腹の中ではバカにしていたり。見ようによればマウント合戦にも見えるが、この3人にはどんな馴れ初めと人間関係があるのだろうか。
テンポよく交わされるセリフに仕掛けられた、人間の「人によく思われたさ」と「その恥ずかしさ」。早くも「これぞ、艶∞ポリス!」と唸ってしまう。岸本の独特な着眼点を以て織りなされる脚本の力と、それをありありと体現する俳優たちの爆発的な存在感が感じられるシーンだった。
今藤洋子
実話か与太話か分からぬまま、飛行機が離陸するときのような高揚とそこはかとない緊張を携えながら会話はハイスピードで進んでいく。その様子を聞いているラウンジスタッフや少し離れた場所で業務をこなすグラウンドスタッフ。それぞれ奥村佳代と山田瑞紀(江古田のガールズ)である。
奥村佳代
稽古初日からまだ間もないとは信じ難い、出だしからフルスロットルな俳優たち。マスクをしっかりとつけてはいても、その声色や目力、ダイナミックな動きで、一瞬にして観る者を抱腹絶倒の渦へと巻き込んでいく。
精悍な目つき、スッと伸びた背筋、スマートな身のこなし。しかし、ヒーロー現る、と解すにはおそらく早合点だろう。時折見せる振り切った表情とのギャップに、思わずそこかしこから笑いが漏れる。彼は何者なのだろうか。一体どんな経緯でこの空港にいるのだろう。
二人から三人へ、三角関係は四角、五角へと複雑さを極めていく。舞台上の俳優が増えるほどに絡みに絡み合い渋滞を起こす人間関係。果たして、人々はハワイへ行けるのか。飛行機は飛ぶ、のだろうか。
そんな結末を思って手に汗握り始めてからが真骨頂。艶∞ポリス的クライマックスへの序章を感じられる怒涛のシーンが次々展開されていく。そんなあれこれをきっかけに、突如その物語がまるで予期せぬ方向へと舵を切り出すのもまた艶∞ポリスの大きな魅力だ。
独特の眼差しで小さな瞬間にこそ宿る人間の可笑しみを細やかに捉えた脚本と、それらを存分に濃ゆく、しかし軽妙に炙り出す演出。短い時間にも、岸本の目指す、”ただただ笑える喜劇”の醍醐味が感じられる稽古であった。
取材・文/丘田ミイ子
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