艶∞ポリス『飛んでる最高』稽古場レ
ポート 3年ぶりの本公演を“最高”
に“飛んでる”俳優とともに

艶∞ポリス第十一回公演『飛んでる最高』が、2022年​4月13日(水)より下北沢・駅前劇場にて上演される。約3年ぶりとなる本公演は、2017年上演の『個性が強すぎるかもしれない』を大幅リメイクした意欲作。これまで再演を行なったことのなかった艶∞ポリスにとって、このリメイクは初の試みであると同時に新たな一歩でもあるという。主宰の岸本鮎佳は「慣れ親しんだ劇場である『駅前劇場』で、その再出発となる作品を作れたら」と上演への意気込みを見せた。これまでも多くの舞台や映像作品で名コメディを生んできた岸本が、信頼を寄せる俳優陣とともに“ただただ笑える喜劇”を目指す本公演。出演は岸本のほか、高野ゆらこ、渋江譲二、太田将熙、関絵里子、奥村佳代、山田瑞紀(江古田のガールズ)、小林タカ鹿、今藤洋子の9名だ。
物語の舞台は空港。間もなく飛行機はホノルルに向かって飛ぶところだ。あらゆる事情や心境を胸に秘めつつ、とにかくハワイに行きたい人々、とにかく飛びたい人々がターミナルで繰り広げる、いや飛び広げる群像会話劇。序盤からエンジン全開の稽古場の様子をレポートする。
艶∞ポリス主宰で作・演出を手がける岸本鮎佳 写真/吉松伸太郎

俳優全員が円陣になったところで、一風変わったウォーミングアップが始まった。一人の俳優によって出されたお題を元に、全員がそれにまつわる小話を披露するというもの。この日のお題は「今一番食べたいもの」。
小林タカ鹿

もちろん台本などはないが、側で聞いているだけで思わず笑ってしまうような高熱量な会話が繰り広げられる。ある人は短い話にもきっちりオチをつけ、またある人は絶妙なタイミングで劇中のセリフを織り混ぜる。本編でなくとも、俳優それぞれの個性とユーモアが垣間見られる時間だ。
左から関絵里子、今藤洋子、高野ゆらこ

場が温まったところで、稽古スタート。この日は2つのシーンが重点的に返された。最初に返されたのは、高野ゆらこ、今藤洋子、関絵里子演じる3人のマダムが搭乗を前にラウンジであれこれと世間話に興じるシーンだ。
関絵里子

シャンパンのこだわり、映画の蘊蓄、ハワイの知識、自分の人生……。空気を読んだり読まなかったり、相手を崇めたり、腹の中ではバカにしていたり。見ようによればマウント合戦にも見えるが、この3人にはどんな馴れ初めと人間関係があるのだろうか。
岸本鮎佳

テンポよく交わされるセリフに仕掛けられた、人間の「人によく思われたさ」と「その恥ずかしさ」。早くも「これぞ、艶∞ポリス!」と唸ってしまう。岸本の独特な着眼点を以て織りなされる脚本の力と、それをありありと体現する俳優たちの爆発的な存在感が感じられるシーンだった。

今藤洋子

実話か与太話か分からぬまま、飛行機が離陸するときのような高揚とそこはかとない緊張を携えながら会話はハイスピードで進んでいく。その様子を聞いているラウンジスタッフや少し離れた場所で業務をこなすグラウンドスタッフ。それぞれ奥村佳代と山田瑞紀(江古田のガールズ)である。

奥村佳代
空港にいるのは当然ながら乗客だけではない。3人とは別のところからこの物語に絡んでいくであろう人物たちの状況や胸中……。これもまた気になるところだ。なぜならば、艶∞ポリスの群像劇は全員主役級。とにかく目が忙しい。
山田瑞紀
どの人物がどんな爆弾を腹に隠しているか分からない。その全貌は劇場で明らかになるが、こちらの想像を遥かに裏切る展開があろうことは言うまでもないだろう。
高野ゆらこ

稽古初日からまだ間もないとは信じ難い、出だしからフルスロットルな俳優たち。マスクをしっかりとつけてはいても、その声色や目力、ダイナミックな動きで、一瞬にして観る者を抱腹絶倒の渦へと巻き込んでいく。
その様子は一言にして、まさに「飛んでる」と言っていい。巻き込まれた側としてはもう覚悟して、この飛行機に一緒に乗るしか道はなさそうだ。
シーンが少し変わり、ハワイ旅行を前に浮足立つ3人を背に、今度は太田将熙演じるただならぬ様子の男が現れる。
太田将熙

精悍な目つき、スッと伸びた背筋、スマートな身のこなし。しかし、ヒーロー現る、と解すにはおそらく早合点だろう。時折見せる振り切った表情とのギャップに、思わずそこかしこから笑いが漏れる。彼は何者なのだろうか。一体どんな経緯でこの空港にいるのだろう。
小林タカ鹿
と、思った矢先である。小林タカ鹿演じるこれまた新たな要注意人物が舞台の中心へ、出来事の渦中へと踊り出してきた。こちらも察するに乗客ではない。
「なんで俺だけが動揺してる人みたいになってるのよ!」
仕事や人間関係をそつなくこなせる人ほど、綻び始めると一瞬……? どうやら空港で起きている事件は、一つ二つではないらしい。
人物が増えるごとに当然ながら事情も増え、痴情も増える。そしてそれらが増えるということは、人間の滑稽さや恥ずかしさやダサさ、その関係ののっぴきならなさがみるみる詳らかになるということでもある。
私が艶∞ポリスの喜劇に惹かれる最大の理由が、まさにこれだ。人間臭さの”臭さ”部分の解像度。その高さ、爽快なまでの鮮やかさである。

二人から三人へ、三角関係は四角、五角へと複雑さを極めていく。舞台上の俳優が増えるほどに絡みに絡み合い渋滞を起こす人間関係。果たして、人々はハワイへ行けるのか。飛行機は飛ぶ、のだろうか。

そんな結末を思って手に汗握り始めてからが真骨頂。艶∞ポリス的クライマックスへの序章を感じられる怒涛のシーンが次々展開されていく。そんなあれこれをきっかけに、突如その物語がまるで予期せぬ方向へと舵を切り出すのもまた艶∞ポリスの大きな魅力だ。
「その表情は客席にしっかり見せたい」
「このシーンは空白の時間を無くしましょう」
「そこはスピーディーにマックスのリアクションで」
稽古では終始細部にこそ目を見張る岸本の姿があった。ダイナミックに動く俳優たちの細かい所作や会話の間合い。応答というよりも反応に近い部分。そんな瞬発的な演出が場の温度をひとしお上昇させていく。

独特の眼差しで小さな瞬間にこそ宿る人間の可笑しみを細やかに捉えた脚本と、それらを存分に濃ゆく、しかし軽妙に炙り出す演出。短い時間にも、岸本の目指す、”ただただ笑える喜劇”の醍醐味が感じられる稽古であった。
『飛んでる最高』。
そのタイトルを、思わず声にして叫びたくなるほど、“最高”に“飛んでる”稽古場。
ホノルル行きの飛行機が無事飛ぶかは分からないが、それも楽しみにとっておこう。あらすじにもあったように、旅はいつだってその準備が、始まりが、最高の時間、だ。
走り出したばかりの稽古を目の当たりにして、そんなことを感じながら稽古場を後にする。そのドアの向こうからドッと笑い声が漏れ出る。
いやはや今すぐ駅前劇場へ飛びたい、と間もなくの離陸にやはり待望を隠せぬ筆者である。
写真/稽古場より提供
写真/吉松伸太郎
取材・文/丘田ミイ子

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