古市コータロー

古市コータロー

【古市コータロー インタビュー】
“あいつ、最近やさしいよね”って
言われるようなアルバムになった

後ろ姿は嘘をつかない
っていう感じがする

アルバムをずっと聴いていると、コータローさんの後ろ姿が見えてくる感じがあって。

“後ろ姿が見える”ってすごくいいですね。

背中が見えるし、その姿からそこはかとなく醸し出されるものが伝ってきます。

背中が見える音楽…うん、まさしく理想形ですね。後ろ姿って、その人の気持ちとかをすごく語ってくれますよね。それは常日頃から感じていますね。後ろ姿は嘘をつかないっていう感じがします。

ですね。ところで、先ほどの飲み屋の話にちょっとつながるのですが、「サワーの泡」は飲み友達のthe LOW-ATUSのおふたりが歌詞を手がけられていますね。

誰かひとり、このアルバムに華を添えてほしいと思っていたんです。そんな時に昨年のthe LOW-ATUSのアルバム『旅鳥小唄 / Songbirds of Passage』がすげぇ良かったことを思い出して、TOSHI-LOWに“今日飲もうよ”って電話して。で、みーちゃん(細美武士の愛称)にも来てもらって、“書いてよ”と言って書いてもらいました。

何かリクエストしたりは?

何もしていないです。ただ、“ちょっと参考にしたいんだけど、コーちゃん、最近は何を一番強く思っているの?”と訊かれたので、“今いるこの土地、池袋にずっとこのまんまの俺でいたいんだよ”と答えたんです。そうしたら、ああいう歌詞になって。

《俺とギター》のくだりとか、もう…。

そう! 自分じゃ書けないですよね。歌詞ができて送ってもらった時、“さすがだなー”と思いましたね。頼んで良かったです。

今回は参加ミュージシャンも絞り込まれていまして、ドラムは全て御子息の健太さんが叩かれているのですが、コータローさんのリズムや体温をすごく理解されているようで。

やっぱりDNAというか…ふたりで一緒に歩いている写真があるんですけど、足の角度がまったく一緒なんですよ。だから、音楽も…例えば音質にしても、間合いにしても、出すものが一緒なのかもしれないです。

「ウイスキー」は若い人には叩けないようなムードの曲だと思うのですが、グッとくる素晴らしいプレイですよね。

僕もあれはちょっとどうかなと思っていたんですけど、大丈夫でしたね(笑)。本当に驚きました(笑)。

この曲の歌詞の《そんなもんなんだろうよ》というフレーズ、この言葉にいろいろなものが集約されている気もしまして。

ええ。本当にそんな感じで書いたんです。“まぁ、うまくいく時もあれば、いかない時もあるよな”みたいな。

いい意味で開き直りなのか、悟りなのか、どちらだろうと思いながら聴いていました。

その辺はみなさんご自由に感じてくれればいいんですけど、僕としては…少し悟っちゃったところもあるんだろうな。

このアルバムを聴くたびに最後に聴こえてくるのがこの言葉なんですけど、そのたびにちょっと救われる感じがあるんです。

最高ですね、それ。

やさしさだったり、切なさだったりを感じる楽曲の中に、遊び心のあるナンバーも織り込まれていて。「I'm A Dreamer」は《I Don't Care》ですから、これはSex Pistolsで(笑)。

あははは。ギターの音をちょっとピストルズに似せてやろう…みたいにやりきりました。最初にピストルズに受けた衝撃、あれで夢見たわけで。“ギタリストになりたい!”って。でも、この歳になってもまだ夢見ているっていう、そういう曲なんですけど。“Rights Now”は迷ったんですけど、入れている時は楽しくて楽しくて(笑)。知っている人は笑ってくれるだろうなと。《I Don't Care》は仮歌で入っていて、歌詞は書き直そうと思っていたんですけど、浅田くんが“そこはそのままにしておいてくださいよ”って言うので。

アレンジの浅田さんも遊んでいるような。

そうですね。この打ち込み、アルバムの中で一番カッコ良いんじゃないかな?

「北風」はちょっと不思議な曲で。

そうですね…って、どう感じました?

コータローさんを正面から見たイメージからは一番遠いようでいて、聴いているうちに心地良いフィット感がありました。

最初はね、歌詞は“鏡の中には無精髭の俺が映っている”みたいな内容だったんですよ。でも、なんか曲に合っていないと思ってああいうふうにシフトしたんです。結局、「北風」という曲は…僕、コロナのことは絶対に歌いたくなかったんです。だけど、そこで前向きなことを書いていることで、“あぁ、俺ももがいていたんだな”ってちょっと思いました。

では、古市コータローというアーティストが作った今回のアルバムを、いち個人の古市コータローさんが見た場合、どういうアルバムに見えて、聴こえてきますか?

自分の雑食的なところが結構出ちゃっているから。昨日、Instagramにポール・ウェラーのレスポンドレーベルのコンピ盤を載せたんですけど、そういうコンピっぽくなっているようなアルバムかな? それぐらい曲の振り幅があって、でもひとりの人がやっているから芯があるっていう。僕、小説も短編集が好きなんですけど、そういうふうにパッパッと色が変わっていくのが好きで、それが自然とアルバム作りにも影響しているかもしれないですね。

聴いていると、自分もやさしくなれるような気がするアルバムでした。

どんな曲調でも変なアンチエイジングはしたくなくて、素直に今の自分が出ればいいなと思って作っていたから、そういった時に“あいつ、最近やさしいよね”って言われるようなアルバムにしたかったんです。ツアーもソロですから嘘をつけないと思うので、そういう人間になっていないと伝わらない。なるべく伝わるように、やさしい毎日を過ごしたいですね。

取材:竹内美保

アルバム『Yesterday, Today&Tomorrow』2022年3月30日発売 日本コロムビア
    • 【CD】
    • COCP-41723
    • ¥3,300(税込)
    • 【アナログ】
    • COJA-9451
    • ¥3,850 (税込)

ライヴ情報

『SOLO BAND TOUR “Yesterday, Today&Tomorrow”』
5/08(日) 宮城・仙台CLUB JUNK BOX
5/15(日) 東京・神田明神ホール
5/21(土) 大阪・umeda TRAD

古市コータロー プロフィール

フルイチコータロー:THE COLLECTORSのギタリストとして1987年『僕はコレクター』でメジャーデビューし、92年には初のソロアルバム『The many moods of KOTARO』を発表。THE COLLECTORSの活動の傍ら自身のGSバンド・KOTARO AND THE BIZZERE MEN、加山雄三率いるTHE King ALL STARSにギタリストとして参加しており、近年では俳優としても活動。17年9月には目白の実家に古着屋『DUST AND ROCKS』をオープンした。22年にソロデビュー30周年を迎えた。古市コータロー オフィシャルHP

「Yesterday, Today&Tomorrow」MV

OKMusic編集部

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