スタクラフェスの新シリーズ! 『オ
ペラ・ミュージカル新春歌合戦』ミュ
ージカルパートのみどころを紹介

2018年、国内最大級の野外クラシック音楽祭として始まった『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL(スタクラフェス)』。何かと敷居の高いクラシック音楽を、心地よい海風に吹かれながら誰もが気軽に楽しめる場として好評を博し、翌年には第2回が開催された。毎年恒例のイベントとして定着し、クラシック音楽ファンのすそ野を広げていくことが期待されていたなか、やってきたのがコロナ禍。第3回が開催されることはなかった。
伝統ある音楽フェスでさえ開催は困難を極めているなかにあって、新興のスタクラフェスが復活できるのは一体いつになるのだろう、あるいはそもそも復活できるのだろうか――そんな心配を払拭するかのように、スタクラフェスが今年5月の『STAND UP! CLASSIC PIANISM(スタクラピアニズム)』、9月の『ピアソラ・フェス』(編集註:2018年開催の同フェス内ステージ「PASSION CLASSIC」より誕生)に続き、2022年1月に『STAND UP! CLASSIC オペラ・ミュージカル新春歌合戦』でその健在ぶりをアピールする。野外での開催でこそないが、オペラとミュージカルの第一線で活躍するシンガーたちが名曲を届ける“歌合戦企画”は第1回からあった、スタクラフェスのDNAのようなもの。コロナ禍がどんなに長引いても火を消すつもりはないという、主催者側の意志表示と見ていいだろう。

『スタクラフェス2018』開催の模様(「クラシック紅白歌合戦!」撮影:大橋祐希)

安定の“持ち歌”から垂涎のチャレンジ曲まで
今回の出演者は、オペラ界から小林沙羅と西村悟、そしてミュージカル界から中川晃教、屋比久知奈、4人組ボーカルグループLE VELVETSという布陣。小林は第1回の“歌合戦企画”にも出演しており、その突き抜けた高音と華やかな存在感に度肝を抜かれた覚えがあるが、筆者は(プロの)ミュージカルおたく。オペラ的なみどころについては、第1回の筆者のようにミュージカル目当てで聴きに行ってオペラに度肝を抜かれることもあるかもよ、というくらいにとどめて、ここではミュージカル的なみどころを紹介していこう。
小林沙羅 (c)NIPPON COLOMBIA
西村悟
まず中川は、言わずと知れたミュージカル界のトップランナー。彼を紹介する際によく用いられる“唯一無二の歌声”というのはいかにも手垢のついたフレーズだが、事実そうなのだから仕方ないと開き直らざるを得ないくらい、それはそれは特別な歌声を持つ。その彼が今回歌うのは、自身の当たり役の一つである『モーツァルト!』主人公のソロと、舞台本編には出演経験のない『ウエスト・サイド・ストーリー』の《Somewhere》。筆者は基本的に、こうしたコンサートでも本編出演経験のある作品の歌を、しっかり役を背負って歌ってほしい“持ち歌信者”だが、中川の《Somewhere》となれば話は別だ。本編では女性や子どもが無垢な歌声で届ける、争いのない世界を願う歌。唯一無二の中川版は、やはり聴いてみたい。
中川晃教
続いて屋比久は、今ミュージカル界で最も勢いのある若手。映画『モアナと伝説の海』で彗星のごとく現れてミュージカル界での活躍を予感させて以来、『レ・ミゼラブル』『シスター・アクト』『NINE』『グリース』と、出演作ごとにその逸材ぶりを加速させてきた。若くして歌・踊り・芝居の三拍子を兼ね備えた恐るべきスペックの高さに加えて印象的なのが、意志の強さと共に何かドラマティックなものを宿した、あの“目”。筆者などは初めて『レミゼ』のエポニーヌ姿を観た時あたりからもう、あの目で『ミス・サイゴン』のキムを演じてくれたらどれだけ胸に迫るだろう!と妄想してやまなかったのだが、2022年はついにその妄想が現実となる。今回は、彼女のキムとしての歌声を、本編に先駆けて聴ける貴重な機会だ。
屋比久知奈
最後に、メンバー全員がオペラを歌える音大出身者にして、個々にはミュージカルの舞台でも活躍するLE VELVETS。まさにオペラとミュージカルの架け橋的存在とあって、この“歌合戦企画”には皆勤賞(今回は休養中の佐賀龍彦を除く3人での出演)。今回も両ジャンルの名曲を歌う予定となっており、どれも3人だとどんなハモリになるのか、予想がつかないだけに楽しみだ。また今回はソロもあり、わけても注目は佐藤隆紀の《彼を帰して》。佐藤のジャン・バルジャン役は、初登場だった2019年の時点でもう、『レミゼ』おたく的には「ありがとう!」と言いたくなる素晴らしさだったのだが、今年はさらに目を見張る成長を遂げていた。“シュガバル”をまだ体験していない向きには、ぜひとも聴いてほしい1曲だ。

宮原浩暢(LE VELVETS)
日野真一郎(LE VELVETS)
佐藤隆紀(LE VELVETS)

歌合戦企画はミュージカルフェスへの萌芽⁉
冒頭で、今回のコンサートが「スタクラフェスの火を消すつもりはないという意志表示」と書いたのは、単なる筆者の予想であり願望だ。実際に今後どうなっていくかは知る由もないが、ミュージカルやオペラの楽曲というのは、ただ美しいメロディーを声という楽器で奏でるのではなく、そこにドラマや感情が乗っかってくるもの。幅広い層に訴えかけるポテンシャルがあると信じているからこそ、野外で、気軽に聴ける機会があったらいいなと思う。
『スタクラフェス2019』開催の模様(「This is ミュージカル」撮影:石ヶ森三英)
『スタクラフェス2019』開催の様子(撮影:大橋祐希)
ミュージカルの本場であるブロードウェイやウエストエンドでは、野外で、気軽に、しかも無料で聴けるミュージカルコンサートがたびたび開催されている。その裏にはもちろん、向こうではミュージカルが観光の目玉の一つであり、またほとんどの演目がロングランである、という日本とは大きく異なる事情があり、一概に日本版を妄想することはできない。できないが、違う形ででも実現できたら、それはミュージカルがさらに普及する起爆剤となるのではないだろうか。その“違う形”の萌芽が、スタクラフェスの“歌合戦企画”にはある。
そんな大いなる妄想も抱きつつ、まずはBunkamuraオーチャードホールでの『オペラ・ミュージカル新春歌合戦』を、妄想とは別の次元で堪能したい。野外だと逆にあまり期待できないところとなる、室内ならではのオーケストラの響きもじっくりと味わいながら。
文=町田麻子

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