ミュージカル『The View Upstairs -
君と見た、あの日-』主演・平間壮一
インタビュー~「人の死はずっと残る
し、乗り越えることは絶対にできない
から」

1970年前後、同性愛が罪であったアメリカにおいて、ゲイバーは同性愛者達の“居場所”であった。“居場所”とは、安心できる場所そのものであり、安心できる場所であり続けてほしいと執着してしまう場所でもある。その誰かにとっての“居場所”に、ファッションデザイナーのウェスが約50年後の未来からタイムスリップしてきてしまう。
アメリカの同性愛者に対する大事件をもとにしたミュージカル『The View Upstairs -君と見た、あの日-』は、2017年にオフブロードウェイで初演後、全米、オーストラリア、ロンドンで上演され、ついに2022年2月に日本版初演を迎える。本作について、主人公のウェスを演じる平間壮一に話を聞いた。

■“日本版初演”ならではの舞台にしたい
──今作は、1973年にアメリカのゲイバーで起きた“アップステアーズ・ラウンジ放火事件”が題材になっています。実際に起きた事件を作品にすることについては、どのような思いでしょうか。
今回で言えば……『The View Upstairs』の絵を描いてインスタに投稿する時に少し立ち止まったということがありました。普段は誰かにチェックしてもらうことはないんです。でもその時は、絵を描いてみると「あれ、建物に火を描くことって良くないかも…」と思い、スタッフさんに投稿していいかと確認しました。やはり事件に直接関わった人が、今は少なくなってしまったとしても、ご家族など傷つかれた方もいるだろうなと想像したんです。ファンタジーの中では人の生死が係わることで感動が生まれたりもするけれど、実際にあった話はもっと繊細というか、大切に接しないといけない。自分もそうですが、人の死はずっと自分の中に残っているものだし、乗り越えることは絶対にできない。だからこそ「忘れずに生きることが大事だよね」と少しでも前向きに考えられるような舞台にできればいいなと思っています。
──日本版初演ですね。すでに海外で評価された作品を日本で上演する時に、心がけることはありますか?
やり方として、元々ある作品をすごく大事にして、まるでコピーのように作ることも大事だと思うんです。でも、やはりどうしたって、生きてきた文化やいろんな背景が違う人が作るし、観てくれる方もたぶん長く日本で生活している人が多い。だから元の設定やストーリーを守りながらも、日本で暮らす方々が共感できるように作れたらいいですね。
2021年6月の『The Last 5 Years』の時に、演出の小林(香)さんと「日本人が共感しやすいようにしていきたい」という話をしたんです。自分自身が演じる時に「外国人を演じている」とはあまり思っていなくて、一人の人間としてどう思うかを盛り込んでいくんです。そうすると、自然と日本の人が共感しやすいものになっていくんでしょうね。『The Last 5 Years』で言えば、男性側が強く主張する役作りも選択肢としてあったと思うのですが、本当は好きなのにすれ違ってしまった……という誰も悪く見えないような役作りにしてみました。「そこが壮ちゃんの良さでもあり、日本人が共感するところだよね」と共演者に言われて腑に落ちたので、今回も自然とそうなればいいですね。だって「海外の文化にはあんまり共感できないな」と思われるのはもったいないですから。まさに“日本版”という作品になれたら嬉しいです。
──感じ方や価値観は、環境によって違いますよね。今作では、平間さん演じるファッションデザイナーのウェスは、1973年にタイムスリップします。約50年前の過去が描かれる意味は何でしょう?
今は(同性愛者が)わりと受け入れられている時代に変化してきていますよね。過去の人達は今とは違った価値観で生きていたので、「人間って考え方ひとつでここまで変わるんだ」ということが伝わるといいなと思います。最近「ルールってよくわからない」と思うんです。マリファナの合法化が日本でも考えられているという話がありましたが、違法の時に手を出して捕まった人達がいる。国が「いいですよ」と決めたらその瞬間に合法になってしまうのかと思うと、正しいことと悪いことなんて一瞬の差のように感じます。本当に相手のことを思って、何が良いかを考えて行動しないとこうなってしまうんだよ、ということが、少しでも舞台から伝わるといいですね。
──50年も経つと、同じ国でもきっと価値観や考え方が異なるでしょうね。平間さんが価値観やルールが違う人と接する時に、気をつけていることや大事にしていることはありますか?
「嫌い」とか「嫌だ」とか「イラッとする」という感情って、他人がいないと生まれないじゃないですか。他人に何かを言われたからイラッとするわけで、一人で生きていたら感じない感情だと思うんです。でも、他人に対してネガティブな感情が出てきた時は、自分にも似ている部分があるんだろうなと。そう思うようになってから、とても人に優しくなれました。自分にも有る部分だからこそ、苛立ったり、むかついたりするんでしょうね。イラッとするな、というのは難しいので、嫌な気持ちになった時に「俺にもこういうところがあるんだろうな」と思うようになりました。それがマイ・ルールですね。

■一緒にバーに来た気持ちになってもらえれば
──出演が決まった時の心境は? 役柄についてどのように捉えましたか?
出演は嬉しかったのですが、男性を好きな男性という役は『RENT』のエンジェル(ドラァグクイーン)以来なので、その違いをどう演じようかなと考えました。嬉しさは一瞬で過ぎ去り、「気を引き締めなきゃ」という思いに替わりました。
──役を深めるにあたって大事にしていることは?
本来この業界では自分を持ってないといけないと思うのですが、自分のことはいったん置いて、人のやりたい事に合わせてみることも大事にしようと心掛けています。自分のプランはあったとしても、相手がやりたいことをまず優先的にやってみる。それでも違うと思ったら自分も意見を出せばいい。やはり舞台って一人ひとりが積み上げていかないと全然良くならないので、人のことをしっかり見るようにしています。
──なにかそう思うきっかけがあったのでしょうか。
自分がアンサンブルで、いつか役につきたいと思っていた時に、「俺らは役つきで、お前らはアンサンブルだから」と言われてすごく傷ついたことがあって……。だから自分が役についた時には、絶対に皆同じだというようにしたいと思いました。誰一人欠けることなくやらなきゃ舞台は意味がない。人のことを大事にしたい。それは舞台を始めた頃から思っていたかもしれない。でも、舞台を始める前は「有名になりたい」と自分のことばかりでしたね。舞台に出会ってから、変わりました。
──作品全体の印象はいかがですか?
音楽だけ聞くと、ポップでキャッチーで楽しめそう!とドキドキワクワクする、『ヘアスプレー』みたいなイメージが湧くんです。でも物語は本当にあった出来事だし、伝えないといけないメッセージ性がいっぱいあるんだなと感じています。
──音楽がとくに印象的だったんですね。
めちゃくちゃ思いました。でも出ているキャストがそれほど多くないので、少人数がひとつになって生み出す楽しさがあると思います。だから観客の方が「バーに一緒に来てみたらこんな人達がいた」といった感覚になってくれたらいいですね。
──平間さんが歌う楽曲についてはどうですか?
音楽は本当に難しそうでした。でも、生きていれば(音楽の方が自分に)ついてくるのだと。というのも、最近の『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』や『The Last 5 Years』の経験がなければ自分の心がもたなかっただろうと思います。『IN THE HEIGHTS』で大きい舞台の主演の大変さも乗り越え、『The Last 5 Years』で歌だけで上演し、自分にとって限界だと思うほどキーが高くて音楽が難しいところを乗り越えて音域があがって……その経験があったから、今回はビビらずできそうだなという気がしています。

■この舞台は、「自分は大人だ」と自覚する一歩になる
──平間さん演じるウェスと恋をするパトリック役は、同じ事務所の小関裕太さんですね。
一緒にパンフレットを撮影した時に「力入ってるな~」って思いました。たぶん、男性とそこまで絡み合うこと自体が初めてだったと思うので、身体が緊張したんでしょうね。壁を無理やり壊すかのように、俺をグワ~ッと抱き寄せて、ちょっと痛いくらい力が入っていました。もしかしたら、「大丈夫かな、男性を好きになれるのかな」というような、自分が初めてエンジェルをやった時の感覚になっていたのかもしれないです。男の人を好きにならなきゃいけないんだ、と考えていると構えちゃうと思うので、自分自身が男も女もなくて人間だよね、となれるように二人で作っていきたいです。
──演出の市川洋二郎さんに会われていかがでしたか?
最初に一度だけ「声を聞かせてほしい」ということでボイストレーニングをしたんです。声の出し方について、日本ではあまりやった事のないツボ押しマッサージのような方法で発声しました。指の一本分くらいのピンポイントで「あ、ここに力が入ってるね」と。力抜くことが大事なんだと思って頑張ります。
──今作出演にあたって平間さんにとっての挑戦は?
「自分は大人だ」と自覚する一歩になる舞台だと思っています。周りのキャストの皆さんは大人で、自分が10代の頃、芝居をやる前から知っていてくれているSHUN(大村俊介)さんがいたり、昔に出演させていただいたDIAMOND☆DOGSのリーダー(東山義久)とも初めて共演する機会となります。だから、若い時にやってきたことから、ちゃんと「大人だよ」という切り替わりができる舞台になりそうです。緊張しますね。大人ぶろうとは思っていないのですが、無邪気にツッコミながら、先輩にビビらずやりたいですね。
──舞台となるアップステアーズ・ラウンジは、同性愛者の人々にとって“居場所”です。平間さんにとっての居場所は?
それがないからしんどいのだろうなと思いました。いろんな居場所を探し求めている人達のことを演じないといけない仕事なので、ふと平間壮一に戻ったときに、平間壮一自身はあまり積みあがっていないんじゃないかという不安に陥るんですよね。役のことは積み上げていくけど、それは1~2か月で終わって、ふと戻ってきた時に「あれ、この2か月何もしていなかった」とすごく不安になったりする。だから他人から言ってもらう「良かったよ」「こういうところが変わったね」というような、自分自身が「ちゃんとやってきたんだ」と思える人と会った時に、「あっ、居場所があった」と思うかもしれません。1人でいたら不安ですね。
──だからこそ“居場所”が必要なのでしょうね。その“居場所”である今作によって伝えたいことや、どんな舞台になったらいいかの願いなどはありますか?
最近すごく思うのは、1990年生まれって中途半端な世代だなと思うんです。すごく若い子達はあまり物事を気にせずに自分のやりたいことを進めていて、先輩達はそのさらに前の先輩達が培ってきた礼儀やルールを大事にしている。自分達はその狭間にいる世代。ちょっと前だとこうだったのに、ちょっと後だとこっちが流行っているんだとか、どちらも行けないなと感じることが多い。でも、何かに手を出すのに遅いも早いもないよ、ということが伝わるといいですね。いくら年を取ろうがやりたいことやればいい。でもその中で、忘れちゃいけない人の温かみがある。その両方を持ち合わせられるのも自分達の世代。そういう方々に、何か動き出すための力になるような舞台にしたい。そして世代だけに限らず、悩んで動き出せていない人が観ると、勇気を出せるような舞台にできたらいいなと思います。
──そんな舞台にしたいという思いは、平間さん自身も作品から力や勇気をもらったからでしょうか?
海外の作品を観ると、まず自信が違うなと思うんですよ、海外の俳優って、一曲まるまる立った姿勢のまま動かずに歌ったとしても説得力や自信で埋まる。それは歌唱力の問題じゃない。でも日本人は動きすぎる。それは、自分達の自信があまり大きくないから、もっと動いて自信があるように見せる演出をつけてもらっているんじゃないかと。難しいですね……「人のために動きたい」とか「自分ばかりにならないように」という思いも持ちながら、すごく自信を持たないと埋められない。だから、海外の作品を観た時に自分が「やろう!」と勇気が出たように、自分自身も意思の強さを見せられたらいいなと思っています。
取材・文=河野桃子

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