女ヤクザ細木数子:ロマン優光連載19
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そのことについて、島田紳助氏と並べて考える人もいるのだけど、その二つはなんだか違うような気がする。島田氏というのは芸能の世界で人気を得ていく過程の中で、あちらの世界と密接な関係を持つようになり深入りしてしまった人である。島田氏の例に限らず、同じ漫才コンビ内でも、一人があちら側と親しく付き合い、その力をバックに社内で権力を持ち、もう一人は賭場に出入りし博打で借金まみれというように、芸能人とあちら側との付き合いといっても色々あるわけだが、 彼女の場合は、あちら側の世界と密接に関わりがあった人間がそこと距離をとりつつ占いを使った虚業をはじめ、それでもって財をなしたという例だ。あちら側にいた人が業界の裏側に入り込んだり、占いビジネスで成功するなどの過程を経て、表でスターになった例である。00年代の中でも特異な存在だったと思う。
私が細木氏を最初に認識したのは、うさんくさい占い広告の写真にうつっている人としてであった。それが気づいたら、テレビで芸人に対して高圧的な態度で適当なことを言ってる、何だか知らないけど偉そうな人になっていた。言ってることにも感心しないし、態度が偉そうで不快でしかないし、何でテレビに出ているのかも謎。そんな存在である。
当時は、溝口敦氏のルポタージュ『魔女の履歴書』に書かれているようなことはまだ知らなかったわけだが、占いビジネスに対する批判はスピリチュアル業界好き(スピリチュアルが好きな人ではなく、スピリチュアル業界の話が好きな人)で詳しい人から聞いていたりはしたが。
過去の反社会勢力との関係。島倉千代子氏に対する搾取と見なされる行為。オカルトビジネスの手法。どれをとっても、今の時代ではあのような形でスターになれるわけがない要素ばかりではあるが、それとは別にあのようなキャラクターが人気を博していたことが当時から不思議でならなかった。普通、あんな高圧的でめちゃくちゃなことを言って自分を従わせようとする人に日常で会うことがあったら絶対嫌でしょう?
そうはいっても、力強く断言してくれる人が好きな層はいつでもいるわけで、歯に衣を着せない毒舌でスカっとさせてくれる存在としてニーズがあったのだろう。訃報直後とは思えないくらい、SNS上では悪い話が飛び交ういっぽうで「好きでした」という人も多くいる。細木氏の詳しい履歴は知らず、テレビの印象だけで語っているのだろうけど、そもそもテレビ上の振るまいを好意的に受け入れていた人がそんなに多いことに改めて驚いた。だいたい、細木氏が偉い立場で番組に出てくることに「この人は何の根拠でこんなに偉そうなのか?」という疑問がうかんだりしなかったのだろうか。まあ、そういうことを言うと、「テレビをそこまで真面目に見ている人はいない」ということを言われるわけだが、確かにその通りではある。
番組をつくる側もそれくらいの感覚でつくっていたのだろうけど、テレビを通して細木氏を知って占いの信奉者になり、お金を落とすようになった人もいるわけで、ああいうオカルト的に脅して人の心の隙間に入り込むようなビジネスのやり方はたちのいいものとはいえないだろう。単純に心霊話を真偽を別にして楽しむようなものと、占いや宗教的な信奉を求めるものは、スピリチュアル・オカルトといっても違うものなわけで、スピリチュアル・オカルト的なものを全否定しろとは思わないが、メディアが人の欲や心の弱味につけこむかのような信奉者ビジネスを利するような取り上げ方をするのはやはりよくないことだと思う。
スピリチュアル・オカルト的なものに対してはテレビメディアが取り上げることは現在は減ってはいるし、社会全般的に昔よりは風当たりが強くなっている。ただ、ネットを媒介としたインフルエンサー・ビジネスというものも、ライトな感じになっているけれども、同じような構造になっていたりもするわけで、強い言葉を使って断言する人間に弱い人たちがいて、その人たちの欲や心の隙間につけこんでいくタイプのビジネスというのはなくならないものだろう。
母が売春宿を経営していたことから、そこで働く女性たちの管理に幼い頃から携わっていたという細木氏。そういう環境で育っていくことで、飴と鞭を使って他人を搾取していく生き方を自然と選んでしまったのかもしれないなとも思う。また、働かされている女性からしたら細木氏は加害者だが、同時に親の教育の被害者でもある。子供は親を選べないし、親の仕事も選べない。自分たちだって、家の仕事が売春宿だったら自然と手伝わされていたかもしれないし、そうであった時に彼女のようにならないとは誰もいえないだろう。まあ、実際には彼女のような強靭な精神の持ち主はあまりいないわけで、あそこまで行く前に他の誰かの餌になってしまうだろうけど。そう考えていくと、彼女のバイタリティーとエネルギーはやはり並外れたものがあり、戦後の混乱期から生まれた怪物的な存在であったのは間違いなく、あのタイプの人は自分が生きている間には見かけることはもうないのだろうなと思う。これからの日本社会がむかえていくであろう新たな混乱の時代には、どのような新しい怪物が生まれるのであろうか。
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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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