ペプシのCMで大ブレイク ザ・へヴィ
ーが“歌を聴かせること”の重要性を
語る

動画はこちら

 CMスタート同時に鳴り出す、ズン、チャ、ズンズン、チャの懐かしいリズム。ヴィンテージ感ある音触りと共にいなたいメロディが響きだし、しゃがれたハイトーンボーカルで、ソウル剥き出しで迫ってくるブルージーなロック。CMで使用されている楽曲「Same Ol'」は、UKの4人組バンド、ザ・へヴィーのサード・アルバム『The Glorious Dead』(2012年)に収録された楽曲だ。同曲が昔話を再構築した同CMの世界観に“ハマる”という以上に、文字テロップで物語が綴られる無声仕様になっていることを考えれば、果たしている役割は非常に大きい。

 ザ・へヴィ―がこのCMに抜擢されたのは、単に「Same Ol'」のサウンドがCMの世界観に合致したという理由以上の必然性が存在する。いま日本から注目を集めている、このバンドの物語をご紹介したい。

 UKの南部に位置する街、バースで、フロントマンであるスワビーとギタリストであるダン・テイラーを中心にザ・へヴィ―は結成された。もともと2人はアルバイト先の職場が一緒だったこともあり、音楽や映画の話を通じて意気投合。セッションやライブ活動を続けているうちに現在のメンバーとなっていった。その後、07年にデビュー・アルバム『Great Vengeance and Furious Fire』のリリースにたどり着き、“カーティス・メイフィールドとレッド・ツェッペリンがセッションしたかのよう”と称され、一躍大きな注目を集めた。

 09年にリリースされたセカンド・アルバム『The House That Dirt Built』は本国UK のみならずUSでもヒットを放ち、全米の一大行事であるNFLのドラフトのキャンペーンCM(2013年)で、50セントとザ・ヘヴィーがコラボするなど、15万枚以上のセールスを記録した。

 「Same Ol'」でも顕著だが、彼らの特徴は60~70年代のソウルやブルース、ロックが色濃く反映されたとにかく“重く、太く、強い”サウンドだ。スワビーはこう語る。

「両親がジャマイカ移民だったこともあってレゲエは子供の頃からよく聴いていたんだ。ほかにもファンク、ロック、ヒップホップ、ブルース……とにかく古い音楽はなんでも聴いてきたけど、特にソニックス(60年代に活躍し、いまでもカルト的な人気を誇るロックバンド)は最高だね。古くて、ダーティで最低なロックンロールやいままでスポットライトを浴びてこなかった音楽、そういうものを聴いてきた。でも、俺らは何かひとつの音楽をやろうとしているんじゃない。イギリスは音楽的にオープンな国で、ジミ・ヘンドリックス、ボブ・マーリー……レーベルでいえばモータウンもそうだし、いろいろな音楽を取り入れてきた。その10年後、20年後、30年後の俺たちがやっているのは、そういった音楽をフュージョンさせて、新しいものを作ることなんだ」

「昔の音楽からインスピレーションを受けて、新しい音楽を作る」。これは音楽誌では見飽きた常套句ではあるが、ザ・へヴィーほどこの言葉を体現できているバンドは稀有だ。実際にCMで初めてそのサウンドに触れた視聴者は、00年代に生まれた楽曲だとは思わなかったのではないだろうか。60~70年代のソウル~ロックのフレイヴァーがこれでもかと凝縮されてはいるが、それだけではただ単にノスタルジーや再評価に終始してしまう。ザ・へヴィーのサウンドに新鮮さを感じるのは、CMでグッと引き込まれたように、現代的なアプローチが随所に施されていることと、スワビーの歌声だろう。

「俺らの音楽は発明みたいなもんさ。先に生演奏で曲を作って、あとから古い音楽のサンプリングを加えたりもする。そういった手法はヒップホップ的だともいえるし、エレクトロニック・ミュージックともいえる。そして、いまの音楽界に足りないものがあるとしたら、それは“歌を歌って聴かせる”ってことだ。いかにクールに見せようと努力ばかりしているけど、結局いい曲か、悪い曲かってだけなんだから。昔のブルースマンなんてさ、ギターと声だけで曲をちゃんと伝えられていたんだから」 

 この点は、ペプシネックスゼロのCMの昔話のアップデートにも共通する。彼らはその後、09年にリリースしたセカンド『The House That Dirt Built』では、カサビアンやアークティック・モンキーズなどを手掛けた名プロデューサー、ジム・アビスを迎えていたが、最新作の『The Glorious Dead』はセルフプロデュースとなった。その理由をスワビーは「クリーンになりすぎたから」と発言しているが、小ぎれいにまとまってたサウンドではなく、荒々しくも人間の根源を揺さぶるようなサウンドを追求したからだろうか。事実、「Same Ol'」に代表されるように、同作は野武士のような誇り高い孤独さと探究心、そして一刀両断する音楽の根源的なパワーにあふれている。奇しくも、ペプシネックスゼロのCM第2弾では宮本武蔵が登場したが、ザ・へヴィーの音楽的なイメージはちょうどあの感じに近いかもしれない。

「俺らはトレンドなんて追っていない。“放っておいてくれよ”ってのがスタイルさ」

 商業的な音楽ではなく、流行に左右されるわけでもなく、問答無用に人の心を揺さぶるサウンドの追求は、こんなにも逞しく、力強い。

 今年7月末に開催される『FUJI ROCK FESTIVAL '14』の2日目のグリーンステージにも出演が決定したザ・へヴィー。ぜひ、生でそのサウンドに触れてみてほしい。(中西英雄)

アーティスト

タグ

リアルサウンド

新着