【西片梨帆 インタビュー】
自分が愛情を持てる作品が
できたということが嬉しい
私の中にもその人たちがいて、
その人たちの中にも私が入っている
制作で大変だった曲は?
「白昼夢」ですね。2年ぐらい前からライヴで歌ってきた曲で、時が経てば経つほど大切になっていくので、改めてアレンジする時に、どう変化させたら今までライヴで聴いてくれた人たちもこれから聴く人たちにも気に入ってもらえるのかと思って、テンポ感やサウンドの方向性をじっくりと考えたから、4回ぐらい紆余曲折がありました。最終的にドリーミーな感じに落ち着いたんですが、バンドメンバーの方が毎回スタジオに入ってつき合ってくれました。
歌詞とメロディーと同時に作っていた西片さんが、歌詞に共鳴するサウンドを作ってみたいと思って制作したリーディングの「水槽の脳」も印象深いです。
このアルバムの中で、ひとつは自分の声を入れたいと思っていたので。ライヴの時に一曲一曲終っていくというより、舞台空間を作るみたいにMCも含めてひとつの物語を作っていて、これまでもライヴで自分の声を録音したものを会場で流していたんです。前回の単独公演の時に「水槽の脳」の冒頭だけちょっと流したんですけど、そのことをずっと覚えていて。
あと、“ひとりのひと”をきっかけに曲を書いている西片さんにとって、ラストの「桜上水で」は自分自身に問いかけているのかなと思ったのですが。
“自分自身に問いかける”というのは本当にそのとおりで、問いかけるように曲を作るということもあります。でも、“ひとりのひと”のことを歌うことと、自分に問いかけることって、私の中で一緒な気がしているんです。その人の中に私を見つけたり、その人の中にあった私にないものを私の一部にしたいと思ったりするので、それをすごく大切に思ったんだろうなって。だから、“ひとりのひと”のことを歌うっていうのは、私の中にもその人たちがいて、その人たちの中にも私が入っている…そんなふうにつながっている感じだと思っています。
アルバム制作を経て再確認した自分らしさや新たなに感じた自分の変化についてはいかがですか?
私、すごく考え方がネガティブなんですね。基本的に何をやるにしても最初に最悪なパターンを考えて、それを回避するためにはどうしたらいいかも考えるタイプなんです。ずっとそういう自分が嫌だと思ってはいたんですけど、そういう自分があってこその私の歌でもあるし、無理に変えられるものでもないし。でも、これまでの自分になかった曲を作ってみたり、単純に自分のやりたいことをやってみたりした結果、やっぱり楽しくて。ネガティブだっていうことは変わらないんですけど(笑)、その中でひとつの光を見つけ出すかのように、ちょっと前向きになれている自分がいて。程良く人に期待しながらも裏切られたり、“やっぱりダメだわ”と思ったりして、いちいち悩んだとしても“別にいいじゃん!”と思うようになりました。それは祖父の死のことがあったからこそ、そういうこともあとから考えたら“まぁ、いっか”と思えるというか…ネガティブな中で見つけた前向きさみたいなもので、それまであまりにもたくさん持っていた荷物をひとつずつ下ろせたのかなと思っています。“私の音楽はこうじゃなきゃいけない”と思っていたことを思うのをやめたことで、自分の考え方が広がりましたね。
では、改めてアルバム制作を経て感じることは?
今まで作った作品の中で一番満足のいく、本当に聴いてほしいと思えるものになりました。バンドメンバーやトラックメイカーの方々と一個一個、すごく丁寧にサウンドを作ったし。それは私自身がやりたかったことなので。もしかしたら昔から聴いてくれている人は“こういう新しい感じなんだね”と思うかもしれないですけど、きっと好きになってくれるっていう自信も…少しあって(笑)。すごく愛情のある作品になりました。愛情っていらない人からしたら本当にいらないものだと知っているんですけど、そんな愛情を与えることができる、自分が愛情を持てる作品ができたということが嬉しいです。
取材:齊藤 恵