Nothing’s Carved In Stoneが、探求
し夢想する者へ捧ぐ最新作「Wondere
r」のツアーでみせた姿

Wonderer Tour(DAY2) 2021.6.23
つくづく魅力的なバンドだ。ここ1年ほどの彼らの活動を通し、その思いを一層強くしている。
いま以上に社会情勢も音楽シーンも先々の見通しが不透明であった昨夏、SPICEが行なったインタビューでNothing’ s Carved In Stoneの展望について、
「世の中がどうなろうと、真っ直ぐ前を向いていこう、前向きにやろうと確認しあいました。ライブハウスもどんどん押さえているし、それでその日が来て、ライブができなかったら、それはしょうがない。また先を押さえようっていうやり方でやっていこうと決めました」
と語ってくれた生形真一(Gt)。以降、彼らはその言葉を実際の活動でもって証明していった。
配信スタジオライブに始まりオンラインフェスへも出演、久々の有観客開催となった毎年恒例の『Live on November 15th』を経て、年末には無料配信ライブ、今年に入ってからは『PARALLEL LIVES』の再現を盛り込んだスペシャルライブと、観客の有無を問わず精力的にライブを開催。村松拓(Vo/Gt)がストリングスと共演する新境地のライブもあった。それだけでなく、「NEW HORIZON」「Dream in the Dark」「Bloom in the Rain」「Wonderer」と、新曲も次々にドロップしており、合間にはセルフカバー・ベストアルバム『Futures』のリリースもあった。
旧来のやり方に固執することなく、ほとんど停滞を感じさせない活動を続けていたように映る彼らだが、決して無謀に突っ走ったりはせず冷静に情勢と向き合いつつ判断を重ね、その時点でできる最適で最大限の内容を、過度にドラマ性で彩られたりすることのないごく自然な形で提示してくれていたように思う。その姿は、コロナ禍でのサバイブを余儀なくされたロックバンドの在り方として理想的に映った。この日、最新デジタルシングルのリリースツアー『Wonderer Tour』ファイナルがそうであったように。
オープニングナンバーは「Like a Shooting Star」。激しいビートとともに照明が明滅するイントロから、音数を絞りった平歌部でも各楽器が絡み合い、ダンサブルなグルーヴを生む。間髪入れずに突入したドライブ感たっぷりの「Bloom in the Rain」は年初にリリースされた新曲だが、まるで以前からの定番曲かのようにガッチリ嵌まっており、観客たちの反応も上々だ。「In Future」では村松がハンドマイクを手にフロアの至る所へ視線を投げかけ、指差しながら歌う。という冒頭の3曲に顕著だったのが、Nothing’ s Carved In Stoneには曲展開によって陰から陽への反転、あるいは抑圧や混沌からの開放を感じさせるような曲が多い点。時代柄もあってか、これまで以上に強く感情を揺さぶられ気持ちが昂ぶっていく。
日向秀和(Ba)のスラップベースと大喜多崇規(Dr)の刻む4つ打ちビートがループする中を生形のスペーシーに歪ませたギターが唸りを上げ、人力テクノのニュアンスも感じさせた「Bog」や、不協和音のギターリフと急き立てるような大喜多のスネア連打が代名詞の「Rendaman」といったクールよりの楽曲があるかと思えば、「踊りませんか、六本木!」と村松が笑顔をのぞかせた「Brotherhood」はポップでピースフルな装いだし、変拍子の「Hand In Hand」のような複雑でテクニカルな曲もある。ライブ前半を観ているだけでも彼らのアプローチの幅が実に広く、あらゆる要素を自らの音楽性に取り入れてきたことがわかる。
その中で、最新曲の「Wonderer」はまたひとつ彼らの新境地を切り拓いた曲と言える。グルーヴィで踊れるサウンドであると同時に、シンセポップ然としたシーケンスとも違和感なく調和しており、こんな時期でもなければフロアとの掛け合いもできそうなサビのアンセム感もある。このロックとダンスとエレクトロとポップス……その他諸々のハイブリッドは、彼らのサウンドの最新到達点と言えるだろう。“タイトルには「何にでも興味を持つとかいろんなことを探求していく人」みたいな意味があって、こんなニッチでマニアックなバンドを見つけてくれたみなさんの精神や心意気のことを思いながら書いた曲だ”という意の村松の説明があったが、その言葉をそのままお返ししたくなるほど、Nothing’ s Carved In Stoneは新たな探究心に満ちたバンドだ。
前後に短めのSEを挟むことで一層の没入感とともに届けたのは「Mirror Ocean」。生形がスライドバーを用いて金属的で哭くようなギターサウンドを響かせるこの曲は、ミステリアスさや物悲しさを纏いつつも力強く推進していく。続く「Milestone」は、アルペジオとスラップが変則的にやりあう上にメロディアスな歌が乗るという、ギリギリのラインで成立するアンサンブルがたまらない。彼らのライブ随一の一体感を生む「きらめきの花」で、一斉に掲げられたオーディエンスの腕が左右に揺れる頃にはもう終盤。そこからはもう怒涛の展開だった。
「Spirit Inspiration」では跳ねたリズムにキレキレのカッティング、動き回るベースラインでひっきりなしに攻め立て、それらを一身に背負った村松が雄々しく歌い上げる。ほとんど曲感を開けずに「Beginning」、さらに「Out of Control」へと不動のライブチューンを惜しみなく連打してく展開に、脳内ではモッシュ&ダイヴの嵐。トドメとばかりにステージではCO2がバンバン打ち上がる。
決めたことややろうとしてたことがどんどん流されて、けっして思うようにはいかなかった、それでも続けてきてよかったと思えた、自分たちの曲に救われた——。そんな風にこの1年ちょっとの間を振り返った村松。無かったはずがない苦悩の数々は特段表に出さず、活動を途切らせずに進んできた彼らは頼もしく、そして強い。本編最後の「Dream in the Dark」の、各楽器が順々にフレーズを重ねていくサウンドとあたたかなメロディ、歌詞に込められた地に足のついたポジティヴィティ、それらひとつひとつが染み渡っていく。
アンコールでは、この日のセトリで唯一と言っていいミドルバラード調ナンバー「BLUE SHADOW」をしっとりと、けれど弛まず高らかに歌い鳴らしたあとは、2年ぶり4度目の日比谷野音ワンマン開催を発表。新曲も作っているという嬉しい報告も届けてから、「また必ず会いましょう」との言葉とともに未だ歓喜のやまない場内へ向けて「November 15th」を気迫の演奏で叩きつけ、ステージを後にした。
「Wonderer」にはもうひとつ、“ドリーマー”という意味も込めた、と村松は言っていた。何かに興味を持って探求していくこと、何かを夢想するということ。音楽に限った話ではない、楽しさや喜びはいつだってそうやって出来ていくものじゃないか。何かと思い通りにいかない昨今、ともすれば見失いがちな大切なことを、確かに受け取ることのできたライブだった。

取材・文=風間大洋 撮影=Ryotaro Kawashima

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