夏子「ミユキの心の変化を丁寧に演じ
たい」~『東京ゴッドファーザーズ』
インタビュー

今敏監督のアニメーション映画「東京ゴッドファーザーズ」が舞台化される。東京の街に生きる3人のホームレスが、捨てられた赤ん坊を拾って育んでいく物語で、アニメーションでは、東京の風景や乗り物から人々の生活描写までさまざまなディテールの再現性の高さや、人間が演じる以上にキャラクターの動作や表情がリアルに見える。その優れたアニメーションの力に生身の俳優がどう拮抗できるだろうか。高校生のミユキ役を演じるのは、昨年(2020年)、野田秀樹作、演出の『赤鬼』で才能を煌めかせた夏子。「稽古がとても楽しい。毎日稽古場に行くのにスキップして行くくらい(笑)」と充実感を語る。取材の日は、雨予報だったが彼女が撮影で外に出ると太陽が雲からのぞいた。なにやら持っていそうな夏子がこの舞台に何をもたらすだろうか。
ーー原作のアニメーションはご覧になっていますか。
今敏監督のアニメーションは公開当初(2003年)はまだ小学生にもなっていないくらいだったのでリアルタイムでは見ていませんでした。それが2年くらい前、映画を紹介するラジオ番組をやらせていただいて、その中の“クリスマス映画特集”で、『東京ゴッドファーザーズ』を紹介することになりました。それをきっかけに拝見したらすごく面白くて。タイトルから想像するとイタリア系マフィアを描いた『ゴッドファーザー』がまず思い浮かびましたが、内容は全く違い、とてもあったかくてほっこりする物語でした。いわゆる日本のアニメーションのイメージも覆す独特の世界観に惹かれて、今監督のほかの作品も全て見たほどハマりました。
ーー今回、時代がアニメの公開された2003年から2020年の現代に置き換えられたそうですが、その違いを教えてください。
コロナをはじめとして現在の社会を反映させた作品になりました。令和のいま、実際に起こっていることをところどころ感じさせるようになっています。登場人物は皆、ホームレスですが、当時のホームレスといまのホームレスの生活や生き方もまるで違って描かれていると思います。
夏子
ーーご自身の役ミユキをどういうふうに捉えて演じていますか。
高校生のミユキは家族との複雑な事情から家出してホームレスになり、そこで出会ったハナさんとギンさんと疑似家族になっていきます。彼らは皆、それぞれ心に引っかかる過去を持ち、悩みを抱えて生きていますが、最後には過去を清算して未来に進んでいくんです。そのなかでミユキは最も若く成長率が高い人物として表現したいと思っています。最初は、反抗期で口が悪いミユキがだんだん変わって最後にはひと回り大きくなって見えたらいいなと。そのためにも、ミユキのバックボーンや表に出てこない感情をしっかり理解したうえで丁寧に心の変化を演じたいです。家に帰ってもずっとミユキのことを考えています。
ーーアニメで描いたものと演劇の見せ方も違うそうですが、どんな感じになるのでしょうか。
原作を知っている方からしたら、実写化不可能と思うような作品なんですね。今さんの作品はすべてにおいてそうですが、『東京ゴッドファーザーズ』もたぶんとても難しいと思うんです。それを実写化――それも映像でなく、演劇でやることはものすごくハードルが高いことで。でも演出家の藤田俊太郎さんの演出がすばらしくて、見せ方はアニメーションとは違いますが、物語の本質が浮き上がってきます。藤田さんは“引き算”のお芝居であるとおっしゃっています。原作では微細に描き込まれているところを、演劇ではあえて小道具や背景を少なくして、俳優の動きで見せるんです。例えば、車に乗るシーンも車が出てこなくても本当に乗っているように見えてくるんです。やっている側も驚きでいっぱいです。
ーー何もない空間で俳優の身体で見せるといえば、昨年、夏子さんが出演された『赤鬼』もそうでしたね。
そうです、考え方としては似ていると思います。
ーー『赤鬼』の経験が今回、生かされていますか。
もちろんです。『赤鬼』のときの反省があって、早く舞台に立ちたいと思っていたとろ、今回の舞台に挑めたので、すごく前向きにいろいろ反省点を生かしながら、稽古ができています。
ーーどんな反省がありましたか。
『赤鬼』では舞台が四方から見られる設計だったので、どこから見られても、伝わる身体表現や声の出し方を学ばないといけないと感じました。とくに背中を意識するようになりました。今回も客席が対面式になっていて、両面から見られるので、『赤鬼』での学びが生かされるのではないかと思っています。
夏子
ーー物語のキーとなる赤ちゃんはホンモノではないですよね?
赤ちゃんはお人形です。でもみんなが抱くことで命が宿るのでそこは大切に扱っています。ギンさん役のマキタスポーツさんには実生活でお子さんが4人いらっしゃるので、赤ちゃんを抱く手付きが慣れていて、お人形がほんとうに生きているのかなって思うほどで、お手本にしています。ほんとうのお父さんみたいに見えるんです。
ーー赤ちゃんを抱くとき何が大事ですか。
親戚や友達の赤ちゃんを抱かせてもらったことを思い出すと、首が座ってないのでガクリと後ろにいかないように大事に扱うことでしょうか。命をこの手に抱えると思うと緊張しますね。その感覚をお人形でももっていたいと思っています。
ーー命の大切さの象徴になりますね。
そうなんです。赤ちゃんの小さな新しい命が、みんなが前を向いて生きていくきっかけになります。やっぱり赤ちゃんのエネルギーは偉大ですね。
ーー藤田さんは今、注目の演出家です。彼の演出の魅力を教えてください。
まずお人柄がほんとうにすばらしいんです。藤田さんの醸し出す空気によって、稽古場がいい雰囲気で柔和に円滑に進んでいくし、技術的な面でもみんなでしっかり本読みをして、同じ情報を共有して一緒に同じ方向を向いていこうと導いてくださっています。
ーー共演の松岡昌宏さん(ハナ役)とマキタスポーツさん(ギン役)の印象も教えてください。
おふたりともとても気さくな方々で、稽古場で楽しく過ごすことができて、ありがたいです。はじめて稽古場に入ってきた瞬間、ああ、ハナさんとギンさんだって思うくらいふたりが役とピタッと合っていて、稽古以外の時間も、なんの違和感もなく、ハナさんとギンさんに接しているような気持ちでお話しています。
ーー夏子さんもふだんからミユキになっているのですか?
それは自分ではわかりかねますが……(笑)。オフはオフとして切り替えているつもりですが、実際切り替えられているかは自分ではわからないですね(笑)。
夏子
ーー稽古場はとてもいい雰囲気で進行しているのですね。
キャストの皆さんもスタッフの皆さんも仲良くて、とても柔らかい空気が出来上がっています。ファンタジーとコメディが混ざった作品をやるうえでふさわしい空気感になっていると思います。
ーー舞台表現を行うために意識的に取り組んでいることはありますか。
普段から、肺活量を増やすために走ったりキックボクシングをしています。
ーーコロナ禍、稽古や本番を行う思いはいかがでしょうか。
月並みながら、稽古や本番ができることが当たり前ではないことを感じています。以前は当たり前に思っていた稽古ができること、本番の幕が開くこと、千穐楽を迎えること……そのどれもが“奇跡”とまで言うと大げさかもしれないですが、そう思えるほどで、一日、一日、感謝して稽古に参加しています。感謝といえば、スタッフの方々の仕事は倍以上に増えていて、そのご苦労もありがたいです。休憩中に消毒をしてくださったり、消毒のために朝早く来てくださったり、その姿を目の当たりにすると改めて自分もしっかりして、その行為に報いる仕事をしなくちゃいけないと思います。
ーーニューノーマルと言われる生活には少しは慣れましたか。
いえ、慣れないですね。稽古に関して言えば、稽古で共演者の顔を見て芝居することがなくなって、マスクを外したときに意外な表情におおっと驚くことが多いです(笑)。
ーーマスク生活で発見した前向きなことはありますか。
マスクしていてよかったことではないのですが、ひとり言が多くなった気がします。マスクで顔を隠しているから、逆に感情を素直に顔に出したり、聞こえないからと油断してつい心で思ったことも言葉にしたりしてしまうんです。外を歩きながら、表情筋を舞台仕様で動かしながらセリフを言っていることもあって、傍からはへんな人だと思われているかもしれません(笑)。現代に時代を置き換えた『東京ゴッドファーザーズ』にもコロナを感じさせる表現がありますが、登場人物たちは決してそれを不幸と思って後ろ向きになることなく、前に進んでいきます。コロナをはじめとして、生きていくうえで様々な困難がある時代、それを楽しいと思っている人はあまりいないでしょうけれど、物語のなかで懸命に生きている人たちを見て、観に来てくださるお客さんも前向きに楽しい気持ちになっていただけたら嬉しいです。
取材・文=木俣冬  撮影=池上夢貢

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