なきごと、岡田安未が語る『黄昏STA
RSHIP』ーー最新作へ自信と、相方で
あるボーカル水上への揺るぎない信頼
「全部レベルアップしたなと思います

「全部レベルアップできた作品です」。なきごとが4月7日にリリースする3rdミニアルバム『黄昏STARSHIP』という作品について、ギターの岡田安未は力強く手応えを語った。その言葉のとおり、今作に収録されている全7曲は、メロディの訴求力、力強さが増した歌詞のメッセージ、緻密なアレンジや多彩なギタープレイなど、あらゆる点でバンドが進化していることを物語る1枚だ。今回、SPICEでは、そんな発展途上の真っ只中にいるなきごとのボーカル水上えみりと、ギターの岡田にソロインタビューをおこない、それぞれの視点から『黄昏STARSHIP』という作品を紐解いてもらった。第一弾は、岡田編。初のソロインタビューに少し緊張気味だったが、その言葉の節々からは、最新作へ自信と、相方であるボーカル水上への揺るぎない信頼が伝わってきた。
――取材の直前に「知らない惑星」のミュージックビデオを一足先に見させてもらったんですけど、面白いですね。次々に場面が切り替わるから、何度も見返したくなるし。
今回のテーマがパラレルワールドなんですよ。だから「if」の世界を映像に落とし込んだ感じです。私がお寿司を握ってるのとか、本当に面白いですよね(笑)。
――昔、お寿司屋さんでバイトしてたそうですね?
そうなんです。豊洲の有名なところで。ホールでのアルバイトだったので、握るのは初めてでした。
――女子高生の制服を着たのも久々でしょう?
あれは恥ずかしかったです(笑)。いままでのMVでは衣装を着替えたり、ロケーションを移動することがなかったので、今回は新鮮というか。「撮影だ!」という感じで楽しかったですね。
――ミュージックビデオの監督は番場秀一さんだそうですけど。
スゴい方に撮ってもらっちゃいました(笑)。監督は「変なことを表現したい」とか、「おかしいMVにしたい」というようなことを言ってくれたんです。それがうれしかったんですよね。ちゃんと自分たちに向き合って、どういう絵をつけようか考えてくれてるのが伝わってきたので。
――バンドとしてのかっこよさだけじゃなくて、なきごとの音楽のなかにあるファニーな部分をちゃんとキャッチしてくれてる感じもしますね。
そう、ちょっとクセがあるという。おこがましいですけど、番場さんもクセのある人だから、なきごとと合うなと思いました。なんて言うのかな……いつもは自分たち=なきごとを撮ってもらってるという感じなんですけど、今回はなきごとだけど、なきごとじゃない人物を撮られてるイメージがあって。
――要するに、なきごとというバンド像をそのまま投影するというよりも、「知らない惑星」を通して、なきごとというものを拡張するというか、より深堀して撮られたような?
うん。なきごとに、さらに色をつける役割が今回のMVにはありそうですね。
――ちょっと遡るんですけど、去年の10月24日に渋谷クラブクアトロでワンマンライブを見させてもらいました。サポートに河村吉宏さん(Dr)、山崎英明さん(Ba)を迎えたことで、骨太なバンドサウンドとえみりさんの柔らかな歌のコントラストがより鮮烈に感じられるライブだなと思いましたけど、あのふたりのサポートで演奏してみて、どうでしたか?
あの日はすごく緊張してたんですよ。とにかくサポートがスゴい方々だったので、負けじと必死とやってました。サポートに頼りすぎちゃうのはあんまりよくないと思うので、「もっと精進しなきゃ」と改めて思ったりもして。正直に言うと、あの日は自分のなかでは悔しいところが残るライブだったんです。けっこうミスっちゃう曲もあったし。最近は耳だけじゃなくて、目でも楽しんでもらえるようにパフォーマンスもがんばっていきたいと思っていて、そういうところはまだまだだなと。
――パフォーマンスを意識したいと思ったきっかけは何かあるんですか?
自分のライブ映像を見たときに何か物足りないとい思ったんですよね。そのときに、(所属事務所の)エッグマンの方にも「見ててつまらないよ」と言われたんです。それで、もっと動き方ひとつでかっこいいと思ってもらえるギタリストになりたいなと思うようになったんです。
――感染対策を徹底したうえで、ライブハウスで有観客でやることにこだわったライブでもありましたけど、そのあたりはやってみてどう感じましたか?
10月24日のクアトロの前に、(サーキットイベント)『TOKYO CALLING』で、コロナの自粛が明けてから初めてのライブをしたんですよ。それが配信ライブで。誰に向けて音を届けたらいいのかわからなかったんです。というライブのあとの有観客ライブだったから、私はやっぱり目の前にお客さんがいて、聴いてほしい人たちが目の前にいた状態でライブをしたいなと思いましたね。
――あくまで有観客にこだわりつつ、ツアー中止を受けて、ライブに来られない人には配信も用意するというのもなきごとらしいなと思いました。
「自分は北海道に住んでるけど、コロナがなかったら、飛行機に乗ってでも、なきごとのライブに行く」という気持ちでいてくれる人もいたので。その人たちにもライブを届けたいと思って配信をやったんです。目の前にいる人が大切なんですけど、目の前に来られない、なきごとを好きでいてくれる人たちも大事だから。その存在を忘れたくないんですよね。
――今後のwithコロナ時代のライブの在り方として、現場と配信とを両軸でやるというのが、ひとつのスタンダードになりそうな予感はありますか?
ああ、どうなんだろう……そこはまだちょっとわからないですね。
岡田安未(なきごと)
――では、ここからはシングル『黄昏STARSHIP』の話をさせてください。岡田さんから見て、率直のどんな作品になったと思いますか?
全部レベルアップしたなと思います。何から何まで力強くなったなと。
――具体的に言うと、何がレベルアップしてると思いますか?
曲のメインになるものが歌だと思うんですけど、えみりの歌の表現力、声の出し方、何を表現したいかという気持ちが段違いに変わったなと思いました。レコーディングで歌を録るとき、えみりだけレコーディングブースにいて、エンジニアさん、(マネージャーの)優馬さん、私の3人で聴くんですけど。えみりが軽く歌った瞬間に「歌うまくなりました?」とざわついたんですよ。
――それはどの曲?
えっと……今回、(先行配信した)「ラズベリー」と「春中夢」を除いて、「知らない惑星」と「スプートニクになる」を最初に録ったんです。そのときですね。
――それはえみりさんに伝えたんですか?
ブースのなかにいるえみりにマイクを通して、「歌うまくなったね」とやりとりをしました。
――そしたら?
ちょっと嬉しそうにしてましたね(笑)。
――他のレベルアップポイントはありますか?
バンド感が強まった感じがしますね。レコーディングのセッティング前に、(サポートの)ベースとドラムの方に、今回はこういう曲にしたいので、こんな感じでお願いしますと伝えたりするんですけど、その話し合いというか、コミュニケ―ションが増したんです。
――いままでは、そこまで明確には伝えられなかった?
そうですね。私たちがまだ小娘で(笑)。スタジオミュージシャンの方に、どこまで、どういうふうにお願いしたらいいのかもわからなかったので、引き気味だったんです。でもライブを一緒にやったり、レコーディングも何回かお願いさせてもらってるので距離も縮まって。この人はこんな感じの優しい人なんだなっていうのを理解して、だんだん心を開きはじめました(笑)。
――今回は1曲1曲の世界観がいままで以上に振り切れてるから、そういう意味では、曲の方向性を伝えやすかったのもあるかもしれないですね。
ああ、それもあったと思います。
――前回の「春中夢」と「ラズベリー」のインタビューでは、リモートの曲作りも試したという話もありましたけど、そういう作り方をした曲はありますか?
ないです(笑)。今回収録している「連れ去ってサラブレッド」と「憧れとレモンサワー」、あと「B」は、すでにライブでもやってる曲なので、新しく作曲をしてできたのが「知らない惑星」と「スプートニクになる」で。自粛期間中に1回リモートで作曲を試みたんですけど、自粛が明けて、6月にスタジオで曲作りを再開したときに、なきごとはこの作り方じゃないとダメなんだなと思ったんです。
――じゃあ、いつもどおりスタジオで合わせながら?
はい。えみりの弾き語りとちょっとした説明を聞いてやってみる感じですね。
――リード曲の「知らない惑星」がかっこいいですね。岡田さんのギターは、1曲のなかに何曲ぶんのアイディアを入れるんだ?という多彩なプレイを詰め込んでて。
だんだん困ってきました(笑)。「いいフレーズを思いついた!」と思っても、「これ、別の曲で似たようなことをやったな」と思っちゃうこともあって。
――そういうのは没にしちゃうんですか?
自分が納得いかないものはポイしちゃいますね。
――それは岡田さんのギタリストとしてのプライドみたいなもの?
うん、プライドに近いものだと思います。
――「知らない惑星」に対しては、どんなふうに捉えて向き合いましたか?
この曲は、えみりが弾き語りの案を送ってきたときから、リードにしたいと言ってたんです。で、私も納得できたんですよ。(いちばん最初に発表した)「メトロポリタン」から、大人になったなきごとをうまく表現できた曲だなと思うんです。えみりからは、「いつもの感じで自由にやって」という感じだったので、とにかく自分のやりたいことをやっていった曲です。
――特に聴いてほしいポイントはありますか?
サビのところかな。サビでリフっぽいことを弾いてるんですよ。いままで、なきごとのサビでリフを入れることはあんまりなかったんですけど。あとは、2番のBメロ。ギターのボイシング(重ね方)をジャズ寄りにしたので、そこは聴いてほしいです。
なきごと
――「連れ去ってサラブレッド」なんかも、ファンクっぽいフレーズが挟み込まれてますよね。岡田さんのルーツはロックだと思いますけど、ブラックミュージックはどのあたりの影響ですか?
ブラックミュージックと呼ぶかはわからないんですけど、マルーン5とかジャミロクワイが好きで聴いてますね。あとはApple Musicのジャンル一覧から聴いたりして、自分のなかの引き出しを増やしていってますね。
――なるほど。ギターがかっこいい曲で言うと「憧れとレモンサワー」は、エイトビートの疾走感を加速する岡田さんのギターの存在が際立ってて、大きな会場が似合いそうだなと思いました。
「憧れとレモンサワー」は、わりと私のルーツに近いことをやってますね。いままでなきごとの曲では、そこまでがっつりブリッジミュートをやってなかったんですけど、この曲で初めてしっかりめにブリッジミュートに挑戦し、ロック感を出してみたんです。青春っぽいロックですね。
――なきごとがこういう王道のギターロックをやるのは、珍しいんじゃないですか?
たしかに王道なんですけど、なきごとっぽさも出せた曲だなと思ってるんです。そこのうまい塩梅で作れたというか。実はこの曲は、(2019年の)『夜のつくり方』のツアーファイナルで演奏したときとはちょっと変わってるんです。21歳から23歳のアレンジになり大人っぽくなったけど、ちゃんと青春感が残ってますよね。引き出しの幅が広がったからできた曲です。
――幅が広がったと言えば、「スプートニクになる」もですね。カントリーっぽい雰囲気があって。
これは、別の曲を作るためにスタジオに入ったときに、休憩がてら、えみりが「これやろうよ」と出してきた曲なんです。ドラムの方に「スネアロールを叩いて」とお願いして、いきなり作曲が始まったんです。そういうことがたまにあるんですよ。ひと段落したときに、飽きたから他の曲をやろうとなって、それが意外と良かったりもするんです。
――ギターをのせるときは、どんなことを意識したんですか?
悲しいけど、しっかり前に進んでるというテンポ感があるフレーズにしようと思ってました。この曲はえみりが飼ってたハムスターの1周忌ソングなんですよ。そういう想いも知ってたから、ちゃんと前に進んではきたけど、なんとなく後ろ髪を引かれるようなイメージを出したかったんです。なきごとのなかではわりと単純なフレーズなんですけど。
――耳に残りますよね。そう言えば、インタビューの最初のほうで「レベルアップしたところは?」と聞いたときに、まずえみりさんの歌のこと、バンドっぽさについて話してくれたじゃないですか。で、性格的に、岡田さんは自分のギターのことは言わないなと思ったんですよ。
ハハハ(笑)。
岡田安未(なきごと)
――でも自分のギターもレベルアップしてるなというのは、アルバムを作り終えてみて感じてるんじゃないですか?
そうですね。私自身も表現の幅が広がったなと思いました。そのぶんライブでの再現が大変になってくるんですけどね。たとえば「連れ去ってサラブレッド」とかは、収録スタッフの方のエフェクターを使って音色を作ったりしてるので、いまから「どうしよう?」と。機材をそろえて、使いこなせるようになるまでは大変なんです(笑)。
――いまの岡田さんはギターで表現したいこと、やりたいことがどんどん増えてる感じがしますね。
うん、胡坐をかかないように、もっと引き出しを増やしていきたいです。
――油断すると、胡坐をかいちゃうタイプですか(笑)?
胡坐をかく時間が6割、がんばる時期が4割ぐらいって感じです(笑)。「いいのができたぞ」と思ったら、しばらく浸ってる時間があるんですよ(笑)。
――それも大事な時間です(笑)。なきごとのギタリストとして、いま自分に求められてるものは何だと思いますか?
えみりからですか? 世間からですか?
――えみりさんから求められてるものと、世間から求められてるものは違いますか?
違うかなと思います。
――じゃあ、それぞれ聞きたいです。
えみりからは、「好きにやっちゃっていいよ」と思ってくれてる気がします。歌を邪魔しないように……あ、これは私が思ってることですが、えみりの歌を邪魔しないけど、その歌に色とか表情をつけるギターを求められてる……というか、それを自分がやりたいんですよね。
――歌に込められた想いを代弁するようなギターというか。
補助輪みたいな役割ですね(笑)。
――かわいい(笑)。じゃあ、世間から求められてるものは?
女性らしからぬギター、かっこいいギターを求められてる気がします。曲を出したあとにエゴサーチをしたり、聴いてくれた人の感想を見てると、「今回もギターがかっこいい」とか、「20代の女の子らしからぬギターだ」というのを見かけるんですよ。そういうのを見て、そこに惹かれてる人がいるんだなっていうのは、自分のなかで大事にしてますね。
なきごと 撮影=高田梓
――今回のアルバムのなかで、岡田さん的にグッときたえみり節みたいなところはありましたか?
私、「B」が好きなんですよね。全部の歌詞が好きです。<花は枯れ 木々は腐り落ち灰になって 星も笑わなくなるだろう>のところ。<星も笑わなくなる>という表現がスゴいなと思うんですよ。星って、笑う、笑わないの概念ではないじゃないですか。でも、なんとなく言いたいことは伝わる。
――世界がどんよりとしてしまってる様子が伝わりますよね。
そういうワードセンスが好きですね。<夜が起きる前に>とか。
――岡田さんから見て、えみりさんのソングライターとしての進化も感じますか?
感じます。いままで以上に歌詞を凝るようになったんですよ。さらに歌詞の表現力がついたし、強くなったなと感じるんですよね。レコーディングの時も、私はめちゃくちゃ時間がかかるんですけど、えみりはスッと録り終えて戻ってくるんです。すごい……こう、やり切ったみたいな感じで。
――肩で風を切るような(笑)。
そのつもりは全然ないと思うんですけど、私から見ると、すごいダンディに帰ってくるんです(笑)。
――それだけ自信を持って歌えるようになってるのかもしれないですね。
うん、そのあたりはえみりにも聞いてみてください。
――わかりました。5月からは『黄昏STARSHIP』のリリースツアーが全国5ヵ所で開催されます。去年中止になってしまったツアーの想いも込めた内容になりそうですね。
『黄昏STARSHIP』と『sasayaki』の2枚分を背負ってますからね。『sasayaki』の曲もやりたいので、濃密なツアーになるんじゃないかなと思います。もう1年以上前から東京以外の地方ではなきごと主催のライブをやれてなかったので、やっとなきごと目当てでライブに来てくれた人と会えるのがうれしいです。『黄昏STARSHIP』には、いろいろなリズムの曲があるから、その曲でどんな表情をしてくれるのか、どんな体の動きを見せてくれるのか楽しみですね。
取材・文=秦理絵 撮影=高田梓

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