「笑いを劇場で共有したい」三宅裕司
×紅ゆずる×横山由依が語る『熱海五
郎一座』新橋演舞場シリーズ第7弾公

“東京の笑い”を継承すべく、2006年に三宅裕司を座長に旗揚げし10作品以上を上演、さらに新橋演舞場に進出してからシリーズ6作を上演してきた「熱海五郎一座」。昨年コロナ禍により中止となった第7弾公演が、予定と同じキャストにてお目見えすることとなった。『Jazzy(じゃじぃ)​なさくらは裏切りのハーモニー~日米爆笑保障条約~』と題し、元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるとAKB48グループ2代目総監督の横山由依の二人をゲストに、生演奏も盛り込まれる。三宅裕司、紅ゆずる、横山由依による爆笑鼎談の模様をお届けしよう。
――昨年、残念ながら中止となった公演が、このたび上演される運びとなりました。
三宅:最近他の舞台を観に行くと、本当に皆さん苦労していまして。特に笑いの多いお芝居の場合、満席でどーんと笑いが来るからウケた! という実感が湧くんですけれども、一人おきに座る、つまり半分のお客様でみんなマスクをして、しかも、本番前に会話は控えめにという放送があってですね、そんな緊張したお客様の前でいきなり笑いをやれという、非常に過酷な状況が続いておりまして。それでも役者さんたちはみんな本当に一生懸命やっていて、最後に立ち上がって拍手したくなるくらいで、早くこういう状況から抜け出したいなあという中での公演です。感染症対策を十分に行った上で、何とか収容人数を増やして満席にできないかなと思っています。とにかくたくさんのお客様が、家で一人で観ているのとは違う、劇場で一つの笑いを共有するあの興奮を味わってほしいなと。それをもう一度味わえるような世界に戻ってほしいなと。“東京喜劇”ということで、笑いが起これば起こるほど役者はノリに乗っていい舞台ができるので、たくさんのお客様、願わくば満席であれば、最高の舞台になるなと思っています。
紅:昨年の公演予定時期だと、私は宝塚歌劇団を退団して間もないころだったんですけれども、一年経った今となっては女性の装いにもちょっとずつ慣れてきて。
三宅:しまった~(笑)。そういうギャグあるからなあ。
紅:(笑)。宣伝ヴィジュアルにしても、自分としては、ちょっと女っぽいんじゃないかと思っていて。誰もそんな風に思わないかもしれないですけれども(笑)、自分の中では、男役をやっているときとは違う風に撮っていて。昨年成立したであろう演技とはまた違うものが今年はできあがるんじゃないかなと思いますし、女性の服についてもどう着こなそうかわくわくしていて。そして今、こういう時代ですので、笑いがこの世の中には絶対必要だと思うんですよね。三宅さんがおっしゃった通り、満席でできたらこれほどうれしいことはないと思います。ただ、マスクをされているので、皆さん笑っていらっしゃるかどうかわからないのが……。
三宅:笑ってる顔描いておいてほしいよ……って、それだと最初から笑ってることになっちゃうか。
三宅裕司
紅:(笑)。お客様がどういう反応をしてくださるか楽しみです。コメディが大好きですし、お芝居の中で笑いを一緒に作っていくという感覚が喜劇の醍醐味だと思いますので、お客様と、そして、今回出演されるコメディのプロフェッショナルな方々とご一緒させていただけるのを楽しみにしております。
横山:昨年中止と決まったときはとても残念だったんですけれども、座長をはじめ、たくさんの方々のご協力があって、こうして変わらぬメンバーでやらせていただけるというのが本当にまず一番うれしいなと。昨年からの間に、座長が率いる劇団SETの舞台を2回観劇させていただいたのですが、あんなに劇場で笑うという体験をしたことがありませんでした。舞台は静かに観るものと思っていたので、すごく衝撃を受けて。今回、座長に渡辺さん、ラサールさん、小倉さん、昇太さん、東さん、深沢さん、そして元宝塚歌劇団の紅さんと、いろいろなジャンルの方がいらっしゃるので、いろんな方面から刺激を受けて、私も新しい一面を見せていけたらと思います。
――“東京喜劇”とは?
三宅:定義はないんですが、僕の中では、かっこよさとかっこ悪さの落差の大きさみたいなものが“東京喜劇”かなと。ボケるところでは本当にボケてずっこけて、無様な格好になるんですけれども、ダンスや歌や楽器演奏といったところではレベルの高いものを目指して、その落差でもっていくという。アドリブはほとんどなくて、台本を稽古場で意見を出し合っておもしろいものにしていく。何かハプニングがあったときにフォローするという意味ではアドリブはありますけれども、それ以外はほとんど稽古場できっちり決めて、決めたものが受けなかったときにはまた変えていくという形で作っています。ストーリー的にもお客様をぐいぐい引っ張っていって、最後は感動にもっていけるような、そういうものにするという、まあ非常に欲張っているんですけれども。笑いのディズニーランドと言いますか、いろんな要素がつまっていて、そのレベルの高さで落差を作りながらお客様に感動していただきたいなと。“脳を揺らす”って言うんですけれども、ガンガン笑って興奮しているお客様って最後に涙を流す率が高くなるんですよね。それだけ感動しやすい脳になっているということを聞いたことがありまして、それがいつも目指すところです。がーっと笑わせるんだけれども締めるところは締めて、ぐっとくるところはぐっとくるようにもっていくのが“東京喜劇”だと思っています。難しいんですよね。でも、やりがいが非常にあって。
――紅さんと横山さんの笑いのセンスについてはいかがですか。
三宅:二人とも笑いが好きなんですよね。それがいろいろなところに出ていると思います。紅さんはもう、「紅子」(紅が宝塚時代に演じていた人気キャラクター。「紅ゆずるの大ファンである客席案内係」という設定で、退団の際に行なわれるサヨナラショーにも登場した)を見ればすぐにわかるし。横山さんは、コンビを組んで関西弁で漫才をやっているのを見たんですけれども(小栗有以と組んでいる「ゆいゆいはん」)、絶対好きでやっているなという。要するに、演出家にやらされている笑いと、自分が好きでやっている笑いの差って大きいんですよ。そこが非常に大事でして。
熱海五郎一座って、笑いの好きな人が集まって、笑いを好きでしょうがない雰囲気で稽古場で作り上げたものをそのまま舞台に上げるからお客様にそのまま伝わるんです。そういう意味では、笑いが好きな二人ですから、おそらく稽古場初日に熱海五郎一座の一員になれると思います。あとは、この雰囲気の中で、けじめと、締めるところだけきちっとやれば、本当に、笑いは増幅していきますので、この一座には最高の二人だと思いますね。歌、ダンス、楽器演奏という、“東京喜劇”に必要な要素を二人とももっていますし。台本は作家が全部当て書きしていて、その後さらにギャグを考えて入れているんですが、公演が一年延びた分、入れるだけ入れて、ものすごくギャグが多くなっています(笑)。
紅:私は宝塚にいて、コメディ作品がとても好きだったんですけれども、客席に対して「笑わせてやる!」ということに重きを置いている作品は少なく、やはり、美しくかっこよくエレガントにみたいなものに宝塚歌劇団は強いんですけれども、私はちょっと異質で、笑わせてやろうかというところがけっこうあったんですよ。でもそれって瞬発的な笑いだったりして。宝塚でも芝居中にアクシデントがあった時以外のアドリブは、上演時間や舞台転換のこともあるので、私は事前に伝えるようにしてはいましたが、それも瞬発的な笑いではありました。
紅ゆずる
熱海五郎一座では、瞬発的な笑いじゃなくて、ちゃんと練り込んで熟成されたものを、いらないものは削ぎ落して、実際にこれだというものを舞台にもっていくというところに大変魅力を感じます。そこまで笑いを練り込むということを実際したことがないんですよね。紅子に関しても、そのときのお客様いじりで、自分から湧き出るものでやっていたので。究極、時間をかけて作るものは、悲劇よりも喜劇の方が難しい気がします。特にこういう、世の中が沈んでいるときにお客様を笑わせるというのは、そしてなおかつ感動させるというのはとても難しい技だなと思うんですけれども、非常に興味があるので、早く熱海五郎一座の一員になれるよう、そしていろいろなものを吸収できるように頑張ります。
横山:お笑い好きなのは関西出身ということがあると思うんです。家でもお笑いの番組がついていたり、いろいろ観てきたので、笑うということは身近にあったなと。AKB48に加入してから、コントや漫才をやらせていただいたり、お笑いに少しずつ関わるようになってきていて。ただ、そのときは意識して何かをやっていたというより、もらったものを覚えてやっていたという感じで。自分たちが笑っていただけるようにやっているというより、作家さんの力だったなと思うんです。しっかりとていねいに作り込む笑いというのは一番難しいと思うんですが、稽古場で作り上げたものを舞台で生でやってその反応を見ることができるというのは、今までチャレンジしてこなかったことなので、すごく楽しみです。長くやられている先輩方がいっぱいいらっしゃるので、本当にいろいろな勉強をさせていただきながら、日々変わっていく舞台を楽しみたいと思っています。
――一年経って何か変化した点はありますか。
紅:私はやはり男役でしたので、最初スカートを履くときに、スカート履くぞ! みたいなところからスタートしたんですよ。勇気をすごく必要としたんですけれども、今は、女性として女優として、こういうスカート履いてみたいなとか、こういう髪型いいなとか、こういうアクセサリーつけてみようかなとか、自分に似合うものを求めたり。女優としてはまだ舞台に立っていないんですが、最初は想像もつかなかったのが、こういう風に演じられたらいいなみたいな想像ができるようになってきました。一年間、宝塚から一般社会に出てみて、自分の中でメンタル・トレーニングしていた感じですね。女性としてどういうものが一番似合うのか、してみたい服装と似合う服装は全然違うということを考えたりとか。一見芸事に関係ないかもしれないですが、そういうところも舞台に活かせたらいいなと思って。
三宅:今回のような軽演劇って、そういうの全部活かせるんだよね。一年前に作った台本ですから、宝塚を退団して最初のステージというあたりもネタにしていたりして。でも、一年延期されたことをプラスすればそれもまたネタになるんですよ。一年前だったらこう思ったけど、今は平気、みたいな。全部逆手にとってネタにできるのが軽演劇ですから。
横山:記者会見のときに皆さんと初めてお会いしたのですが、公演中止になって、座長が立ち上げたYouTubeチャンネルでの座談会に参加して、皆さんの本当の姿が見えて、めちゃめちゃおもしろくて。稽古場は腹筋がおかしくなってしまうんじゃないかくらい笑うんじゃないかって、さらに楽しみになりました。
横山由依
――劇場公演ならではの生のよさとは?
三宅:笑いが中心の一座ですから、お客様がいないとできないですよね。お客様がここでこれだけ笑ってくれるから次にこう行くというのを全部計算して作っているわけですから、そこでどーっと笑いが来るから次がある。稽古場で予想していた笑いが来なくてシーンとしたら、落ち込みますよね。そうならないように台本を一生懸命作って、稽古場で練り上げて。それでも、お客様の前だと、意外なことを忘れてたりするんですよ。これ、なんでウケないんだろうと思うと、その前にフリのセリフをきちっと伝えるのを忘れていたりとか、そういう基本的なことをできていないって、初日にわかることがあるんですよ。だからやっぱり、お客様と一緒に舞台を作っていくというのが喜劇だと思いますね。それくらい、お客様なしでは成り立たない。
――このコロナ禍で、他の方は無観客配信といった試みもなされたりしていますが、それは難しいと。
三宅:劇団SETも、熱海五郎一座も、無観客配信はやらないです。例えば、3分の1くらいお客様に入っていただいてやって、その笑い声を例えば3倍に増幅して配信するならいいかなみたいな。3分の1の笑いでもあるのとないのとでは全く違いますから。
紅:コロナ禍の前まで、エンターテインメントって当たり前にあるものでしたけど、劇場って今、本当に舞台を観たいお客様、本当に芝居で思いを伝えたい演者で成り立っている、非常に貴重な場だなと思うんです。その空間でしか生まれないものがいっぱいあると思う。今のこの時期、舞台を観に行くだけでもすごく警戒しますよね。出演する側もすごく細心の注意を払って、本当に舞台をやりたいからやっている。お客様も、本当に観に行きたいという一心で観に来てくださる。コロナ禍の中、歌舞伎を観に行ったんですが、演じているのも観に来ているのも当たり前じゃなくて、何とかお互いの力を合わせて成立させようとしているということが本当に貴重だなと思いました。ですので、今回も、観に来て下さったお客様に、観に来て本当によかったと思っていただけるようなものをお届けしないといけないなと改めて思いました。
横山:やはり舞台はすごく緊張するところがあるんですけれども、すごくいい緊張感で。AKB48だと歌があるので、舞台だからトラブルがあったりはするんですけれども、基本的に、始まったら公演が終わるまで音楽が流れ続けているんですね。じゃあお芝居だと、自分がすごく緊張してどうにかなってしまったら、その場でもう無音の空間になるのかなとか、そういう緊張感もあったりして。そうならないためにもやはり稽古をしっかりして、信頼関係を築いていって、そうやってしっかり準備したときのお客様の反応を生で見られるというのが、本当に舞台ならではだなと。同じことをやるにしても、一回一回絶対に何かが変わるというのもすごく楽しくて、舞台でのお芝居ってやっぱり特別な緊張感があって楽しいなと思います。
――紅さんと横山さんはお互いの印象はいかがですか。
横山:紅さんは、本当にかっこいいというイメージだったんですけれども、お会いしてみると、関西弁がところどころ出てきたり、すごくユーモアのある方だなと思って。
紅:私はずっとかわいらしい方だなと思っていたんですけれども、直接会うと、私並みにすごい関西弁なところがあって。私は、宝塚のとき、関西弁じゃない方がいいだろうなと思っていたんですけれども、結局宝塚の間も関西弁で、今も関西弁で話しています。関西弁で思いきりお話しした方がダイレクトに気持ちも伝わると思っていて。横山さんの関西弁、すごくかわいいなと思うので、お稽古中に仲良くなるのを楽しみにしています。
紅ゆずる
――三宅さんの印象は?
紅:すごいダンディでびっくりしました。
三宅:まあね(とキザる)。
紅:お会いしてみると、なんて懐が広い、ダンディな方なんだろうと思って、私めっちゃ三宅さんかっこいいでって言いふらしてるんです(笑)。
三宅:後でいくらか払うから(笑)。
紅:後は大船に乗ったつもりで、乗ってくれたら何とかするよって、何か、私もトップ時代にこういう風に言えたらよかったなと思って。とても尊敬していますし、稽古中も、うわー、かっこいい~って、横山さんと言い合いたいです。
横山:私が幼いころからずっと活躍されている方でしたが、お会いすると、本当に優しく話しかけてくださって。バンドの練習でも、私はドラム担当なんですが、スティックの持ち方や叩き方のアドバイスをしてくだって。それと、すごくいろいろなことが見えていて、前にお話ししたことを覚えてくださっていたり、記憶力もすごいなと。
三宅:えっ、そう? 昨日何を食べたか覚えてなかったりするんだけれども(笑)。
――三宅さんにとって“笑い”とは?
三宅:免疫力を高めるとか、いろいろあると思うんですけれども、笑いって人間にしかできないことですからね。動物は笑えないですから。やはり、人間にとって相当必要なものなんだろうなと、自粛期間を経てつくづく感じました。普段の生活ですごく生きる活力になるし、免疫力も上げるし、健康のもとにもなるんだろうなと。
今、「演じる笑い」というものが、テレビの世界からどんどんなくなっていっている気がするんですね。その人の生き様、芸人さんのおもしろさで番組を作るという感じになっていて。そうじゃなくて、役者が演じることで笑いが作れるんだぞということを劇場でやっていかなきゃいけないなと思っているんです。一人で部屋で笑っているのと、好きな笑いを求めて千人以上が集まって、一つのものを一緒に観て笑ったときの興奮、感動、大きさというか、それはもう劇場でしか味わえないんですね。だから、その笑いを絶対なくしちゃいけない、続けたいと思っているんです。何かちょっと、そうやって作る笑い、演じる笑いって昔風の笑いであるという感覚がもしかしたら若い人にはあるのかもしれないけれども、そんなことはない、劇場で声を出してみんなで笑うときの興奮を味わってほしいなという思いがありますね。
――今回、生演奏でジャズも披露されます。
三宅:去年の1月にバンドの練習を始めたんですね。みんな素人でジャズをやるわけですから、去年の1月から始めて、6月公演で、5カ月でジャズは無理だよという言い訳をしようと思ってたんですが、一年延びちゃったから。もう言い訳できない(笑)。
横山:一年前よりパワーアップしていないとという気持ち、ありますね。
三宅:ベースとドラムとピアノがしっかりしていないとね。そこがガタガタだと、紅さんが歌えなくなっちゃうから。
横山:私がドラム、三宅さんがウッドベースで。
三宅:うちの劇団の白土直子がピアノ担当で。ウッドベース買ったんだよね。最初は手が痛くて10分しか練習できなくて。
紅:宝塚のときは生オーケストラでやっていましたが、それとはまた全然違う感覚なんでしょうね。皆さんのバンドで歌ったらどうなるのか楽しみなんです。
三宅:ウッドベースってね、フレット(突起)がないんですよ。だから音がちょっとよくわかんなくなる(笑)。それでもちゃんと歌ってください。
左から 横山由依、三宅裕司、紅ゆずる
紅:わかりました(笑)。
横山:私も、昔学んでいたドラムの叩き方とけっこう違うので。
三宅:ロックドラムやってたんだよね。
横山:そうなんです。今回はジャズなので、三宅さんに、こう叩いた方が楽に聞こえたり、いい音が鳴るよというアドバイスをいただいたりして。
三宅:そこをもう少し軽くね(と、口で叩く音を出して)、とか。口でやるの上手いでしょ。もう口でやるかな(笑)。
紅:実は私、英語で歌うの初めてです。今まで避けてきたので。
三宅:関西弁になっちゃうから?
紅:(笑)。いやいや。何か、男役の表現としてどういう風に英語で歌っていいかわからなくて、日本語の方が自分として消化できてかっこよく歌えるんじゃないかと。なので今回初挑戦なんです。
三宅:だからと言って日本語には絶対できない設定ですからね(笑)。上手く演奏できなくてもいいように、ストーリーは作ってありますが(笑)。でも、そこで上手くやるからかっこいいんだけれども。
――笑いと音楽の共通点は?
三宅:リズムと笑いの間(ま)っていうのは共通ですよね。ですから、音楽出身の方々、例えば堺正章さんとか、僕なんかが言うのも僭越ですけれども、最高に間がよくて、ずっこけとかも、あの間であのスピード感のあるずっこけはすごいなと思いますよね。音楽をやっていた方にそういう方が多いという感覚はありますね。
――ストーリー面でのこだわりは?
三宅:ストーリーで引っ張っている部分がないと、さすがに大爆笑だけで三時間は引っ張っていけないんですよ。まず設定で最初にびっくりさせておいて、笑いながらどんどんそのテーマのラストにもっていくというのはいつもの作り方です。真面目なシーンも当然あります。そういうシーンがあると、その後笑わせやすくなりますし。あと、やっぱり音楽と歌の力っていうのはすごくて、音がぼーんと出た瞬間、劇場が一つになるんですよね。だから、その音楽の興奮、感動が、ストーリーの感動につながるように作ってあります。そういう意味では、フィナーレでもあり、ストーリーのラストでもある演奏シーンがうまくいくかどうかは、それまでの積み重ねでしょうね。
“東京喜劇“における落差という意味では、ジャズってかっこいいじゃないですか。それまでずっとバカなことをやってきた連中が、楽器を生演奏する、それもジャズで、一つのサウンドとしていいものができたら相当かっこいいですよね。そこまで相当バカできるなというのもある。バカであればあるほど、その演奏がかっこよくなる。戦後のジャズっていうのは非常に好きなテーマなんです。生きる緊張感のある時代ですから、その緊張感からギャグが作りやすいんですね。緊張しているから人間誰しも失敗する、それがギャグになるということですよね。無理に笑わせようとしている感じにならない設定をいつも探すわけです。そうすると、戦後の必死に生きている時代っていうのは非常にギャグになりやすい。今回の設定なんて、ひどいですよね。
紅・横山:(笑)。
横山由依
――これまでの熱海五郎一座と違う点があれば教えてください。
三宅:“東京喜劇”で、ゲストの二人が関西人だということですね。そこはもちろん逆手にとって笑いにしていますし。このメンバーでジャズの生演奏をするとのも初めてで。だから、落差の大きさとしては、今までで一番大きいんじゃないでしょうかね。すごいバカなやつらが、最後本当に必死ですから。演奏がぐじゃぐじゃになったらストーリーがどうしようもなくなっちゃうからね。かっこいい演奏と言っても、普段お客様は常にプロのジャズのかっこいい演奏を聴いているわけですから、それに比べたら本当にとんでもない演奏なんですけれども、それが、ストーリー的に意味をもっているわけですよね。だから、そこで何かお客様の心が動けばいいなという風に思っていて。下手であればあるほど感動するというか、訴えるものがあるという設定になっているので。でも、このメンバーが本当に下手に弾いたらとんでもない下手になってしまいますから(笑)、必死にやってちょうどいいというところのバランスが、相当おもしろい結果になるだろうなと。
横山:台本のギャグがすごい増えているとおっしゃっていたのが楽しみで。
三宅:横山さんも相当ギャグを背負ってますからね。
横山:そうですよね。私は笑いのツボが浅いので、皆さんおもしろすぎてめちゃくちゃ笑ってしまいそうなんですけれども、まずは稽古場で自分で慣れていかないといけないなと。舞台ではやっぱり、真剣に必死にこの役を演じていきたいので。
三宅:ギャグって、残酷ですよ。目の前で結果出ちゃうから。みんなドカンドカン受けてるのに、自分だけシーンとするとか。
横山:うわー。
三宅:それは、私の責任になるんですが。
紅:ダンディ!
三宅:(笑)。何だか、三人の間ができてきましたね。
三宅裕司
――役柄についてはいかがですか。
紅:やはりこのポスターの感じから言っても、男役をやっていた私が女性を演じるというところに、たぶん何かが生まれると思うんですね。なので、そこを強みにしたいなという。男役をやっていた人が女優をやると、何だかすごくハンディな感じというか、そういう意見をよく聞くんですけれども、そうではなくて、それを自分のプラスに変えたいなと。なので、最初はあえて、男役をやっていた人だねとわかるくらいの感じでもいいのかなと。私のことをよく知らない方でも、この人宝塚の人だったんじゃないと思うくらいのところからどんどん自分で展開していきたいなと思っていますね。
横山:今の段階ではっきり言えないんですが、私にとって初めての挑戦となるような役どころですね。
三宅:ヒントで言うと、横山さんは他のメンバーより倍、大変です。
横山:お稽古をつけてもらうのが楽しみなのと、後はやっぱり生演奏というドキドキもあるので。お芝居もあり、生演奏もありで、三倍緊張するのかな。
三宅:二時間半お芝居をやったあとの生演奏だから。
横山:バンドの練習だけでいっぱいいっぱいなところ、これ、お芝居の後にやるんだなって、めちゃめちゃ大変だなと。でも、今日、座長のお話を聞けて、すごくうれしかったです。笑いと音楽に似たところがあるとか、そういう風に考えたことがなかったですし。そういう思いを自分自身もいっぱいもって、劇場で必死に生きていきたいなと思います。
三宅:“東京喜劇“は、難しくない、非常にわかりやすい楽しいお芝居ですし、やっている僕らもものすごく楽しくやってますから。楽しくてわかりやすくて爆笑の連続で最後感動というのをもちろんやっていきたいんですが、今のこういう時期ですから、これってやっぱり大切なことなんだとみんなで思える公演をお客様と一緒に作っていきたいという意味で、今回はちょっと特別な感じがしています。
紅:出演者側もお客様もそれぞれ人生があって、それぞれの時間を生きている中で、劇場というその空間だけは同じ時間を共有する、それってとても貴重なことだと思うんですね。一人じゃなくてみんなで一緒に笑う興奮、それを受ける側のこちらの反応、お互いの反応を共有し合う空間ってすごく貴重だと思うんです。そんな時間を自分自身楽しみたいと思いますし、千穐楽には、熱海五郎一座もう一回出ない? と言っていただけるくらい、自分自身も楽しみ、お客様にも腹の底から笑って本当に観に来てよかったと言っていただけるような舞台にしたいと思っています。
横山:人と会う機会が減った最近、一人でいるとやっぱり思いきり笑うってなかなかないことだと思うんですけれども、熱海五郎一座を観ていただいて、劇場空間で笑う、そして、皆さんの笑いの場所が一致したときが、心がつながる瞬間なのかなと思うんです。そんな笑いを私も目指したいですし、こうして舞台に立たせていただけるのが本当に幸せなので、幸せをかみしめながら、自分にできる精いっぱいをぶつけて、一日一日、一公演一公演、大切にしていきたいなと思います。
<取材協力>
​◎三宅裕司:スタイリング=加藤あさみ(Yolken)
◎紅ゆずる:ヘアメイク=hanjee(SINGO)/スタイリング=森本美砂子/衣装=ZADIG&VOLTAIRE
◎横山由依:ヘアメイク=大場聡美/スタイリング=林峻之

取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=池上夢貢

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