池田成志が語る、“ねずみの三銃士”
六年ぶりの新作『獣道一直線!!!』の
ヒントとその行方とは

演劇界の最強ユニットと呼び声も高い“ねずみの三銃士”こと、生瀬勝久、池田成志、古田新太が六年ぶりに再集結。第四弾となる今回は、脚本・宮藤官九郎、演出・河原雅彦とお馴染みの顔ぶれで最新作『獣道一直線!!!』を上演する。これが二度目の舞台出演だという山本美月、唯一無二の存在感を光らせつつ話題作に次々と出演中の池谷のぶえをフレッシュなゲストとして迎え、加えて宮藤自身も役者として初登場する。
一面識もない独身男性三人が殺された事件を追うドキュメンタリー作家が、被害者の共通点である婚活サイトを調べていくと、浮かび上がってきたひとりの女性。三人は彼女と関係を持っており、同じED治療薬を飲んでいたのだ。真実を追うにつれ、作家はこの事件の闇に取り込まれていく……。
9月下旬、まさに稽古真っ最中の池田成志を直撃し、稽古場の様子や今回の舞台への想いを語ってもらった。
ーー現在の稽古の様子はいかがですか。順調ですか。
順調に進んでいると言えば進んでいるんだけど、今はまだ段取りに追われていて、役者がぶつかり合うところまでは行けていないので。それに僕としては、その段取りって今そこまで細かく決める必要があるの? と思っていて。つまり今、僕的には不満な時期なんです(笑)、稽古が面白くないものだから。本来なら、毎日の稽古が面白くてしょうがねえやって言いながらお酒を飲んで帰る、というのがコロナ禍以前の日常だったのに、今は稽古が終わっても飲みに行けないし。みんなトシとってきたから、稽古自体も早く終わっちゃうし。持て余し気味なんです。
ーー面白くなってくるのは、稽古期間のいつ頃からですか。
場面ごとではなくて、長いスパンでいくつかのシーンを通しで稽古するようになり、役者の紆余曲折を経てから、ですかね。また、実際に裏を走り回ったりしてから次の場面に出たりすると必然的に心拍数が上がりますよね。そうすると、さまざまなことがズレていく。お芝居というものは、そのズレをいかに楽しんでいくか、ということですから。
池田成志
ーー何度も稽古を重ねることで生まれるズレも、大事。
何度もやっていれば飽きるしね。そうやって負荷がかかってくることによって、役をこう演じようと思っていたのに違うベクトルになってしまう、ということもある。そういうことを見つけながらやるから、稽古を何度も繰り返しても、本番でも毎回ちょっとずつ違ってくる。そこが、面白いわけです。
ーー毎回ピタッと同じことを繰り返しているわけではない。
そうそう。だからよく「なんでそんなに毎日同じことを稽古するんですか」とか「毎日同じことをやってて飽きませんか」と聞かれるけど、まったく同じ芝居ではないので。その日のお客さんの反応ひとつでも変化するものですしね。僕たちはそれが楽しいからこそ、こんなトシまでずっとやり続けているんです。だけどそれがこうして、毎日が約束事ばかりで「ここはこうして、ここで右見てから左向いてください」みたいな稽古が続くと「何のためにやってるんだ」ってモヤモヤしてくるんです……。
ーー一番の楽しみが、今は封じられている。
だから今はとにかく早く躍動したい、自由になりたい! という思いでいっぱい(笑)。もちろん、自由になったとしても決まりはあるわけですけど。それに今回、初参加の山本美月ちゃんなんてほぼほぼ初舞台に近いので、僕なんかはこの段取りの稽古の段階で「彼女にそんな言い方をしたら、絶対的な決まりだと思っちゃうかもしれないぞ」と余計な心配をしてしまうんです。そんなことを考えているから、そこでまたストレスが溜まって。だって今回、僕と生瀬さんと古田くんはストーリーテラーではない役どころなので、だいたいの場面でふざけているばかりなんです。そんな感じで、現状としては非常に停滞している稽古場でございます。
ーー台本を途中まで読ませていただきました。
読むと面白いでしょ、そこがクセモノなんですよ(笑)。今回の物語は、観ている方の頭の中にはモデルになった事件の、謎のあの女性の存在がすぐに浮かぶと思うんです。現段階においても謎だらけの彼女を思い浮かべると、ほとんどの方が「なぜあんな女に男たちは騙されちゃったんだろう」と考えると思うんです。だけど今回、僕たちはその女性に騙されるほうでありつつ、騙される人を演じるという二重構造になっている。こういう構造上の仕掛けが、すごくいっぱいあるんです。でも本当なら、彼女に飲まされた薬で美しく思えていただけではないんだろうと思えるのに、今の台本のままだと、単に薬で幻覚を見たせいだと捉えられかねなくて。確かに構造としてはそれでも面白いんだけど、それを演劇として見た場合は、いやいやもっと何かあったはずでしょ、とならなきゃいけないんじゃないかと思うんです。「なんだかこれって、ものすごく得体のしれない事件だよな」と思ってもらえたらいいんだけど。またここで僕たちがすぐ笑いを欲しがってふざけちゃう悪い癖があるので、その点はあまりよろしくないぞと反省中です。
『獣道一直線!!!』出演者
ーー今回は、池田さんと生瀬さんと古田さんといういつもの三人に加え、山本美月さん、池谷のぶえさんが初参加されています。お二人の様子はいかがですか。
美月ちゃんはすごく緊張していますね。だからとにかく大きな声でやったほうがいいよ、とは言っていますけど。それこそ細かい段取りにばかり追われて、お芝居ってつまらないなと思われるのもイヤだから、そうならなきゃいいなと思って見ています。オジサンたちそれぞれが勝手にああだこうだ言っても、演出の河原くんが言うことと違ったら混乱させてしまうから。
ーーアドバイスを言ってあげられない?
いや、ついつい言っちゃうんですけどね。
ーー言ってるんですね(笑)。
ハハハ。だって、言わないのもどうかなと思うので、そこが非常に難しい。のぶえちゃんはのぶえちゃんで難しい役をやってもらっているんですが、すごく繊細な方なので。みんなが知っている謎の女、みたいな存在にどうアプローチするのかな、今の段階だと表面的に面白い存在になってしまわないかなと心配しているところです。でもやっぱり具体的にこうしたら、とは言えていませんが。
ーーさらにそこに宮藤官九郎さんが脚本家としてだけでなく、役者としても初登場されます。
また宮藤くんが、自分で書いているくせにあまり自分の役割をよく分かっていない感じなんですよ。「きっとこういうつもりで書いていたはずだから、おまえ自身がもうちょっと狂気を宿したり、不安定だったりしないとよくないんじゃないのかなあ、僕はそういう風に読んだけど?」って言ったら「そうですね」と言ってました。「どういうこと?」って思いました(笑)。宮藤くんの役は説明ゼリフが多いから、自分で自分の首を絞めているみたいなもので。なにせ一番翻弄される役というのを自分に振っちゃっているから。だから今回、役者としていろいろ試されているんじゃないでしょうか。
ーー役者としては、“ねずみの三銃士”には初参加なのに。
そうですね。まあ、役者で出るようにというのは僕が誘ったんですけど。僕、好きなんです、宮藤くんのお芝居。それに僕自身は、これが最後だと思っているのでぜひ出てもらいたいなと思って。
池田成志
ーーえ? このユニットはこれが最後だと? そんなこと言っちゃっていいんですか?
いいんです、大丈夫です。僕が勝手にそう思っているだけですけど(笑)。でもやっぱり、その女性に騙されたシーンの羅列でギャグばかり、というのではなくて、ただ薬を盛られたのではなく、なぜその女の人に魅力を感じていったのかを描かないと、怖い話にならないと思うんだよなあ。
ーーやはり怖さも出したい。
だってあの人そんなにキレイじゃないし、どうやって洗脳されてしまったのかがわからないじゃないですか。きっと、マメに「大丈夫?」とか「元気?」って声をかけてくれたり、ふとした気遣いが100%で天使みたいに見えたのかもという、想像の余地を入れたいと僕は思っているので。もしくは、ものすごくスピードを上げてさらにわちゃわちゃにしてしまうか、どっちかだと思うんです。だけどあの謎の女性に関する本を読んだりすると、彼女のバックグラウンドって本当に普通で。ごく普通の両親の間に生まれ、取り立てて誰かからいじめられていたこともなさそうで、すべてがモヤモヤしているんです。それって生まれながらのソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)なんじゃないかと思ったりもするし、サイコパス含め、そういう社会病質者みたいな人って実は我々の周りに大勢いるんじゃ? と想像する段階までいけたら、と僕は思うんです。だけど、いかんせんふざけ過ぎなので伝わりにくい(笑)。これをジレンマというんだと思います。
ーーでもやっぱり、笑いも入れていきたいでしょうし。
今日だって、宮藤が書き直してきた台本を見て「ただネタ入れてきただけじゃない」って、軽く文句を言ったところです。まあ、宮藤も書こうと思えば書けるんだけど、あえて今回は、コロナのせいで「みんなが繋がらなきゃいけない」とか「前向きに生きよう」って世の中がそういうムードばかりになっているから、それを払しょくしたくてわざと乱暴に下品にして、あまり人の琴線には触れさせないぞとしているのかもしれません。
ーー改めて、この“ねずみの三銃士”ならではの面白さについても伺っておきたいのですが。
生瀬さんと古田くんと一緒に芝居をやる時は、ほぼノープランでいけるというか。こうきたか、じゃあこう受けようと、その場でぶつかり合えるのでやっぱり楽しいです。三人の場にはプランは本当にいらなくて、これは昔からずっとそうで。だから、これだけ長く続いているんだと思う。だってないでしょ、こんな五年ごとに同じメンバーで公演をやるなんて。普通はもっと頻繁にやって早いうちにケンカして解散しちゃう。宮藤くんと河原くんも加わって、毎回この五人でやれるのも面白いです。だけどなぜか、いつの間にやら“事件もの”をやるというくくりになっていったのは、きっと古田の発言が多いせいだな。
池田成志
ーー生瀬さんと池田さんとしては事件ものをやりたいわけじゃない。
事件ものじゃなくても全然いいです。でもまあ、僕も嫌いではないから、別にいいんだけど。ただ僕はいわゆる普通の笑いにしなくてもいいよなと思っていて、だけどふざけるのは三人共好きだしな、という変な矛盾があるんです。それと最初の『鈍獣』の時は、僕たち三人が他の登場人物よりもどこかズレている人たちだったんだけど、第二弾の『印獣』の時から女性ゲストを呼んで、その人物が変で、僕たちは翻弄されるほうに回るようになったんです。なんでそういう流れになったのかは、これも謎です。それと毎回、僕が宮藤くんに言うのが、三人がそれぞれ同じ方向を向かずに対立軸があるようなシーンを作ったほうがいいと思う、ということ。必ずこれは言っているはずなのに、忘れちゃうんだろうな(笑)。今回も、三人共同じように騙されてるみたいなことになっているので、そこを書き足してほしいと言っているんだけど。
ーー宮藤さんは宮藤さんで、考えもあるだろうし。
それもあるし、今は役者として手一杯になっているから、果たしてどうなるか。こんなことばかり言っていますが、稽古が進んでいけば僕ももう少し前向きになれるかも。いや、だいたいお芝居の稽古中は、いつもこんな感じかな。うまくいかないなーと思いながら、毎日暮らしています。
ーーでもこの半年くらいの間、お芝居ができない期間もあったりして、気持ち的に変化はありましたか。
やっぱり、それはありましたね。でも僕は仕事があったほうなので、お芝居ができない苦しみというのはそれほどなかったんです。だけど人の価値観はそれぞれ、すごく違うんだなということは改めて思いました。どういう作品をやるのかということもそうですけど、どう生きるのかということも考えましたね。僕はこうだけど相手にそれを求めちゃいけないんだろうな、とか。そういうことは議論すべきだと思うんだけど、そういう点については閉塞した国だよなとも思うんです。そんなこともあったから、今回は乱暴な作品にしようとしたのかもしれない。思いっきり前向きな、いい話はやっぱり宮藤っぽくも、僕たちっぽくもないし。でも、さっき言ったみたいに「なんかこれ、得体がしれないぞ、人も社会も」とか「なんだか妙に気持ちが悪いなー」っていうことは匂わせたいんです。「隣の人を、そんなに信じられる?」ってことですよ。「人が騙されちゃう点ってどのへんなんだろう?」とか考えたりできる芝居のほうが、いいような気がするから。ちょっとインタビューにかこつけて今日は文句ばかり言ってしまいましたけど。やる気だけはありそうです、と書いておいてください(笑)。ともかく、劇場にいらっしゃるお客様をちょっと変な気持ちにしたい。つまり「わーい、面白かったー」ってゲラゲラ笑えるところももちろん欲しいけど、それと同時に、ふと気持ち悪い心持ちになってくれたらとも思うんです。
池田成志
東京公演は10月6日(火)~11月1日(日)PARCO劇場にて上演、その後、長野、北海道、京都、福岡、高知、沖縄でのツアー公演も行われる。なお、東京公演は9月26日(土)よりチケットの追加販売を開始している。
取材・文=田中里津子 撮影=阿部章仁

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