和楽器バンド、「これからもライブし
ます!」音楽の力を再確認し、ファン
との絆をより強固なものにした横浜ア
リーナ公演をレポート

和楽器バンド『和楽器バンド 真夏の大新年会 2020 横浜アリーナ 〜天球の架け橋〜』

2020.08.16 横浜アリーナ
「ペンライトとクラップと気持ちで最高の一日作りましょう! 十分伝わってるから!!」
 ライヴ序盤、鈴華ゆう子(Vo)は声を上げることも一緒に歌うことも出来ない、通常とは異なるライブマナーに戸惑いを見せているファンに笑顔で力強く呼びかけた。8月15日(土)16日(日)横浜アリーナにて、和楽器バンドがワンマンライブ『真夏の大新年会2020 天球の架け橋』を開催。本来は2月29日、3月1日に毎年恒例の“大新年会ライブ”を両国国技館で開催する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、直前で開催中止。時期も会場も変更しながら“真夏の大新年会”のタイトルを掲げ、収容人数を制限しての有観客ライブ&全世界に向けての配信ライブという形で、リベンジと言えるアリーナ公演を行った彼女ら。しかしライブイベントにおける規制が緩和されてきてるとは言え、通常営業には程遠い昨今。このステージに立つには、並々ならぬ覚悟もあったはず。
華やかなオープニング映像から、1曲目「IZANA」で始まった真夏の大新年会。優雅で壮大な演奏に乗せて、美しい歌声を響かせてリフトで降りてくる鈴華は神々しく、大げさに言えば暗雲立ち込む現世に音楽で光を与えるべく降臨したようにさえ思えた。続いて、「真夏の大新年会、行くぞ!」の黒流(和太鼓)の煽りで、火柱上がる中「Ignite」の熱演で会場の空気を変えると、「Valkyrie-戦乙女-」、「いろは唄」とアップテンポな曲が続く。
亜沙(Ba)、山葵(Dr)、黒流の生み出すビートに乗せて、町屋(Gt/Vo)がアグレッシブなプレイで魅せると、蜷川べに(津軽三味線)、神永大輔(尺八)、いぶくろ聖志(箏)の和楽器隊が楽曲を賑やかに華やかに彩る。生ならではの迫力ある演奏にオーディエンスがペンライトを振ってクラップを打って全力で気持ちを表現すると、鈴華がその一人ひとりに力強く丁寧に歌と言葉を届ける。厳しいガイドラインの中でも確実に一体感が生まれているのが分かるし、画面の前で配信ライブを見ていた視聴者もきっと自身も含めた一体感を感じていたはず。
和楽器バンド
MCでは中止になった国技館公演を振り返り、この日ライブが行えることの喜びや感謝を語った鈴華。続いて町屋、蜷川、いぶくろの弦楽器隊による勇ましく美しいセッションで会場中を魅了すると、「World domination」「起死回生」と続くポップなナンバーに手拍子や振り付けを合わせるフロアに明るい空気が広がる。雄大なバラードソング「オキノタユウ」から神永の尺八ソロ、黒流の重厚な和太鼓に鈴華の雅やかな剣舞も魅せたセッションと見どころ満載だった中盤戦。メンバーそれぞれが存分に個性を発揮して魅せ場を作り、再びメンバーが定位置に戻って「Break out」の演奏が始まった時、「この8人が揃ってる和楽器バンドってとんでもねぇな!」と改めて思った。
MCではライブの構成はほぼ国技館公演そのままで、客演を入れずメンバー8人だけで作ったライブだということを説明し、「この8人でやれていることで改めて自信が付いた」と語っていた鈴華だったが。メンバー各々が持つ高いスキルを十二分に活かして、日本の伝統を重んじつつ、新しく趣向を凝らした演出で魅せる和楽器バンドのステージは世界に見せたい日本の宝! 国技館公演の開催中止、ガイドラインに従いアリーナ公演を8人だけで作り上げたこと、収容人数を制限して世界に向けた配信ライブを行ったこと……どれも本意ではなく苦肉の策だったと思うが。結果、そのどれもが今後の和楽器バンドの大きな成長と飛躍に繋がる重要な出来事になるような気もする。
鈴華と町屋が息の合ったコンビネーションを魅せた「シンクロニシティ」、鈴華のキュートな一面を見せた「ワタシ・至上主義」と続き、撮影&拡散OKの黒流☓山葵による和太鼓ドラムバトルで会場を沸かせると、ライブは終盤戦へ。鈴華の誘導でペンライトを合わせた「雪影ぼうし」、多幸感溢れる「地球最後の告白を」と続き、本編ラストは会場中の温かい手拍子とペンライトの光に包まれての「情景エフェクター」でフィニッシュ。ペンライトとクラップと気持ちで最高の一日を作ることが出来る。和楽器バンドはそれをライブでしっかりと証明した。
アンコールでは、定番となっている「暁ノ糸」の大合唱が出来ないため、全国のファンから送られた歌唱映像をスクリーンに流し、会場にいるファンは手拍子と心の合唱でアンコール。ステージに再びメンバーが登場すると、「初日は不安いっぱいで、「歌っていいの?」という気持ちだった」と告白した鈴華。「でもみなさんの毅然とした意思を感じて、たった一日で違うステージで歌っているような気持ちになれた」とこの2日間、ファンのおかげで自信を持って歌えたことを伝え、心から感謝を告げる。さらに「これからも「ライブします」と発表していきます」と宣言し、会場にいるオーディエンス、そして配信を見守る全世界のファン、さらに全国から歌唱映像を送ってくれた人たちの気持ちに返礼すべく、「暁ノ糸」を披露。さらに自粛期間中に全員で曲を書き上げ、完成したという10月リリース予定のアルバム『TOKYO SINGING』から、突き抜けるような壮大さを持つ新曲「Singin' for...」を披露。ラストは「千本桜」で華々しく締めくくり、アリーナ公演の幕を閉じた。
和楽器バンド
ライブ終了後は最新アルバム『TOKYO SINGING』の発売と、10月から始まるリリースツアー『JAPAN TOUR 2020 TOKYO SINGING』の開催を発表。本当にライブをやっていいのか? 歌っていいのか? 大きな不安や葛藤を8人で乗り越え、強い覚悟をもってこの日のステージに挑んだ彼女らは結果、2日間で音楽の力を再確認し、ファンとの絆をより強固なものにした。彼女らはきっともう迷わない。ここからは音楽とファンを信じて、前進するのみだ。最新アルバムの発売とリリースツアーをファンと共に大いに期待したい。
また今回、コロナ禍で苦境に立つ日本の伝統芸能文化をサポートする“たる募金”プロジェクトを開始。第一弾として、廃業を発表した津軽三味線老舗メーカーである東京和楽器への支援寄付が行われ、この支援は引き続き行われていく。

取材・文=フジジュン 撮影=Keiko Tanabe
「Singin’ for...」

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