odol――日常に寄り添いながら、リス
ナーの感覚をアップデートする存在【
SPICE×SONAR TRAX コラム vol.4】

シンガーソングライター的に人間の心の成長を描く表現と、器楽的にユニークなアンサンブルを追求するアートロックは、一つのバンドの中で目的を共有しづらいイメージがある。というか、日本のバンドシーンの中でそれを共存させながら、一部のコアなシーン以外に広がりを持てるバンドが少なかったのかもしれない。だが、odolは活動当初から、そうした二元論や珍しさに囚われていないバンドだ。自分たちがまだ聴いたことのないと同時に、音楽だからこそもたらすことのできる普遍的な感覚を、ただ自然に追求するスタンスは揺るがない。
2010年代のシーンの中でユニークな存在感を醸しながら活動してきたodolが、生活者の日常を彩るCM音楽やタイアップに多く起用されてきたのはすごく納得がゆく。’ 16年の「years」が日本郵便『ゆうびん.jp/郵便年賀.jp』、’ 19年にはアース製薬「温泡」のTVCMに「身体」を書き下ろした。そしてこの度、radikoブランドムービーのために書き下ろした新曲「小さなことをひとつ」が6月10日から先行配信されている。なかなか会えない誰かへの想い、久しぶりに会えたら何を話そうかなという、ちょっとくすぐったいような気持ち。開放されているときに忘れているような体の感覚。しかし温度を感じることでニュートラルな気持ちに戻れるような、体の正直さ。人間という生き物の普遍性を不可思議さを交えて描くこのバンドの筆致は、もはや誇大広告やフェイクが通用しない現代におけるコミュニケーションに、当たり前の誠実さを改めてさりげなく思い出させてくれる。
今回の「小さなことをひとつ」がradikoのブランドムービーのために書き下ろされたことは、最新の音楽やカルチャーと出会うこともあれば、人の声やよりリアルな会話を双方向性も伴って聴くことができ、著名アーティストから市井の人々まで、他のメディアでは聴くことのできない肉声が届けられたりもするラジオというメディアに、いま再び光が当たっていることと無関係ではないと思う。新型コロナウイルスの流行以降、思うように人と会えない状況にあっても、じっくり人の声を聴けるメディアがラジオなのだ。
肝心の楽曲についていえば、odolの大きな魅力である作曲者である森山公稀のピアノが牽引し、バイオリンとチェロが楽曲の主人公の周りで羽ばたくように奏でられる。ベースも共に歩くような穏やかさだし、打楽器はブラシとごく少しの鳴り物ぐらい。だからと言ってただオーガニックなだけではなく、曲が持っている呼吸や歩調に沿う有機的なアレンジが施されているのが特徴だ。そしてミゾベリョウが書いた歌詞も声色も、その中に溶け込んでいることに気づく。彼の歌の表現は、去年来好評な相鉄線都心直通記念ムービー『100 YEARS TRAIN』テーマソング「ばらの花 ✕ ネイティブダンサー」で、yui(FLOWER FLOWER)との柔らかくもフラットなデュエットで広く知られることになった。生来の朴訥とした声質と過剰さのない表現は、誠実さと無邪気さを同時に届け得る。
決して今の状況を意識して書いた曲ではないだろうけれど、例えば歌詞の一節にあるように、寝起きの些細な話やら、一緒に歩いている人の影が夕闇に混ざる感じとかーーちょっとしたことを感知することで、人と人のあいだの大切な記憶は増えていくのだ。今、もう文字通りの以前の生活に戻れないのは自明だが、新しい大切な記憶はこれからも増える。odolが確かな支持を集めている理由はそんなところにもある。
6月24日には「小さなことをひとつ」を含む3曲入りのデジタルEP『WEFT』もリリース。2020年後半に向けたodolの表現の幅を垣間見れることだろう。

文=石角友香

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