ケラリーノ・サンドロヴィッチと緒川
たまきが新ユニット「ケムリ研究室」
を結成! オンライン取材会で秋の新
作上演についても語る

ナイロン100℃を主宰し、劇作家、演出家、音楽家、映画監督など多彩な顔を持つ、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が、女優・緒川たまきとともに、新たなユニットを結成する。ユニット名は、その名も「ケムリ研究室」だ。今回、KERAと緒川が、ユニット結成披露記者会見をオンラインで行い、立ち上げの経緯や今後の構想など熱く語った。

  
ユニット旗揚げ第一回新作公演『ベイジルタウンの女神』の上演も発表された。出演には、緒川たまきのほか、仲村トオル、水野美紀、山内圭哉、吉岡里帆、松下洸平、尾方宣久、菅原永二、植本純米、温水洋一、犬山イヌコ、高田聖子など、強力な話題のキャストが集い、「ケムリ研究室」の立ち上げを華々しく飾る。

ユニット「ケムリ研究室」のロゴ
ーー今回、お二人がユニット「ケムリ研究室」を立ち上げた経緯をお聞かせください。
KERA:『キネマと恋人』の初演時(2016)に、そもそも二人の企画で立ち上げようというのがあったんですよ。それがいろんなさまざまな事情で、まだ時期尚早ということになりまして……それでようやくこの度ということになったんです。あってるよね?(笑)
 
緒川:ユニットを立ち上げるということになると、たくさんの方を巻き込んで、それなりに大きなお力をお借りしながらでないとできないこと。2人の中で「いずれこんなことがやれたらいいな〜」という思いは5、6年前からあって、ずっと温めていました。今回、このように「ケムリ研究室」と名前をつけて、たくさんの方にご協力をいただいて、ユニットを打ち出すための作業を始めたのは、去年、一昨年ぐらいからですかね。
 
ーーどんなコンセプトなのでしょうか?
 
KERA:ユニットのコンセプトは特になく、作風も公演ごとにバラバラだと思うんです。ただまぁ緒川さんはクレジットがなくても、ナンセンスものはこの限りではないんですけど、たいていの作品、特に人間ドラマ色の強い作品はノンクレジットでもほぼ共同脚本みたいな形でずっとやってきて。いろいろと相談して、共同作業みたいな形で作品をつくってきたんです。
 
「ケムリ研究室」というのは、ここらで公に、「2人で作る」ということを打ち出すという意味で。世にいろんなユニットがありますが、本当はね、何から何まで2人で手作業でやりたい気持ちはあるんです。でもできないからね、実際(笑)。結果的には傍からみると通常の公演と何が違うんだ! となるかもしれないですけど、心持ちはだいぶ違いましたね。いろんなキャスト・スタッフを集めてみたときに、緒川さんが通常だったら出演者の一人という立場でしょうけど、今回はユニットの主催者というか企画者というか……だから、ちがうでしょう?

ケラリーノ・サンドロヴィッチ
緒川:そうですね。まだ走り始めたばかりで、ほかのキャストの方との作業はこれからなので、見えていないところはあるんですけど。いちキャストとしてよりも、もう少しゼロから生み出すことの大変さ、それを喜びに変える作業を、もう少し能動的にできるだろうし、他のキャストの方ともそういうことを分かち合いやすくなるというんでしょうか。ただ、始まってみて、形になって、徐々に輪郭ができるものだと思うので、まだ今は何ともいえないところがあります。

ーー「ケムリ研究室」というネーミングの由来は?
 
KERA:これは緒川さんの発案ですよね。
緒川:そうはいってもケラさんは「○○研究所」とか「○○ラボラトリー」とかの表現がお好きで。もともとケラさんの少年期に映画の研究というか、古い映画などへのノスタルジー……というと終わったことのようですけど、作家としてのケラさんの本質的なところに、好きな作品への愛情や、オマージュとして自分の作品に込めるとか、そういったところが持ち味としてある。だから、研究室というのがいいな、とてもわかるなぁと伝えました。その○○のところは、過去のケラさんの作品に出てきた、ケラさんを投影した人物の名前がたまたまケムリという……。
KERA:辻煙という、2008年上演『シャープさんフラットさん』の自分自身を投影したキャラクターにちなんで。
 
緒川:それもあって親しみがあるんですね。ケムリって。また、聞く方によって、いろんな想像がふくらむところがいいなぁと。なかなかこうですよという答えが一つじゃないところがいいなと思い、すっと決まりました。
 
KERA:そうね。どんな芝居をやるかあんまりネーミングからイメージできない方がいいかなというのもあって。
緒川:それに研究室なので、失敗したら次こそは、こんなこともやってみよう、あんなこともやってみようということにもつながるかな。
ーー今後、それぞれにやりたいことがございましたら教えてください。
 
KERA:今年やって、とりあえず3公演ぐらいはどんどんやっていきたいなと思っているんですけど、そう思っている時にコロナがやってきてしまいまして。この公演の時期に無事に開幕できるのかという不安もあるんですけどね。とりあえず頭の中には3本分ぐらいの構想はありますが……思ってもみなかったね。
 
緒川:そうですね。立ち上げということも含めるとなかなか言い出しにくいというか、こんな大変な時期にいろんな方を巻きこんで何かを立ち上げるというのが……。本当にいろんなことを考えさせられるんですが、そうは言っても探っていくしかないなと。
 
KERA:諦めたら進まないからね。
緒川:劇作家としてのケラさんは、ご一緒するキャストの方からよく言っていただくのは、群像劇が非常に魅力がある。そして群像劇と言うと、たくさんの人が出るから埋もれてしまいがちな人がいそうと想像しますが、ケラさんの群像劇となると、ちょっとしか出ないような方でも人物に愛が注がれていて、やっていて面白いんだ、と言っていただくことがある。
それでケラさんも、ご自身で群像劇を得意にしているというのはインタビューなどでも度々耳にしているんですけど。ただ、その一方で短いお芝居、また、登場人物が3人とか4人とか、短くて少人数のお芝居の場合は、ほかの劇作家の方の作品はとても好きで、評価することも多いのに、「自分で作ってみたら?」と言ってみると二の足を踏むということがありまして。
私が初めてケラさんと演劇で出会ったのは、岸田國士作品のコラージュと言いましょうか、短い作品をいくつかつないだ公演でした。ケラさんは、岸田國士という作家への愛情と言いましょうか、尊敬と言いましょうか、そういうものが作品作りの中で芽生えていて、そして演出されている時もいきいきとしている。だったら、ケラさん自身が生み出す作品にも、そういうものを作れるんじゃないかと私はずっと思っているんですが、なんとなく尻込みしているんですね。なので、このケムリ研究室ではそういったことにもぜひケラさんにはチャレンジしてもらいたいなと思いますし、うんとコンパクトなお芝居を作る作家にもなってもらえるんじゃないかな、と企んではいます(笑)。
オンライン取材会での様子
KERA:一本目は長くてたくさんの人が出てくるけどね。
 
緒川:そうですね。そういうのはもちろん、やりたいと思った時がやりどきだというフットワークの軽さはあったほうがいいとは思うんですが。
ーー秋の新作について伺います。現段階の構想を教えてください。
 
KERA:一作目なんで賑やかな方がいいかなと思って。結構たくさんのひとに声をかけました。ずっと一緒にやりたかったけどできなかった人とかね、楽しみなキャストがそろってくれました。あるキャリアウーマンが、大企業の社長さんなのか、政治家なのかわからないですけど、それまで体験したことなかったような、具体的に言うと、スラム街に行って、浮浪者たちと一緒に生活をすると言う話なんですけどね。割と小説や1930年代のハリウッド映画には連綿と繰り返し使われているシチュエーションですが、それをどう料理するかということなんですけど。……だいぶ前に決めたよね?
緒川:そうですね。今回もそうなんですけど、ケラさんの作品は、核となるヒントを得た映画が出てきて。ケラさんは映画少年でもあったので、「演劇と映画のつながりかた」というものもケムリ研究室では追求したいところです。出発点が例えば映画からヒントとなっても、まるきり脱線していくこともあると思います。ただ、脱線しちゃ悪いとかいいとかじゃなくて、なにかこの演劇の映画的なところが好きだとか、映画を見ているんだけれどもこの映画の演劇的なところが好きだとか、そう言った気持ちをくすぐれるようなものになるといいなと私は勝手に思っています。
 
ケラさんは皆様知ってくださるように、稽古と同時並行で脚本を書くことが非常に多いんです。今回、協力してくださるキャストの皆様と初めての方もいます。その方たちの生の魅力と稽古場でキャッチボールをしながら、どう転ぶかというのが楽しみなところです。
 
KERA:コロナがあって、稽古の仕方とかも結構変わってきているでしょ。長時間できないとかあるのかもしれないし、わからないね、手探りだね。ものすごい人と人とが距離をとって、必ず2メートル距離をとる芝居になるかもしれないよね。
 
緒川:ありえますよね。
 
KERA:シャレになんないんだよな、これ……。
 
緒川:いろいろな障害は、我々の公演に限らずどうしても戦わないといけないところなので、頑張りましょう。
ーー新型コロナウイルスの猛威により「舞台と客席が、濃密な劇空間を共有する」という舞台芸術の魅力が、根底から揺らぐ事態となりました。次回作品に向けて前向きな姿は多くの人々が勇気づけられると思いますが、一方で本当に上演できるのだろうかという気持ちもあるのではないかと思います。いまのKERAさん、緒川さん自身の率直な気持ちをお聞かせください。
 
KERA:ぶっちゃけ、たまったものじゃないというのがあるんだけれど、ただみんな一斉に同じ状況におかれたわけで。自分しかやりたがらないところ、自分にしかできないことは何があるだろうと。自分らしいものづくりを、この制約の中でどうできるかというのを考えていました。
 
夜中にいつも二人で散歩をして、大抵いつもコロナの話になるんですけど、こういうことがなかったら落ち着いて考えられなかったことをいっぱい考えたし、こういう状況にならなかったら見えなかったことがたくさん見えてきたし、それは明らかに今後の作品作りに良くも悪くも影響を及ぼすと思うんですね。違うものになると思うんです。
  
コロナは極端ですけれど、普段からある意味小さな偶発性に委ねて、例えば偶然読んだ話とか、聞いた話にインスパイアされて、それが作品に反映されるのと同じ。極端な例が今回だと思うんです。辛い面を見るときりがないんですけど、演劇人がみんなこういう時間を経験したことによって、すごく新しいものが生まれるかもしれない。
 
それに、お客さんがすごく協力的なんです。本当にありがたいことなんですよね。どうなっても仕方がないと受け入れてくれるし、その期待に沿えるようにしたいです。お客さんのためだけにやっているわけではないですが、僕らがやれる、やりたいことがやるというのが結果的にお客さんの期待に応えられるよう、頑張っていかなきゃならないですね。
 
緒川:我々のような、お届けする側だけではなくて、演劇を観に行けていないこの期間を経て、演劇を観られますとなったときにどんな気持ちで座席に座るかな、そして一つひとつのシーンや役者の白熱したお芝居の中でどんなことを思ってくださるのかな、とわからない部分もあります。
 
今後、いち観客としての感覚、そして作り手としての心構えというのはある程度流動していくでしょうし、流動していく中でもなるべくへこたれないようにしたい。それが一番かなと思っています。なかなか以前のように恵まれた形で、というのは叶わないかもしれませんが、そういうことは常に頭に置いています。
緒川たまき
KERA:基本ね、演劇やっている人は舞台に立ちたいし、生のお客さんの前でやりたいという思いは変わらないと思うんです。けど一人ひとり、キャストにせよ、スタッフにせよ、みんな置かれている立場が違う。一人で暮らしている人間と、子どもがいる人間と、親と一緒に暮らしている人間とはまた違うだろうし、人生観が違う。そういう難しさもあります。
 
そういう人たちが集まって毎日稽古する。「芝居やるんだからいいじゃないか、やろうぜ」という強引さだけでは引っ張っていけない、ひとそれぞれの思いというのがあるので、それが集まって、一つのものを作って、それをお客さんに見せるというのは、みんながポジティブに最後まで幸福に過ごすというのはかなり現時点では難しいとは思うんです。だから、随時確認しあいながら作っていかないといけない。
 
緒川:確かに、それぞれがデリケートな確認をしつづけないとなかなか難しいですよね。稽古というのは、とても幸せな時間なんですけど、この事態に限って言えば、稽古の中に潜んでいるいろんな思いや危険というものに思いをはせていないと、誰かを苦しめることになりそうなので。デリケートな日々になるんだろうなとは思います。
 
KERA:『古川ロッパ昭和日記』という本を折に触れて読むんですね。その本の戦中編には、戦時中に空襲警報が鳴るなかみんな芝居を観ているんです。お芝居を観ていると、空襲警報が鳴ると、客は客席を離れて隠れ、またしばらくすると戻ってきて、続きを観る。少なくとも今、空爆はない。現時点では。そういうリスク下にある人間の状態というのも、不謹慎な言い方をすると興味深いことだったりするし。
 
緒川:やる側も観る側もそこに愛があるということがとても頼もしいし、面白い。
 
KERA:その当時の人にくらべれば、まだ僕たちは、という気持ちがある。
 
緒川:そうですね、科学の力を借りてまだできることがいろいろあるでしょうし。
 
KERA:まだ上演までの数ヶ月で状況がどうなるか分かりませんが、僕らができるかぎりのことをやっていきたいと思っていますので、ぜひとも客席でお会いできることを楽しみにしております。
 
緒川:なんとか形にしてみなさまにお届けできるように頑張りますので、劇場に遊びに来てください。その頃までに、劇場でお芝居を見ていただける状況になっていることを私も祈っています。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(左)と緒川たまき
ケムリ研究室 no.1『ベイジルタウンの女神』は2020年9月に東京公演、10月に各地公演を予定している。

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