アダム・クーパー「喜びのエネルギー
を老若男女にもたらすミュージカルで
す」 ~『SINGIN’ IN THE RAIN~雨
に唄えば~』インタビュー

アダム・クーパー主演の『雨に唄えば』が帰ってくる。2011年に英国で誕生し、ウエストエンドでの高い評価をひっさげ、2014年に日本で初上演。2017年の日本公演も大好評を博した、今やアダムの代表作の一つとなっているミュージカルだ。ジーン・ケリーの当たり役だったドン・ロックウッドに新たな吹き込んだアダムが、3年ぶりの再演を前に思うこととは――。
ドン・ロックウッドの“脆さ”に共感する
ーーまずは改めて、『雨に唄えば』という作品との関わりについてお聞かせください。原作映画との出会いは?
初めて観たのは、確か8歳か9歳くらいの時だったと思います。兄と僕は、古いハリウッド映画を観るのが大好きだったんです。その時に、この作品が持つエネルギーと、主演のジーン・ケリーへ強く惹かれたのを覚えています。いつか自分もこんなことができるようになりたいなあと思っていたら、本当にその機会が巡ってきたというわけ(笑)。
ーー2011年に初演されたこのジョナサン・チャーチ演出版に携わる前に、2004年には自ら振付された『雨に唄えば』にも主演されていますよね?
ええ。ただやはり、振付と主演の両方に100パーセントの力をぶつけることはなかなか難しくて。主演に集中できた今回のプロダクションのほうが、初演の時から満足度が高かったです。ドン・ロックウッドの人物像を深く追求することができましたし、またその後、再演を重ねる中でもさらに掘り下げることができました。
アダム・クーパー 撮影:野津千明
ーードンを演じる上で、特に大事にしていることとは。
キャシーと出会う前と後の変化、でしょうか。出会う前のドンは、ちょっと勘違い男というか(笑)、えらそうで自信満々なところがある。でも彼女と出会って惹かれ合うことで、人間として成長していくんです。また、ずっとやってみたかったこのような役を演じ続けられることに、感謝の気持ちを忘れないことも大事にしています。
ーーそんなドンと、アダムさんご自身との共通点は?
自信満々に見えるドンの中にある、「役者として、自分はこれでいいのだろうか」という不安や脆さにはすごく共感します。僕自身、この作品に初めて出た時には、「こんなにスケールの大きい作品の主役が自分でいいのだろうか?」という不安が少なからずありました。それは、パフォーマーならば誰でも体験したことのある気持ちだと思います。
演劇だけが持つ、特別な“力”
ーー3年ぶりの再演となりますが、ドン・ロックウッドはその間もずっとアダムさんの中にいた感じですか? それともこれから呼び覚ます?
ドン・ロックウッドは、僕の人生の中でもかなり大きな一部分を占めている特別な役ですから、常に体の中をウロウロしています(笑)。音楽を聴くだけで、役が目覚めるような感覚があるのは確かです。ただ、せっかく再演する以上はやはり、新鮮な気持ちで取り組みたい。新たなカンパニーとともに、自分自身の3年間の経験も生かしながら、2020年のドン・ロックウッドを作り上げたいと考えています。
『SINGIN’ IN THE RAIN~雨に唄えば~』舞台写真 撮影:阿部章仁
ーー演出や振付にも、新しい要素が加えられたりするのでしょうか。
まだ稽古が始まっていないから確かなことは言えないけれど、振付のアンドリュー・ライトは、何かしら変更を加えたいと言っていました。基本的な構成や、この作品が持つエネルギーは変えることなく、新しい要素も取り入れてより良いものにできたらと思います。
ーーこれほど何度も再演される、この作品の魅力はどこにあると思われますか?
やはり、大きな喜びのエネルギーを提供していることでしょうね。素晴らしいダンスと歌が満載で、パフォーマーと観客が一体化する瞬間がたくさんある。また、何度も観てくださっているお客様が、“自分の作品”として楽しんでくださっていることも大きいと思います。たとえばハプニングがあったりしても、皆さん一緒になって笑ってくれるんです(笑)。
アダム・クーパー 撮影:野津千明
ーー最近のブロードウェイ作品などとは一線を画する、クラシカルなミュージカルであるという点もまた魅力の一つかと思います。
そうですね。原作映画が作られた当時(1952年)、世界は喜びを必要としていた。ミュージカル映画が人気を博していたのは、それが現実逃避の手段でもあったからではないかと思います。だからこそ、観たあとに気分が高まって、人生に対して楽観的になれるような作品が多く生まれた。『雨に唄えば』もその一つで、そこは大きな魅力だと僕も思っています。
ーーそういう意味では、今こそ再び求められている時代でもあるのかもしれませんね。
その通りだと思います。演劇には、観る側だけではなく届ける側にも喜びや幸せを与える力がある。僕はちょうどこの作品のロンドン公演中に父を亡くした経験があるのですが、その時も劇場に行って、コミュニティの仲間とお客様に支えてもらったことが大きな救いになりました。苦しい状況の中で、ほんの2~3時間でもスイッチを切って、作品の中の時間と空間に生きる。それは、演劇だけにある特別な瞬間なのではないかと感じています。
家族のような日本の観客の前で
ーー大きな見どころである、舞台上に12トン(今回から14トン!)もの雨が降り、アダムさんがそれを楽しそうに蹴り飛ばすシーンについてもお聞かせください。
『SINGIN’ IN THE RAIN~雨に唄えば~』舞台写真 撮影:阿部章仁
あのシーンはもう、本当に大好き(笑)。恋に落ちたドンとしての喜びに加えて、お客様とのつながりを感じられるという、僕自身の喜びもあるシーンなんです。前列のお客様が、水を浴びて「キャー!」って言ってくれているのを見ると、すごく楽しい気持ちになります。パフォーマーと観客が一体化している、と強く感じる瞬間の一つですね。
ーー観客という点で、日本とほかの国との間に、反応などの違いは感じられますか?
個人的な話になりますが、僕にとって日本は特別な国。僕のことを長く応援してくださっている方が多いから、日本で舞台に立つ時は、家族や友達の前でパフォーマンスするような気持ちになるんです。それは、毎晩色々な国から様々なお客様が集まって来る、ロンドンでは体験できない気持ち。今回も、そんな日本で公演できるのが本当に楽しみです。
ーー3年前と比べ、日本ではミュージカル熱がさらに盛り上がっています。ただ、まだまだ男性客が少ないので、ぜひ男性も観に行きたくなるようなひと言をお願いできればと……!
この作品は本当に、年齢や性別を問わず、誰でも楽しい時間を過ごせるものだと思います。恋に落ちたことがある人なら誰でも共感できるストーリーだし、コメディの要素が強くて笑えるし、美しい女性も男性も登場するし(笑)。サイレントからトーキーへと移り変わる時代のハリウッドが舞台になっているから、映画に興味がある人にもオススメです。男性も女性も老いも若きも、喜びのエネルギーをもらいにぜひ劇場へいらしてください!
アダム・クーパー 撮影:野津千明
取材・文=町田麻子

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