どこからどこまでが作品?! 演劇の
枠組みを揺さぶるシベリア少女鉄道新
作『ビギンズリターンズアンドライジ
ングフォーエヴァー』初日レポート

土屋亮一の率いる「シベリア少女鉄道」32回目の本公演となる『ビギンズリターンズアンドライジングフォーエヴァー』が、池袋シアターグリーンBIG TREE THEATERで2020年2月5日(水)に開幕した。公演は2月16日(日)まで。
初日の公演をレポートすることになったが、当劇団の演劇は未見だったので事前に調べてみた。作品はどうやらだいたいどれも前半と後半に分かれていて、比較的シリアスな芝居がしばらく続いたのち、ラスト数十分で大どんでん返しが繰り広げられるようだ。演劇という枠組みを使って、どこまでバカバカしいことができるかに20年以上にわたって挑戦し続けてきた劇団らしい。(公式サイトに「シベリア少女鉄道がちょっとだけわかる動画」として貼られていたこちら→https://youtu.be/miC4pnPDzRc も参考になった)。そんな作風のため、ネタバレ厳禁。どうやらファンもその不文律を忠実に守っているようで、劇団とファンとの間の理想的な共犯関係がうかがえる。
シベリア少女鉄道『ビギンズリターンズアンドライジングフォーエヴァー』(撮影/引地信彦)
劇団の特性を予めなんとなくつかんだところで、本公演のタイトルを見てみるとこれは『バットマン』シリーズ? 観たことがあるのは『ジョーカー』くらい。紫色のライトのなかに浮かぶコウモリの影が舞台上に映し出され、『バットマン』のテーマ(らしき曲)が流れる会場に入り、当日パンフレットをめくったところ、「ごあいさつ」の欄にこう書かれている。「諸般の事情により、作・演出の土屋亮一からのコメントは掲載出来ませんでした。ご了承ください。」 そうか、きっと作品を仕上げることに切羽詰まってコメントを書く余裕もなかったのだろう。演劇って大変だな。
たまたまとなりの席にナカゴー主宰の鎌田順也氏がいたので、シベリア少女鉄道について聞いたりしているうちに幕が開いた。浅見紘至(デス電所)演じる〇〇が✕✕を振り回し、篠原正明(ナカゴー)演じる△△もまた✕✕を振り回す。序盤から会場には笑いが起きていたが、これは本当に理解できないまま終わるのでは……とますます不安が募るなか約30分が経過したところで展開ががらりと変わった。
シベリア少女鉄道『ビギンズリターンズアンドライジングフォーエヴァー』(撮影/引地信彦)
それ以降のことは、なにを言ってもネタバレになってしまうのだが、おなじくネタバレ厳禁の映画『パラサイト』のように、展開が多すぎて多少のネタバレをしたところでなんのこっちゃ通じないだろうし、通して観てみないと全容がつかめない……というより、もう一回最初から観ていろいろ確認したくなるつくりだった。リピート割があったら助かる。そうでなくてもこの「どこに連れていかれるかわからない」感は稀有だ。作・演出の土屋亮一が事前にコメントしていたように、「これ何やってんだっけという地平に」一緒に吹き飛ばされる快感が味わえる。
ちなみに、「平日お仕事おつかれさまセット」という平日の夜公演にのみ無料配布されるおまけがあって(※土日祝の公演では有料販売を予定)、漫画家の米代恭によるイメージビジュアルが印刷されたクリアファイルのなかに、終演後に開封するよう注意書きされたおたのしみコンテンツが封入されているのだが、「ああ、こんなバカなことに労力をかけられる大人がいる世界、愛おしい」と思わされる代物だった。本編をみながらピンとこなかったあれこれや元ネタと思われることがらを調べ直すのもおもしろく、1時間40分の上演時間が終わってからも作品の効用がつづいているようだ。よく見るとそもそもこのメインビジュアルも…! 劇場の外でまで観客を楽しませようとする劇団なのだとつくづく実感。
と、この原稿を書く前にあらためて当日パンフレットを手に取り、「ごあいさつ」の欄を見つめながら「……そういうことか!」と叫ぶのだった。
取材・文=碇雪恵

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