大地真央主演の音楽劇『ふるあめりか
に袖はぬらさじ』明治座で開幕 陽気
に華やかに力強く

横浜に実在した遊郭を舞台にした音楽劇『ふるあめりかに袖はぬらさじ』が、東京・明治座で文化の日の11月3日(日)に開幕し、27日(水)まで上演される。初日の終演後には会見が開かれ、主演の大地真央、共演の矢崎広、中島亜梨沙、佐藤B作、横内正、久保田磨希、未沙のえる、そして温水洋一が登壇した。公演と会見の模様をレポートする。
大地真央の横顔が美しいメインビジュアルと、歴史を織り交ぜた物語の設定から、重厚な作品の想像する方もいるかもしれない。たしかに根底にあるテーマは、骨太なものだ。しかし音楽の力と大地のコメディエンヌの才により、劇場は終始、笑いと拍手に溢れていた。
音楽が創り出す、名作戯曲の新たな表情
2017年の初演が好評を博し、2年ぶりにしてはやくも再演が実現した『ふるあめりかに袖はぬらさじ』(以下、『ふるあめりか~』)。有吉佐和子が自身の短編小説を戯曲化したもので、1970年初演時は杉村春子が、その後は水谷八重子や坂東玉三郎など名だたる俳優が主演をつとめ、再演を重ねてきた。
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』舞台写真
しかし「音楽劇」として上演されたのは、2017年版(主演:大地真央)が初めてだった。潤色・演出は、原田諒(宝塚歌劇団)。音楽は、玉麻尚一(宝塚歌劇団の関連作、ミュージカル『HEADS UP!』、2.5次元ミュージカル『忍たま乱太郎 第10弾』等)。劇中で鍵となる唄は、人間国宝の今藤政太郎が作曲。
幕末の横浜に実在した遊郭で
横浜が開港したのは、安政6(1859)年。来日外国人の急増にともない、幕府は横浜に港崎遊郭(みよざきゆうかく)をつくった。中でも一番の大楼が「岩亀楼(がんきろう)」だった。遊女たちは、唐人口(外国人担当)と日本人口(日本人担当)に別れていたという。外国人と肌を合わせることに抵抗をもつ遊女が多かったこと、また、外国人の客をとった遊女には日本人の客がつきにくくなったことがその理由だ。
パッと明転しての幕開きは、岩亀楼の大広間から。大地を中心に、ずらりと並ぶ芸者衆が、扇を手に「♪港埼音頭」を歌い踊る。オリジナル曲と思えない耳馴染みの良いメロディと、ご機嫌な掛け声で、遊女の苦楽が語られる。その華やかさに、前のめりになる方もいれば、のけぞるようにして大きな拍手をおくる方もいる。拍手喝さいで、客席の温度が一気に上昇したところで、物語ははじまった。
文久元(1861)年。岩亀楼の行燈部屋には一人の女性が病に伏せていた。名前は、亀遊(きゆう/中島亜梨沙)といい、かつては吉原にいたが横浜まで流れてきた。体が弱く客をとることもできず、遊郭の中では、お荷物扱いの花魁。
そんな亀遊を気にかけるのが、吉原時代からの仲の、三味線芸者・お園(大地真央)だった。さらにもう一人、亀遊を気にかける人物がいた。岩亀楼お抱えの通訳、藤吉(矢崎広)だ。亀遊は、医師を志す藤吉から渡された西洋薬のおかげか、あるいは藤吉と思い合っているおかげか、徐々に力を取り戻し始めるのだった。

『ふるあめりかに袖はぬらさじ』舞台写真

そんな折、薬問屋の大種屋の主人(温水洋一)が、アメリカ商人イルウス(横内正)を連れて岩亀楼にやってくる。岩亀楼主人(佐藤B作)は、お咲(未沙のえる)とともに、唐人口の遊女たち(久保田磨希ほか)を揃えて出迎える。しかしイルウスが目を留めたのは、日本人口の遊女・亀遊だった……。
時代に翻弄される人々を、個性豊かに骨太に
大地演じるお園は、おしゃべりで人懐っこいお調子者。三味線の腕は確かだが、二日酔いどころか四、五日酔いになるほどのお酒好き。見どころは、大地の三味線の弾き歌いと、一流のコメディエンヌぶりではないだろうか。
三味線の生演奏は、軽くお酒をひっかけた芸者のお園さんとして演じつつ、演奏しなくてはならない。難易度が高いはずのシーンだが、大地があまりに自然にやってのけるので、観劇中はごく自然に聞き入ってしまう。
笑いに関して言えば、名作戯曲で受け継がれてきた笑いはもちろん、捨て台詞も、タイムリーなネタも自由自在。佐藤や温水との掛け合いは、もはや職人芸だ。そんな陽気な人柄だからこそ、時代に翻弄される姿、悲しみと向き合う姿が胸に迫る。
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』舞台写真
矢崎は、愚直でさわやかに藤吉を演じる。行き過ぎた愚直さで笑いを誘ったかと思えば、情感豊かな歌声で涙も誘う。中島の亀遊花魁は、セリフにもあるとおり「痛々しいほど美しい」。白無垢にも天女にもみえる衣裳では、そのまま消えてしまいそうな儚さを体現していた。
強烈なキャラクターの唐人口遊女は、外見の奇抜さに邪魔されないパワフルな群舞で、客席を盛り上げる。思誠塾の志士たちによる殺陣をまじえたナンバーは、劇中のスパイスとなっていた。
笑って泣けて活力になる
ここで、会見でのコメントを紹介する。
ーーまずは一言ずつ、コメントをお願いします。
大地:三味線芸者のお園さんは、おしゃべりで呑平でお人好しで、ちょっと面白い人です。やればやるほど面白くなります。27日の千秋楽まで大切に演じたいと思います。
横内:ふだんは時代劇の出演が多く、丁髷をつけている方が楽なのですが、今回は私一人、外国人の役です。孤独感にさいなまれながら、お芝居をやっております(一同、笑)。ふだんならば舞台の袖でリラックスして過ごすのですが、今回は大変な緊張感の中でやっております。それだけこの芝居に思い入れがあるということです。千秋楽までがんばります。
横内正
佐藤:店の旦那役です。大きな構えの店なので、太っ腹な感じを出したいのですが、私がなかなかの小者でございまして、それが大きな壁になっております(笑)。精一杯作品に奉仕しながら、自分も楽しみながら、頑張りたいと思います。
佐藤B作
矢崎:再演となる今回からの参加ですが、この素晴らしい作品に出会えたことに、僕自身うれしく思います。素晴らしさをお客さんに、たくさん伝えていきたいと思います。
矢崎広
中島:お園さん役の大地さんと、濃密な時間を過ごさせていただいています。
(「近いからね」と笑う大地。実際、近距離での演技が多い)
中島:そうなんです(笑)。2年前と同じお芝居ですが、毎日、お園さんから心がふるえるようなお芝居をいただいて、またあらためて亀遊として生きていられるような心持ちです。千秋楽まで成長し、新鮮に演じられるようがんばります。
中島亜梨沙
温水:薬問屋の役を、とても楽しんでやっています。明治座さんのような大きなところでの出演は初めての体験で、最初は不安もありました。和ものの芝居もあまり経験がなく、着物で稽古をする時も帯の結び方がよく分からなかったり。それを大地さんはじめ、先輩方が色々教えてくださったり。すてきなカンパニーで良かったなと思っています。楽しんでやっていこうと思います。
温水洋一
未沙:初演ではマリア役(今回は久保田が演じる)をやらせていただきました。あの時の衣裳の重たさを考えたら、今回はとても楽です(笑)。また『ふるあめりか~』の作品を違う角度から見ることができ、楽しんでいます。
未沙のえる
久保田:この顔は、決してふざけているわけではありません(笑)。メイク指導の先生の細かな指導の元、当時の外国人専門の遊女の方が、女神様や天女様の良いところを取り入れたであろうメイクです。出落ちにならないよう心掛け、内面も埋めていきたいです。先輩方には「のびのびやったらいいんだよ」と言葉をかけていただいたりもしていますので、ゼロか100か。怪我なくやっていきたいと思っています。
久保田磨希
ーー再演が決まった時の感想をお聞かせください。
大地:うれしかったです。前回からのキャストも半分くらいいらっしゃいますので、より厚み、深みが出るのではないでしょうか。
ーーお園さんは、おしゃべりでお人好しなキャラクターですが、大地さんの素が出ているところもあるのでしょうか?
大地:素? あれは全っ部お園さんです(一同、笑)
ーーあくまで役の上でのキャラクターですか?
大地:そうでございます(一同、ふたたび爆笑)
大地真央
ーー1カ月近い公演ですが、大地さんは体力づくりで意識していることはありますか?
大地:食べて寝て。(皆に向け)何かありますか?
矢崎:早寝早起きと炭酸水で体を起こしています。
ーー作品の見どころをお聞かせください。
大地:音楽劇なので、歌も踊りも三味線の弾き語りもテンポがよく、見どころ満載かと思います。タイトルだけだと硬いイメージをもたれる方もいるかもしれませんが、笑って泣けて明日の活力源にしていただける作品かと思います。
矢崎:どこか普遍的な部分があり、僕や、より若い世代の方がみても、楽しめる作品です。劇中は明治維新ということもあり、夢を目指したり、会えなくなる事情などがあったりもしますが、現代につながることが多いです。本当に硬いお芝居ではなりませんので、ふらっと明治座にきていただければ嬉しいです。
ーー最後に大地さんから一言お願いします。
大地:本日初日を開けました。27日まで公演がありますので、皆さまぜひ劇場へお運びください。お待ち申し上げております。
劇場に入った瞬間から非日常
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』舞台写真
上演時間の3時間15分(休憩30分を含む)は、一流の音楽と踊り、そして現代にも通じるテーマをもった珠玉の物語であっという間。会場となる明治座は、エントランスをくぐった瞬間から、赤い絨毯とシャンデリアが迎えてくれる。明治座横丁と呼ばれるお土産どころもあり、開演5分前までは、緞帳に流れるチームラボのデジタルアートが楽しめる。開演後は客席通路をキャストが通り、実寸かと思われるほど大きく描かれた街並みが舞台を覆い、物語の時代背景は、町人や瓦版を売り歩く読売の言葉、あるいは曲の歌詞を通して知ることができる。
観客の気持ちを日常から切り離し、作品の世界に引き込んでくれる演出も満載なので、贅沢で文化的な大人のテーマパークにくる気持ちで、ぜひ足を運んでほしい。『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、11月27日までの上演。
取材・文・会見写真=塚田 史香 舞台写真=オフィシャル提供

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