魂で演じる松本白鸚が観客の心を揺さ
ぶる ミュージカル『ラ・マンチャの
男』50周年、稽古場レポート

ミュージカル『ラ・マンチャの男』が再び、新たな旅に出る。9月7日(土)に大阪・フェスティバルホールで開幕、宮城、愛知を巡り、10月4日(金)からは東京・帝国劇場で上演される。上演時間は、休憩なしの2時間5分。
主演・演出は、1969年の日本初演から50年、セルバンテス、ドン・キホーテを演じてきた松本白鸚。染五郎、幸四郎の名で昭和と平成を駆け抜け、喜寿を迎えた今、どのような『ラ・マンチャの男』を見せるのか。初日を前に、都内で公開された通し稽古の模様をレポートする。
※公式サイトなどで情報公開されている範囲で、内容をネタバレしています。
50年目の我こそはドン・キホーテ
16世紀末のスペイン。フラメンコギターで始まり、ダンサーの足が床を打ち付ける音が響く。オーケストラも加わり「ラ・マンチャの男〜われこそはドン・キホーテ」、「見果てぬ夢」が流れると、 『Man of La Mancha』のタイトルロゴが頭上から降りてくるのが見えるようだった。稽古はオーケストラの伴奏と衣裳もつき、セット以外は本番さながらで行われた。
舞台は、セビリアの牢獄。そこに新たに投獄されるのが、『ドン・キホーテ』の作者であり詩人のセルバンテス(白鸚)。宗教裁判にかけられるのを待つ牢内で、囚人たちから『ドン・キホーテ』の原稿を守るべくセルバンテスは、他の囚人たちを巻き込み『ドン・キホーテ』の物語を即興で演じはじめるのだった。
セルバンテスが、囚人や客席に向け「さあ、みなさん」と呼びかけ、『ドン・キホーテ』の話をはじめる。セルバンテスは、老人キハーナがいかにしてキホーテになったかを朗々と語り、同時進行で皆の前でメイクをし、自身がドン・キホーテに近づいていく。
ドラムの音とともにタイトル曲「ラ・マンチャの男」のイントロが流れ、いよいよというところで立ち上がると、そこにいるのは、まさにラ・マンチャのドン・キホーテだった。オーケストラに合わせ、従僕のサンチョとともに歌いあげる流れは、鳥肌の立つ鮮やかさ。セルバンテスは、理性的でスマートで、独特の間合いとウィットで笑いを誘っていた。しかし今、目の前にいるのは、気高くも皆とは違う世界が見えている老人、みなから指をさされて笑われるドン・キホーテだった。
『ラ・マンチャの男』稽古場ダイジェスト
劇中劇『ドン・キホーテ』の主人公は、キハーナ(白鸚)という老人。本の読みすぎから、自らを300年前に滅びた遍歴の騎士ドン・キホーテ(白鸚)と信じるようになる。このドン・キホーテが、周囲からは奇人狂人扱いされながらも、従僕のサンチョとの旅をする。
キホーテは、風車を巨人と錯視して闘いを挑んだかと思えば、道中に立ち寄った片田舎の宿屋では、宿を「城」と言い、宿屋の主人を城主と呼ぶ。そんな奇行に振り回されながらも、かいがいしく面倒を見、支えるのが従僕のサンチョだ。今回も、演じるのは駒田一。主人への愛が満ちた陽気な歌声は、本作全体を明るく照らす。

劇中劇で宿屋の主人を演じるのは、牢名主役の上條恒彦。「気違いは神の子」であるとし、憐れみや侮蔑なく、フラットな感覚でドン・キホーテの物語に付き合ってやるのだった。別の世界を生きるキホーテと、現実をつなぐ接し方は、『ドン・キホーテ』の物語を荒唐無稽な笑い話にさせない役割を果たす。
アルドンザの歌声の先にドルネシアがいる
そんな宿屋でキホーテは、あばずれ女のアルドンザと出会う。アルドンザは宿屋に出入りする男を荒々しくあしらう美しくもたくましい女性だ。キホーテの目には、アルドンザが「麗しの姫ドルネシア」にみえたのだ。
キホーテは、心からの敬愛をもって、崇めるように接してくる。キホーテと言葉を交わすうち、アルドンザは心を許すようになるが、あることをきっかけに、あくまでも「ドルネシア姫」としてしか自分をみないキホーテに憤りを感じることになる。
アルドンザを演じるのは、今回が本作初出演の瀬奈じゅん。大勢の荒くれもの達に囲まれるダンスシーンでは、さすが元宝塚歌劇団月組トップスターの存在感を発揮。清らかでしなやかな歌声は、身なりや境遇に左右されないアルドンザの心の美しさを証明するかのよう。キホーテの目を通してみたアルドンザの中の、「麗しの姫 ドルネシア」に気づかされる魅力と説得力があった。
1300回は帝国劇場で
白鸚は過去、ミュージカルの場においても、歌舞伎の場においても、自らをアルティザン(職人)と考えている主旨のコメントをしている。その志を胸に50年、どのような理想を抱き、俳優業を邁進してきたのかは想像が及びもつかないが、本作において、白鸚はセルバンテスとキホーテを自在に演じていた。技術でどうこうというものを超え、狂気と正気で眼光は別物、魂から入れ替わったかのようで、恐ろしさを覚える瞬間さえあった。
東京公演の期間にあたる10月19日(土)17時の部で、上演回数1300回を達成する。体力的に余裕がある時期は超えているであろう今からが、魂で演じる白鸚の『ラ・マンチャの男』のクライマックスなのかもしれない。
キホーテがアルドンザを変えたように。セルバンテスが囚人たちの気持ちを動かしたように。白鸚とすべてのキャストが、脚本、珠玉の台詞、音楽の力で、観客の心を揺さぶり、行動を変えるに違いない。日本のミュージカル史にのこる本作は、9月7日(土)~大阪、9月21日(土)~宮城、9月27日(金)~愛知を巡演したのち、東京・帝国劇場で10月4日(金)から27日(日)をまでの上演。

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