Kバレエカンパニー『シンデレラ』20
年目の伝統に新風 初主演ダンサーら
が紡ぎ出す夢舞台に期待

2019年5月24日(金)からK バレエ カンパニー『シンデレラ』の公演が始まる。熊川哲也芸術監督が紡ぎ出したこの演目は2012年の初演以来、バレエ団の人気演目の一つとなっている。
主演は中村祥子&宮尾俊太郎のプリンシパル・ペアを筆頭に、矢内千夏(プリンシパル)&高橋裕哉(プリンシパル・ソリスト)、成田紗弥&山本雅也(いずれもプリンシパル・ソリスト)、小林美奈(プリンシパル・ソリスト)&栗山廉(ソリスト)の4組がキャスティングされている。
このほど行われた公開リハーサルでは初めて主演シンデレラ役を務める成田と、矢内&高橋組が登場。元プリンシパルの浅川紫織とバレエマスター兼プリンシパルの遅沢佑介の指導のもと、その仕上がり具合を披露するとともに、公演にむけての思いを語ってくれた。(文中敬称略)
■童話の世界へ誘う「妖精のような魅力」の成田
最初に登場したのは成田。2018年9月に韓国ユニバーサル・バレエ団から移籍し、『ベートーヴェン第九』で早速第2楽章、第3楽章の主演に抜擢された。今回のシンデレラは全幕もので初めての主演となる。
成田が踊ったパートは1幕冒頭、シンデレラが意地悪な継母(ルーク・ヘイドン)と2人の義理の姉たち(杉山桃子、高橋怜衣)にいじめられるシーンだ。とにかくこの熊川版のシンデレラは、まずは容赦なくいじめられる。2人の姉たちに絡まれるその踊りは、スピーディーで目まぐるしく、見ている方もシンデレラと一緒に翻弄されて、頭がくらくらしそうな「迫力」だ。
今回の姉たちも継母も実にパワフルにいじめにかかる。シンデレラの唯一の心のよりどころである、亡き母の形見の肖像画やドレスさえ燃やされそうになり、見ていて辛くなってきてしまう。
しかし指導の浅川からは「(演技は)もっとオーバーに。やりすぎるくらいかがちょうどいいから」と声が飛ぶ。継母に水をかけられるシーン、暖炉に火を起こすシーンなど、振り向くタイミングやふいごをかざす角度など、浅川の細かい指導ひとつで、物語世界がよりリアルに変貌していくようだ。
姉たちや継母が去りシンデレラが一人で踊るシーンでは、成田の魅力が発揮される。軽やかなポワントワークにふっと振り向く視線が愛らしく、熊川監督が成田を「妖精のようだ」と評したのもなるほどと、思わせられる。「しっかり振りを覚えて、いかに自然にお客様に物語を伝えられるかということを大事にしていきたい」と語った成田が、どのような童話の世界に誘ってくれるのか、期待したい。
■新プリンシパル・矢内と初主演の高橋が紡ぐ物語に期待
続いて登場したのは矢内と高橋のペア。矢内は2018年12月にプリンシパルに昇格した注目のダンサーの一人。高橋は2018年9月にハンガリー国立バレエ団から移籍し、この『シンデレラ』の王子がKバレエでの初めての主演となる。この組の指導は遅沢だ。
2人が披露したのは2幕のシンデレラと王子のパ・ド・ドゥ。シンデレラが王子の舞踏会に現れ、2人が恋に落ちていく「鼓動が高まっていくような、大切な場面」と遅沢。ゆったりとしたワルツのなかに挟み込まれるかすかな不協和音が、初めて恋に落ちるその不安やときめきを表現するかのような、音楽自体も非常にロマンチックなシーンだ。
その一方で振付は非常に難しい。遅澤は数小節踊っては止め、立ち位置や手足の角度、サポートの際に支える場所など自ら手本を見せつつ、「技術にとらわれてはだめ。滑らかに踊りながら、感情表現をしっかりと」と指導する。矢内は「振付一つひとつからの繋ぎをいかにきれいに、よどみなく見せていけるか、気をつけていきたい」と話してくれた。

海外ではバレエ団によってはコンテンポラリーがだんだんと主流になり、古典を踊る機会が減りつつあるところもある。そうしたなか「もっと古典も踊りたいと思い、Kバレエに移籍を決めた」という高橋は、「本番までにステップの一つひとつを的確に、しっかりと捉えて作り上げていきたい。熊川監督とともにKバレエをより高め、自分の長所も伸ばしていきたい」と抱負を語ってくれた。

熊川監督が在籍していた英国ロイヤル・バレエ団では、その役を踊った先達が現役ダンサーの指導に当たる伝統がある。今回浅川や遅沢が指導に当たるのも、英国ロイヤルバレエ団同様の伝統が感じられ、今年20周年を迎えているバレエ団が、着々と歴史を積み上げ前進している様子もうかがえる。
Kバレエに新たな歴史を刻む新プリンシパルと海外で研鑽を積んだダンサー達が、どのような新風を吹き込みおとぎ話の世界へ誘ってくれるのか。期待したい。
取材・文・撮影=西原朋未(一部オフィシャル提供写真)

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