SIRUP 10年を経て辿り着いた「今この
瞬間」 ーー大阪凱旋ワンマンライブ
をレポート

SIRUP 「SIRUP EP2」リリースワンマンライブ2018.11.11(sun) @Music Club JANUS
SIRUPが地元・大阪でワンマンライブを行うのは、昨年12月以来およそ1年ぶりだ。筆者が会場に到着したのは開演の30分ほど前だが、心斎橋 Music Club JANUSはすでに満員のオーディエンスで埋め尽くされていた。それもそのはず、この日はGuest DJとしてSIRUPの盟友であるYonYonが東京から駆けつけ、最先端のHIP HOPからキャッチーなJ-POPまでを網羅した見事な選曲でフロアを揺らしていたのだ。思い思いのドリンクを片手に踊る人々を見て、これから始まるパーティーへの期待が募った。
SIRUP
歓声が聞こえ前方に目を向けると、バンドメンバーがステージに登場したようだ。サポートを務めるのは、SIRUPが所属する大阪のクルー・SoulflexのKenT(Sax/Flute)、Akiee(Key.)、RaB(Dr.)、Funky D(Ba.)に、ギタリストのHISAを加えた盤石の面々である。彼らの傍に置かれたネオンライトが、「SIRUP」のロゴを青く浮かび上がらせている。待ちわびた観客たちの高揚感に包まれる中、バンドによるイントロとしてSoulflexの"Testimony"がライブアレンジで演奏された。骨太なベースラインが響き渡り、激しいライティングとともに楽曲がクライマックスに達すると、チェックのジャケットを羽織ったSIRUPが現れ、興奮に満ちた拍手が送られた。
昨年、彼がSIRUPとしてデビューを飾ったスタイリッシュなキラーチューン"Synapse"が始まり、照明はクールなブルーから眩いピンクへと変わった。すでにヒートアップする観客たちとは裏腹に、その1人1人の顔を見据えながらポーカーフェイスで言葉を紡ぐSIRUP。「Get off the ground down like that. Sing it!」 この声を合図にオーディエンスが一斉に飛び跳ね、「Dala-ta-ta-ta-ta♪」という大合唱が起きると、その様子を目にした彼は笑顔を見せた。
“Synapse”からすかさずバウンシーな “Maybe”へ移ると、会場が一体となってサイドステップを踏む。「このまま自由に踊っていきましょう」 そう一言添え、これまでの2曲とは打って変わった深みのあるR&B “バンドエイド”を重ねた。楽曲の終盤では涼しげな表情でスキルフルなフェイクを聴かせ、その艶やかな歌声で観客たちを酔わせる。ハートフルなミディアムナンバー “Last Lover”では、時折フィンガースナップを促しながらあたたかい空間を演出した。
初めてのMCでは、「SIRUPです。こんなにたくさんのみんなが来てくれて感無量です。ありがとう。今日は日曜だから、来週の活力にしてくれ!」と挨拶した。「ここまで思いっきり踊ってもらったから、次の曲はゆっくり聴いてください。」と前置きすると、HISAによる哀愁漂うギターの音色に誘われながら“一瞬”へ。夕日を思わせるオレンジ色の光と、バンドメンバーによる豊かなコーラスが歌詞の切なさを増幅させた。
最新EP“SIRUP EP2”に収録された人気曲“Rain”のイントロが聴こえると、歓喜の声が上がった。「時を止めてよ叶うなら 2人触れられないままGo on」 SIRUPはしっとりと歌い出し、フロアではステージから注ぐ光に照らされた無数の青い影がゆったりと揺れる。サビの厚みと立体感のあるライブアレンジは圧巻で、音源で聴く以上にひとつひとつの音の輪郭がはっきりと伝わった。楽曲が佳境を迎えるとKenTによる鮮やかなサックス・ソロも炸裂し、清涼感溢れるダンスナンバーに心と体を解きほぐされた。
ギターのカッティングが軽快な未発表曲“Really Love Me”を歌ったあと、SIRUPは「今のは“俺が喋ってんねんから携帯見んと話聞いてよ!”という曲です。」と解説し、笑いを誘う。バンドメンバーとの束の間の談笑のあと、自身の代表曲のひとつである“LOOP”のミュージックビデオがYouTubeで200万回以上再生されたことを報告し、感謝を告げた。「みんながたくさん観てくれた“LOOP”、一緒に歌える?」 柔らかなサックスのリフとともに“LOOP”が始まると、観客たちは顔を綻ばせた。愛しい人との時間がずっと続けばいいと願うバラードを、手を使って細かな描写まで表現しながら丁寧に届けると、オーディエンスはそれに応えるかのようにサビを口ずさむ。歌い終えるとSIRUPは穏やかに「みんな最高…」とこぼした。
Last Dance”を続け、“No Stress”では「さわがしい“Osaka”の夜を FriendsとChillingで全てチャラ」と歌詞をアレンジし、集まった人々が抱える日々のストレスを吹き飛ばしてみせた。ここで再びMCを挟み、「音楽の中を思いっきり泳ごう!」という言葉とともに、爽やかかつピースな定番曲“SWIM”へ。「Good music!」「We love it!」というお馴染みのコールアンドレスポンスでフロアの熱量を確かめる。そして“Do Well”ではミュージックビデオを思わせるビビッドカラーのライトが交錯し、「この曲で踊っとかな、もう踊るとこないで!」という煽るSIRUPに乗せられ、観衆は両手を宙に投げ出して体を揺らした。
極上のパフォーマンスがもたらす心地いい熱に浮かされた観客たちは、「びっくりすると思うけど、次で最後の曲です。」とSIRUPが切り出すと落胆の声を上げた。そんな彼らを「一回考えてみて!俺まだEP2枚しか出してないねん!(笑)」となだめ、次の曲にこめた想いを語る。「ミュージシャンって特別でもなんでもないけど、10年続けたらいろんなことを叶えることができたし、今日演奏してくれたSoulflexや、東京にもたくさん仲間ができた。今日来てくれたみんなと一緒に、来年はもっとヤバイところまでいきたいから、そんな気持ちを乗せて、ライブ初披露の曲を歌います。」
SIRUPが本編のラストに贈ったのは、“SIRUP EP2”を締めくくる決意の1曲である“ONE DAY”。圧倒的な歌唱力だけではなく、さまざまな葛藤と闘ったからこそ前を向けるその「強さ」もまた、仲間と支え合い歌い続けた10年の歳月がSIRUPにもたらしたものなのだろう。ステージの端から端までを踏みしめながら、エモーショナルに歌い上げる彼を見て痛感した。
SIRUP
胸を打たれた観客たちの喝采を浴びながら一度姿を消したSIRUPは、突如、フロアに設置されたDJブースにYonYonとともに現れた。「アンコールありがとう!みんなこの曲歌える?」 SIRUPとYonYonのコラボレーション楽曲 “Mirror (選択)”のイントロが流れると、この日一番の大歓声が響き、オーディエンスたちはDJブースの前に押し寄せる。2人で日本語、韓国語、英語を滑らかに行き来するダンサブルな1曲を披露したのち、SIRUPは地元でのワンマンライブという特別な夜に華を添えたYonYonを「Give it up for YonYon!」と称えた。
「もう1曲 “Living in the moment now (LMN)”という曲をやるんやけど、ほんまに最後やから自由に楽しんで行って!」 そう言って再びステージに駆け上がったSIRUPは、バンドメンバーとともに“LMN”を届けた。後半、曲調が展開しビートが速くなると、SIRUPの言葉通り誰もがリズムに身を任せて自由に「今この瞬間」を楽しんでいた。最後にYonYonを合わせた出演者全員が一列に並び、SIRUPが「ありがとうございました!」と叫ぶと、最高のパーティーを作り上げた7人の眩しい姿に、割れんばかりの拍手が鳴り渡った。
彼にはシンガーとしての、表現者としての長い軌跡がある。しかし、今日の音楽シーンに生まれつつある新しい流れの一端を担う重要なプロジェクト・SIRUPは、まだスタートを切ったばかりなのだ。歌とラップ、ジャンル、国境さえ軽々と越えてゆくSIRUPが次に大阪に単独公演で凱旋するときには、その歌声を通してさらに広く大きな世界を見せてくれるに違いない。
SIRUP
取材・文=河嶋 奈津実 

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