特別展『マルセル・デュシャンと日本
美術』レポート 世界一有名な便器《
泉》など、代表作がズラリ!

東京・上野の東京国立博物館・平成館で、特別展『マルセル・デュシャンと日本美術』が開催中だ。本展は、第1部「デュシャン 人と作品」展と第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」展からなる2部構成。まずは第1部で「現代美術の父」と呼ばれるマルセル・デュシャン(1887~1968年)の創作活動をたっぷりと紹介したのち、第2部では東京国立博物館所蔵の日本美術作品を展示。デュシャンの作品と対比させ、日本の美術の意味や価値観について考える新しい試みとなっている。
有名な《泉》を含むデュシャン・コレクションが一挙来日
第1部「デュシャン 人と作品」展では、米・フィラデルフィア美術館所蔵のデュシャン・コレクションを中心に、約150点でデュシャンの創作活動をたどる。
その始まりを飾るのは、画家としてのデュシャンが手掛けた油彩画たち。デュシャンは25歳頃まで画家として活動していた。キュビスムの絵画《階段を降りる裸体 No.2》は、画家としてのデュシャンの代表作のひとつだ。
展示風景:《階段を降りる裸体 No.2》(1912年、フィラデルフィア美術館蔵)
本作で一躍有名になるものの、絵画制作への興味を急速に失っていったデュシャン。この頃から、私たちがよく知る「現代美術の父」としてのデュシャンが顔を覗かせる。そして1912年秋頃からは、《大ガラス》としても知られる《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》の構想を開始した。
展示風景:右手前は《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(複製・東京版)(1980年、東京大学駒場博物館蔵)
そして、「『芸術』でないような作品を作ることができようか」と自問自答したのちに生まれたのが、デュシャンの代名詞ともいえるレディメイド作品だ。本展では、レディメイド第1作目となる《自転車の車輪》をはじめ、20世紀の美術界を揺るがした問題作《泉》、ワイン瓶を乾燥させる円形スタンドを用いた《瓶乾燥器》のほか、単調さや反復を嫌ったデュシャンがレディメイドから派生させた「セミ・レディメイド」と呼ばれるオブジェ《秘めた音で》を見ることができる。
マルセル・デュシャン 《泉》 1917/1950年 Philadelphia Museum of Art. 125th Anniversary Acquisition. Gift (by exchange) of Mrs. Herbert Cameron Morris, 1998 (c) Association Marcel Duchamp / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018  G1311
チェス・プレイヤーに女性人格、デュシャンの縦横無尽な好奇心
レディメイド作品でこれまでの美術の概念を覆したデュシャンだが、その興味関心は留まることを知らなかったようだ。1920年代に入ると、プロ契約を結び、チェス・プレイヤーとして20年近く活動。デュシャンがデザインを手掛けたという「第3回フランス・チェス選手権」のポスターや書籍『オポジションと対応するマスは和解する』など、チェス関連の作品や資料も展示会場に並ぶ。
展示風景:ヴィタリー・ハルバ―シュタットとデュシャンの共著『オポジションと対応するマスは和解する』(1932年、フィラデルフィア美術館蔵)
一方で、チェスに夢中になっていたのと同じ頃、デュシャンは「ローズ・セラヴィ」という名の女性人格で光学や言語を用いた表現活動も行っていた。
実験的短編映画《アネミック・シネマ》(1926年、ニューヨーク近代美術館蔵)の展示風景
さらに1930年代には、自身の作品を複製して集め、作品集として再定義することに関心を寄せた。その集大成であり、作品をミニチュアにして持ち運びできる携帯用の美術館《マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの中の箱)》も本展で見ることができる。
展示風景:手前《マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの中の箱)》(1935~41年、1963~65年(中身)、シリーズF、1966年版)
20年かけて取り組んだ《遺作》
第1部のラストを飾るのは、第二次世界大戦以後、ニューヨークに拠点を移してからの晩年の活動だ。この頃のデュシャンは、展覧会や出版物は企画されていたものの、実質的には引退状態であった。だが、それはデュシャンがわざとそう見せていたのかもしれない。
1968年にデュシャンがこの世を去ると、《遺作》の名で知られる《与えられたとせよ 1.落ちる水 2.照明用ガス》が公開された。一見するとただ木製の扉があるだけのように見えるが、扉に開いた穴を覗くと、ランプを片手に持った裸の女性のマネキンが中央に横たわり、木々や湖、滝などのジオラマが目前に広がる。本作はさまざまな要素を集めて構成されたインスタレーションで、晩年のデュシャンが20年間かけて水面下で進めていた芸術的企みだ。今回は残念ながら《遺作》そのものを見ることはできないが、展示映像やメモ、作品の一部となったオブジェなどの周辺資料を通して、作品やその制作に迫る。
利休や写楽ら日本美術とデュシャン
第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」展では、東京国立博物館蔵の日本美術作品を展示。第1部のデュシャン作品と比べて見ることで、日本美術における価値観を浮き彫りにしようという展示だ。
たとえば、「400年前のレディメイド」と題した章では、千利休作と伝わる《竹一重切花入》をデュシャンの《泉》と対比して取り上げている。ただの竹を花入に見立てて美的価値を宿らせた利休と、大量生産された日用品をレディメイド作品として美術品へと昇華させたデュシャン。物そのものに対してではなく、観念としての美を見出したふたりの視点は似ている。
他にも、東洲斎写楽らの浮世絵を引き合いにした「リアリズム」や、日本の絵巻物から読み取る「時間」の概念など、日本美術の特徴を紐解くさまざまな切り口が用意されている。
第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」展示風景
デュシャンの発想や創作活動を踏まえた上で、改めて日本美術をとらえることができる本展。デュシャン作品をたっぷりと楽しめるだけでなく、これまでとはひと味違う、新たな日本美術の楽しみ方も体験できるはずだ。

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