【インタビュー】GOSPELS OF JUDAS、
1st AL発表「氷室さんから受け取った
メッセージは、“音楽だけで、どこま
で物語を作ることができるか”」

非常にユニークかつ構成メンバーが桁外れのキャリアを持つプロジェクト“GOSPELS OF JUDAS”(ゴスペルズ オブ ジュダ)が、7月18日に1stアルバム『IF』をリリースした。GOSPELS OF JUDASとは、2012年に氷室京介と親交の深いクリエイター達が集まり、“クリエイティヴィティだけを元に自由に生まれた音楽を、デジタルツールを通してリスナーに届けたい”という思いから作られたDiGiTRONiX (デジトロニクス)プロジェクトの一つである。氷室京介のレコーディングやライブにギタリスト兼アレンジャーとして参加するなど幅広く活躍しているLA在住の日本人ギタリスト、YTことYUKIHIDE TAKIYAMAがその中核を担い、自由に楽曲を創出できるプロジェクトとして、またそういった想いを共有できるアーティスト仲間が参加するプロジェクトチームとしてGOSPELS OF JUDASは誕生した。

そんな彼らの記念すべきフルアルバム『IF』は、ギタリスト&ヴォーカルとしてYTが中心となり制作された楽曲が多く、また、ライブ活動休止前に録音した氷室京介のヴォーカル曲も既発曲「Bloody Moon」「Play within a Play」に加え2曲収録されている。今回BARKSでは、YT、そして、このプロジェクトの立役者のひとりであり、『IF』で作詞や作曲も手掛けているJun Inoueへの取材を実施。他にはない、GOSPELS OF JUDASという思想、そして今回のアルバムの核に触れた独占インタビューをたっぷりとお楽しみいただきたい。

◆GOSPELS OF JUDAS 画像ページ

  ◆  ◆  ◆

■ どうしてもYTを氷室さんに紹介したかった
■ 「とにかく凄いギタリストがいるんです」って

▲右からYT、Jun Inoue

──インタビュー初登場ということで、まずは基本的なお話から訊かせてください。現在、LAに在住されているYTさんは、日本の高校を卒業後、バークリー音楽大学に進学したそうですが、本格的にギターに興味を抱いたのは、その前ということですよね?

YT:高校生の頃にギターを始めたんですけど、きっかけはヴァン・ヘイレンの『5150』(1985年発表)でした。サミー・ヘイガー加入後の最初のアルバムで、そこからデイヴィッド・リー・ロス時代に遡って聴いたり。その他にもギターヒーロー的なものはだいたい聴きました。

──いわゆるギター少年だったということですよね。

YT:もろにそうですね。ただ、ヴァン・ヘイレンから、ブルースギタリストのほうに興味が移っていったんですよ。スティーヴィー・レイ・ヴォーンとかのロックブルース、そこからマディ・ウォーターズとかのブルースへ。コピーしていくうちに、音楽についてもっと深く知りたくなって、アレンジに関心を持つようになっていった。それで、いろいろな音楽学校を探してバークリーに進学したんです。

──結果、バークリー音楽大学ではギター科ではなく、アレンジ&オーケストレーション科を専攻したそうですね。

YT:ギターを始めて最初の1〜2年くらいは必死にコピーをしてたんですけど、人のコピーだけではなくて、自分なりのソロを弾きたいと思ったときに、なにをやっているのかが理解できていないとカッコいいソロが弾けないことに気づいて。このコード進行はどうしてカッコいいんだろう?とか、曲のなかのアレンジでこういう楽器が鳴るとどうして盛り上がるんだろう?というところがどんどん気になるようになったというか。だから僕のなかでは、アレンジ&オーケストレーション科という選択は普通のことだったんです。

──日本の音楽専門学校ではなく、ボストンのバークリーへ留学するというのは並々ならぬ決意でしょうし、音楽教育の最高峰といわれるバークリー卒業生はエリート視される難関校でもあります。

YT:うーん、そうなんですかね。まあ、理論は叩き込まれますね。彼も卒業生なんですよ。

Jun Inoue:僕自身は15歳でドラムを始めたんですけど、アメリカでバンドをやりたかったので高校卒業してすぐに渡米して。そのためにバークリーのドラム科に入学したら彼がいたという。僕が18歳で彼が19歳のときに学校で出会って。こんなにすごいやつがいるんだ!?ってビックリしたことを覚えてます。

──では、Jun Inoueさんとは氷室さんのプロジェクトで知り合ったのではなく、10代からの学友だったわけですね。バークリー在学中、「理論を叩き込まれた」ということですが、アレンジ&オーケストレーション科ではどんな勉強を?

YT:たとえばオーケストレーションだったら、それぞれの楽器の特徴だったり、一番低いドの音から何オクターブまで出せるとか、まず、そういうところから。ストリングスセクションをどう使ったら楽曲がどうなるとか、そこにホーンセクションを絡める方法を学んだり。

Jun Inoue:彼はバッハとかが好きでオーケストレーションを専攻してたんですよ。その理論に入る前にイヤートレーニングっていうのがあるんですけど、最初に耳を徹底的に鍛える。それは日本と違うと思いましたね。ある音程が流れて、それと同じ音を出してみるところから始まって、それがどんどん高度になっていくような。

──アレンジャーとしても活躍している現在のYTさんに大いに役立ったカリキュラムですね。おふたりはバークリーで一緒にバンドをやったり?

YT:外国人ベース&ボーカルを加えたトリオで、リフもののハードロックをやってましたね。メロディーがキャッチーで人が身体を動かせる音楽というか。

Jun Inoue:“ダンスとロック”みたいなところをテーマに曲を作ってましたね。

──グルーヴがカッコいいということは、既にGOSPELS OF JUDASのアルバム『IF』に通ずるものがありますが。

YT:当時からそうですね、グルーヴが一番大事。それとギターリフは僕にとって欠かせないものなので。

▲YT

──バークリー卒業後は?

Jun Inoue:僕は日本に戻ったんですけど、彼はずっとLAに。

YT:寒かったので(笑)。

──ははは! どういうことですか?

YT:ボストンが寒くて動けなかった(笑)。で、夏の日本は湿気が多いでしょ……いやだなって。……これは書いてもらわないほうがええんかな(笑)。

──バイオグラフィによると、バークリー卒業後はThe Boxing Gandhisにベーシストとして加入したほか、COLBIE CAILLATバンドにギタリストとして参加するなど、ミュージシャンとしての活動が本格スタートしたと。

YT:最初はローカルバンドに入ってLA界隈のクラブでライブをやっていたんですけど、その後The Boxing GandhisやCOLBIE CAILLATバンドでアメリカ全土をツアーしたり、パット・ベネターの前座の話をいただいてツアーを廻ったり。

──というアメリカでのバンド活動の一方で、嵐やKAT-TUNなど邦楽の数々にディレクションやギタリストとして参加したのが2006年以降ですか?

YT:LAレコーディングがあって、何回かギターを弾いたんですけど、そこで再び彼の登場です(笑)。

Jun Inoue:僕は帰国して10年くらい、インハウスディレクター/プロデューサーの仕事をしていたんですけど、そのときに担当していたのが嵐とKAT-TUNで、嵐のLAレコーディングセッションを行うときに彼に声をかけたんですね、それが最初かな。と同時に、僕自身の“日本でプロデューサーをやるんだったらこの人と仕事をしてみたい”っていう憧れのアーティストのひとりが、氷室さんだったんですね。氷室さんの事務所に飛び込みで「こういうアーティストを担当しているんですが、楽曲を書いていただけませんか?」という連絡をしたところ、ラッキーなことに快諾していただいたという。

──それが氷室京介さん作詞作曲によるKAT-TUNのシングル「Keep the faith」(2007年)ですね。

Jun Inoue:そうです。その後、どうしても彼を氷室さんに紹介したかったので、「とにかく凄いギタリストがいるから、一度会っていただけませんか」とお願いして、「Keep the faith」のマスタリングの後にLAのレストランで氷室さんとYTと食事を。

──YTさんと邦楽アーティストを次々につなげ、氷室さんに引き合わせたのもJun Inoueさんだったわけですね。氷室さんとLAで初対面したときのことは覚えていますか?

YT:ガッチガチに緊張しましたね(笑)。高校時代は洋楽のコピーしつつも、周りにはBOOWYのコピーをやってる友達がたくさんいて、それこそ文化祭とかで「弾いてくれ」って頼まれたり。BOOWYのアルバムとかライブビデオとかをもの凄く観て、“カッコええなー”って思ってましたから。実際にお会いしたときは頭の中が真白です(笑)。覚えているのは、氷室さんは新しい音楽を常に探している方なんですよ。LAにオルタネイティヴロックばかりかかるラジオ局があるんですけど、「そういうラジオ聴くの?」って訊かれて、僕はそのとき全然ラジオとか聴いてなかったので「いえ、聴いてないです」って答えたら、「もったいないよ! せっかくこれだけカッコよくて新しい音楽がたくさん流れているんだから」と。で、「わかりました!聴きます」と(笑)。

◆インタビュー(2)へ
■ 音楽だけで、どこまで物語を作ることができるか

──氷室さんが楽曲を手掛けた「Keep the faith」直後のシングル「Lips」(2008年/ドラマ『1ポンドの福音』主題歌)は、YTさんの作曲なんですよね。かなりのハードロックです。

Jun Inoue:ベースがビリー・シーン、ドラムがサイモン・フィリップスというシンセなしのトリオサウンドですしね。KAT-TUNにはワイルドさが求められていたんですけど、ハードロックというジャンルよりも、YTには「とにかくギターを激しく弾いてくれ」ということをお願いしました。

──“YTがギターを激しく弾く=ワイルド”だから。

Jun Inoue:まさにそうです。ガシガシに思いっきり弾く曲を作ってくれと。YTにはテンポだけを伝えてたんですよ。

YT:テンポがとにかく速かったので、まずツーバスがドコドコする感じをイメージして。ギターはやっぱりリフから。そこからつながっていくコード進行を作っていった感じですね。

──それから約2年後のアルバム『“B”ORDERLESS』(2010年発表)から、氷室さんの作品に関わることになったわけですが。

YT:どうしてそうなったのか、未だにわからないんですけど(笑)、本当に何の前触れもなく、突然氷室さんからメール連絡をいただいたんです。「今、アルバムを作ってるんだけど、アレンジをやってくれない?」と。後日、氷室さんのところでミーティングがあって、「3曲デモを渡すから、アレンジしてみて」というお話をいただいてすぐに1曲(「忘れてゆくには美し過ぎる…」)を仕上げて。それを氷室さんに送ったら「カッコいいじゃん!」って。その返信を見てもうガクーンとなりましたね。どういう答えが返ってくるかドキドキでしたから(笑)。

──緊張から解放されて一気に安堵の脱力が(笑)。結果、『“B”ORDERLESS』にはYTさんによるアレンジが6曲収録されています。

YT:残りの2曲のアレンジも気に入ってくださって、他の曲も依頼していただいた感じですね。氷室さんのデモは、エレキギターと仮歌だけのラフな状態なんですけど、氷室さんのテンポ感は凄いんです。そのテンポを活かして、ミーティングのときに話していただいたキーワードをもとにアレンジしていくというやりとりでした。

▲YT

──どの曲もギターフレーズが印象的で、氷室さんのそれまでの作風とはまた一味異なるものがありました。よりアグレッシヴでよりロックなアレンジも多くて。

YT:ギターアレンジに関しては、氷室さんのデモ音源のギターを一度ばらして、自分なりのギターリフに構築していったんです。「ロックにしたい」っていうことは氷室さん自身も言ってましたし、それ以前に氷室さん自身がロックの人ですから。「こういう感じなんだ!って本田(毅)くんが驚いてたよ」って氷室さんが教えてくれて、それを聞いたときは本当に嬉しかったですね。

──以降、氷室さんの作品にアレンジやギタリストとして参加しているわけですが、2012年リリースの「WARRIORS」。この2曲目にGOSPELS OF JUDAS名義の「Play Within A Play」が収録されたほか、同時期に同名義で『龍が如く5 夢、叶えし者』オープニングテーマ曲「Bloody Moon」が発表されています。GOSPELS OF JUDASは、そもそもどういうプロジェクトとして発足したものですか?

YT:氷室さんがご自身のオフィシャルサイトに作品を発表する場所としてDiGiTRONiX(デジトロニクス)を作ったのが2012年で、GOSPELS OF JUDASはそのプロジェクトのひとつとして生まれたものです。

Jun Inoue:ほぼ同時に発足した別プロジェクトがGODBROTHERで、DiGiTRONiX第二弾として2012年に2曲(「LAIR〜世界中の哀しみ集めて〜」「RAIN」)を発表しました。“商業ベースではなく、音楽的な実験をする場”という発想のもとに生まれたプロジェクトで、氷室さんに声をかけていただいて僕も参加することになったんです。

──GOSPELS OF JUDASのアルバム『IF』にはGODBROTHERの「LIAR~世界中の哀しみ集めて」と「RAIN」が収録されていますが、2つのプロジェクトが集約されたカタチと言っていいのでしょうか?

Jun Inoue:GOSPELS OF JUDASは、氷室さんとYTとTesseyさんが進めていたプロジェクトで、今回YTから声をかけてもらって、GODBROTHERが融合したカタチですね。GODBROTHERは先ほどお話ししたようなDiGiTRONiXのテーマへのアンサーが楽曲作りの基本なんですが、デジタルな手法を用いた情熱のある楽曲に熱量を思いっきり乗せようというコンセプトがあります。

──『IF』を聴いて感じたことは、アルバム自体が映画的でサウンドトラック的なストーリーをイメージさせるというもので。もっと言えば、1曲1曲が映像的でもある。そもそもGOSPELS OF JUDASというプロジェクトのコンセプトにはどのようなものがあるのでしょうか?

YT:プロジェクト始動時から、曲を書くときのコンセプトは僕の中にはあったんです。楽曲「Bloody Moon」を書いたときのイメージがまさにそれで、“近未来的な世界観”。それは『IF』にもつながっていますし、プロデュースを彼にも務めてもらっているので、お互いにやりとりをしながら今回のアルバムを作っていった感じですね。

Jun Inoue:音楽が映像と結びついたりダンスと結びついたり、世の中にはいろいろな表現方法があると思うんです。だけど、僕たちが氷室さんから受け取ったメッセージは、“音楽だけで、どこまで物語を作ることができるか”。それを実験してみようということなので、「アルバム1枚を通した物語を作ろう」と最初にYTと話しましたね。アルバム制作のスタートはそこからです。

▲アルバム『IF』

──2012年のプロジェクト始動から現在までの集大成的な意味合いもあるアルバムなんでしょうか?

Jun Inoue:そうですね。2年分くらいの曲があるのかな。GOSPELS OF JUDASとGODBROTHERの既発曲や、YTが作った曲をパズルのように組み上げてアルバムにしようという。

YT:そうだね。その後、ピースをはめるように新しく曲を書き足したりしていった形ですね。

──既発曲の「Bloody Moon」と「Play Within A Play」といった2曲が、GOSPELS OF JUDASの音楽性を形作っていったところはあったのでしょうか?

YT:やっぱりその2曲がスタートですから。GOSPELS OF JUDAS用に曲を作るときは、それを念頭に置いていたので、同じ要素をアレンジで持たせるようには気をつけましたね。明らかに外れるものは入れないようにしていたというか。

──YTさんは2014年からソロ作品のリリースも積極的に行っていますが、その境界線はどういうところに?

YT:自分のソロ作品を作るときは、あまり世界観みたいなものは考えていなくて、“どちらかといえば、少し壊れたものにしたい”とかっていうくらいだから、なんでもありなんです。だけど、GOSPELS OF JUDASの楽曲にはもっと意識的なものがあります。

◆インタビュー(3)へ
■ まさか、ここまで完璧にファルセットで歌ってくれるとは

──GOSPELS OF JUDASの初作品となる「Bloody Moon」は、氷室さんがヴォーカルをとっている曲ですが、全編ファルセットで通すような楽曲はこれまでの氷室さんにはなかったという意味でも、新しさを感じましたし、実験的であるとも感じました。ファルセットというのは「Bloody Moon」という楽曲のテーマのひとつでもあったのでしょうか?

YT:それがテーマというわけではなくて、「Bloody Moon」という曲を書いたときのイメージがあのキーだったんです。氷室さんへのプレゼンでも、ある程度覚悟しつつキーが高いままの状態で聴いていただいたんですけど、「メロディーはどういうイメージ?」って聞かれて、「イメージ的にはファルセットっぽいほうがいいんじゃないでしょうか」みたいな話をして。結果、全部を通してファルセットで歌っていただけたんですけど、まさか、ここまで完璧にファルセットで歌ってくれるとは想像以上でしたね。

▲YT

──氷室さんであればオクターブ下でも歌えるキーですし。

Jun Inoue:という意味では、一番実験的だったり、挑戦的なのは氷室さんで。僕らとしては身が引き締まる思いというか。

──それを引き出したのはYTさんのキー設定にあるわけですし。“覚悟”という言葉もありましたが、プロジェクト内でも刺激し合っているスタンスが伝わってくるような話です。同時期に発表された「Play Within A Play」のコンセプトもやはり“近未来”ですか? サウンドアレンジ的な方向性は「Bloody Moon」と異なってベースフレーズをはじめとするリズムの強さが印象的です。

YT:そうですね、近未来のクラブというか、そんなに煌びやかなところではないクラブに流れている音楽。なので、ファンクっぽい要素も入れつつ、NINE INCH NAILSのようなグシャッとしたサウンドもミックスして。で、真ん中の間奏部分は、フワッとさせたかと思ったら続くギターソロでグチャグチャにするというイメージ。

Jun Inoue:2曲とも森雪之丞さんが歌詞を書いているんですが、その世界観も凄くマッチしてますよね。「Play Within A Play」は“この世は まやかしの舞台 人は誰かを演じて生きるのだから”という、合わせ鏡というか、裏の裏は決して表ではない世界観。それが氷室さんの声とサウンドと相まって、ここではないどこかへ行ってしまうような曲ですよね。アルバムを作る上では、この2曲の世界観から外れないようにして、特に歌詞の部分ではそうですね。

──「Bloody Moon」「Play Within A Play」、それとGODBROTHERの「LIAR~世界中の哀しみ集めて」「RAIN」といった4曲が、全16曲を収録したアルバム『IF』という大河の源流だとすると、その道筋に先立つ役割を果たした曲はミュージックビデオも制作されたリード曲の「Area 51」ということになるのでしょうか?

Jun Inoue:この曲はYTが作った原曲の時点から「Area 51」というタイトルが付いていて。歌詞は僕が書かせてもらったんですが、地球に住めなくなった人たちが宇宙に移住する……『機動戦士ガンダム』の世界観ですよね。たとえばアメリカでも“火星移住計画”が現実味を帯びているじゃないですか。そういう架空の“第51区画”で起こったことを物語にしたもので、内容をYTに話して「そこを広げていこう」ということになったんです。なので、アルバムには「Area 51」を起点に、付随するストーリーが散りばめられています。

──架空の街の出来事ではあるけれども将来を予感させつつ、そこに住む人々の人間模様が描かれた内容でもあるという。

Jun Inoue:そうです。時間軸を巻き戻したり、先に進めたりしながら話が進んでいくんです。第51区画から見える景色が、真っ赤な月=「Bloody Moon」だったり。

──「Area 51」のミュージックビデオが公開されましたが、映像やアルバムジャケットは“第51区画”を描いたものですか?

YT:ミュージックビデオは、クリエーターの方に「Area 51」を聴いていただいたり、“近未来”や“完璧なようで少し崩れている世界”というキーワードをお伝えして作っていただいたんです。だから、歌詞の世界観を踏襲したものになっていて。初めて観たときは“カッコええな、これ!”と思いましたね。

Jun Inoue:うん。ミュージックビデオのイメージは「Area 51」の歌詞に近いと思います。
──サウンド的には淡々と疾走する8ビートとメロディーが哀愁を帯びていて、その感情を増幅させるのが歪み成分を抑えたギターリフでもあるという。

YT:僕は普段からギシギシに歪ませるよりも、抑えたギターサウンドのほうが好きなんですよ。音の抜けもそっちのほうが絶対的にいいから。あと、1度5度のパワーコードだけだったら歪んでいても全然いいんですけど、実は僕、あまりパワーコードって使わないんですよ。そこで、歪ませすぎると音が潰れて何を弾いているかわからなくなっちゃうんです。だから、ある程度クリーンにしてますね。

──テンションコードを明確に響かせるための歪みを抑えたサウンドメイクなんですね。表現力の高いギターアレンジの秘訣の一端が垣間見えるような話です。

YT:だから、ライブとかで僕の指を観るとヘンなカタチでコードを押さえてるでしょ(笑)。

──そのフォームがカッコいいんですけどね(笑)。「Area 51」は原曲段階からイメージは変わらずに?

YT:作った当初は、もっとオルタネイティヴっぽい荒々しいイメージだったんですけど、Tesseyさんに「ガラッと変えてほしいんです」ってお願いしたら、ドンピシャなものが返ってきたんですね。という意味では最も印象深い楽曲でもあります。

──GOSPELS OF JUDASを構成するメンバーのひとりであるTesseyさんは氷室さんのヴォーカルによるナンバー「Star Fire」の作曲者でもあります。

YT:GOSPELS OF JUDASというプロジェクトの前身というか、氷室さんとTesseyさん間でGOSPELS OF JUDASが始動する前に作っていた曲が「Star Fire」で。基本的にはTesseyさんのシーケンスがメインの曲だったんですが、氷室さんから「そこにギターを入れてみて」という連絡をいただいて。結果、曲のテイストは変わりましたけど、アルバム『IF』の世界観にはバッチリはまるので入れたいなと思った曲ですね。大好きな曲です。

──決して音数が少ないわけではないんですけど、空間的というか独特の間がありますよね。

Jun Inoue:そのとおりですね。実はドラムが6つか7つ重なって、緻密なグルーヴが作り上げられているんです。センスが素晴らしい。

◆インタビュー(4)へ
■ 彼のギターはすべてを伝えてくれる

──では、歌詞の話に。森雪之丞さんによる「Bloody Moon」「Play Within A Play」とGin Kitagawaさんによる「Mystic Beauty」「Star Fire」、GODBROTHER名義の「LIAR~世界中の哀しみ集めて~」「RAIN」とインストを除く6曲はすべてJun Inoueによるものですが。

Jun Inoue:先ほどお話ししたように、森さんの世界観があったので、そこを軸にしつつ各曲をつなげていって。一番最後の「Cryin’ with my Guitar」はまた違う物語なんですけど。

──他の曲がSF的な歌詞に対して、「Cryin’ with my Guitar」だけはリアルですね。Jun Inoueが思う“YTさんとギターの関係性”を想像しました。

Jun Inoue:そのとおりです。特にラストナンバーという指定があったわけでなく彼から受け取ったんですけど、とにかくギターソロがまず耳に飛び込んできて。そのギターソロに辿り着くまでに彼がどういう言葉で歌ったら、ギターソロの場面で音楽的に一番高いところに行けるかなということを逆算して歌詞を書いていったんです。そうすると必然的にアルバムの物語には入れられなかった。それに、楽曲の感じとしてフィナーレを飾るナンバーだと思ったのでラストに据えました。もちろんフィクションですので、彼のリアルを語っているわけではないんですけど、ギター賛歌ですよね。ギターと共に生きたある男の歌。で、言葉では表せないからギターソロに入るという。彼のギターはすべてを伝えてくれるんです。という意味では、ギターソロを聴いてもらう曲と言い換えることもできますね。

YT:この曲の歌詞はしっくりきました。日本の楽曲にはわからない歌詞も少なくないですけど、彼が書く歌詞凄く納得できるし、この曲は特にいいなと思えましたね。

Jun Inoue:「Cryin’ with my Guitar」以外は、ひとつの物語になるように各曲の歌詞を書いていったんです。森さんとかに書いていただいた歌詞も含めて。

──収録曲順にも関わってくるストーリー展開ですね。

YT:もちろん制作中に変わっていった曲順もありますけど、「Mystic Beauty」と「Area 51」が冒頭にあるという流れは当初から決めていましたね。

▲YT、Jun Inoue

Jun Inoue:曲順に関して言えば、「Nexus -Overture-」というインストが1曲目にあって「Mystic Beauty」「Area 51」で第一幕を閉じたかったんです。第二幕は4曲目の「Interlude 1」、第三幕は8曲目の「Artificial Selection」、最終章は「Interlude 2」からという構成ですね。それに、時間軸が前後する部分は映画を意識したところでもあって。「Area 51」で第一幕が終わって、第二幕の「Pris’ Dream」は“別れ”の曲なんですが、最終章の「White Moon」というラブソングは、実は“別れる前”の話なんです。アルバム全体を通して聴いてもらうと、“あれ、「White Moon」の2人は「Pris’ Dream」の2人のことかな?”って遡って聴いてもらえるような構成にもなってます。

──回想シーン的な手法も用いられているという。インストの収録位置はストーリー展開部を意味しているわけですね。インストからつぎの曲につながる部分の流れも見事。巧くミックスされてます。「Interlude 1」「Interlude 2」の“作曲者=Silky Voice”は、Jun Inoueさんのソロアーティスト名義だそうで。

Jun Inoue:そこに置こうという意図のもとでインストを作りましたからね。僕は作曲も作詞も、いわゆる音楽に関することは何でもやります。ちなみに「ギターインストが欲しい」ということは僕がYTにお願いしました(笑)。

YT:「Artificial Selection」も後から作ったんですよ。

Jun Inoue:最初は「ギターインストは要らない」って言ってたんですけど、「いやいや、それはないでしょ」と(笑)。マニアックな話ですけど、「ジョー・サトリアーニを超えてくれ」というリクエストをしました。

──YTさんを中心としたプロジェクトにもかかわらず、「Artificial Selection」以外にギターインストがないですもんね(笑)。ファンからもギターインストは熱望されるところでしょうし、さすがはプロデューサー。そういうリクエストを受けて、どんなギターインストにしようと?

YT:僕が作るものなので、やっぱりギターリフがしっかりしたインストであること。たとえば、ジョー・サトリアーニはメロディアスなギターインストを作るけど、リフものってあまりないじゃないですか。「Artificial Selection」に関しては、しっかりとリフが鳴っている上でメロディーを弾くようなインストにしようと思ってましたね。

──「Artificial Selection」を含めて、YTさん作曲ナンバーが全16曲中11曲を占めるわけですが、そのどれもがメロディーがキャッチーでギターリフがカッコいい。しかもグルーヴしているという、バークリー時代にJun Inoueさんと組んだバンドのコンセプトにも合致するものばかりで。

YT:そう言っていただけると嬉しいですね。

──「Mystic Beauty」は氷室さん王道といってもいいメロディーに対して、ギターリフに趣向が凝らされています。一聴すると変拍子に聴こえるフレージングなんですけど、変拍子ではないというトリッキーさ。

YT:普通ではないリフを狙うというか、せっかく自分が演るんだったら人とは違うことがしたいというか。聴き流されてしまったり、反応してもらえなかったりでは面白くない。では、どうするかというと、耳を惹くフックを作るということですよね。リフを作るときはそういうことを考えているので、そういう部分に反応していただくと嬉しいです(笑)。

──思うつぼ、というわけですね(笑)。ギター的な聴きどころで言うと、GODBROTHER名義の「RAIN」はアグレッシヴ。弾きまくりの躍動感が凄い。

YT:はい。かなり(笑)。

Jun Inoue:速いですよね。この曲はレコーディングをLAで行ったので、ドラムは氷室さんのサポートでお馴染みのチャーリー・パクソン。「Bloody Moon」「Play Within A Play」「LIAR~世界中の哀しみ集めて~」「RAIN」はチャーリーのドラムですね。

──それ以外のドラムは?

YT:Tesseyさんの曲はシーケンスだし、それ以外の曲は僕が作ったものですね。

──プロジェクトの性質上、ドラムも含めてデジタル色が強いのかなと想像していたんですが、むしろサウンドから受ける印象は生のバンド感だったんです。そういう受け取り方で間違いないでしょうか?

YT:もちろん!

Jun Inoue:そうだと思います。デジタルのデジタル感って、すでに昔のものっていうか。僕なりの近未来感は、デジタルだからこそ、その中で体温のあるものが際立つというか。血の通うものがメインになってくるんじゃないかなということで。

──それって、デジタルと生演奏のミックス具合にも関わってくる話でしょうか?

Jun Inoue:彼はヴォーカルを聴きながら、それに合わせてドラムを作るんです。その方法論は僕にも共通していて、ヴォーカルとドラムありきで、他のパートを色付けていくという作業をしていますね。軸となるのはヴォーカルとドラムなんです。

──ヴォーカルの話も訊かせてください。Gin Kitagawaさんが歌った2曲(「LIAR~世界中の哀しみ集めて~」「RAIN」)はGODBROTHER名義のもので、GOSPELS OF JUDAS名義の4曲(「Mystic Beauty」「Bloody Moon」「Star Fire」「Play Within A Play」)が氷室さんヴォーカル。それ以外の楽曲に関してはすべてYTさんが歌われています。そのセレクションというのは?

YT:氷室さんに歌っていただいた4曲は、結構前の段階で録っていたものなんですよね。

Jun Inoue:基本的に僕は、YTが歌うものだと思って歌詞を作っていたけどね(笑)。

──つまり、メインヴォーカリストはYTさんということですよね。

Jun Inoue:そうです、そのとおりです。

YT:曲を作っているときには自分で歌うというイメージは頭の中になかったんですよ、正直なところ。ただ、このプロジェクトが進んでいくにあたって、知らない人が新しく入って歌うというのも違うのかなと。となると、自分で歌わないとダメなんじゃないかなと思うようになって。

──…………そんな消去法ではないですよね(笑)?

Jun Inoue:そうですよ(笑)! 氷室さんから「YTが歌えよ」って言われたことがデカいんじゃないの?

YT:ホンマは、そこが一番だけどね。氷室さんに言われたら「わかりました」って言うしかないでしょ(全員爆笑)。

▲YT

Jun Inoue:YTの歌はブルージーですし、色っぽいのでミックスしてても楽しいですよ。

──ヴォーカルはもちろん、生のバンド感がほとばしっているという意味では、ライヴがますます楽しみになってくるアルバムということもできるんです。

Jun Inoue:ライヴでは、アルバムの1曲目からラストまで、曲順通りに演ります。来てくれた人にアルバムを生で体感してもらうというコンセプトで。

YT:メンバーは僕がヴォーカル&ギター、Gin Kitagawaがベース&ヴォーカル。ちなみに彼もバークリーからの仲間です(笑)。で、Tesseyさんと彼(Jun Inoue)がトラックを流すという4人編成です。楽しみにしていてください。結構凄いですよ……って自分で言っておこうかな(笑)。

取材・文◎梶原靖夫(BARKS)
撮影◎大橋祐希

  ◆  ◆  ◆

【リリース情報】


▲アルバム『IF』

1st ALBUM『IF』
2018年7月18日発売
価格:¥3,240 (Tax in)

1. Nexus 〜Overture〜
2. Mystic Beauty
3. Area 51
4. Interlude 1
5. Pris' Dream
6. LIAR 〜世界中の哀しみ集めて〜
7. Bloody Moon
8. Artificial Selection
9. Star Fire
10. Interlude 2
11. White Moon
12. Silent Train
13. Tears in Rain
14. RAIN
15. Play within a play
16. Cryin' with my guitar

【ライブ情報】

<GOSPELS OF JUDAS LIVE “IF #2”>
日程:2018年9月2日(日)
会場:青山Future SEVEN
1部:開場16:00 / 開演 16:30
2部:開場19:00 / 開演 19:30

日程:2018年9月8日(土)
会場:心斎橋VARON
1部:開場16:00 / 開演 16:30
2部:開場19:00 / 開演 19:30

チケット 一般発売日:8月12日(日)
チケット料金:¥5,000(税込)
入場時に1drink ¥500

  ◆  ◆  ◆

<GOSPELS OF JUDAS LIVE “IF”>
日程:2018年7月15日(日)
会場:Future SEVEN
1部:開場16:00 / 開演 16:30
2部:開場19:00 / 開演 19:30

<LIVE “IF” レコ発記念ライブ>
日程:2018年7月18日(水)
会場:新代田 LIVE HOUSE FEVER
開場19:00 / 開演 20:00

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