向井太一 インタビュー 家族愛、恋
愛、郷土愛……様々な“愛”を歌った
最新作『LOVE』ができるまで

6月27日に配信リリースされた向井太一の最新EP『LOVE』。「音楽をやるようになって、人との繋がりみたいなものを強く感じるようになった」「あの人たちがいなければ、今の僕はなかった」という想いを強く感じたため制作された今作は、家族愛、恋愛、郷土愛、自己愛など様々な“愛”が歌われたコンセプトEPとなっている。

自分のルーツをどんどん取り入れ、自身のフィルターを通してアウトプットされた楽曲が収録された『LOVE』ができるまでを訊いた。
──今作『LOVE』では、様々な愛の形を歌われていますが、楽曲制作をされる前にコンセプトを決めたんですか?
曲によって違います。去年フルアルバムをリリースしてからも制作を続けていて、そこでできた何十曲もの中からピックアップしたものもありますし、コンセプトを決めてから作った曲もあります。
──ちなみに、コンセプトを決める前に作った曲というと?
「Siren」が最初にできて、同時期に「HERO」と「FURUSATO」も作っていたんですけど、その2曲はコンセプトを決めてから歌詞を書き直しました。「MALIBU」と「cuz of you」は、完全にコンセプトが決まってから作った曲ですね。
──なるほど。そもそも、なぜ愛をテーマにしたんですか?
デビュー時からずっと言っていることなんですが、僕はソロシンガーとして表に立ってはいるけど、後ろにはいろんな人がいるんですよね。音楽をやるようになって、人との繋がりみたいなものを強く感じるようになったし、彼/彼女たちや、あの人たちがいなければ、今の僕はなかったなっていう気持ちがすごく強いので、まるっといろんな愛について歌ってみようと。あと、僕はずっとR&Bやヒップホップやレゲエを聴いていたんですけど、愛について歌っていることが多いし、R&Bなんかはもうど直球だと思うし。そういう自分のルーツ的な部分が持っているものもしっかりと歌っていきたいなと思って。
──向井さんご自身の根幹にあるものがLOVEだったんですね。
そうですね。僕は結構至上主義だと思います(笑)。
──愛こそすべて的な?
わりとそうですね。そこは恋愛の話だけではなく、家族のことも大好きだし、兄弟のことも尊敬しているし、協力してくれるチームのメンバーやバンドメンバーのことを信頼しているので。人に恵まれているなって感じることはすごく多いですね。
──人によっては「至上主義です」と言うことに気恥ずかしさもあると思うんですが。
それはよく言われるんですけど、たぶん、これは母親が影響していて。うちは母子家庭だったんですけど、子供に「愛しているよ」ってすごく言う親だったんですよ。だから、そういうことはわりとストレートに言えちゃうんです(笑)。友達に対しても「めっちゃ大切に思っているよ」とか。それは一番大切にしておきたい部分でもあるなって、大人になるにつれてその気持ちは強くなっていきました。
──それは、音楽を通していろんな人たちと関わることが増えていくことで?
それもありますし、やっぱり上京したことが大きかったです。18年間ずっと一緒に暮らしていたけど、こっちに出てきても支えてくれたり、音楽という特殊なことをやらせてもらえていることもすごくありがたいと思っているので。だから、上京してきたことがキッカケになって、そういう思いが強くなったと思いますね。
向井太一
──では、曲についてお聞きしていこうと思うんですが、最初にできたのが1曲目の「Siren」だったと。この曲ではtofubeatsさんと初タッグを組んでいます。
tofuさんとはそれまでに何回かお会いしたことがあったんですけど、もちろん曲も好きでしたし、いつか一緒にやらせていただきたいと思っていて。そのときはまだ今回のコンセプトを全然考えていなかったんですけど、「Siren」のメロディーができたときに、ちょっとおもしろいものができそうだなと思って。フィクション的というか、僕の中で今までと違ったアプローチや歌詞の世界観にしたかったんですけど、なかなか難しかったんですよね。それでCOプロデューサーを決めるときに、この曲は絶対にtofubeatsさんがハマるなと思って。tofuさんのサウンドは懐かしさがありつつも新しいし、すごく範囲の広いリスナーに対してアプローチしていくことも魅力的なので、おもしろいことになるんじゃないかなと思ってオファーさせてもらいました。
──確かにおもしろい曲になっていますね。tofubeatsさんらしい90年代っぽさがありながらも、スタイリッシュな感じがあって。
要はバランスだと思うんです。懐かしいものをそのままやるだけではただ古いだけになってしまうし、かといって新しいアプローチをすることが必ずいいかというとまた別なんですけど。だからちょっとした いなたさと、現代っぽいアプローチをバランスよくミックスできればいいなと思って。「Siren」はその絶妙なバランスをtofuさんがとってくださったかなと思ってます。
──歌詞としては男女の駆け引きが描かれていますね。男性は今晩なんとかしようと思っているんだけど、女性の本心がなかなか見えないという。
本当にその女性のことを好きなのか、それとも体だけを求めているのかという曖昧な感じがすごくリアルだし、そういうことも歌っておきたかったんですよね。「LOVE」というコンセプトを表だけ見ると、すごく嘘っぽく感じるところもあるかもなと思ったので、こういう人間らしい、ちょっとじめっとした感じがいいなと思って。
──こういった歌詞は、愛を歌う上で避けて通れないと思っていたところもありましたか?
そうですね。僕はR&Bって快楽主義者の音楽だと思うんですよ。僕自身はR&Bをやっている意識はないんですけど、自分のルーツ的な部分、リアルに聴いてきてインプットしてきたものを僕のフィルターを通してアウトプットしていきたいと思っていて。だからこういうことも大切にしていきたいなという意識はありますね。
──2曲目の「MALIBU」はレゲエテイストで、コンセプトを決めてから作ったと。歌詞としては、愛の中でも「自己愛」にあたるものですね。
家族愛や恋愛のことを書いていたときに、自分のことも大切にしなきゃいけないなと思って(笑)。ただ、甘やかすのとは違って、一息つくというか。肩の力を抜くことでまた新しい見え方ができるんじゃないか?っていうことを、押しつける感じではなく、気軽に書ければいいなと思って。なので、歌詞も他の曲に比べるとラフですし、メロディーもおもしろい感じのアプローチをしています。
向井太一
──その次が「HERO」ですね。
この曲は修正しまくった曲ですね。
──なぜまた修正を?
この曲は兄のことを歌っていて。兄とは6つ離れているんですけど、父親代わりでいてくれて、僕が今音楽をできているのも兄のおかげというか。だから軽い言葉で言いたくなかったんですよね。それで、これはちょっと嘘っぽいなと思ったら書き直すのを繰り返していたんです。最終的には「ありがとう」みたいなシンプルな言葉にはなってしまったんですけど、そこに至るまですごく考え込んだ曲ですね。
──トラックとしてはアコースティックギターから始まる形になっていて。
この曲は、アコースティックギターの曲を作ろうっていうところから始めたんですよ。というのも、僕が今までやっていたようなアンビエント系の楽曲をやっていた海外のアーティストがアコースティックアレンジをしたり、ヒップホップの人たちもアコースティックギターで曲を作ったりしていたので、僕もちょっとやってみたかったんですよね。それと、ずっとやってみたかった兄弟への歌詞というのがバチっとハマりました。
──お兄さんへの気持ちを実際に形にしてみた感想というと?
なんか、年齢が離れているから照れ臭さみたいなものは特にないんですけど、この曲を書いてから自分の小さい頃のことを思い出すようになりました。
──元々振り返ることが多いタイプではなかったんですか?
今ほどではなかったと思います。でも、昔は自己中心的というと違うけど、周りがあまり見えていないというか。歌詞も内面的なことしか書いていなくて、特に1st EPは、自分の中のことばかり書いていたんですけど。でも、たとえばライブをするようになってから、誰かに向かって歌っている意識がどんどん強くなっていくうちに、最終的に家族というものってすごく大切なものなんだなっていうのを再認識するようになっていきましたね。
向井太一

向井太一

──それこそ、その次の「FURUSATO」では、郷土愛や家族愛をまっすぐに歌われていて、まさに今お話しされていたような内容の歌詞ですね。
去年、初めて地元の福岡でリリースイベントをしたんですけど、そのときの「おかえり感」みたいなものがすごくて。もう8年ぐらい東京にいて、こっちが家という意識が正直強くなっているんですけど、地元に帰ったときのホーム感というか、ルーツを感じる場所ってやっぱり大切だし、それがあることってすごく大きなことだなと思って。だから、まさにさっき話していたまんまなんですけど、自分自身のことを歌いつつ、その後ろにあるものを歌っている曲ですね。
──曲の雰囲気としては、ザ・ブラックミュージックというイメージが強かったです。
grooveman Spotさんが土臭いヒップホップのビート感がすごくうまくて、僕みたいなJ HIPHOPやJ R&Bを聴いていた人間からすると、やっぱりこういう曲っていいよねっていう感じになるんですよね(笑)。最近、昔に聴いていた曲をまた聴くようになったんですけど、あの頃の時代感も加味しつつ、自分のルーツ的な音楽をどんどん取り入れるようになったのがわかりやすく出た曲だと思います。
──ちなみに、最近聴き直しているものというと?
小学校のときに、DOUBLEさんとか、AIさんとか、Full Of Harmonyさんとかを聴いていたんですけど、最近AIさんにお会いする機会があって。僕にとっては神様みたいな人だったから、また改めて聴いたというのと、当時バリバリのブラックミュージックをやっていた人って、今また新しくておもしろいことをやっている人が多いんですよね。それってすごくいいなと思って。
──確かに。素敵なことですよね。
海外って、昔からのアーティストが新譜でかっこいいことをやっている人もいるけど、日本の場合は、新しいことを歌えない人が多いというか、新しいアプローチをすると、言ってしまえば微妙になってしまう人もいると思うんですけど。でも、僕が聴いてきたアーティストさんが今もおもしろくてかっこいいこと、すごい攻めたことをしているのが、自分が純粋に音楽が好きだと思って聴き始めたときのワクワク感と近くて、それが嬉しいんですよね。僕も新譜はどんどん掘るし、ジャンルも変わっていくんですけど、やっぱり自分というフィルターをちゃんと通した上で曲を作っていきたいんですよね。
──新しいものはどんどん受け取っていくんだけど、受け取ったものをただそのまま投げ返すのではなく、血肉化したうえで曲にしたいと。
そうですね。ここ十何年でR&Bがポップスの芯になっていったことで、新しいものって歌唱技術とかももちろんですけど、どちらかというと僕はセンスが問われるものになっていると思っていて。
向井太一
──そのセンスというのは、「Siren」のエピソードに出てきたバランスの取り方の部分とか?
あとはアプローチの仕方とか。たとえば、ちょっと前にブルーノ・マーズがやっていたような、昔流行ったものを新しく感じさせるアプローチって、すごく秀逸で難しいことだと思っていて。昔のファンクやソウルの要素をただそのままやるんじゃなくて、新しいものに昇華させるということは、やっぱりセンスが問われると思うんです。それに、それをどう見せていくかというのは、今はセルフプロデュース力がアーティストにすごく問われる時代でもありますし、大切にしたいなと思っていますね。
──そして、最後が「cuz of you」。これはもう恋愛に溺れていく感じですね。
僕の恋愛観がこういうタイプで、目の前が見えなくなるんですよ(笑)。20代後半になってきて、さすがにこういうことを吐露していくことに恥ずかしい気持ちは正直あるんですけど、もっと内面的な部分というか、表には出してないような気持ちを書いていますね。
──歌詞はどういうところから出てきたんですか?
最近『LOVE LETTERS』という本を読んだんですけど、ベートーヴェンとかナポレオンとか、偉人が書いたラブレターを集めたもので。そのなかでみんな共通していたのが、「あなたは私に愛を与えてくれるのと同時に、苦しみも与えてくれる」ということで。自分もそうなんですよね。恋愛って、一緒にいるときはすごく幸せだけど、離れているときはものすごく苦しいし、言葉ひとつで関係性がなくなることもあれば、また違った感情が生まれることもあって、すごく紙一重なバランスの悪い状態にいるというか。でも、そういう不安定な状態かもしれないけど、あなただから僕は一緒にいたいっていう。だから完全な幸せというよりは、そこには苦しみや切なさもあるんだけど、その先にある溶けていくような感情とか、自分を押し殺してでも相手を強く思う気持ちとか、守りたい感情みたいなものを歌っている曲ですね。
──<変わりゆく僕らしさまで なんだか好きになっていく>という歌詞もありますけど。
僕、食べ物とか趣味とか、相手にめちゃくちゃ影響されるタイプなんですよ(笑)。興味のあることとか、いままで知らなかったことにはどんどんチャレンジしてみたいタイプで。そうやって変わっていく自分が結構好きなんですよね。相手に染まっていくというか、わりとそういうタイプです(笑)。
──自分の好きな人のことを深く知るためにも、とりあえず手を伸ばしてみるという。
そうですね。音楽もそうなんですけど、変わることに抵抗があまりないんですよ。変わったものが自分になればいいなっていう。何事も100%まっさらな状態なんてありえないじゃないですか。絶対に誰かの影響を受けているわけだし。ただ、自分の中で伝えたいものとか、こうしたいっていう気持ちだけは絶対にブレなければいいかなって思ってます。
向井太一

向井太一

──あと、今回のビジュアルイメージも綺麗ですね。
ありがとうございます。僕の知り合いで、『BLUE』と同じフォトグラファーなんですけど、『LOVE』って、ジャケットによってはめちゃくちゃダサいタイトルになるなと思ったから、とにかく作り込みたかったんですよ。
──青空の下で旗を持っているイメージは最初からあったんですか?
旗のイメージは最初からありました。なんか、動きが感情とすごくマッチしているというか。曲によっては開放感にもなるし、気持ちが揺れ動く曖昧さにもなるし、いろんなものに当てはまるんじゃないかなって。あと、初めてジャケットのデザインを自分で手がけたんです。今まではデザイナーにお願いしていたんですけど、一回やってみてもいいですか?ってお願いして。
──それこそLOVEの文字をどこに置くのかすごく考えたんじゃないですか?
かなり迷いました。フォント含めて、どうすればスタイリッシュなもの、コンセプティブなものに見えるかっていう。そもそも『LOVE』というタイトルがチーム内で賛否両論だったんですよ。でも、僕が「絶対にこれじゃないと嫌です!」って(笑)。それを一番ストレートに伝えたかったし、それをしっかり見せるというのが腕の見せどころというか、実力が問われるところじゃないかなと。
──そして、今作を掲げたツアーも決まっていますが、地元の福岡からスタートということで。どんなライブになりそうですか?
たぶんめちゃくちゃエモい感じになると思います(笑)。(曲のモデルになった)本人が目の前にいるわけですからね。きっと見に来てくれると思うので、とりあえず泣かないように頑張ります。
──そこも要注目ですね(笑)。
実は前回のツアーでも泣いちゃったんですよね(笑)。レコーディング中も、自分の中でグっとなることがすごく多くて。
──レコーディングでそうなるということは、ライブはかなり気持ちが昂りそうですね。
やっぱり曲ってライブで完成されることが多いんですよ。レコーディングをしているときは、まだ身体に染みていなくて、ライブで初めて完成されるというか、そうでありたいなと思っていて。ライブこそが自分が一番大事な場所にしたいし、自分の表現したものの集大成ができればいいなというのは、いつも意識していますね。
──では、エモいライブを楽しみにしてます。
はい。楽しみつつ、エモくなりすぎて独りよがりにならないように気をつけます(笑)。

取材・文=山口哲生 撮影=菊池貴裕

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