【ライブレポート】Jin-Machine、In
itial’L、Chantyが歩む、三者三様の
スタイル

BARKS主催ライブイベント<千歌繚乱 ~Massive Triangle~>が、5月23日(水)に渋谷・GARRET udagawaで開催された。
普段はインディーズシーンで活躍する若手ヴィジュアル系バンドを5~6バンドほど招いて開催されている本イベントだが、今回は趣向を変えてキャリアのある3バンドに出演してもらった。1バンド40分というたっぷりの持ち時間も含め、各バンドの魅力を目いっぱい楽しむことができるイベントであった。この日の模様を、写真とレポートで振り返ってみる。
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イベントのトッパーを飾ってくれたのはChanty。演奏とともに幕が上がり、ライブは「貴方だけを壊して飾ってみたい」からスタートした。繊細なギターリフのイントロから、言葉が真っ直ぐ伝わる芥の歌声。「縛り付けて」「逃がさない」などちょっと特殊な恋愛を歌った曲だが、ゆったりしたリズムも聴きやすく、すっと耳に馴染む。続いての「フライト」も野中拓(B)が弾くベースのフレーズが面白いのだが、とてもクリアで、2曲通して目の前には朝焼けを見ているときのような清廉な情景が浮かぶ。そこから「インピーダンス」で踊ったあとは、「Chantyの世界へようこそ!」と一言。確かにここまでの3曲で、しっかり自分たちの“世界=音楽性”を魅せつけている。
中盤戦は「繚乱という文字は入り乱れるという意味だからさ、会場全体飲みこんで暴れていこうぜ!」と始まった。イベント主催者としての目線で見れば、イベント名に触れてくれるのは、とても嬉しいことだということも記しておく。ちょっと懐かしいメロディの「冤罪ブルース」では「冤罪冤罪冤罪冤罪」というコールが印象的。感情が高まったのかジャケットを脱ぎ捨てた芥、叫んで5曲目「魔がさした」へ。この2曲は少しの狂気をはらんでいて、前半とは違った世界を作り出す。そこへ投下された6曲目「今夜未明」は、千歳(G)と野中のうねりまくる演奏からサビのまっすぐなドラムのリズム、ブレイクがあったりと緩急が激しく独特なサウンドだ。未明という言葉がさす時間帯のように、どこか不安定で不思議な曲。実にChantyらしい。
終盤に披露された「不機嫌」も面白い。マイナー進行の曲に負の言葉が並ぶのだが、どす暗い嫌な気持ちにならないのはChantyのメロディセンスと、伝わりやすい芥の声の力だと思う。ちなみにChantyは歌詞も面白い。わかるようでわからない、わからないようでわかる、なんとも絶妙な言葉使いで歌詞が綴られているのだ。特にラストの「おとなりさん」は、シンプルな楽曲に歌詞で味付けがされており、言葉選びのセンスが顕著に現れている。芥はこの曲の初めに「いつだって信頼し合っている友達も親も兄弟も恋人も蓋を開けばわからないことばっかり。だけど、それでも寄り添っていれば何かが見えると思ってこんな曲を届けていきたいと思います」と述べていた。40分のステージを通し、美しい楽曲から激しい楽曲までたくさんの姿を見せてくれたChanty。いずれの楽曲も素敵だが、レポートを書くにあたり「Chantyはどんなバンドなのか」と一言で表せないことに気付いた。もっと寄り添っていければ、その答えが見えるのだろうか。もっと知りたい、そう思わせてくれる吸引力が彼らにはあった。
続いてのInitial’Lは、ヴィジュアル系バンドからロックバンドへと変遷した経歴を持つ。ヴィジュアル系という特殊な世界にいたバンドが、別のシーンでいい変化を遂げることはある意味難しいこと。だがイベント前に行ったインタビューで彼らはそのリスクも充分承知した上で、「やりたいことをより自由にやりたかった」と語る。それゆえに、いま彼らが奏でる音には嘘偽りがない。
ファンのクラップで迎え入れられたメンバーは、「KINGS AND QUEENS」を投下。「こんな世界を愛するために」「こんな時代を愛するために」、と一曲目から彼らの伝えたいメッセージが胸に刺さる。以前彼らが作っていた楽曲とはガラッと雰囲気は変わっているが、確かな演奏力に裏付けされて説得力がある。二曲目「CALLING」、三曲目「Stop my heart」もとても聞きやすいストレートなロックだ。ファンは拳とクラップで音にノリ続ける。ヴィジュアル系バンドを見に来たファンも置き去りにしない、誰の耳にもまっすぐ届く楽曲が、いまのInitial’Lの魅力だろう。
よりスピード感を増す「All I WANTED」ではメンバーそれぞれがステージ前方に身を乗り出して演奏。サトシ(G)も「Everybody,crap hands!」と英語で煽り、フロアのテンションが上がり続けていく。Initial’Lとして始動して約一年半、方向転換した彼らがヴィジュアル系のイベントでどのように自身の魅力を伝えるのだろうか…と思っていたのだが、それは杞憂だった。既に完璧に己の盛り上げ方を確立している。そこからちょっと趣向を変えて、しっとりとした「All I WANTED」も披露。悠希(Vo)の繊細な声が、歌うことの意味を伝えてくれる。ヴィジュアル系という世界にいたからこその、この繊細な表現力。最初からロックバンドだったらこんな音楽性はなかったかもしれない。
MCでは「さっきからステージに100円玉落ちてて、いつ取ろうかと気になってて(笑)」という自由なトーク。こういうところも型にはまらないロックなスタイルか。そこからの終盤戦は盛り上がる曲を畳み掛けるように披露していく。「VISION」では折りたたみヘドバンも起こる。そして最後に「WAKE UP」。絶対に誰でもノレるとてもかっこいい一曲だ。その突き抜けるような爽快感でステージを締めてくれた。ラストに悠希が「この会場ひとりひとりに感謝します!」、サトシが「Thank you,enjoy tonight!」と男らしく叫ぶ姿も、とても気持ちが良かった。Initial’Lが自らの方向性を変えてシーンに再登場したのは、変化ではなく進化なのだと思い知らされた。
テレビゲームを思わせるコミカルなSEとともにステージに現れたのはJin-Machine。自身のことを“日本一面白いヴィジュアル系バンド”と語るにぴったりの幕開け、期待が高まる。メンバーひとりずつお立ち台に上がり、最後にfeaturing16(Vo)が登場すると「ここで唐突に赤い照明…渋谷、カルマを感じろ…」と宣言をしてライブが幕をあけ一気にフロアにはヘドバンの嵐が巻き起こる。“ヴィジュアル系っぽい”歌詞と重いサウンド、そこにあっつtheデストロイのデスボイスが乗り、そのカッコよさに一瞬「日本一面白いとは?」と思ってしまうのだが、2曲目「やったぜ!バイトリーダー」で「財布の中には30円」「時給は650円」など、独特な歌詞が響き渡り思わずにやけてしまう。続いての「モンスターペアレンツ」でも爆笑。
だが、Jin-Machineは演奏力もメロディセンスも抜群なのだ。歌詞を聞かなかったら、ただかっこいいバンドだろう。面白さとかっこよさの絶妙なバランスに感嘆する。真面目に不真面目、という言葉がぴったりだ。MCでもfeaturing16がお弁当を買いに行って傘を盗まれた話から、渋谷が怖いという話など、軽快なトークが炸裂する。その続きで始まった「さよなら†黒歴史」は振り付けも楽しく、フロアからは合いの手も。次には何が来るのか…と思っていると「せんべろコール!」というfeaturing16の声。“せんべろ”とは千円で飲み食いのできる居酒屋のこと。「飲んじゃって 食っちゃって 千円でYeah!」とモッシュで楽しめる一曲だ。普通のヴィジュアル系バンドには絶対にないテーマの楽曲で、もはや酔っ払いかのごとくフロアは大騒ぎ。
そして盛り上がり最高潮のラストに「マグロとマグロでコミュニケーションしようぜ!」という一見謎の煽りとともに披露されたのは「マグロに賭けた男たち」。叙情的なイントロに聴かせる曲かと思いきや、Aメロから飛び交うのは「らっせーら!」の掛け声。そしてフロアにはマグロのぬいぐるみが次々投げ込まれ、ファンとメンバーでマグロの投げ合い。この光景を見ていると「ヴィジュアル系とは何なのか」などと難しいことは考えなくてもいい、ただ彼らの音楽にのっていれば楽しいという間違いない事実に気付かされる。ライブの終わりは「仕事も遊びも全力で頑張ろうぜ!」といって爽やかに終わるかと思いきや、モーニング娘。の「LOVEマシーン」にのせて、「ジンマシーン」とコールして退場。その退場の際のミュージックもSuperflyの名曲「愛をこめて花束を」で、シュールさを演出する念の入れよう。メンバーがはけるその一瞬まで、彼らにしかできないステージを繰り広げてくれた。
イベント開催前に実施したインタビューでマジョルカ・マジョルカ・マジカル☆ひもり(G)は「ヴィジュアル系というのは閉鎖されたコミュニティー内で完結してしまっているイメージがあって、それを打破できるのはお笑い」と語っていたが、その言葉通りJin-Machineのライブは世間一般で思われているヴィジュアル系のイメージとは全く違う。もしヴィジュアル系に苦手意識を持っている人がいるとしたら、そんな人にこそ見て欲しいと思う。


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自身ならではの独特な音楽を奏でるChanty、“日本一面白い”と振り切ったスタンスのJin-Machine、ヴィジュアル系で得たものを違うジャンルで存分に生かすことに成功したInitial’L。今回出演した3バンドは、いずれもこのバンドでしか楽しめない三者三様のステージを展開していた。ヴィジュアル系だとか、〇〇系だとか、とひとくくりに語れるものではなかった。本来そんな概念は音楽に必要ないし、“何系”だろうと、アーティストが自分たちにしかできない音楽を奏でていることはライブを見ているファンの楽しさに繋がるのだと感じた一日だった。なお、BARKS主催イベント<千歌繚乱>次回公演は、近日詳細発表予定となっている。出演バンドやその他情報は、BARKSおよび千歌繚乱オフィシャルTwitterにて。
文◎服部容子(BARKS)

セットリスト

■Chanty

1:貴方だけを壊して飾ってみたい

2:フライト

3:インピーダンス

4:冤罪ブルース

5:魔がさした

6:今夜未明

7:不機嫌

8:おとなりさん
■Initial’L

1:KINGS AND QUEENS

2:CALLING

3:Stop my heart

4:All I WANTED

5:I Never Say Goodbye

6:VISION

7:HIVE

8:LAST FIGHT

9:WAKE UP
■Jin-Machine

1:Suffer 

2:やったぜ!バイトリーダー

3:モンスターペアレンツ

4:さよなら†黒歴史

5:恋して!せんべろ

6:たのしい日本語

7:マグロに賭けた男たち

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