勝手にしやがれ × The Birthday 武
藤不在の空白を特別な夜にしてみせた
盟友たちの熱演

7 O'CLOCK JUMP 2018.4.23 渋谷CLUB QUATTRO
勝手にしやがれ主催の対バンライブ『7 O'CLOCK JUMP』が、4月23日渋谷クアトロで行われた。相手はThe Birthday。多少なりともロックの沼に足を踏み入れてしまっている諸氏からすれば、発表された時点で「あ、これはすごいことになるな」と察する組み合わせである。がしかし、事前に報じられていた通り、この日は勝手にしやがれ・武藤昭平(Dr/Vo)が病気療養中のため不在。リズムの要にしてボーカリストでもある武藤を欠き、本来であれば公演の開催自体が危ぶまれる状況となったが、そうはならなかった。なぜなら、かねてより親交のあるバンドマンたちが集い、ゲストとして勝手にしやがれのステージに代わる代わる立つことで、そしてThe Birthdayが恐ろしく気迫のこもったライブをやってのけることで、武藤不在という大きすぎる空白を、恐らく二度とないであろう特別な夜へと変えてみせたからだ。
The Birthday  撮影=埼玉泰志
先攻はThe Birthday。悠然とステージ前方へと進み出たチバユウスケ(Vo/Gt)が、ゆっくりと「涙がこぼれそう」冒頭のフレーズを弾くや、いきなり大合唱で応えるフロア。「今日は勝手にしやがれとお前らと、渋谷クラブクアトロだ!」と一声告げた途端、無敵のバンドサウンドが弾けだす。勝手知ったるクアトロのステージだけに、音質もバランスも完璧で、軽やかとさえ形容できる曲調にもかかわらず、ひたすら重厚。そして爆音。全体を通しても言えることだったが、特に前半はロックミュージックが放つ衝動やエネルギーのうち、ポジティヴな側面を押し出す構成となっていたため、つまりはライブでの破壊力が非常に高い。
The Birthday  撮影=埼玉泰志
タイトな8ビートと歯切れ良いカッティングで推進していく「1977」など、比較的アッパーな楽曲を並べたあとは、低くうごめくヒライハルキのベースが獣のような野生的グルーヴを生み出す「LOVE GOD HAND」だ。間奏の変則ビートもクハラカズユキ(Dr)を中心に一糸乱れぬキレキレの演奏をみせる。「24時」ではハンドマイクでフロアを見渡しながら吠えるチバをめがけて、無数の拳が突きあがり、「Red Eye」の曲中に設けられた手練れたちによる白熱のソロとセッションに至っては、いつまでだって見ていられるほど。妖しさと色気を存分に堪能できるこのあたりの流れ、もはや「最高」以外の間奏があんまり浮かんでこない。
The Birthday  撮影=埼玉泰志
The Birthday  撮影=埼玉泰志
「新曲。」とチバがぶっきらぼうに言いはなって披露したのは新曲「THE ANSWER」。猛々しいビートとエモーショナルなボーカルが印象的で、スケールの大きな曲だ。そこを契機にライブは再加速し、フジイケンジ(Gt)が爪弾くイントロが鋭く歪むと同時に爆発的な反応が起きた「なぜか今日は」、真っ赤に染まるフロアを波打つように揺らす「Nude Rider」を立て続けに。そして、最後に披露されたのは「声」だった。
この日、チバも他のメンバーも武藤に対して特に何かを言ったわけではない(そもそもフロアからの「カッコイイ」の声に「あんたらも……そらねえ、カッコイイよ」と返したくらいしかMCも無かったし)が、<声 聞こえるか/声 届け>と繰り返されるこの曲でライブを締めくくったこと自体が、The Birthdayから勝手にしやがれへ、ロックミュージシャンからロックミュージシャンに送られた激励に違いない。不敵で無敵。盟友として、このタイミングでの対バン相手としての、誇りと矜持を刻むライブだった。
The Birthday  撮影=埼玉泰志
勝手にしやがれのライブは、まずメンバー(サポートの青木ケイタ(バリトン・サックス)含む)のみで「黒い瞳」「FIESTA」の2曲から。武藤不在の穴を埋めるべく、トランペットの田中和がドラムスを担当、田浦健(テナー・サックス)と青木が主に旋律を担い、トロンボーンの福島忍は歌いながらのプレイという、イレギュラーな編成での演奏となった。序盤のうちはさすがに、管楽器が一本減っているぶんのアンサンブル面の迫力不足や、普段以上に期するものがあるゆえの緊張感や硬さを、全く感じなかったと言えば嘘になる。が、彼らの一心不乱な演奏とアクション、それを後押しするかのようにオーディエンスが投げかける熱気によって、時間を経るごとに音も空気もどんどん噛み合い始めた。そこへ拍車をかけたのがゲスト・ミュージシャンたちの存在である。
勝手にしやがれ  撮影=埼玉泰志
勝手にしやがれ  撮影=埼玉泰志
「武藤昭平、今日はいないけど。みなさん、あたたかいメッセージをありがとうございます。必ず元気に戻ってきます。待っててください」「優しいみなさんが駆けつけてくれました」(福島)
最初に登場して「ブラック・マリヤ」でボーカルを担当したのは百々和宏(MO’ SOME TONEBENDER)だ。武藤の同郷の弟分にして酒呑み仲間でもある百々は、黒スーツに黒シャツという出で立ちに、平素よりハスキー成分多めのスモーキーな歌唱という、明らかに“勝手仕様”。缶ビールを煽り踊りながらの自由なステージングで喝采を浴び、場内のボルテージをグッと引き上げてみせた。ファンからの「カズ、いいぞー!!」の声援に「すみませんねー(笑)」と田中が返すなど、良い意味でほぐれた、思い思いに好き勝手できる空気が会場を満たしていく。ちなみに、田中のドラムプレイは派手さこそないものの正確、かつ妙に味があって、浦野正樹のウッドベースとともにしっかりとボトムを支えていた。
続いて登場したa flood of circleの佐々木亮介も、負けじと缶ビールを一気飲み。「渋谷ー!」と何度も焚きつけながら、管楽器+斉藤淳一郎(Pf)の奏でるアコーディオンで繰り出すアイリッシュ・パンク風味が痛快な「デヴィッドスター」と、甘いメロディラインで酔わせる「フィラメント」を歌う。「フィラメント」の終盤には観客の頭上で仁王立ちになるなど、最年少ながら遠慮などあるわけもなく、気迫あふれるパフォーマンスだった。
佐々木亮介 撮影=埼玉泰志
ここで福島が「大学の同窓生を紹介します」と呼び込んだのは、先ほどまではThe Birthdayとしてこのステージにいたクハラカズユキで、クハラが叩き出すド迫力の重低音の中、さらにチバユウスケまで登場。当然ながらものすごい盛り上がりを見せる場内へ向け、まずは「ロミオ」を投下した。クハラがドラムを担当することで田中が本職のトランペットへと戻ったため、そのグルーヴは一層厚みを増しており、続く「Slave」では疾走する横ノリのサウンドにチバの歌声が加わると、ロックンロールと形容するのが一番しっくりくる凄味のあるサウンドが立ち上がる。90年代初頭からの付き合いがある両者、MCでは、勝手にしやがれ結成前(田中がJACK KNIFE、武藤がThe Shamに所属していた頃)にフラカンやミッシェルと対バンをして――といった、当時からのファンには堪らない昔話も飛び出していたが、それにしてもチバ、自身のライブ時とは打って変わって陽気で饒舌である。
The Birthday / 勝手にしやがれ  撮影=埼玉泰志
渡辺俊美 / 勝手にしやがれ  撮影=埼玉泰志
ギターを引っさげて登場した渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET / THE ZOOT16)は、まず裏打ちのカッティングとホーンの音色が心地いい「HEY TD!」をギターボーカルスタイルで歌ったあと、「一緒に旅をした曲で武藤ちゃんを応援したい」と、レゲエを思わせる曲調にポジティヴなエネルギーがいっぱいに詰まった「シャイン・サンシャイン」へ。シャウトするタイプのボーカリストが揃った中で、その甘い歌声が際立つ。さらには武藤に「また旅しような」とメールしたら「もちろんです」と返ってきた――と嬉しいやりとりを明かす一幕も含め、あたたかな時間が流れていった。
最後に登場したゲストは、TRI4THの伊藤隆郎(Dr)と織田祐亮(Tp)。かつてロックやパンクから吸収したエッセンスをジャズに持ち込み、いまやジャズバンドの立場でロックシーンへと打って出ている彼らと、勝手にしやがれの楽曲との相性は、言うまでもなく抜群だ。その高速ぶりで「17年ぶりのテンポだよ」と福島を嘆かせたのは、ホーンが総勢5本となり、ダブルトランペットの競奏も鮮やかな「エル・ソル」。5月にリリースされる彼らのカバーアルバムでもカバーしている「円軌道の外」では、キメとソロの応酬が見事で、観客の目も耳もしっかりと奪ってみせた。
TRI4TH  撮影=埼玉泰志
勝手にしやがれ / TRI4TH  撮影=埼玉泰志
TRI4THの2人をステージに残したままクハラと百々が再び登場し、演奏されたラストナンバーは、「夢をあきらめないで」だった。ツインドラム、ホーンが5人にピアノとウッドベースという総勢9名がクアトロのステージをみっちり埋める様は、なんとも壮観。ホーン隊は代わる代わるステージ前方へと躍り出て熱演を見せる。「昭平兄やん、夢を!あきらめないで!!」と百々がシャウトしている。泣いたり笑ったり、観客一人ひとりがステージへと熱視線を送り続ける。そうしてこの日集まったファンと武藤への想いとエールを鳴らしきったあと、鳴り止まないアンコールに応え、最後はメンバーのみでの「ジャザビリー・ジャック」で熱狂を生み出して、ライブを終えた。
勝手にしやがれ / TRI4TH  撮影=埼玉泰志
活動初期から受け継がれるタイトルを冠し、当時から親交の深いチバとクハラが在籍するThe Birthdayを招くという、今回のライブを組んだ時点では、当然武藤が不在となることなど想像していなかっただろうし、もしかしたら本来ならばもっと違った種類の興奮を味わう1日になったのかもしれない。けれど、図らずも苦境に立たされた勝手にしやがれのために、たくさんの同志が立ち上がり集うことで実現させたライブを見終え、今思うことは、やっぱりこの日の対バンがThe Birthdayでよかったな、ということだ。変に気を遣ったり感傷的にはせず、出し惜しみも一切なしの仕上がりきったライブは彼らならではだったし、だからこそそこに勝手にしやがれへのリスペクトがしっかり感じ取れた。おまけに、ファン目線からすればチバの歌う「ロミオ」や「Slave」というレアなシーンも観ることができたし。
ただ欲を言えば、武藤復帰の折には再びこの組み合わせをお願いしたい。今回はあくまでイレギュラーであり、言うなれば最高のエキシビジョン・マッチ。次は歴戦のバンド同士が真っ向勝負するタイトル・マッチだ。無論、そっちも最高に決まっている。

取材・文=風間大洋 撮影=埼玉泰志

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