“自分たちは一人では生きていけない
” Awesome City Clubが音楽で提示
するコミュニケーション

5月24日から『Awesome Talks -One Man Show 2018-』と題した全国12会場をめぐるツアーをおこなう5人組バンド、Awesome City Club。今回のライブツアーで中軸を担うのが、3月にリリースされたEP「TORSO」の楽曲群。「バンドにとって根幹となる本当に大事な部分=TORSO(胴体)」と向き合ったこの作品は、Awesome City Clubがこれまでどんなことを伝えてきたのか、改めて発見できる1枚だ。なかでも特徴を増しているのが、「自分と他者の関係性」への探求。自分語りの楽曲にはならず、必ずそこに他者が登場し、交わっていく。際立つのが1曲目「Magnet」だ。人と対することで、自分に足りないものを知っていく。人間と人間はマグネットのように引き寄せられ、他者を写し鏡とすることで、自分自身について気付き、またその相手のことも知り、その積み重ねで街や空間は構築されていく。以降の収録曲も手を変え、品を変えながらも、Awesome City Club流のコミュニケーション論が貫かれている。私たちはなぜ、人と関わり合い、そして好きになったり、嫌いになったりするのか。聴き手自身も思わず自らの根幹を見直すような、この「TORSO」。そんな同作について、atagi(Vo.&Gt)、PORIN(Vo.&Syn.)に話を訊いた。
ーーリリースから1か月以上が経ちましたが、「TORSO」はいまだ鮮烈な印象を受けて聴いています。
atagi:ありがとうございます。「TORSO」は自分たちの中で一番すんなりできた作品なんです。いつの間にかうまく出来上がって、リリースができた。何もかも歯車が噛み合った感があります。今までは「自分たちはどんなことができるか」「こんな人と曲を作ったらおもしろいんじゃないか」など実験的な要素が強く、「これでOKだ」と決め切れないライン上で作品づくりをしていました。今回ははっきりと「こういうことが歌いたい」というコンセプトがありました。
PORIN:(2017年1月に)アルバム『Awesome City Tracks』を4作目で完結させて、「次、どうなるの」とよく尋ねられ、プレッシャーを感じていたんですが、このオリジナル作品がすんなりと生まれて来てくれて。しかも、バンドの等身大の姿を反映させることが出来た作品だったので、自分たちも素直に「この作品が好き」と言えるんです。
——大きなテーマになったのは、「TORSO=胴体」。バンドとしての根幹をあらわすもの、という解説が事前にありました。そういえば1曲目「Magnet」を主題歌とした映画『レオン』も、年齢、性別、立場の違う男女の心と身体が入れ替わることで、知られざる自分自身のことに向き合っていく内容でしたよね。胴体性についての物語です。
atagi:そうなんです。ただ、『レオン』への提供ありきで作ったわけではなく、TORSOというテーマがもともと頭にあり、その中の一つとして「Magnet」が出来上がりました。自分を見直していくこと、それに対する考え方、態度についてずっと曲にしたかったんです。収録した5曲を総括したとき、まさに以前から抱いていたTORSOというコンセプトにぴったりはまったんです。
PORIN:『Awesome City Tracks』を作っていくなかで、自分たちが得意とすること、今後やっていきたいことを見つけ出せた。2017年を通して、自分たちの輝ける場所が見つけられた気がするんです。そういう“バンドとしての根幹・胴体”となるものを発見できて、それを今回の作品に落とし込めました。
——「Magnet」は、《君と僕はミラー》の一言があらわすように、誰か相手がいて、その人がまさに自分を写しているような存在だと歌っています。つまり、似た者同士だからこそ、お互いに“足りないもの”が分かるという。ちなみにatagiさんとPORINさんって、似ているところってありますか。
atagi:ないですね!
PORIN:ないね。真逆!
atagi:似ているところが全然ないから、何を言われてもムカつかない(笑)。
——ってことは、全然違うタイプなんですね。
atagi:PORINは僕よりも段違いにスタミナ、忍耐力がある。きっと負けず嫌いなんだと思うけど、とにかく根性がすごい。僕は、スタミナが全然なくて(苦笑)。あまり無理しないタイプなんです。しんどいと思うことをあえてしないから。
PORIN:でも、atagiは生まれ持った生命力は強いと思う。だってさ、ご飯をそんなに食べなくても、やっていけるし、寒さも平気だし。もともと生命力があるから、無理しなくても生きていけるんだよ。私は、とにかく頑張らないと何もできないから。
atagi:でも似ているところと言えば、お互い末っ子で、要領良くうまくやるところはあるよね。
PORIN:末っ子気質なところね。とにかく人に甘える。
atagi:そうそう。だから、「こいつ、いつも上手いことやってるな」と見抜いている瞬間はあります。僕もそうだから。
PORIN:でもそれって無意識。危険察知能力が長けている気がする。それを無意識で回避している。
atagi:人が怒って、大噴火する直前ってあるじゃないですか。悪ノリや悪グチが、冗談ではすまないところまできて、ドカーンとなること。その直前に僕らはちゃんと気付く。「これ以上はヤバい」って空気をちゃんと察する。
——なるほど(笑)。でもそういう「他者を見る目」というのが、Awesome City Clubにはとても重要な気がしていて。Awesome City Clubの楽曲の多くは、「自分と他者」の物語が多いですよね。つまり、君と僕のストーリー。決して、自分語りにはならない。「TORSO」の5曲はそれが顕著だと感じました。
atagi:これはまず、男女ボーカルというバンドとしての構造上の部分もあって、「僕と君」が自然と多くなります。ただ、いろんな生活の中で人の背中を押してあげられる音楽を作りたいという気持ちのあらわれでもあります。「Magnet」は、自分たちの心と身体が入れ替わったとして、自分が不幸・悲劇だと思っていたことが、俯瞰でみると喜劇に映ったりして。つまり悲しさは、まったく関係ない人からしたらどうでも良く、むしろ笑えたりすることもあると気付く。それで前に進めることもあるだろうし。2曲目「ダンシングファイター」もひたむきに頑張っている姿を、僕は見ているよという曲。「あなたのことをすごく格好良く思っている」という一つの愛の形なんです。それぞれ、僕と君の話のその先に、ポジティブなマインドを持つことが出来る。愛、勇気、希望についていつも考えているので、それを肌で感じ取ってくれたら嬉しい。
PORIN:何事も、一人で全部出来るなんて思っていない。必ず誰かいないと生きていけない。バンド自体、この5人じゃないと成り立たない。先ほどatagiとの性格の違いを話しましたが、どんなに違っても、相手を肯定し、お互いに背中を押し合って生きていきたい。
——肯定する手段ってたくさんありますよね。それこそ「Magnet」で歌われていますが、人と上手くやっていくためや居場所を見つけるために、自分を演じて接するのも、それは一つのコミュニケーションのあり方だと思います。
PORIN:理想を思い描いて、それが自分本来の姿じゃなくても、理想の自分を演じ切ってやっていけば、いつか現実が追いつくと思うんです。
——そういうことが出来るのも、やっぱり他者がいるからなんですよね。
atagi:楽曲づくりにおいて、無意志のうちにそういう「君」を作っている気がします。コミュニケーションについて歌う曲が多いので、だから人との繋がり、関わり方について考えたくなる。
——一方で「燃える星」は、君と僕の関係性が美しくて、しかしほろ苦い。《君が見たいねって言ってた 映画は結局見ないまま メモ帳に残ってる》のくだりとか。
atagi:思い出の物語ですよね。ノスタルジーに飲み込まれるのではなく、むしろ助けられるというか。決してマイナスにはならずに、綺麗なものとして自分の中で思い出を完結させる。この物語の主人公にとっては、それは大事なゴール。君との思い出そのものが淡く消えていく、そして終わりを自分のなかで見つける。そうすることで、人としての成長を感じさせるようにしました。メモ帳も気にしない人はどうでもいいものだろうけど、「そういえば、あったな」と読み返したりする人は、過去の誰か、もしくは何かをずっと忘れられないんだろうし。それって誰もが経験したり、近いことがあったりする。
——ノスタルジーに飲みこまれないようにするのって、難しいですよね。どうしてもどっぷり浸ってしまいがち。
atagi:そうなんです。なぜなら、新しいことが始まらないと、なかなか忘れられないから。何かを始めないといけない。自分の中で「もう、お終い」と自然と忘れさせてくれることなんて、あまりないですよね。「燃える星」は聴く人によっては、こんなに綺麗に思い出として残る恋愛なんてないという人はいるはず。だけど、恋愛は得てしてそんなものだったりする。良かったことしか覚えていなかったり。
PORIN:確かに、「燃える星」のようなこんな綺麗な恋愛をしたことはない。でもやっぱり、過去の思い出は美化されている。だからこの詩が染みますよね。未練はないけど、その時々の恋愛感情って、自分の人生を豊かにしてくれるものでもある。だから、美しいものには感じますよね。
——そうやってオリジナルの4曲、それぞれに「君と自分」の物語が流れ、そして5曲目にキリンジが2000年にリリースした「エイリアンズ」をカバーしています。同曲が配置されることで、この作品のコンセプチュアルな部分が完ぺきになった気がするんです。たとえばキリンジの堀込高樹さんと、元メンバーの堀込泰行さんはご兄弟という、同じ胴体=バンドのなかで、兄弟というこの世でもっとも身近な他者として共存していましたし。「エイリアンズ」という楽曲そのものも、自分語りではなく「僕ら」の歌ですし。
atagi:僕も少しだけ解釈は違いますが、実は同じ様なことを思っていたんです。兄弟ゆえに、誰よりも悩むこと、素直になれない部分もあったかもしれない。誰よりも近い関係性だからこそ、TORSO=バンドの根幹のさらに根っこの部分と向き合いながら活動していたんじゃないかなって思います。
PORIN:「エイリアンズ」に関して言うと、自分たちが二人体制でボーカルをやっている意味みたいなものを再認識できました。カバー曲ではありますが、今の私たちにふさわしい曲だと感じています。
——そんな「TORSO」を引っさげてのツアーが、5月24日の札幌・PENNY LANE24からスタートします。先ほどPORINさんが「次、どうなるのかと尋ねられることにプレッシャーがあった」とおっしゃっていましたが、あえて「次」について聞いてもいいですか。
PORIN:あ、でも今は全然プレッシャーはないです(笑)
atagi:それもどうかと思うけど(笑)。でも今作で自分たちの筋を一つ通すことができて、バンドとしての核を再認識した。じゃあ次にアルバムを作るときは、こういうイメージでやろうというものがしっかりと生まれた。それについて最近、メンバーと話したんです。自然とそういう話題になりました。
PORIN:次どうしようか、と話したとき、みんなが同じ方向を向いていることが分かった。「TORSO」があったから、そういう良い状態になったと思います。
——今回のツアーで「TORSO」の曲を聴けることを、楽しみにしています!
取材・文=田辺ユウキ 撮影=森好弘

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