石崎ひゅーい 5年半の軌跡を収めた初
ベスト『Huwie Best』を通して見えた
、才能が凄いゆえの葛藤

あなたが彼の存在をよく知っているのか、それとも全然知らないのか、どっちでもかまわない。が、凄い才能であることだけは保証する。石崎ひゅーい、本名。最近では菅田将暉のヒットチューン「さよならエレジー」の作者としても知られる彼が、デビューから5年半の軌跡を収めた初のベストアルバム『Huwie Best』をリリースする。荘重な弦楽バラードから痛快にハジけるポップチューンまで、カラフルなサウンドの魅力もさることながら、なんたって凄いのはその言葉と歌だ。ひとりぼっちで愛を探し歩く少年の胸の内をえぐる言葉と、時に泣くように叫ぶように、豊かに感情を表現する素晴らしいボーカル。あなたの探していたものはここにある。かもしれない。
今まで出してきた作品を超えたいって常に思ってて。だから、それを超えるためにどうしよう、という状態ですかね、今は。
――このベストアルバムの選曲は、ファン投票のリクエスト上位14曲を収録しているということで。
そうです。リクエストを募って、選ばれた曲です。
――見事に代表曲ばかりですよね。
そうなんですよ。もうちょっとマニアックな感じになる可能性もあるかな?と思ったんですけど、選ばれたものを見た時に、みんな優しいなと思いましたよね。
――優しい?
たぶん、石崎ひゅーいを広めなくちゃいけないと思ってくれたんですよ。僕もライブのMCでそれ(リクエストを受け付けること)を発表して、“5年半やってきた中での石崎ひゅーいというものを、みんなと一緒にちゃんと作りたい”みたいな、“今までとこれからがわかるような1枚にしたい”みたいなことを言ったこともあって、“ここでマニアックな曲を選んだらひゅーいは売れないんじゃないか?”って、そういう発想があったんだと思うんですよ(笑)。たぶん。
――いいファンだなあ。
ツイッターとか見てもみんな悩んでて、“すごい頭を使いました”みたいな意見が多くて。一周二周回って、親心が表れたんじゃないかなと思います。
――でもベスト盤ってそれでいいと思いますけどね。初めての人にもしっかり届く、代表曲だけをしっかり収録するという。
僕もそれでいいと思います。
――あらためて。デビューから5年半の軌跡を聴き直してみて、感想は?
すげえいいなと思いました。
――すげえいいですよ。ほんと。
デビューした当時って、自己愛みたいなものが強かったんですよ。そういうものが、5年半経っていい意味でも悪い意味でも減ってきてたんですけど、このベストの曲を並べて聴いた時に、ちょっと復活しましたね。“あ、いい!”みたいな。俯瞰的になることと、もっと自分勝手に見ることのバランスがあるとして、デビューの時は俯瞰とかそういうことはまったく考えてないところがいいなあとか、思ったりしましたね。
――歌っていることのテーマって、最初の頃と、何か変化を感じてますか。
それこそ1曲目の「第三惑星交響曲」というのは、母親の葬式を歌った曲なので。デビューの頃は母親に向けて歌った曲しかなかったと思うんですけど、だんだん自分のパーソナルな中で、母親というもの以外にテーマを広げていった感じがしますね。

――『だからカーネーションは好きじゃない』(2014年)を出した時に、もう母親のことは歌わないって、言ってたような気がする。
そうです。母親のことばかり歌ってきて、ライブでもその話をして、ずっとそれだとなんか恥ずかしくなってきて(笑)。で、それで終わりにしようと思って、次にできた曲が母親の曲だったんですけど。
――そうかあ。終われなかった。
そうなんです。それはちょっと無理だということに気づきました。
――でもその次のアルバム『花瓶の花』(2016年)は、テーマ的にも音楽的にも、ぶわーっと広がった感じはしましたよ。いろんな世界を歌うようになったなーって。
そうかもしれない。
――サウンド的には、初期には打ち込みを使ってポップに仕上げた曲もあったりして、でも最近はどんどん生々しくなってきているというか、そういう印象も受けるんですけどね。新曲「ピリオド」のシンプルなバンドサウンドなんてその最たるもので。
サウンド的には、削ぎ落としてる部分もありますね。トオミヨウ(アレンジャー)さんと、海外の音楽シーンのことについて話すこともあって、音数が減ってきてるよねという話は最近しました。そういうのに影響されてる部分はあると思います。よりシンプルに。
――ひゅーいくんが、そうしてくれって?
僕はあんまり言わないです。でもトオミさんは最初の頃から、歌詞に寄り添ってアレンジを変えてくれるので、ズレることはないですね。あとは、どこか普遍性みたいなものは、トオミさんも僕も常に意識してると思います。もともと普遍的なものが好きなので。王道感というか、それは二人とも常に意識してることだと思います。
――ロックをやってるとか、ポップスをやってるとか。ひゅーいくん自身は、どんな意識でやってますか。
どうなんだろう? あんまりそこまでは。何でもいいや、というところもありますね。でもやっぱり目指すところは、やっぱり普遍性があるものなんだと思うんですけど。
――歌がしっかり真ん中にあるもの。言葉が伝わるもの。
うん。そうですね。
――その上で、ちゃんと売れるもの。デビュー当時にインタビューさせてもらった時に、目標を聞いたら、「100万枚売ること」って言ってましたけど。
そうそう(笑)。目標としてはそういうところもあったんですけど、そうは言いつつも、最初の頃は、音楽の作り方がものすごく動物的な、自然発生的なものをそのまま届けていたので。そこでぶつかる壁を自分なりに感じたりとか、ソングライティング的に一つ超えなきゃいけない壁があるんじゃないか?とか、そんなことを考えるようになりましたね。だから、大人になりました。
――おおー。
嘘です(笑)。
――嘘かい!
それがいいことなのか悪いことなのか、よくわかんないですけど。
石崎ひゅーい
菅田くんは感覚でわかっちゃうんでしょうね。感覚がすごいんです。ちょっと分けてほしいですね。
――そこにつなげて言うと、最近、菅田将暉くんに曲を書いたじゃないですか。あれはひゅーいくんの中ではどういう作業だったんですか。
やったことのないことだったし、自分はこういう曲の書き方もできるんだと思えましたね。菅田くんの場合はものすごく書きやすくて、去年の8月ぐらいからずっと二人で作ってたんですけど、“こんな歌を歌ってほしい”というものが最初からあったんですよ。だから迷うことはなく、二人で遊ぶように音楽を作っていて、いい経験をさせてもらったなという感じですね。
――シングルになった「さよならエレジー」って、ひゅーいくんは何かディレクションはしたんですか。“こんなふうに歌ってほしい”とか。
いちおう歌録りの時にはスタジオに行きましたけど、菅田くんがもう自分の中で“こういうふうに歌おう”と決めてくれていたので、そんなに言ってないです。感覚でわかっちゃうんでしょうね。感覚がすごいんです。ちょっと分けてほしいですね。
――何を言ってるの(笑)。菅田くんのアルバムにも書いてるんでしょ?
そうですね、3曲ぐらい。本当は二人で15曲とか20曲ぐらい書いてるんですけど。
――そんなに? すごい。
すぐできるんですよ。言葉を持ってる人なので、いくらでもできちゃう。趣味も似てるところがあるので。遊びですね、本当に。「さよならエレジー」はその中でも、けっこう真面目に作ったほうですけど。
――その言い方は語弊があるな(笑)。
いちご大福の作り方の歌とか、「常夏Oh Yeah!」っていう曲とか。でもだいたいそういう曲は、“これ最高!”って思ってレコード会社の人に聴かせると、“こりゃダメだ”って言われるんですよ(笑)。俺たちが最高だなと思って作ってるのはたいていダメだという、そんなこともありました。
――面白いなあ。新しい刺激もらってますね。
そうなんですよ。ただ、その時自分はからっぽの状態だったから、“菅田くんの曲はいっぱい書けるけど、自分の曲は書けないんだ”って菅田くんにも話していて。
――からっぽ?
今回ベストを出そうという話をいただいた時に、自分で5年半を総括してみて、すり減ってるところがいっぱいあったというか。制作的な話なんですけど、からっぽな状態になってるなということに気づいてしまって。
――うーん。そうなんだ。
僕はどっちかというと、もがいて曲を作るとか、そういう作り方をしてこなかったので。曲作りに関して、あんまり苦労することがなかったんですよ。でもここに来て、からっぽだから何も出てこない自分に気づいたというか、特に5年半の後半の時期は、それを隠して生きてきたのかな?って、ちょっと思ったりして。このベストアルバムを作る前に、自分を見つめ直すような気持ちになれて、それは良かったのかなと思いますね。これからずっとやっていくためにも、歌の書き方をいろいろと肉付けしていかないといけないなあという状況です。
――ターニングポイント。
そうですね。自分から自分の何かを変えることって、今までの人生の中であんまりなかったんですけど、今がその時期なのかもしれないと思ってます。
石崎ひゅーい 2016.7.28 東京キネマ倶楽部
最初は不安だったけど「ピリオド」ができた瞬間に“よし!”と思いました。久しぶりに曲を書いて、みんながいいと言ってくれたので良かったです。
――何なんでしょうね。その、変えたいと思っている部分というのは。
石崎ひゅーいが今まで出してきた作品を超えたいなって、常に思ってると思うんですよ。曲が出てこなくなったのも、超えられないと思っちゃってるからなんだと思うんですけど。だからそれを超えるためにどうしよう、という状態ですかね。今は。
――でもファンとしては、超えるとか超えないとかじゃなくて、今思う曲をそのまま出してくれればいいと思いますけどね。
そうしたいんですけどね(苦笑)。でもなんか、ストップがかかっちゃうというか。あ、でも、今回のアルバムの最後に「ピリオド」という曲を入れたことで、清算された感じはするんですよね。
――良かった。その「ピリオド」は、いつ頃作った曲ですか。
年末から1月の終わりにかけて作っていて、2月にレコーディングしました。自分の中では、このアルバムに意味を付けたかったというか、自分自身に対して一回ピリオドを打つという1枚にできたら意味があると思ったんですよ。個人的にはベストアルバムって、ものすごいヒット曲がいっぱい入っているイメージがあるので、自分はそこまで行ってるかな?って、おこがましい気持ちがあったので。今はそんなことない時代なのかな?とも思うんですけど、僕が生きてきた90年代や2000年代のベストアルバムはそういうイメージだったので、おこがましさを感じていたんですけど、新曲を付けるということと、去年1年間の中で弾き語りを本格的にやり始めて、それも入れるということで、成長を収められる1枚にしようとみんなで話しあって。
――ああ、それで、ファン投票の14曲のうしろに「ピリオド」があって、そのあとにアコースティックギター弾き語りの「花瓶の花」と「夜間飛行」の新しいバージョンも入れている。
そう。で、「ピリオド」を完成させた時にめちゃめちゃ腑に落ちたというか、デビュー曲の「第三惑星交響曲」で始まって、今まさにピリオドを打っちゃうということだなって。でも“ピリオドを打つ”と言ってるくせに、最終的に歌詞の中では、相手の女の子にピリオドを打たせるというどうしようもなさも含めて、自分らしいなと。
――自分では打てない。
自分では打てないというダメな感じは、やっぱり残しておかないと(笑)。
――ダメ人間イズムね。それずっとあるよなあ、ひゅーいくんの歌には(笑)。でも「ピリオド」の歌詞っていちおう男女のラブソング仕立てでしょう。
そうですね。恋の終わりの表現と、自分が今音楽に向かう気持ちとがリンクしたものを作ろうという発想でした。からっぽの状態になって、出し方がわかりづらくなってきた時に、これからのことも考えて、どういうふうに曲を書いていくのか?ということを考えていたんですけど。今までは、ここ(胸)にあるものをそのまま出して、そのままみなさんにお届けするというのが、僕の基本的な曲の書き方だったんですけど、一回出したものがどうやったらもっとみんなに伝わるだろう?とか、どうやったらもうちょっと寄り添えるだろう?とか、そういうフィルターをはさんで出すという手法に、この「ピリオド」という曲から変えてみました。
――はい。なるほど。
それがうまくいったかなと、できた時に思いました。聴いてる人にとってはわかりにくいかもしれないですけど、自分としては、靄が晴れた気がしないでもないという感じです。
――変化の兆しが見えてきた。
自分で、この表現は稚拙だなと思ったとしても、“稚拙じゃない、素直なんだ”と置き換えて、自分の中で納得させるというか、大もとの考えを変えたんですよね。あとこの曲に関しては、バッドエンドなんですけど、あんまり僕はバッドエンドは好きじゃなくて、最後に光が見えるものを作ってきたつもりなんですけど、“バッドエンドも芸術じゃん”と思うようにしたりとか、聴き手に寄り添いつつ自分の考えも広くしていくみたいな、そういう感覚ですかね。それがこれからうまく行けばいいんですけど。行きそうな気がする。
石崎ひゅーい 2017.8.4 TSUTAYA O-WEST
――聴き手の実感として言うと、「ピリオド」は、バッドエンドという感じは受けないですけどね。終わっていく歌だけれど、美しいフィナーレというイメージの方が強い。
うれしいです。みんなそう言ってくれるんですよ。だからあまり、歌詞の最後で光や希望を表現しなくても、行けるんだという発見はありましたね。自由でいいんだという。
――歌の書き手として、より自由になれた。それは大きいと思う。
そうなれるまでに、めちゃめちゃ悩みましたけどね。一か月間ずーっと、消しては書いて、そんなこと今までやったことないです。パンパンパン!って書いてきたので。まあ、どっちもいいと思うんですけどね。
――新しい始まりですね。ピリオドと言いつつ、始まり。
そうですね。
――うまくまとまりました。初めて聴く人にも、石崎ひゅーいの過去と現在、これから先の未来までも見せるようなベストアルバム。
最初は不安だったんですけど、「ピリオド」ができた瞬間に“よし!”と思いました。「ピリオド」を最初にチームのみんなが聴いてくれた時に、“めちゃめちゃいい!”ってなってくれたらしくて、“これは次のタイミングにとっておいたほうがいいんじゃないか?”みたいな話にもなったらしいんですけど、うれしかったですね。久しぶりに曲を書いて、みんながいいと言ってくれたので。良かったです。
石崎ひゅーい 2013.5.9 渋谷WWW
――このあと、怒涛のようなライブの日々が始まります。リリース記念のインストアライブがあって、5月からは弾き語りツアーで日本全国へ。
しかもワンマンなんですよね。ヤバいです(笑)。でも会場にはこだわって、普通のライブハウスだけじゃなくて、いろいろあるんですよね。弾き語りって面白くて、場に左右されるから、逆に場に合わせるのがいいと思っていて。場所が盛り上げてくれる感覚があるから。
――4月のフリーライブとか、まさにそうじゃないですか。場が盛り上げてくれる。
フリーライブは、「ピリオド」の次というか、希望のある、みんなをワクワクさせるようにしたいですね。“ひゅーい、これから凄そうだぞ”みたいに思わせたいです。「ピリオド」は終わりということだけど、次はどんな感じになっていくんだろう?ということを、なんとなく見せられたらいいかなと思ってます。桜はもう散ってますかね?
――4月12日、東京の代々木公園。んー、葉桜かなあ。
ちょっと遅れちゃったな(笑)。でもそういうシチュエーションも含め、楽しんでほしいです。
取材・文=宮本英夫

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着