岩田剛典×土村芳『去年の冬、きみと
別れ』インタビュー 違和感を抱かせ
る“一人で三役”の芝居と“すべてを
委ねられる”愛のかたち

『教団X』で知られる芥川賞作家・中村文則氏の小説を原作とした映画『去年の冬、きみと別れ』が公開中だ。新進気鋭の記者・耶雲恭介が、盲目の女性が巻き込まれた焼死事件の真相と容疑者・木原坂雄大の真実の姿に迫るにつれ、抜けることのできない深みにはまっていく姿を描いている。木原坂は事件の犯人なのか。野心にあふれる記者・耶雲は、なぜ執拗に真相に迫ろうとするのか。物語が進むにつれて生まれるさまざまな謎と、予想を上回る展開、そして映画ならではの表現と人物描写から、キャッチコピーである「観る人全てが、ダマされる」が大げさではないことがわかるはずだ。
そんな『去年の冬、きみと別れ』で作品の中核を担ったのが、岩田剛典(EXILE/三代目J Soul Brothers)と土村芳である。本作で長編映画単独初主演を飾る岩田は、主人公・耶雲恭介を演じるにあたり、観客を含めた“すべてを欺く”複雑な演技を要求された。また、土村も、視力をうしなった耶雲の元恋人であり、焼死事件の被害者・吉岡亜希子役を繊細な表現で演じている。岩田と土村、同年代でありながら全く異なる魅力を持つ二人の表現者は、物語の鍵となり、対の存在とも言える役柄をどう演じ、互いをどう見ていたのか? 映画公開前にはネタバレとなるため話せなかった様々なエピソードや役作りについて、特別に語ってもらった。
岩田剛典が初めて経験した“引き算”の芝居
岩田剛典 撮影=岩間辰徳
――公開を迎えて、今のお気持ちを聞かせてください。
岩田:いよいよ公開ということで、ドキドキしています。反響が楽しみですね。この作品は撮影当初から覚悟を持って、すごく気合を入れて臨んだ作品なので。きっとこの作品で自分の印象だったり、イメージが変わるような、そういう作品になるんじゃないかと期待しています。また逆に、自分を初めて知っていただく機会なるような気もしています。すごく邦画らしい、瀧本監督ワールド全開な映画になっておりますので、とにかくご覧になった方のリアクションが楽しみです。
土村:わたしもすごく楽しみです。いまだに、この錚々たる方たちと、この作品の一部になれているんだなあ、って思います。わかってはいるんですけど、自分でも実感があまり湧いていないような感じなので……映画が公開されて、いろんな反響がいただけるはずなので、それを見ながらわたしも一緒にジワジワ実感していきたいと思っています(笑)。
――岩田さんは、耶雲恭介という記者を演じられました。なかなか職業自体を理解していないと難しそうな役柄ですが、演じる上で参考にされたことはありますか?
岩田:こういう風に記者の方にインタビューを受ける機会も多いので、みなさんの立ち居振る舞いを勉強させていただいています(笑)。ただ、耶雲はすごく優しい記者というわけではないですね。あまり人の気持ちを考えるのではなく、自分のペースで話を聞くタイプです。それは、ある種の違和感を抱かせることになるんですが、その違和感を後々に回収できるように、と逆算しながら芝居することを心がけました。結末は決まっていて、最後に見せたい表情もなんとなくイメージできている。そこにたどり着くまでにどういうストーリーを作るか、という、引き算をしていく芝居の取り組み方をしたのは初めてです。すごく勉強になりました。
左から、岩田剛典、土村芳 撮影=岩間辰徳
――展開から逆算して演技プランを立てられたんですね。
岩田:そうですね。耶雲は、一人で三役を演じているようなキャラクターなんです。“現在の自分”、眼鏡を外してからの“少し時間が経ってからの自分”、そして、“古き良き時代の自分”。こんなにもバラエティに富んだ役を一人で演じたのは初めてでした。やはり、「人が変わってしまう」とか、「一線を越える」ということが、この映画の隠れたテーマでもあると思うんです。基本的にお客さんには耶雲の視点で物語を楽しんでいただくんですが、耶雲が変わるさまに何よりもふり幅がないと、エンタテインメントとしての効き目がないので。とにかく、変わってからの口調や表情は、誰が見てもあからさまに違う人、というくらいの努力は最低限しようと思いながら取り組んでいました。眼鏡を外してからは別人になるんですが、実は“ずっと別人”なんですよね。眼鏡をとることでフィルターを外しているというだけで、本当は最初に雑誌社に来るところから耶雲のモードは切り替わっている。「相手を絶対に欺いてやろう」という魂胆のなかでの行動なので。ですから、一度観て、わかればわかるほど、複雑な役であることを感じていただけると思います。
――「ただの記者じゃないのではないか?」とわざと観客に違和感を抱かせている、と。
岩田:耶雲が取材して聞いているのは、「木原坂さんのことを知りたい」という感情からだけではない。その前のめり感は、最初から仕掛けようと思っているがゆえのものなんです。初見で観ると、「なんでコイツは記者なのにグイグイいくの?」と感じると思います。その違和感があればあるほど、「どういうことなんだろう?」と(観客に)思わせることができる……ということは、現場で監督と話し合いました。ですから、声の出し方や表情なんかは、現場で細かく演技指導していただきました。
土村芳 撮影=岩間辰徳
――その耶雲の対とも言える存在が、土村さんが演じられた亜希子だと思います。視力を失った女性ですが、決して弱者としては描かれていないのが特徴だと思いました。
土村:そうですね。障害を持っていることを除いたとしても、すごく強さを持った女性なので。私自身にもまだまだ欠けている部分ではあったので、この強さをなんとか出せたらな、というところはありました。実際に視覚障害を持った方、亜希子に近い境遇の方が、どんな過ごし方、どんな生活をしているか、というのを、実際に一日行動をともにさせていただく機会がありました。やっぱり、その方もとても芯があって、すごく強い方だったんです。そういう経験もあったから、亜希子の強さを作っていけたんじゃないかな、と思います。
――亜希子も、観客の想像力を掻き立てるような役どころです。物語の中での立ち位置などは意識されたのでしょうか?
土村:“すべての物語の始まり”というポジションでやらせていただいたので、すごく責任重大だな、と思いました。回想シーンで色んな真実が明かされたり、その後だったり……私の演じた役は、テープのA面B面で言うと、B面を生きてきた人物だと思うんです。わたしはなるべくA面は忘れて、B面だけの世界でちゃんと幸せに生きていなきゃいけないな、というのがあったので。ある意味、(A面は)忘れようと思いながらやっていたと思います。
――視界がない芝居というのは、かなり挑戦的だったのでは?
土村:そうですね……演じているときは、ほとんど顔を見たり、目で相手の気持ちをうかがったりとか、あるいは自分から発したりということが出来なかったので。それ以外のツールというか、感覚をすごく研ぎ澄まして挑戦することができたな、というところはあります。
見えなくても感じられる芝居に「すべて委ねてしまおう」
土村芳 撮影=岩間辰徳
――役柄も脚本も複雑な役ということもあり、演じるということの醍醐味がこれまでの作品とは違ったのでは?
岩田:脚本を読んだときに、「この作品はごまかしのきかない映画だな」と思いました。だからこそ、現場ではすごくナイーブにはなりましたね。自分の芝居の火加減で、(観客の)感情移入の度合いがかなり左右される役だな、というプレッシャーを感じていましたので。だからこそ、すごく緻密な計算の上に成り立つ芝居が求められるな、と思いました。なので、現場ではその都度、「これで大丈夫ですか?」ということを監督に確認したり、意見を求めたりしました。監督には本当に助けていただきましたね。
――瀧本監督はどんな演出をされる方なのでしょう?
岩田:瀧本監督は、とにかく自分の撮りたい画がはっきりされている方なんです。はっきりされた上で現場に入ってらっしゃるので、ぼくには現場でブレている姿は見せませんでした。例えばぼくが、「これ、Aでいいんですよね?」と聞くと、監督は「いや違う。これはBだ」とはっきり言ってくれる。監督によっては「んー、Aかもしれないけど、Bもあるよね」とか、「どっちもあるから、どっちもやってみよう」とか、「AとBの間くらいのがあるから、色んなところを探ろう」とか、色んな答えが返ってくるんですけど、瀧本監督は「Bだ」と言い切られる。逆に言うと、自分が迷わずに済むんです。指針がはっきりしているから、「Bでやります。やれなかったら、やりなおし」と、それだけなので。だから、撮影期間中はとにかく監督を信じて進んでいたと思います。
岩田剛典 撮影=岩間辰徳
――繊細でありながら、正確さも必要な現場だったんですね。
岩田:本当に、正確さが要求された現場だったと思います。声のトーンひとつ違うだけで、シーンまるごと撮り直し、ということもあったので。初めてでしたね、1シーンまるごと撮り直したのは。しかも、別日で。(監督は)一回OK出したのに、「やっぱ、ちょっと違うわ」って(笑)。撮休日に入っていたのに撮り直しましたからね。
――岩田さんが演じられた耶雲は、先ほどご自身でおっしゃられたように、愛が強すぎるゆえに“一線を越えてしまう”人物です。同じ男性として、どう思われますか?
岩田:その想いは素敵かもしれないですが、行動に移すのはやはり共感はしがたいです。
――土村さんは、女性として耶雲のような男性をどうご覧になります?
土村:これだけ人に愛されるなら、(相手は)ちょっと幸せかも、と思っちゃうかもしれないです。本当に一線を越えてしまうのは、道徳的にはダメ!と思うんですけど、「じゃあ、一線って何なの?」「どこまでなら受け止められるの?」とか、一度そういうゾーンに入ってしまうと、なかなか抜け出せなくなって、どんどん深みにはまっていってしまいそうです。この作品を観て、こんなに愛されるなんて、ちょっと羨ましいと思ってしまう私もいて……そんな私は大丈夫かな、と思いました(笑)。そのために、すべてをなげうってもいい。その(思いの)矢印が自分に向けられるのは、恐ろしいのか、嬉しいのか……ちょっと難しいです。現実にあったら怖いことかもしれないですけど、そこは映画のマジックというか。いけない感情かもしれないけど、そういうものに浸れるというのは、映画だからこそできるのかな、と思いますね。
土村芳 撮影=岩間辰徳
――こうやってお話を聞いていると、お二方が全く異なる俳優としての魅力を持ってらっしゃることがわかって興味深いです。現場でお互いのお芝居をどうご覧になっていたのでしょう?
岩田:ぼくは、最初にお会いしたときから、土村さんは品のある方だと思っていました。それが役にも繋がっていると思います。作品のなかで、亜希子もすごく品がいいんですよね。土村さんは一人だけちょっと違う空気を纏ってらっしゃるので、亜希子を演じていただいたことで、そういう女性を耶雲が好きになったことがより明確になったと思うんです。二人が全く異なる空気を纏っているからこそ、耶雲が本当に愛した人が亜希子のような女性であることがしっくりくる感覚があったというか。土村さんに演じていただいたからこそ、説得力が増したんじゃないかな、と思います。
土村:恐縮です(笑)。
――土村さんは、岩田さんの演技をどうご覧になったのでしょう?
土村:わたしは、顔をほとんど見ることがなかったので、「どんな顔をしているんだろう?」と思っていたんですけど(笑)。でも、完成した映像を観た時に、「こんなに優しいまなざしを私に向けていて下さったんだ……」と思いました。映像で見たときの表情を、「こんな顔をしていたんだ」と、改めて感じることが出来たんです。でも、現場でも、見えていないぶん、声だったり、聞こえてくる吐息だったり、ちょっとした沈黙だったり、触れてくるタイミングだったり、そういう細かいところで、「この人にすべてを委ねてしまおう」という感覚、身を預けられる感覚になれて。ご一緒するのも初めてだったんですけど、亜希子として素直に好きになっていけたというか。本当に、素直に恋していけた。そういうところがありました。
――視覚情報なしにそこまで感じさせる演技って、スゴイですね。
岩田:土村さんのみぞ知ることです(笑)。
岩田剛典 撮影=岩間辰徳

映画『去年の冬、きみと別れ』は公開中。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=岩間辰徳

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