【たまアリ直前・未公開レポ解禁第1
弾】アグレッシヴでコアな「自分にと
ってすごくピュアなコンサート」――
エレファントカシマシ28年目の日比谷
野音を回顧

エレファントカシマシ 日比谷野外音楽堂 2017 2017.9.18 日比谷公園野外大音楽堂
埃や塵が強風で吹き飛ばされたせいか、台風一過の秋空はいつもよりも澄んでいた。まばゆいばかりの青い色彩がこの日を祝福するかのようだ。1990年から28年連続開催となるエレファントカシマシの野音、今年も特別な一日になった。しかもこの日はスペシャルなおまけ付きだった。テレビ朝日系『ミュージックステーション ウルトラFES 2017』の生中継が入って、番組企画チャート“元気がでるウルトラソング”43位にランクインした「俺たちの明日」を、開演前の会場で演奏したのだ。MCのタモリとのやりとりでは「グッと来てしまいました、43位に入るなんて」と宮本。観客が待機する会場でテレビ放送用に演奏するのは不思議なシチュエーションだが、バンドと観客とが一致団結して熱い空間を作り上げていた。宮本が頭上の空を指さしながら歌っている。生中継は1曲だけなので、瞬間的な出来事だ。
エレファントカシマシ
「ありがとう、エブリバディ、珍しい経験が出来ました。また出てきますんで、よろしくお願いします。しばしご歓談を」と宮本の挨拶。おそらく観客もこのイレギュラーな体験を楽しんでいたのではないだろうか。こんな企画、以前の彼らではあり得なかった。オファーもなかっただろうし、あっても、受けなかっただろう。今や彼らはどんな状況にも対応していく柔軟さと度量の大きさを身に付けていた。だが、どんなに全国区の人気バンドになっても、音楽に向かっていくストイックかつアグレッシブな姿勢は変わらない。その証しがこの日のステージだ。
エレファントカシマシ
2度目のスタートにして、正真正銘の1曲目はエネルギッシュなロックナンバー「地元のダンナ」だった。パワフルな歌声でありながら、力まかせ、勢いまかせで押し切るのではなくて、言葉を丁寧に届けている。そしてその歌声を突破力を備えたバンドの演奏がしっかり支えている。ツアーでも実感したことだが、数々のレア曲の演奏で再確認したのはバンドのアンサンブルがさらに鍛え抜かれていることだった。最新のエレファントカシマシが最高であることを証明するかのような演奏が次から次へと展開されていく。
エレファントカシマシ
彼らは現在、47都道府県を回る全国ツアーを敢行中で、前半と後半の間の期間に開催されたのがこの野音だ。ツアーが幅広い層に対応した代表曲中心の選曲とするならば、野音はコアな層向けの選曲。とは言っても、意図的にマニアックな方向に振ったわけではなく、ミュージシャンの本能に則って、今歌いたい曲を自由に選んだら、こうなったということなのだろう。宮本自身も「野音の曲はツアーの合間にあれやろう、これやろうって、ふと浮かんだ曲をどんどんやるようにしてまして。自分にとってすごくピュアなコンサートをやっています」と語っていた。こうした選曲が可能になったのは、どんなにマニアックな曲でも受けとめてくれるに違いないという野音の観客への信頼が根底にあるからこそだろう。そしてもちろん最高のメンバーが揃っているから。ちなみにこの日の編成は宮本浩次(Vo&G)、石森敏行(G)、高緑成治(B)、冨永義之(Dr)に加えて、ヒラマミキオ(G)と細海魚(Key)という6人。ツアー不参加の細海魚が加わったことを考慮した選曲でもありそうだ。
エレファントカシマシ
「今日は2段階のロケット・スタートでおもしろい時間になりましたね。好きな曲をやるので、ツアーとは違う形で満喫してもらえたら」とのMCに続いて演奏されたのはレア度の高い「涙の数だけ」。宮本がマイクスタンドを引きずったまま、ステージ最前列に出てきて、歌っている。高緑のベースがうなり、冨永のドラムが炸裂していく。ソリッドな演奏に乗って、宮本がシャウトしている。タフな歌声なのに、哀愁も滲む。こうした多面性も宮本のボーカルの魅力だ。「九月の雨」を9月の青空のもとで聴くのは格別の体験だった。艶やかでありつつも、憂いを帯びた宮本の歌声も幻想的なバンドの演奏も絶品で、晴れなのに音楽の雨が降り注ぐかのようだった。とてつもないエネルギーが渦巻いていたのは「曙光」。宮本が25歳の時に作った歌だが、演奏されるたびに歌が更新されている。光はさらにまばゆく、闇はさらに深く、年齢に応じて、歌の潜在能力が覚醒していく。
エレファントカシマシ
野音は独特のロケーションだ。都会のビル群の中にありながら、森に囲まれていて、虫の鳴き声もするし、風も吹き抜けていって、季節感や自然の息吹きも感じ取れる。この日は例年以上に外で聴いている観客が多かったとのことで、会場の内と外との境界線が緩やかなのも野音ならではだ。「秋」「真夏の星空はブルー」「月の夜」「武蔵野」などなど、この季節の野音とバンドとのコラボレーションと言いたくなるような演奏がたくさんあった。気持ちのいい風が吹き向けていく中で始まったのは「シグナル」。温かな歌声と演奏が染みてきた。“月”という歌詞が出てくるたびに、ついつい上を見上げて、月を探してしまったのだが、この曲の演奏時には飛行機が飛んでいて、夜空に光る赤い光がシグナルのようだった。「男は行く」では<ビルを山に見立てるために>のところで、高層ビルの方向を指さしながらの歌。ここでのバンドのセッションもスリリングだった。歌詞がぐいぐい入ってくるのは、宮本の歌のタイム感とバンドのグルーヴとの相乗効果によるものだろう。精緻であることと、自在であることが両立している。30周年を迎えたバンドはさらなる表現力を獲得していた。
エレファントカシマシ
「友達がいるのさ」から始まった第2部も実に密度が濃かった。骨太で温かなパワーが詰まった「ベイベー明日は俺の夢」、宮本のアコギで始まって、どんどん広がっていく「3210」から一瞬のブレイクを挟んでの「RAINBOW」、現代社会の映し鏡のような「ガストロンジャー」、初期衝動が渦巻く「ゴクロウサン」などなど、1曲ごとに体も精神も揺さぶるような威力あふれる演奏が連続していく。喜怒哀楽、そのすべてが音楽へと変換されて、深く強く届いてくる。強風が吹き抜けた後の野音にぴったりだったのは「風と共に」。未来へと誘っていくようなみずみずしい歌声と包容力あふれるバンドの演奏が染みてきた。印象的だったのは宮本のこんな言葉だ。
「おかげさまで、みんなと一緒に楽しく時間をすごすことが出来たぜ。ありがとう。最高の野音になりました。音楽を愛する、なんていいヤツらなんだ」
エレファントカシマシ
バンドが集中力あふれる演奏を展開するのと同じように観客も集中して、歌の世界をしっかり受けとめていた。双方向の信頼感と連帯感、そして野音という空間の持っている季節感と空気感とが一体となって、“エレファントカシマシの野音”というかけがえのない空間は出現する。「男は行く」「ファイティングマン」「待つ男」など、バンドと観客とがパワーをチャージしあうような曲も目立った。バンドはツアーの後半戦へのエネルギーを充電し、観客は明日への活力を補填していく。そんな夜でもあったと思うのだ。マラソンに例えるならば、毎年開催される野音は、“人生の給水ポイント”みたいなもの。ゴールではないが、その場所が存在することによって、先に進んでいける。今年が終わっても、また来年があるさ。そう思えることの幸せをエレファントカシマシが毎年、もたらしてくれている。

取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之
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