柄本佑(左)と尾野真千子

柄本佑(左)と尾野真千子

【インタビュー】『素敵なダイナマイ
トスキャンダル』柄本佑「原作者の末
井さんは『“起承転転転…”みたいな
映画』と言っていました」尾野真千子
「しゃべらない佑が面白い」

 雑誌編集者・末井昭の自伝的エッセイを映画化した『素敵なダイナマイトスキャンダル』が3月17日から全国公開される。母親が隣家の若い男とダイナマイト心中するという衝撃的な少年時代を経て、エロ雑誌の編集者となった末井が、一世を風靡(ふうび)した1980年代までの破天荒な生きざまをつづった物語だ。主人公・末井昭を演じた柄本佑、ダイナマイト心中する母・富子を演じた尾野真千子が、撮影の舞台裏を語ってくれた。
-柄本さんのお芝居が存在感たっぷりで、最後まで見入ってしまいました。冨永昌敬監督からは演技についてどんなお話がありましたか。
柄本 最初は「誰でも感情移入ができる青春映画で、ある瞬間から末井さんが何を考えているのか分からないサスペンス期に入る」と言っていました。喜怒哀楽があってもいいけれど、周りから見ると全然分からない空っぽな状態。それを、現場では徹底していました。あとは、具体的に話をしたわけではありませんが、見え方として「いい人に見えるのだけは絶対に駄目、悪く見える分にはいいよ」と考えている印象を受けました。
-今生きている人物を演じることについてはいかがでしたか。
柄本 最初に原作本を手に取ったとき、表紙の末井さんの写真を見たら、顔が似ているなぁ…と(笑)。監督からは「佑くんのままで、まねしようとしなくていいよ」と言われたので、特に意識はしなかったです。ただ、末井さんが6日間ぐらい現場にいらっしゃったのですが、それはなかなかに酷でした(笑)。どういう気持ちで見ているのだろうと。
尾野 自分だからね。
柄本 そうそう。だから、最初は慣れなかったです。ただ、途中からは開き直って、「来ているんだったら、利用しない手はないな」と思って、観察させていただきました。周りに誰もいないときに一人で立っている姿などは、多少参考にさせていただいて。
-尾野さんは、ダイナマイト心中をする母親役ですが、どんな気持ちで演じましたか。
尾野 やっぱり、その気持ちは分からないですよね。私は死ぬのは嫌ですし、そんなことは考えたこともありませんから。台本に忠実にやることだけを心掛けて、現場で監督と「こうやった方がきれいに見えるよね」、「こんなため息をついたらどう?」など、アイデアを出し合って役を作っていった感じです。
-冨永監督は現場ではどんな様子で…?
柄本 初日に「こうやりましょう」と段取りを決めて、ワンカットずつ撮っていくんですが、途中で急に「ここのところ、こうして」と言うんです。そこで「さっき言っていた部分は残しつつ、この感じですか?」と聞くと、「いやいや、俺はどんどん言うことが変わるから」って(笑)。次々と新しいアイデアを採用していくんですよ。
-では、出来上がるまでどうなるか分からない感じで?
柄本 撮りながら、頭の中でパチパチと計算して組み立てている感じです。だから、当初の予定よりカット数が増えることはあっても、減ることはない。頭の中で考えているカット数があって、そこに他の人の新しいアイデアが入ってくるとカット数も増える。だから、こちらはよく分からないけれど、出来上がったらパズルのようにピッタリはまるんだろうなと。僕らは身を任せるしかないですけど、冨永監督が男らしい人だったので、安心して最後まで楽しく撮影することができました。
尾野 男らしいよね。
柄本 迷いがないというか…。きっと迷っているんだろうけど、それを女性に見せない感じがね…。って俺、女性じゃないけど(笑)。
-劇中にお二人の共演場面はありませんが、それぞれ完成した映画を見た感想は?
柄本 自分が出ている映画は、客観的に見られないですよね。ただ、末井さんは「普通は“起承転結”になるけど、“起承転転転…”みたいな映画」と言っていました。確かにその通りで、少し変わったストーリー展開ですが、それが冨永監督の魅力で、非常に色っぽい映画になったのではないかなと。
尾野 自分にとって映画らしい映画だったと思える作品でした。きっと映画好きの人が見たら、帰りに話が止まらなくなるんじゃないかな。主役が佑でよかった。面白かったもの、やっぱり。
柄本 監督に感謝ですね。そんなこと言われて…。
尾野 しゃべらない佑が面白いんだよね。もう大好物(笑)。
柄本 よかった。真千子に「大好物」と言われるなんて、こんな光栄なことないです。この人とは古い付き合いで、今までいろいろなことを言われたけど、そんなふうに言われたことはないから。ハードルを一つクリアした気分(笑)。
-尾野さんは主題歌も歌っていますね。
尾野 そうなんです。もう恥ずかしくて…(苦笑)。
柄本 でも、雰囲気があっていいよ。
尾野 いやもう…。やっぱり恥ずかしいですよね。歌手として世に出ているわけではないし、ドラマの中とかは別にして、きちんと歌わせていただくのも初めてなので…。
-歌詞についてはどんな印象を持ちましたか。
尾野 初めはピンとこなくて、「どう歌えばいいの…?」と。普段、俳優としては感情を乗せてせりふをしゃべるので、その時点ではどうしていいか分からずに悩みました。でも、歌っているうちに、「お母さんのことね…」と理解しました。そこから、みんなが心地よく感じるようにしたいと思い始め、収録に行ったら「ささやくような声がいい」と言われたので、ああいう感じになりました。
-末井さんとのデュエットですね。
尾野 末井さんも歌手ではないので、大変だったみたいです。しかも、メロディーがすごく難しくて、2人とも音程を取るのに苦労しました。
柄本 でも、いい歌だよ。さっき“起承転転転…”と言ったけど、映像が“転転転…”で終わった後、最後に流れるこの歌が“結”になって締まる感じだよね。
尾野 そう? 自分では恥ずかしくて分からない…(笑)。
柄本 最初に母親の話で始まっているから、最後がこの歌でギュッと締まる感じがある。末井さんと母親役の真千子という組み合わせは、デュエットできるはずのない2人がデュエットしている形になるし。
尾野 なるほどね。でも、面白かったなぁ…。
柄本 うん、面白かった。
(取材・文・写真/井上健一)

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