リー・アンクリッチ監督

リー・アンクリッチ監督

【インタビュー】『リメンバー・ミー
』リー・アンクリッチ監督「メキシコ
に対するネガティブな感情へのカウン
ターになれば」

 3月16日から公開されるディズニー/ピクサーの最新作『リメンバー・ミー』の舞台はメキシコ。ミュージシャンを夢見るミゲル少年を主人公に、陽気でカラフルな“死者の国”を背景に、家族の絆を描いた、美しい音楽と驚きに満ちた感動のファンタジーアドベンチャー映画だ。『トイ・ストーリー3』(10)に続いて、本作を監督したリー・アンクリッチに話を聞いた。
-前作『トイ・ストーリー3』と本作とのアプローチの違いは?
 『トイ・ストーリー3』は続編物で、キャラクターのデザインや世界観といった作品のトーンはすでに決まっていたので、ある意味では楽でした。けれども、同じ物語を繰り返すという訳にもいかないので、新しくつづる価値のある物語を見つけなければならないという難しさもありました。
 本作の場合は、全てを最初から作っていかなければならなかったので、それはとても大きな挑戦でした。『トイ・ストーリー3』は、単独で監督をした初めての作品だったので、自分のキャリアの中で一番大変な作品になったと思っていましたが、結果的には本作の方が大変でした(笑)。それは何もない白紙の状態から始めなければならなかったからです。
-監督は本作について「私たちは、ずっと後の時代になっても、自分が子孫にとって大切な存在であり続けていると思いたいという願いを持っている。今回は思い出を持ち続けることがいかに大切か、ということを描きたかった」と語っていますが、日本にも死者が帰ってくるといわれるお盆という風習があります。こうした共通点についてどう思いますか。
 今回描いたメキシコの“死者の日”には以前から興味を持っていましたが、他の国にも、例えば日本のお盆のような、似たような風習があることは全く知りませんでした。本作の企画を立ち上げてから、各国のディズニーのスタッフと話をする機会があったのですが、“メキシコだけの特別な物語”として見られてしまうのではないか、他の国では、この物語の価値がよく分かってもらえないのではないか、という不安がありました。
 ところが、お盆のように、似たようなコンセプトを持った風習が各国にあるということが分かり、しかも、そのどれもが、先祖を忘れないようにしたり、リスペクトしたりするという点で、共通していることを知りました。それで、メキシコを舞台にした物語ではあるけれども、これなら世界中の人の心に響くのではないかと思うことができました。公開後は、まさにそのことを実感することができました。
-本作の舞台となったメキシコの精神や文化の素晴らしさを描くことで、トランプ大統領の政策に一石を投じる、というような意識はあったのでしょうか。
 本作の企画を立ち上げたときは、トランプはまだ大統領にはなっていませんでした。ですから、彼が大統領になったから物語を変えた、ということはありませんが、早くこの映画を世に出さなければ、という思いは、スタッフの誰もが持っていたと思います。なぜならトランプ大統領は、メキシコの国や人々に対してひどい物言いをしています。けれども、それは違うのだ。本当のメキシコは素晴らしい国で、こんなに美しい人々が住んでいるのだ、ということを、本作を通して早くみんなに知ってほしいという気持ちがありました。
 本作はポジティブなメッセージを持った作品です。だからこそ、世に出すことで、トランプが発信したメキシコやメキシコ人に対するネガティブな感情へのカウンターになればいいと考えました。
-本作は主題歌がとても耳に残り、それが映画の全てを言い当てているとも思いました。「ココ」というタイトルは、映画を見ると「なるほど」と思いますが、邦題の『リメンバー・ミー』の方が良い気がしたのですが…。
 実はピクサーも、公開前は『リメンバー・ミー』をタイトル案の一つとして考えていました。ただ、アメリカでのタイトルとしては、響きが柔らか過ぎて、センチメンタルな印象を与えてしまうとして、選ばれませんでした。また、僕自身が『ココ』という音感をとても気に入っているのと、映画を見ないと何で『ココ』なのかが分からないという、ちょっとミステリアスな部分も面白いと思ったのでこのタイトルにしました。
-“死者の国”の色使いがとても印象的でした。アニメーションの技術的にはどんなところに重点を置いたのですか。
 今回は、ビジュアル的に、これまでの映画では見たことがないようなユニークなものにしたいと考えました。イメージとしては、サンゴ礁のようにどんどん住人が増えていく“死者の国”が作りたかったのですが、幸い、とても才能のあるスタッフに恵まれたので、あれだけの奥行きがある街を作ることができました。僕が「こういうふうにしたいなあ」と言うと、スタッフが頑張ってやってくれるのです(笑)。
 色使いという点では、『オズの魔法使』(39)を意識しました。あの映画は、モノクロで始まって、オズの世界に行くとカラーに変わります。本作はモノクロではありませんが、主人公のミゲルが“死者の国”に通じる橋を渡るまでの部分は色の数を抑えています。すると、彼が“死者の国”に入ってから目にする色を、観客にもより大きなインパクトを持って見てもらえるのではないかと考えました。
-本作の“死者の国”もそうですが、『アルゴ探検隊の大冒険』(63)やティム・バートンの映画など、アメリカ映画にはよく骸骨(スケルトン)が登場します。何か理由があるのでしょうか。
 どうなんでしょう。人間の中身は誰もが骸骨であるわけですが(笑)。確かに映画史を振り返ってみても、これまでたくさんの骸骨が表現されてきました。今回も、過去のディズニー映画や、レイ・ハリーハウゼンやティム・バートンのものを参考にしましたが、今まで表現されていないユニークなものを作りたいと思いました。これまで映画に登場した骸骨は、ユーモラスな面はあっても、観客を怖がらせるためのものでした。僕はそれは全く望んでいなくて、今回は骸骨ではあるけれど、生者と同じような豊かさを持ったキャラクターにしたかった。彼らも、かつては生者であったわけで、どのキャラクターも骸骨ではあるけれども魂があるというようにしたかったのです。
 なぜ、骸骨なのか、という点では、本作の“死者の日のお祝い”の部分を見ていただくと分かると思いますが、フォークロア(伝承)アートの世界では骸骨がモチーフとして登場することがとても多いというのも理由の一つです。
-では、最後に日本の観客に向けて一言お願いします。
 ピクサーらしさがたくさん詰まった映画になっています。ユーモアがあって、目を見張るようなビジュアルと楽しい冒険、そして、いい音楽にもあふれた作品です。もちろん感動もあるので、ぜひ楽しんでください。
(取材・文・写真/田中雄二)

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