ミュージカル『RENT』モーリーン役で
注目を集める紗羅マリーに聞く 「ス
テージ上に敵は一人もいない」

2017年7月の東京公演からスタートした、ミュージカル『RENT』の2017年版ヴァージョン。今回新たに参加したキャストの一人としてモーリーンを演じ、注目を集めているのが紗羅マリーだ。13歳の時からモデルとして活動を始め、国内外の数々のファッションショーにも出演するなど人気を博してきた彼女、2010年に歌手デビューも果たし、さらに2018年春にはヒロイン役を演じた映画『ニワトリ☆スター』が公開される予定だ。そんな中、今回の『RENT』で、初めて舞台に挑戦した。しかも、オリジナルであのイディーナ・メンゼルが演じたモーリーンという難役を独自のセンスで演じ、異彩を放っている。その感想や手ごたえなどについて、話を聞いた。
■ジョナサン・ラーソンに認めてもらえるように
--まず、ミュージカル『RENT』に出演された経緯から教えていただけますか。
マネージャーを通じて「オーディションに参加しませんか」と、東宝さんから声をかけていただきました。ただ、そのオーディションが2日後だというのです。それまで私は、演技をしたこともないし、ミュージカルはおろか舞台も未経験でした。でも面白そうだったので「選考に落ちてもいいから、一回チャレンジしてみようか」と。それで、受けてみたら、最終的に受かっちゃったんです。
--ご自身では、選ばれた勝因はどこにあったと思いますか。
全然わからないんです。自分では、オーディションを受けて「絶対に落ちた」と思っていたんですから。
オーディションでは、はじめからモーリーン役を前提として「声を聴きたい」と言われました。それで『RENT』のナンバーを2曲おぼえていって歌ったのですが、原曲のモーリーンの声のキーが私の声よりも遥かに高いんです。だから、全然うまく歌えず「落ちたな」って思いました。マネージャーにも「これは落ちた」って、すぐにメールして(笑)。ただ、そうなってみると、「あ~“オーヴァー・ザ・ムーン”歌いたかったなあ~」なんて、家で悔しがっていたんです。ところが何週間か後に「最終選考に残っている」と連絡が来たんです。それで、アメリカからアンディ・セニョールJr.(日本版リステージ担当)がやって来た最終オーディションを受け、その結果、決まったのです。
--アンディ・セニョールJr.からは選ばれた理由について何か言われませんでしたか。
はい、何も。誰も教えてくれません(笑)。
--ミュージカル『RENT』との出会いについてお聞かせください。
もともと私、『RENT』って知らなかったんです。オーディションのお話をいただいてから初めてブロードウェイの舞台映像を見て、衝撃を受けました。私はミュージカルって映画でしか見たことがなく、舞台では見たことがなかったんですが、なにやらすごく面白そうだって。内容もありきたりなものではなかった。バイセクシャルだとかエイズなどが描かれ、濃厚で刺戟的でしたね。これを作った人も作品に命を捧げているな、と。その熱意がとても伝わって来て、人生に刺激を与えられた感じでした。
--作者のジョナサン・ラーソンは、1996年、オフ・ブロードウェイ・プレビュー公演初日の直前に急死したんですよね。
ええ。そのことも、最初にウィキペディアで調べて知りました。それもすごい話ですよね。運命的というか、そういうのってあるんだなあと思いましたね。何かを伝えたくて『RENT』を作った彼が、もう亡くなっている。当然、彼は私の演じるモーリーンを見れないし、ジャッジメントもできない。それだけに演じる上での責任感はありますね。彼に直接見てもらうことはできなくても「君はモーリーンだよ」と認めてもらえるようにやっていかなければ、と。
--オーディションに受かってからも、『RENT』のことは調べ続けていましたか。
はい。映画も見ましたし、関連音源も色々聴きました。また、作品の時代背景を知るための材料にもあたりました。どうしても、その時代(1990年前後)、その場所(ニューヨーク)に生きていたわけではないので、そこに自分がきちんと立っていられるように調べました。でも、その作業はとても面白かったですね。
--1990年前後のニューヨークはものすごく荒れていたようですね。
ですよね。私もきれいになってからのニューヨークしか行ったことがないんです。当時の写真や映像を見ると、ちょっと歩いただけで運が悪ければ殺されてしまうといったような印象があって、本当にみんな運だけで生きているだろうなあと思いました。
--モーリーンに選ばれたことについての感想は?
オーディションを受けるに際して『RENT』のことを調べていくうちに、登場人物の中で一番やってみたい役はモーリーンかもって思っていたんです。わりと、自分に近いな、と。突発的に何かをやろうとして立ち上がるかと思えば、好きじゃないことには何も興味を示さないとか(笑)。もちろんモーリーン像のイメージは人それぞれによって受け止め方が違うとは思いますが、私の中のモーリーンは、閃いたことや直観で行動する人、そして一回腕を振り上げたら絶対に下ろさない人……ですね。実際に今、私はそういうふうにモーリーンを演じています。周囲も、それを許してくれました。そのままでいいよって。
--たしかに、紗羅さんご自身も、自由奔放に幅広く色んな活動をしてこられて、モーリーン役にピッタリです。
周囲の皆さんに目をつぶっていただいているおかげです。有難いことです。
■何が正解かがわからない宿題
--そんなモーリーン役を作ってゆくにあたり、稽古場では順調でしたか。
全然、順調になんか行かなかったです。やはり一番の悩みの種はキーの高さでした。私はバンドでヴォーカルを担当していますが、それはパーティー・バンドみたいなものなので、正しい舞台の発声法などは知りませんでした。それで今回はヴォイス・トレーナーの先生についていただいて、本番までに高いキーが出るように練習を重ねてきました。
そして、もうひとつはモーリーンがパフォーマーであること。そのパフォーマンスの動きも、自分なりに思い描いて作らなければいけないんですね。稽古場でアンディから、いきなり「はい、じゃぁ“オーヴァー・ザ・ムーン”をやって」と言われて、「え? 何もフリがないところでやるんですか」と聞き返すと、「紗羅の“オーヴァー・ザ・ムーン”をやってくれればいいんだよ」と。これは「モーリーンはパフォーマーなのだから、あなた自身もパフォーマーにならないと」という意味なんです。「一日あげるから、明日の稽古までに作ってきて」と宿題を出され、自宅で一人で作りました。何が正解かがわからない宿題でしたから、かなり悩みましたね。
それで、私の“オーヴァー・ザ・ムーン”では、私の好きなエルヴィス・プレスリーをモデルにしてみました。といっても、単にエルヴィスの物真似をするわけではなく、ロッカーっぽく腕を振り回すなどの要素を牛のエルシーの中に巧みに取り込んだりしたんです。
--そうだったんですか。あー、なるほど。……で、アンディ・セニョールJr.に見せたら何と?
爆笑してました(笑)。「いいね、いいね」と。
--今回の『RENT』では、ダブルキャストで上木彩矢さんがもうひとりのモーリーンです。上木さんとはコミュニケーションをとることはあるのですか。
はい。上木さんには本当に優しくしていただいてます。上木さんは前々回も前回も『RENT』に出演されていますが、今回初めて参加するキャストたちに肩身の狭い思いをさせるのは嫌だと言ってくれて、あっという間に稽古場に溶け込むことができました。本当は「敬語もなしね」と言われているんですけど、わざと敬語で話しかけて「彩矢さん」て呼ぶと、すごく恥ずかしがるので、それは私が楽しんでやっています(笑)。
--モーリーンの演じ方について上木さんと話したりすることは?
それは一切ないですね。それぞれ個々にモーリーンの受け止め方がありますからね。
--紗羅さんは今回が初の舞台出演ということでしたが、これまでモデルさんとして、あるいはシンガーとして立ったステージとは、やはり違うものですか。
全然違いましたね。私の参加してるバンドだと何かあったりするとやり直しがきいたりもしました(笑)。でも、演劇だと1ミリも間違えてはいけないというのが前提としてありますから、責任感も、緊張の度合いも違いますね。
『RENT』って、けっこう高い場所で動くことが多いんです。“オーヴァー・ザ・ムーン”も、稽古場でやっている高さに比べて、シアタークリエの舞台上だと体感で10メートルくらい高さが増している感覚です。これが地方のもっと大きな会場だと、もっと高くなります。だから、落ちたら本当に危ないぞと、はじめの頃は私も相当ピリピリしてました。「本当に気をつけましょう」とみんなで声をかけあって。
--その意味では、ミミも“アウト・トゥナイト”とか危ないですよね。
そう! ミミも危ない。また、慣れてくると油断につながるから、結局いつだって危ないんです(笑)。
■ステージ上に敵は一人もいない
--“オーヴァー・ザ・ムーン”では観客の反応は上々ですか。
はい。もちろん日によって違いはありますけどね。お客様も、私が次に何をやるか分かって来てるようで、やる前から笑いが起きたりするんです。有難いことですが、心の中で「ちょっと待って! まだそのシーンになってないんですけど」みたいな(笑)。でも、モーリーンのやってることは本来、抗議集会なんですよね。
--そういえば、そうでしたね。見てるうちに、そのことをつい忘れちゃいます。
そうなんですよね(笑)。そうなんだけれど、でもあれは第一に抗議集会なので、そんなにファニーなことをやってるわけではないし、後ろに警察隊がいて、今にも止められそうな状態の中であのパフォーマンスをやっている。そのヒリヒリした感覚はなくしたくないんです。だから、皆さんにも、そういう感情で、最後に「ムー」といっぱい声を出していただきたいですね。
--『RENT』ではソロ以外の曲も名曲揃いですが、例えば“シーズンズ・オヴ・ラヴ”をみんなで歌っている時はどんな気持ちなのですか。
ステージ上に敵は一人もいない、舞台はみんなで支え合って作るもの、何があっても大丈夫だから……っていう仲間たちが私の横にずらーっと並んでいる中で、すごく安心して歌っています。お母さんのお腹の中に帰ったような感覚ですね。「あったか~い」みたいな(笑)。実際に、キャストの中の誰か一人が今日やりにくそうに見えたりすると、みんなが「大丈夫?」と声をかけたり、障害の回避法を教えたりする、本当に団結力の強いカンパニーなんです。
--紗羅さんは映画『ニワトリ☆スター』(2018年春公開)でヒロイン役を務められてますが、そこでの経験は今回の舞台に何かをもたらしましたか。
『ニワトリ☆スター』はとても激しい映画で、あまり普通の感情ではない状態で撮影することが多かったんです。ヴァイオレンスだったり、怒りを瞬時に出すとか。とても勉強にはなりましたけど、今回の舞台の演技とはあまりに違いすぎるものでしたね。
--今回の経験をきっかけに、舞台での活動をより活発化してゆこうと思いますか。
今まで生きてきて演技などしたことのなかった私でしたが、30歳を過ぎて、こんなに人生が一変するとは思っても見ませんでした。今後については、もちろん素敵な話をいただければやってゆきたいとは思いますが、こういうのは出会いですからね。やりたいからできるというものでもないですし。そこは流れに身をまかせようかなと思ってます。
--日本のミュージカル界や演劇界、いろんな人材が求められますので、もっと声高にアピールすれば、いい話がより沢山来ると思いますが……(笑)。
ホントですか? わかった。発信していかないとね(笑)。舞台、もっともっとやりたいでーす!(笑)
取材・文=安藤光夫  写真撮影=中田智章

公演情報

ミュージカル『RENT』

<東京公演> ※公演終了
■日程:2017年7月2日(日)~8月6日(日)
■会場:シアタークリエ
<名古屋公演> ※公演終了
■日程:2017年8月10日(木)
■会場:愛知県芸術劇場 大ホール
<大阪公演> ※公演終了
■日程:2017年8月17日(木)~22日(火)
■会場:森ノ宮ピロティホール
<福岡公演>
■日程:2017年8月26日(土)・27日(日)
■会場:福岡市民会館
■脚本・歌詞・音楽:ジョナサン・ラーソン
■演出:マイケル・グライフ
■日本版リステージ:アンディ・セニョールJr.
■出演:
マーク:村井良大
ロジャー:堂珍嘉邦/ユナク(超新星
ミミ:青野紗穂/ジェニファー
コリンズ:光永泰一朗
エンジェル:平間壮一/丘山晴己
モーリーン:上木彩矢/紗羅マリー
ジョアンヌ:宮本美季
ベニー:NALAW(CODE-V
新井俊一、千葉直生、小林由佳、MARU、奈良木浚赫、岡本悠紀、長尾哲平(Swing)
■公式サイト:http://www.tohostage.com/rent2017/

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