ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第72回 2016年のアイドル

 編集氏から「2016年のアイドル界を振り返ってベストテン的なものを」というお題をもらったのですが、非常に困惑しております。なぜなら、私はアイドルシーン全体を俯瞰で見渡せるほどアイドルについて知らないからです。私がある程度は把握できているかも知れないのは、自分がライブを見に行ってる東京ローカルのインディーズ・アイドル、地下・アイドルのシーンの極々一部に過ぎず、今の膨大な数のアイドルが存在する上に細分化が進んでいるアイドル・シーン全体について語ることができるわけがないからです。
 2010年から2011年くらいにかけての、ももいろクローバーが名前にZがつきブレイクするまでの『アイドル戦国時代』と一部で呼ばれていたような時期から、もう何年も過ぎました。あの頃、今までアイドルに興味がなかった人がももクロにはまり、「ももクロはアイドルの枠を超えた!」「ももクロは他のアイドルとは違う! ももクロはアイドルではなく○○だ!」と言い出すという現象が見受けられました。BiSがブレイクしていく過程でも、BiSに対して同じような言説があったと思います。こういった言説は今までアイドルという文化を下に見ていたのにアイドルが好きになってしまった自分が恥ずかしくて仕方ないので、ろくにアイドルについて知らないくせに己の無知をかえりみず、他のアイドルを卑しめることで自己正当化をはかる非常にみっともない行為でしかないと思います。
 確かに、そのアイドルはその人にとって特別な存在なのでしょう。それはそれで良いことだと思います。それなら「私は今までアイドルに興味がなかった/アイドルは好きではなかったけど、アイドルにも良いものがあるのだな。」と思えばいいだけで、◯◯はアイドルとは違うと強弁するのは、結局自分のプライドの問題に過ぎないのです。基本的には、あなたにとって特別であるということは、それが絶対に他より優れているということを意味するわけではなく、それはあなたがそれを好きなだけなのです。
 こういった人たちの多くは時間が過ぎ色んなアイドルを知ることで、そういった自分のイタさを知り、落ち着いていくわけですが、もうすぐ2017年にもなろうかというのに「AKBはサブカル。地下アイドルは風俗」とか言い出す、地下アイドルについて全く知らないといってもいいレベルの知識しか持ってないような人が現れるのを見ると絶望的な気分になります。風俗といっても、さすがに世相や生活文化の特色という意味の方だとは思いますが、無意識のうちに上から目線が発動してる感じしかしませんね。その人の価値感の中ではサブカルというものは最高の価値があり、自分の好きなものはサブカルでなければならないし、それ以外はダメなものと言ってるに過ぎないからです。できるだけ良く解釈してみても、AKBをその人が想定しているサブカル的なコンテキストで語りたいという欲望の発露であって、それに無意味に地下アイドルに対する侮蔑意識が付け加えられてるようにしか取れません。「私はAKBをサブカル的なコンテキストで分析、研究をしたいです。」と言えばいいだけのことをなんで無用のマウンティングを付け加えるのか理解に苦しみます。私はアイドルというもの自体は芸能であると思っています。アイドルに限らず、対象が何であれサブカル的な視点で語れば、その語りはサブカルになってしまうという話で、最近アイドルがサブカル的に言われる機会が多いのは、単にサブカル文化圏の人でアイドルを語りたがる人が多くなったからというだけのことで、アイドル自体はサブカルではなくアイドルであり芸能なのです。それを自分の好きなアイドルはサブカルで他は違うなどというのは知性とは程遠い恥ずべき言動だと思います。

 ちなみに私はパンクが好きですが、基本的に「あのアイドルはパンクだ!」みたいな言い方したことはないですね。パンクはパンク、アイドルはアイドルですから。確実に言った覚えがあるのは偶想DROPの零ちゃんに関してだけですね。これは仕方ないです。

ここから本題

 最後に少しだけ、自分の見ている範囲のアイドルに関して振り返ってみたいと思います。まず、インディーズアイドルと地下アイドルを私はそれぞれ違う意味で使用しています。BiS以降に増えた、自分の音楽や表現をアイドルを通して実現しようという節のあるアーティスト性のある運営が経営している小規模なアイドルがインディーズ・アイドル(シーンにはアイドルに近いが微妙に違うグループも含まれている)。芸能事務所的な立ち位置の運営が経営している小規模なアイドルが地下アイドル。そのように分けています。こっからこっちがインディーズアイドルで、こっからこっちが地下アイドルと明確に分けれるわけではないし、ナト☆カンのように、BiSのもっとも早いフォロワーでありながら、気づいたら普通に旧来の地下アイドルのシーンに順応して活動していた例もありますが、なんとなくシーン自体も分かれています。ナト☆カンがああなっていったのは未だに感慨深いですけど…。
 自分が通ってた地下アイドルの界隈に関しては、2013年あたりにピークを迎えて以降、多くのグループが解散したり、メンバーチェンジや方向転換でかつての面影がなくなってしまったり、今ではかつての通ってたグループのメンバーがスポットで復活するような時にしか行かないようになってしまいました。なんか、寂しいですね。
 ラウドロックだったりNW的だったりするようなオルタナティヴな楽曲や、客を巻き込むような破天荒なステージングを志向するグループの多かった2015年度の東京ローカルのインディーズアイドルシーンですが、2016年になって少し様子が変わってきました。少女閣下のインターナショナル、黒猫の憂鬱のような、ある意味めちゃくちゃなステージングで知られていたグループが相次いで活動を辞める中、オーソドックスなアイドル的な楽曲と丁寧なステージングのグループがシーンに現れてきたような気がします。『よいこの歌謡曲』人脈の運営によって結成されたSummer Rocket。丁寧なボーカルとダンスが心地好いバーバ⁂ヤーガ。少し違うのですが、楽曲的にはポストハードコアやエモ的な部分が大きいものの、ステージ上で完結された綺麗なステージングが特徴的なヤなことそっとミュート。こういった、ある意味原点回帰的な部分をもったグループが新しく増えてきたのが自分が見てきた範囲で把握できている2016年の兆候ではないかと思います。
 まあ、年内いっぱい楽しくオタ活ができて、来年も里咲しゃちょーのZepp DiverCityに行ったり、橋本まみ生誕に参加したりして、楽しくオタ活できるといいかなと思ってます。アイドルを見に行くのは私の趣味なので。

(隔週金曜連載)

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【ロマン優光:プロフィール】

ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。

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