【連載コラム】ミムラの映画日和「タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら」(第6回) STARDUST PROMOTION, INC.

【連載コラム】ミムラの映画日和「タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら」(第6回) STARDUST PROMOTION, INC.

【連載コラム】ミムラの映画日和(第
6回)もしや、あの映画の殺人鬼達も
冤罪だったりして……。『タッカーと
デイル 史上最悪にツイてないヤツら

 スプラッターの要素が含まれた映画では、被害者達を追い、襲いかかる加害側に理由付けがないことも多い。時には幼少期の過酷なトラウマや、死んだ我が子の復讐を誓う親として悲哀に満ちて描かれることもあるが、悪魔や怪物、伝説の殺人鬼となると「そういうものだから」で終わり。残虐行為は犯人の趣味や生き甲斐の一貫としてさっくり片付け、説明に映像尺は割かないのである。観客の多くはそんなことは期待していないし、それでいいのだ。
 この作品、それを逆手にとった構造である。大変うまく作られた展開、観客のツボの抑え方には笑わせてもらった。「加害側に殺害理由がないのは、本当は何もやっていないからではないか」「逆に無関係ないい人が犯人とされて巻込まれたのだとしたら?」「顔が怖いと犯人にされちゃう?」という、誰もが考えたことのあるアナザーストーリーを、コンパクトな笑いにまとめている。物語のキャラクターとしては有名なパロディ映画『最終絶叫計画』に似ていて明るく、+して鑑賞後にとてもいい気分になれる爽やか映画だ。パッケージと邦題で少しだけ損をしている気もするが、さりとてこの内容にどんなデザインをもってくればいいのか悩ましい。まずホラーを相棒としたコメディであり、男の友情もあり、恋愛もあり、時折込められたホラー映画のご都合主義へのツッコミと、選り取りみどりの構成になっている。

 ご存知のようにホラーのパロディ作品は数多く存在するが、『最終絶叫計画』が成功したのはまずちゃんとした演技の下支えがあったからだと個人的に思っている。ピチピチのハイティーン設定なのに出演者がどう見ても30近い。照明や効果も手抜きなく再現されていて、その上で理屈を理解した(現場経験の多い)役者が最も「〜っぽく」見えるよう動く事が大事とみて、キャスティングを行ったのではないかと伺える。このあたりが『タッカーとデイル 〜史上最悪にツイてないヤツら〜』(以下『タッカーとデイル』)でも踏襲されていて、それぞれの登場人物が自分の役割をきっちり守備しているので、安心して観られる。人材の取り揃えも、例えば女性陣なら「ヒロイン(可憐な見た目と展開牽引担当)」、「巨乳ちゃん(わかりやすいお色気担当)」、「知性派女子(に見えて事態を悪化させる女子)」と、きちんとセオリーに沿っている。何かをネタ元としておふざけを展開していくには、この基本の押さえが何より大事だ。
 『最終絶叫計画』続編が微妙になっていったのは、興行の成功で有名な役者が顔を出すようになり、すると出資する人も口出しする人も増えて、軸がぶれてしまったからかなと勝手に想像している。最初の突き抜けた一貫性が見たい側としては、物足りなかった。当然、二匹目の泥鰌もたくさん出てきて、目も当てられない完成度のものも多数存在した。というかそんなのばっかりで、もうこのジャンルは難しいだろうなと思っていた。成功とは逆で、失敗が続けば当然出資する会社が減り、制作費が減って今度はうまい役者が入らなくなるからだ。(役者をやらせて頂いている身として、脚本や制作費の問題は、殆どの場合うまい役者の演技でなんとか出来ると信じている。が、逆はとても難しい。)なのでこの作品も期待せず見始めた。肩の力を抜いて観たのもよかったのだろう、得した気分になった。
 まずタッカーとデイルの気の良さにほっこりした。気弱なデイルを鼓舞するタッカーの優しい言葉や、それを真っ直ぐに受け取るデイルの純真さ。こつこつ貯金して二人で手に入れたぼろい山小屋を見て、「全然いいじゃないか、豪邸だよ!」「すごい広いなぁ」「俺の好きなゲームもある」と大はしゃぎ。凄惨な事件ばかりを切り抜いた壁の新聞記事群を見ても、ホットドッグ屋のおまけの記事に「すげぇな」と喜ぶ。以前の住人は殺人事件の記事を集めていたのだが全てスルー。その後も水浴びの女の子を「覗きなんてダメだ」と止めたり、「ああ、ホットケーキはイヤなんだね、OK僕が悪かった、作り直すよ!」など。つつましやかであることを良しとする美徳が眩しい。
 そんな二人を悪い奴らだと勝手に決めつけ、勘違いをこじらせたしたキャンプ目的の大学生達が絡み、次々とスプラッターな(かつ自業自得のあり得ない)死に方をしていく。そんな学生らに対しても、終始なんとか助けようと奮闘する二人。死んでしまった人は心の底から哀れむ。「俺のことはいいからもう行け」という耳にタコのありきたりな台詞でも、タッカーがデイルに向けて言うと真実味があって泣けてしまう。ドタバタの展開の連続だが、そのなかでの二人の揺るぎない友情と人の善さが終始心地よいのだ。
 そしてそこに絡んでくるデイルの恋愛だが、この相手の娘であるアリソンが本当にいい子なのだ。顔立ちから信頼出来る感じの、知性と落ち着きが滲むかわいさである。そして鈍臭いデイルのことを馬鹿にしたりせず、きちんと見る。ああ、どうかこの素敵な子がデイルを好きになってくれますようにと願わせる。ヒロインとしてばっちりの完璧な存在だった。
 また、台詞での消化は本来狡い手なのだが、「可哀想な娘だ、頭を何度も打っては気絶して……」と、無理矢理なストーリー展開上欠かせないヒロインの気絶に乗じたブラックアウトの幕間を皮肉ったり、「コミュニケーションの不足が問題なのよ」と、本作だけでなくホラー地盤の作品にありがちな点へ的を射たことをさりげなく入れられると、確かにとニヤリとし素直に頷ける。その他にもタッカー役のアラン・テュディックの舞台映えしそうな動きの演技に笑ったり、いとも簡単に串刺しになる描写(二度)に「確かによく刺さるよね」と他作を思い浮かべたり、非常に楽しい時間を過ごした。

 こんなに出演者に好感を持つ事も珍しいというくらいタッカーとデイルを好きになり、「今度はタッカーにも幸せになって欲しい」と、真剣に続編を願ってしまった本作『タッカーとデイル』。ハッピーな性格の素直な人間より、こじらせた人間の悲喜こもごもの方が“ウケる”きらいのある時代である。それくらい皆が満たされているという事かなと考え、そう悪い事ではないと思うが、素直な良いキャラクターが生存しにくい物語世界は少し物足りない。そんな私のような欲張り人間にとって、ホラーコメディーという畑はホラーとコメディを隠れ蓑に様々な表現が可能な豊作必須のフィールドなのかもしれない、と嬉しくなった。
 人を外見で判断しないという教訓が散りばめられている素晴らしい作品として、どうぞご鑑賞頂きたい。

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■ミムラPROFILE

ミムラ 女優。1984生まれ。
2003年デビュー以来、ドラマ・映画・舞台・CM・執筆等多方面で活躍中。
19日に放送を終えたばかりの連続ドラマW「5人のジュンコ」(WOWOW)をはじめ、来年も1月2日放送の「富士ファミリー」(NHK)や1月12日スタートの「ダメな私に恋してください」(TBS)、1月15日スタートのBS時代劇「大岡越前3」(NHK)など出演作が続く。
文筆家としても知られ、著書に『ミムラの絵本日和』『ミムラの絵本散歩』(共に白泉社)。近著に初エッセイ『文集』(SDP)がある。
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※次回の「ミムラの映画日和」の更新は1月8日になります。
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